人事評価制度の実態とは?中小企業における必要性と事例について解説
中小企業における「人材の不足」は深刻な問題となっています。その原因として、優秀な人材の確保が困難という点と離職率が高いという点の2つが考えられます。これらの問題を根本から解決するには、『人事評価制度』の見直しと整備が必要不可欠です。本記事では、その実態と必要性、導入する目安、事例などをご紹介しましょう。
人事評価制度とは
社員の仕事量や貢献度、業務の遂行具合などについて評価を行い、その結果を従業員の処遇に反映させる制度です。
企業によって「評価の基準」はさまざまですが、四半期・半年・1年など、一定の期間ごとに評価を行う企業がほとんどです。人事評価制度は、主に「評価制度」「等級制度」「報酬制度」の3つの要素からなります。
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人事評価制度が求められる背景
評価結果によっては「組織としての成長や社員の生活」に影響を与えることもあるため、目的を正しく理解した上で取り組む必要があります。
制度が導入される目的や背景には、以下のことが考えられます。
- 社員の行動を適正に評価し、処遇を決定するため
- 自社の成長を支える、社員育成につなげるため
- 個人能力を見極め、適材適所を行うため
中小企業における人事評価制度の実態
最初にお話しした通り、中小企業では「人材の不足」が問題となっています。この問題を解決するために、『人事評価制度』が多くの企業で導入されつつあるのですが、その実態はあまり芳しくありません。
評価制度の導入率
大企業に比べると、取り入れている企業の割合は少ないようです。厚生労働省の平成14年雇用管理調査によると、人事評価制度がある企業の割合は、51.0%となっています。企業規模が大きいほど割合は高く、5,000人以上では98.3%であるのに対し、30~99人では39.4%です。また100人以上では73.7%であり、一定規模以上の企業では導入が進んでいるが、規模の小さい企業では半数以上が導入に至っていません。
形骸化した評価制度
「制度の導入」という形ばかりに拘って、肝心の運用がしっかりと行われていないという中小企業が多いようです。また、社員が受け入れられるような評価がされていないため不満を持つ人も多く、評価する側の教育が必要だと考えられています。
不満点には、基準に納得できない、肯定されない、フィードバックがない等があります。
人材配置や人材育成の手段
きちんとした評価を行なえたとしても、社員の人材育成に活かしたり、その人に合った人材配置が叶わないという課題が残ります。『人事評価制度』の目的は社員の処遇に反映させることなので、適切な人事業務を行えるように、制度の設計段階から具体的な手段を考慮する必要があります。
中小企業に人事評価制度が必要な理由
中小企業における実態がわかったところで、『人事評価制度』が必要とされる理由を解説します。
従業員のモチベーション向上
適正な評価がなされていると社員が感じれば、やる気の向上に繋がります。そのためには適切なフィードバックと客観的評価が必要となります。従業員のやる気が上がれば、一人ひとりの生産性アップにもなり、少ない労働力だとしても十分大きな成果を出すことができるでしょう。
定着率の向上
適切な人事評価は、社員からすると大切に扱われていると感じます。逆に離職率が高い企業では、従業員の評価を疎かにしており、偏った評価がされることで退職してしまう人の数が増えてしまいます。優秀な人材やよく働いてくれている社員に対しては相応の評価をすることで、定着率の向上につながります。
意思疎通の活性化
上下間での会話が不足すると、部下は質問や意見をしづらくなり、風通しが悪くなってしまいます。そこで人事制度の一環として、月1回の面談やフィードバックを行うことにより、会話や意見交換の機会を作ることをお勧めします。
結果的に、会社での居心地の悪さが緩和されるため、定着率の向上や組織の活性化にも繋がります。
人事評価制度を導入する目安や基準
自社に『人事評価制度』取り入れるべきか、基準となるものがなければ、検討や決定も難しいでしょう。
従業員数が「50名以上」
50名以上であれば、『人事評価制度』を取り入れることをお勧めします。
これくらいの規模になってくると、管理職が直接部下の働きを見ることが出来なくなってきます。従業員は「自分の仕事ぶりを公平に評価してもらえない」と感じ、モチベーションの低下に繋がりかねません。
また一般的に、管理職がマネジメントできる人数は5人と言われています。それ以上の数だと、マンツーマンでの対応や人員管理がしにくくなると考えられています。管理職がマネジメントする人数が限度を超えているならば、属人的な対応が難しいと考えて仕組みによる対応を検討しましょう。
働き方改革を行うタイミング
