人的資源管理とは?目的や概念、問題点、人事労務管理との違い
企業の目標を達成するためには、経営資源を適正に活用していく必要があります。そのうちの「人材」の管理においては、従業員の労働力や給与だけでなく、人材育成や、従業員のスキルの向上も管理する必要があります。「ヒト」の資源を適切に管理する制度が「人的資源管理」になります。ここでは、その目的や概念をはじめ、課題などの問題点や、人事労務管理などの用語の違いについて説明します。
人的資源管理とは?
人的資源管理とは、「Human Resource Management」の訳であり、「HRM」とも呼ばれています。経営目標達成のために人的資源を有効に活用するための管理制度になります。従業員の知識や能力、スキルなどを最大限に活かして、経営目標を達成していくために、人的資源管理が必要になります。
人的資源とは?
人的資源とは、経営資源「ヒト・モノ・カネ・情報」のうちの「ヒト」を指します。経営資源のうち、人的資源が最も重要な要素とされています。「ヒト」が他の経営資源である「モノ」「カネ」「情報」を管理しているからです。
①最も基本的かつ重要な要素
人的資源が持つ可能性や能力を最大限に有効活用することが経営者に求められていることだとされています。経営者が人的資源をうまく活用するためには、人的資源である従業員が積極的に業務に取り組むことができるよう対策をとる必要があります。
②自律性、行動の自由
人的資源は、生身のヒトであり、感情や意思があるという点でほかの経営資源とは大きく異なります。他の経営資源のようにただ管理をすればいいというのではないため、従業員の自律性や行動の自由が求められます。
③絶対的な管理手法
人的資源管理には、絶対となる管理手法が存在しません。他の分野では革新的で絶対的な管理手法などが誕生していますが、人的資源管理においては、そのような管理手法はありません。意思や感情を持った「ヒト」の管理は大変難しいということがわかります。
人的資源管理の目的・役割
人的資源管理は、成果による貢献を高める「経営的短期目標」、戦略を構築する能力を獲得し、向上する「経営的長期目標」、公平で、情報開示に基づいた評価と処遇を行う「個人的短期目標」、キャリアを通して成長を支援する「個人的長期目標」の4つから目標を設定できます。
人的資源管理のモデル概念
人的資源管理には、何点かモデル概念があります。以下で説明していきます。
ミシガンモデル
企業の目標達成や経営戦略を重視して人的資源管理を行うという考えです。「採用と選抜」「人材評価」「人材開発」「報酬」の4つの機能を戦略レベルに落とし込み、個人と組織両方のパフォーマンスを高めていくマネジメントです。
ハーバードモデル
社員の能力や組織への帰属意識を重視して人的資源管理を行うという考えです。「従業員の影響」、「人的資源のフロー」、「報酬システム」、「職務システム」の4つで構成されます。従業員の精神面の配慮や、愛着心の向上の必要性についても述べています。
高業績HRM(AMO理論)
能力(ability)、モチベーション(motivation)、機会(opportunity)の3つの要素からなる人的資源管理モデルになります。それぞれの頭文字をとってAMO理論と呼ばれています。これは、3つの要素を向上させることができれば、競争の優位性を高められるということです。
高業績(PIRKモデル)
権限(power)、情報(information)、公平な報酬(reward)、社員に帰属する知識(knowledge)の4つの要素からなる人的資源管理モデルです。頭文字をとってPIRK理論と呼ばれます。企業への帰属意識が高められるため、離職率を低下させることにつながります。
タレントマネジメント
従業員の才能や素質といったタレントを、経営目標を実現するために活用する企業内での制度になります。採用や育成、後継者の養成、人材配置、評価や処遇といったあらゆる面において、人材管理をします。企業の経営目標の達成にむけて大きく影響を及ぼします。
人的資源管理によって社員のモチベーションを上げるには?
