賞与とは何?導入メリットや計算方法をまるっと解説
賞与は従業員にとって普段の頑張りが認められる瞬間です。「もらったボーナスで何を買おうか?」「それとも使わずに貯金しておこうかな?」と考えるのも一つの楽しみでしょう。
とはいえボーナスにはどんな種類があり、どのように算出されているのか知らない人も多いかもしれません。
そこで今回は賞与の概要と金額の決め方を中心に解説していきます。
賞与(ボーナス)とは
賞与は毎月支払われる給与とは別に、一時的に従業員へ支払われるまとまった臨時給与です。
会社によっては期末手当・夏季手当・年末手当・特別賞与と呼ばれるケースもありますが、意味は変わりません。ほとんどの企業は年に1~2度支給されており、夏と冬に支給される企業が多いでしょう。
とはいえ賞与は払われるのが常識と思われているものの、支払われない企業もあります。例えば賞与が支払われない代わりに基本給を上げたり、社員旅行を開催し親睦を図ったり。賞与とは違った形で提供しています。
そもそも賞与の目的が「会社がうみだした利益を社員へ還元する」であるため、基本給アップや社員旅行開催でも意図に沿っていると言えるでしょう。
給与、寸志との違い
給与と賞与の違いは明確なルール有無の違いです。前述のように賞与には決まったルールがありません。一般的に金額は自由に決められ、支払い時期も決まっていないのが現実。場合によっては賞与を支払わない企業もあります。
一方、給与は労働基準法によって毎月1回決まった日に支払うルールがあるのです。さらに「直接本人に支払わなければいけない」「分割は認められておらず全額一括で支払う必要がある」などが決められています。まずはこのような違いを念頭に置いておきましょう。
また、賞与と似た言葉で寸志があります。新入社員や中途社員が入社間もない頃にもらえるイメージがあるでしょう。寸志には「少しばかりの気持ち」の意味が込められています。そのため「入社半年で満額じゃないけど、頑張る姿勢を見せたから支払う」のように、会社側の誠意で別途手当を支給するのです。
他にも新入社員歓迎会や忘年会の開催費用を会社側が一部負担するために、寸志が渡されるケースもあります。
公務員の賞与(期末手当・勤勉手当)、支給日
公務員の賞与は民間企業のボーナスとは異なります。期末手当と勤勉手当と呼ばれる2種類の手当が支給され、この2つの手当がいわゆる賞与です。
期末手当は生活費の負担が多くなる6・12月に支払われます。目的は社員の生活をより豊かにし、仕事へのモチベーションを上げるためです。
そして勤勉手当は普段の仕事に対する姿勢や業績をもとに支払われます。民間企業のボーナス査定は業績のウェイトが大きいですが、勤勉手当もほぼ同等の意味合いです。そのため期末手当よりもなじみ深いでしょう。
また、公務員の賞与支給日は具体的に6月30日・12月10日と法律で決められているのも特徴的です。賞与支給日が毎年不定期な民間企業もあるのに比べると、家計管理がしやすいと言えます。
賞与(ボーナス)の種類
通常、賞与と呼ばれるのは基本給連動型です。基本給とリンクさせてボーナスを支給する形式。「賞与は3ヵ月分」「2ヵ月分を夏に支給」などと求人票に書いてあるのがこの賞与です。
ほとんどの会社で支給されますが、契約社員であったり入社間もなかったりすると、支給されないか寸志でもらえるかもしれません。
また、基本給連動型賞与の他にも発生する賞与があります。とくに大企業であると賞与が年4回以上支給されるケースもあるでしょう。詳細については次から解説していきます。
業績賞与
業績賞与は会社・組織・個人の業績に応じて支払われる賞与です。業績が良ければ通常の支給額より2倍に跳ね上がる場合もあります。反対に売上が低いと発生しないケースもあるでしょう。
また「業績」の基準も企業によって分かれるのが特徴的です。たとえ個人の成績が良くても、会社全体の業績が上がっていなければ発生しない場合も。逆に会社の成績が悪くても、個人成績が良好であれば支給されるケースもあります。
業績賞与は不透明な部分が多く、社員へ賞与支給額の詳細を伝えられない場合もあるでしょう。
決算賞与
決算賞与は決算のタイミングで支払われる賞与です。決算は会社の売り上げや在庫数を確定させる手続きになります。四半期・中間決算などと呼ぶケースが多く、4ヵ月に1回または半年に1回企業の経済状況を整理していくのです。