在宅勤務や、残業時間の削減など「働き方改革」を行う上で、同時に『人事評価制度』も見直す必要があります。特に昨今、新型コロナウイルスの大流行により、多くの企業で働き方改革が行われています。その中で、これまでのような「残業が多い=会社への貢献が高い」といったような評価はできません。
在宅勤務でも適切に評価できるようにして、従業員のモチベーションを高められる工夫をしましょう。
若手を採用するタイミング
適切な『人事評価制度』を導入すれば、自社に欠けている能力や人材はどんなものなのかが見えてきます。これは若手を採用する際、会社にとって必要な人材を見つけるのに役立つでしょう。
ただ闇雲に採用するのではなく、組織としての生産性を高められるような若手社員を採用できるように意識することも重要です。
従業員のモチベーション向上
先述したとおり、適正に評価されていると社員が感じると、やる気の向上に繋がります。そのためには適切なフィードバックと客観的な評価が必要となります。
それらの要素を含んだ『人事評価制度』を導入できるように、設計段階から意識しておきましょう。
人事評価制度の作成ポイント
実際に『人事評価制度』を作成したいときに意識すべき点を解説します。
費用を抑えたい場合
評価制度のコンサルを頼む場合、年間で数百万円ものコストが必要になる場合があります。そんなにも多くの費用はかけたくないという場合は、自社のみで制度を考えましょう。確かにコンサルであれば、専門家の立場から適切な助言をもらうことができますが、自社で作成できるのでよく検討しましょう。
公平性・納得感を重視する場合
公平性を保つためには、評価する側の主観のみを詰め込んではいけません。主観が入り込まない具体的な数字(例:○%以上の売上向上で□という評価)を設定し、全社員に評価基準を明確に公表することをお勧めします。
企業理念や事業計画と人事評価
社員に納得してもらうためには、『人事評価制度』が企業理念にきちんと則すものである必要があります。また事業計画を達成するためにも、各部署ごとに成果を上げるための評価が設定されていなければなりません。
明確な基準と評価内容の開示
「何をどれくらい達成すればプラスに評価されるのか」という基準について、全ての従業員に公表することが重要です。人事評価では自身がどう評価されたのか知れるようにすれば、自身の働きを振り返ることにも繋がり、仕事の生産性を高めることができるでしょう。
人事システムの使用
全ての評価を手動で行うのはあまりにも非効率的なので、できる部分はシステム化しましょう。システム化することで部下の目標もすぐに確認でき、上司との面談でも役立てやすくなるというメリットもあります。
人事評価制度作成方法
実際に、『人事評価制度』を作っていくときは、正しい手順に沿って進めていきましょう。特に、評価における基準は何なのかを明確にすることが重要です。
人事評価制度の目的の明確化
「人事評価制度は何のためにあるのか」といった企業の目的意識が、従業員に伝わらなくてはなりません。簡単に言い換えると、理想の組織と社員に育てることが主な目的と言えるでしょう。
しかし、具体的な『人事評価制度』を作るには、経営陣の考えや理念をもとにした上で内容を決めていくことをお勧めします。「経営陣は○○な人材、組織を評価する」という目的が明確になっていれば、社員も努力する方向性をイメージして業務を行いやすくなるでしょう。
評価基準と評価項目の策定
『人事評価』には、「能力評価」「業績評価」「情意評価」3つの主な基準があります。基準があいまいだと、社員は評価結果を受け入れられません。また、企業の理念が浸透しないため、人材育成も思うように進まなくなります。
一方で、評価する基準は明確に言葉で表される方が良いでしょう。例をあげると、「結果よりもプロセスが重要なのか」「プロセスよりも結果が重要なのか」だと、社員の業務への取り組み方が異なるでしょう。その企業が大切にしている基準を『人事評価制度』に盛り込んで、社員に伝えることが重要です。
評価手法の決定
次に評価方法の設定に進みましょう。どんな評価方法を選択すべきかは企業によって異なります。そのためさまざまな方法を比較し、企業の方針や風土に沿った自社に最適な方法を選択すると良いでしょう。
代表的な方法として「MBO評価」「コンピテンシー評価」「360度評価」などがあります。これらについては後ほど解説します。
評価に応じた報酬の策定
高い評価を得ることでどのような報酬が与えられるのか明確化しておくことで、従業員たちのモチベーションを左右します。また高い評価に限らず、評価の度合いによってどのような報酬の違いが出るのかも公開することで信頼感を得ることもできるでしょう。
運用ルールの決定
「人事評価シート」の作成後には、自社でどのように『評価制度』を運用するかルールを決める必要があります。 運用ルールとは、評価対象期間をいつにするのか、誰が誰を評価するのか、評価結果の反映先、評価結果のフィードバックはどのようにするのか、といったことです。
運用の開始