管理者と従業員の相互作用を促すことによって、組織のパフォーマンス向上を狙う人的資源管理モデルとして「ハイコミットメントモデル」を活用します。採用、選抜、教育、報酬、職務分析、業績評価などで構成されており、それらの施策を行うことによって成果が生まれ、従業員のモチベーションにつながります。
人的資源管理の問題点
人的資源管理は、経営目標に大きく貢献できる制度ですが、論理的に説明できていないため、因果関係の有無の立証が不十分という状況があります。各モデルの問題点を説明していきます。
ミシガンモデルの場合
ミシガンモデルは企業戦略を最優先事項とし、それを達成するために人的資源管理の施策が行われます。そのため、労働者の人間性や、雇用保障等が軽視される傾向があります。また、個人の潜在能力の把握がおろそかになりがちという問題点もあります。
ハーバードモデルの場合
ハーバードモデルでは、多様な雇用形態が混在し、雇用調整が比較的容易であり、従業員の抑制機能が働いてしまうという問題点があります。また、労働組合の存在を軽視するようになり、労働組合の組織率が低下するという問題点があります。
人的資源管理の実践事例
実際に企業で実践されている人的資源管理の例を紹介します。
日産自動車/人事委員会を設置してタレントマネジメントを推進
タレントマネジメントを手掛ける人事委員会を設置して、各社や各地域の人材を共通の資産と捉え、グローバル視点で人材の配置転換や能力開発を一括で管理しています。多様性を重視し、業績で評価や報酬が決まる新しい管理職の評価制度も始まりました。また、褒める文化を推進するため表彰プログラムも取り入れています。
電機メーカー/本社で統治を行うマネジメント
海外の子会社を含めた人的資源の活用を経営戦略に組み込むため、本社と現地法人が協力して人材を採用、育成、管理するシステムを構築しました。また、国内と海外の評価や処遇といった人事管理制度の見直しも実施じ、現地で人事管理を任せながら、本社でも統治が行えるようマネジメントしました。
人事労務管理との違い
人的資源管理と人事労務管理は大きな違いがあります。以下でそれらを説明します。
思想や前提
人事労務管理は、慣習や規則等が重要視されており、契約内容の正確な履行や規則の順守に重きを置かれています。従業員の管理についても育成ではなく、管理・監視といった意味合いが強くなっています。
戦略的な面
戦略的な側面においても、事業計画などの整合性は低いと考えられます。また、意思決定も人的資源管理よりは遅くなりがちになります。人的資源管理よりは、戦略自体に影響を与えるような位置でないことがわかります。
ライン管理
人事労務管理は、人事部が中心となって、部門間の交渉や調整等に重点を置いています。主な管理者は、人事労務や労使関係の専門家などになり、管理の役割も業務処理が中心となる傾向があります。
主要な管理手法
管理方法に関しては、人事労務管理は、人的資源管理と正反対になります。例えば、人的資源管理では企業目標と統合されて行われますが、人事労務管理では分離されて行われています。報酬も、パフォーマンスとの連動ではなく、職務評価になります。
人的資源管理と組織行動論の違い
次に、人的資源管理と、組織行動論の違いについても説明します。
組織行動論とは?
組織行動論とは、人や組織に多少なりの影響を与える企業の内部的な仕組みと定義づけられています。評価制度などの仕組みによって動かし活かすのではなく、上司などの各個人での取り組みによって人や組織を動かします。
共通点と相違点
共通点は企業目標を達成するために、組織や人を動かすことを企業理念などに基づいた目標が設定されています。相違点は、企業の力でけん引されるのではなく、個人の取り組みや資質で組織を動かす点が異なります。
人事労務管理との違い
人事労務管理とは、「Personal Management」といい、「PM」と略称されます。人材をコストや労働力としてとらえており、会社の利益を最大化することに重きを置いています。そのため、従業員がすでに習得しているスキルや能力に目が向き、人材を育成するという点ではおろそかになっています。
人的資源計画との違い
人的資源計画とは、「Human Resource Planning」といい、「HRP」と略称されます。経営目標達成のための人材採用や適切な配置、人材育成などを行うために、計画を立て、企業の成長にむかうことを目的としています。人材資源管理を行うためには、人的資源計画は時間をかけて進め、定期的に見直す必要があります。
人的資源開発との違い
人的資源開発とは、「Human Resource Development」といい、「HRD」と略称されます。組織として戦略的な人材育成を行い、組織開発していくことが目的です。そのため、経営目標に合わせた人材育成が必要になります。
人的資源活用との違い
人的資源活用とは、「Human Resource Utilization」といい、「HRU」と略称されます。適材適所になるような人材配置と、それぞれの従業員の特性に応じたキャリアの育成を目的とします。従業員が活躍できる環境を整えていくために大切です。
人的資源管理で取り組むべき人事制度
まず、業務時間の配分を調整するために、各従業員の作業を把握し、適切な人員配置が行われているか確認する必要があります。また、在宅勤務やフレックス制度の導入によって、柔軟な働き方を促進することが可能です。また、非正規雇用との不合理な格差をなくすような対策を行うことによって、従業員の離職率を下げることにつながります。
人的資源で行うべき人事育成施策
社内教育制度(OJT)や職場外訓練(Off-JT)、社内研修などを行い人事育成を進めていきます。自社で賄えない育成は、外部の講師などを活用することも可能です。また時間・金銭的なコストを抑えるなら「eラーニング」を活用すると良いです。
人的資源管理を見越した人事採用
新卒採用のみならず、中途採用も積極的に行うことが大切です。中途採用の社員の職歴の多様化によって職場が活性化できる期待があります。それぞれの従業員の能力を最大限に活用できるように、人材配置を適切に行う必要があります。
ツールを使った評価運用の改善
経営目標を達成するためにも、人的資源管理が必要であることがわかります。より効果的に運用を行うには人材システムなどのツールを導入すると良いでしょう。スキルナビでは、さまざまな人事評価で管理・分析を行うことが可能となっております。評価システムを新たに導入したり、より良いシステムを取り入れたい場合は、是非、スキルナビの導入をご検討ください。