決算賞与とはその確定するタイミングで目標に達した場合に、利益を従業員へ還元する賞与です。「売上1000万円達成したから一律3万円支給する」「目標に届いたから賞与に5万円上乗せする」などの形で支給するのが一般的。前述した業績賞与だけを支給する企業もあれば、両方の賞与が発生する場合もあります。
いずれにしても会社の売上と大きく関わっており、業績が良い企業ほど賞与額は高いと言えるでしょう。
賞与(ボーナス)のある会社のメリット・デメリット
賞与支給のメリット・デメリットを解説します。
メリット
まずはメリットを解説します。
定期的にまとまった収入がある
賞与は一回で給与の数倍支払われるため、収入が安定しやすいです。
まとまった収入があれば金額の高い買い物にも手が出しやすくなります。例えば車・マイホーム・家電製品など、高額なものも購入できるでしょう。
また、すぐに買えなくても賞与を貯蓄にまわせば、数年後に買える可能性は高くなります。最近は消費者の買い控えもあり、貯金する人が圧倒的に増えているのも事実。将来の先行きが不安な世の中だからこそ、貯蓄を選択する方が多いのでしょう。
このように、賞与でまとまった収入を得られれば、高額な生活必需品も購入しやすく、貯蓄への助けとなるはずです。
賞与を元に支払いの計画を立てることができる
事前に賞与が支払われると分かっていれば、購入計画も立てやすくなります。
例えば、冬ボーナスで100万円支給されると知っていると、年末に車や家電製品の購入計画を立てられるでしょう。「100万円ボーナスでもらえるから、あと200万円用意しよう」「100万円で家電を一式そろえよう」など、早い段階からプランを立てられるのです。
また、ボーナス払いをフル活用できます。ボーナス払いは夏や冬の賞与が支給される翌月に請求をずらすシステム。賞与が支給されると分かっていれば、春や秋にボーナス払いで大きな買い物も可能です。
以上のように賞与の支給によって、支払い計画の段取りがスムーズになるのは大きなメリットでしょう。
退職金制度を採用している企業が多い
賞与の支給がある場合、同時に退職金制度を採用している企業が多いです。
退職金制度とは従業員が退職時にもらえる報酬。または何らかの都合で退職せざるをえなくなった場合でも支給されます。
退職金は一般的に「後払い賃金」と言われ、退職後に特別手当がもらえる意味合いとは異なります。あくまで在職中の賃金をいくらか減らし、その分を退職金として後日払いする形式となるのです。
とはいえ、このような退職金制度が取れるのも賞与あってこそ。従業員の給料を削っても、賞与でまかなえるために成り立つ仕組みなのです。
ゆえに賞与が発生する企業は退職金制度を採用しているケースが多いと言えます。
年功序列型の人事制度を採用している場合、長期的に安定して働くことができる
年功序列型の人事制度は勤続年数や年齢が大きな評価対象となります。
ゆえに「ひとつの会社で長く働いていれば賞与が多くもらえる」「社会人経験が長ければ賞与額が高い」などの評価傾向が強いです。誠実に働いていれば自動的に賞与額も上がっていくため、長期的に安心して働けます。
反対に成果主義を採用している会社の場合は結果が全てです。いくら在籍年数が長くても、成績を残せなければ賞与は上がりません。場合によっては数十年働いても賞与額がまったく同じケースもあるのです。
そのように考えると、年功序列型の人事制度を採用している企業の場合、従業員は賞与のありがたみを感じられるでしょう。
デメリット
続いてはデメリットを解説します。
賞与がない企業と比べて基本給が低い傾向がある
一般的に企業は全体のバランスを考えて給与や手当を支払っています。それは賞与も同じです。
例えば、賞与がない企業は基本給が高い傾向にあります。反対に賞与が発生すると、基本給が低く設定されている傾向にあるのです。この傾向は会社の売上高が低いほど顕著に見られるでしょう。
基本給と賞与の支給額を両方とも高額にするのは、大きな利益をうみ出す企業でない限りむずかしいです。そのため賞与が出ると喜んでいても、実は賞与が出ない企業と全体額は同じケースもあります。
基本給が低ければ、毎月の生活をやりくりするのに苦労するかもしれません。「ぜいたくするのは賞与が来るまで待つ」「賞与が支給されるまでは節約する」などの生活も余儀なくされるでしょう。
基本給によっては、賞与の金額が低い場合もある
本ケースは前述したパターンとは異なり、基本給によっては賞与額が低いケースです。あらかじめ基本給が高く設定されている場合、賞与の金額が低い場合は大いにありえます。