あとは運用に移るのみで、これまで決めてきたルールに従って行います。初期の頃は、新しい制度に関するいくつかの質問をされることが多く、人事業務への影響も考慮した上でサポートも検討すると良いでしょう。
人事評価手法の種類
具体的には『人事評価手法』にはどのようなものがあるのでしょうか。いくつかご紹介します。
MBO(目標管理制度)
MBO(Management By Objectives:目標管理制度)は、従業員が自身で目標を考え企業に伝えたうえで達成度が評価される仕組みです。MBOでは、できるだけ目標の内容や期限を細かく定めることが必要です。
MBOのメリットには、「貢献度と成長度が重なる」、「モチベーションアップ」の2つの効果があります。
コンピテンシー評価
コンピテンシー評価とは、業務遂行をうまく行う社員の行動特性を把握し、それを基準として評価を行う方法のことです。「コンピテンシー」には「高い成果を上げるための行動特性」という意味があります。社内で業績をよく上げている人の行動特性を基にモデルを構築し、そのモデルから設定した評価項目と各従業員の行動を照らし合わせて評価を行います。
360度評価
この制度は、自分、上司、同僚、部下といったあらゆる方向から社員を評価する制度です。
一般的に会社で評価するのは上司になると思いますが、上司が部下を評価するだけではなく、多方面から人材を評価することで、客観性、公平性を保てるような仕組みになっていて、より納得度の高い評価システムになります。「多面評価」とも呼ばれることもあります。
OKR
『OKR』とはゴールの設定・マネジメント方法のひとつで、「Objectives and Key Results(目標と主要な結果)」の略称です。米インテル社で誕生し、GoogleやFacebookなど、シリコンバレーの有名企業が取り入れていることで、昨今注目を浴びています。
『OKR』は、これまで計画していた手法よりも高い頻度で「設定、追跡、再評価」のような特徴があります。また、『OKR』の目標は社員全員が同じ方向を向き、優先順位が決まっており、計画を一定間隔で侵攻するとされています。
高い頻度で「設定、追跡、再評価」を行うのであれば、効率よく評価制度を回すことが重要です。
ノーレイティング
これは、ランクや数値を用いて採点しないという評価方法です。レイティングとは、語源である「rate(評価)」が基になっており、ランクや数値を用いて評価をする事を意味します。つまり、ノーレイティングは、評価をしない(No rating)という事を表しており、「S」「A」「B」のようなランクを用いた評価をしない人事評価制度になります。
しかしながら、「全く評価をしない」というわけではありません。厳密には、ランクや数値を用いた評価をしないという意味だけで使われています。
ノーレイティングとして導入されるレイティングに変わる評価方法は、上司との面談や社員同士との対話などコミュニケーションによる評価方法をとっているところが多いようです。
1on1
1on1ミーティングとは、その名の通り、上司・部下による定期的な1対1のミーティングのことです。
部下が仕事を通して経験した「うまくいったこと」「失敗したこと」や「仕事の悩み」などを内省し、上司がその内容をフィードバックすることで、そこから教訓を得て、さらなる成長に活かしていきます。
日々の仕事をなんとなくで終わらせずに定期的に振り返ることができ、経験学習のサイクルがまわります。その結果、社員個々人の成長や活性化につながっていきます。
中小企業の人事評価事例
具体的な例として、中小企業で行われている事例をご紹介します。中でも人事評価制度の成功事例として、新しい手法を採用して成果を出している2社の企業事例を紹介します。
ライオンパワー株式会社/残業削減のポイント制度導入
電線の加工機などを手掛けるライオンパワー(石川県小松市)が、社員の生産性を向上させる施策を相次ぎ投入しています。
残業削減の実績を賞与に上乗せするポイント制度の導入部署を大幅に広げたほか、作業場などにセンサーを設置して従業員の出入りを測定できるようにしました。制度とテクノロジーの両面から生産性向上に取り組んでいます。
株式会社井口一世/残業の許可制の実施
2011年から新卒採用を始めたが、なかなか定着しないという課題がありました。会社が成長するためには、若手の成長が求められており、若手が成長できる環境を作るために、残業時間の削減に動き出しました。
残業削減のための施策は「残業の許可制」と「情報共有」です。残業を許可制にしたうえで、残業を希望する社員は上長に申告します。申告を受けた上長は、部下が何時間残業するかを、社長・役員・上長が情報共有できる社内専用SNSに報告します。
まとめ
人事評価制度の導入により、経営方針の明確化や処遇の客観的根拠を示せるなど、さまざまなメリットが得られます。導入を成功させるためには、評価者を対象とした教育や研修を実施しましょう。
また、今回紹介した2つの企業事例や手法を参考に、自社にはどんな人事評価制度が向いているのか、議論を進めてみてはいかがでしょうか。