企業は給与や手当を支払う場合、全体のバランスを見て決定します。基本給が高ければ、賞与を低く設定する可能性は高いです。
結果的に賞与がもらえたとしても、メリットを感じられる瞬間は減ってしまうかもしれません。まとまった収入がなければ購入計画も立てづらく、先行きも不安に感じてしまうでしょう。
実際に労働者は賞与がもらえると嬉しく感じられますが、このような企業側の支払い事情もあるのは念頭に置いておきましょう。
賞与(ボーナス)の支払い対象や要件
賞与の支払い対象は法律で明確に決められているわけではありません。
パートやアルバイトに支給する企業もあれば、正社員だけに支給する企業もあります。一般的に賞与が発生するのは正社員だけであり、非正規雇用労働者には支払われないのが事実。
とはいえ、働き方改革によって「同一労働同一賃金」の義務付けがなされました。このルールは同じ企業で働く社員の中で賃金・福利厚生・待遇面に不合理な差をつけてはならないとあります。賞与に関しても雇用形態で正当な理由なく差別をしてはならないのです。
もちろん正社員と非正規雇用労働者には仕事量や負うべき責任が異なるため、近年はパートやアルバイトに寸志を支給する企業も増えています。
賞与の支給日、時期
ここからは賞与の支給日や時期を解説します。
支給日在籍の要件
要件については決まりがないため、企業によって様々です。
具体的には「ボーナス対象期間に在籍していれば支給」「ボーナス対象期間かつ支給日にも在職していなければならない」など、企業によって異なります。要件を認識していなかったゆえに、落とし穴もあるのは注意しておきましょう。
例えば「ボーナス対象期間は働いたのに、支給日は退職していてもらえなかった」のようなケースもあります。あと数日働いていればもらえた例もあるため、よく確認しておくのが重要です。
一般的に在籍要件は個別で教えてもらえるわけではありません。自分自身から聞かないと教えてもらえない可能性は高いため、なおさら自発的に確認しておきましょう。
賞与の支給日
賞与支給日は夏が7月初旬、冬ボーナスは12月初旬であるケースが多いです。
これにはいくつか理由があり「出費が重なる8月や年末に向けて事前に従業員の金銭的負担を軽くするため」「月初めに集金したいから」などが代表的です。
具体的には夏のボーナスは7/10もしくは7月初旬の金曜日、冬のボーナスは12/5や12/10などが一般的と言えるでしょう。
そのため、小売業界はこのような時期を狙って新製品を発売したり、在庫処分を図ったりします。「ボーナス商戦」と打ち出して、にぎわっている光景を見た経験のある方も多いでしょう。小売店が夏と冬に盛り上がりやすいのは、そのような企業側の戦略も関係しているのです。
賞与の支払い回数
一般的に支払い回数は年2回、夏と冬に支給する企業が多いです。
とはいえ企業によっては4回以上支給しているケースも。基本的な賞与以外に業績賞与年1回、決算賞与年2回を支給すれば計5回です。約2ヵ月に1回、基本給の他に賞与が振り込まれれば、従業員にとっては大きなモチベーションとなるでしょう。
とはいえ賞与の支払い回数が多くても、基本給が低く設定されているケースも多くあります。定期的に支給されるのは喜ばしいですが、あくまで1年全体の年収として考えていきましょう。
社会保険料や雇用保険料における賞与の取り扱い
保険料と賞与の関係性についても注目です。まずは「賞与」と「報酬」の違いについて把握しておきましょう。
賞与は年3回以下のまとまった支給、年4回以上になると報酬と呼ばれています。
賞与と報酬の具体的な違いは負担額です。賞与は賞与額1,000円未満をカットした額に保険料を掛けていきます。報酬の場合は7月1日を境に、前年1年間に支払われた賞与額「12分の1」を月給に加えていきます。
厚生年金保険料の標準報酬月額上限が62万円であるため、結果的に年4回以上の賞与であると得をする人も出てくるのです。
賞与(ボーナス)金額の基準、決め方
ここからは賞与金額の基準や決め方を解説します。
賞与支給の有無はどのように決められる?(就業規則、労働協約、労働契約)
賞与支給の有無は最終的に会社側が判断できます。万が一賞与を支給すると決まれば、就業規則・労働協約・労働契約のうちいずれかに明記しておきましょう。
就業規則とは会社が従業員の労働時間・給与・社内ルールを示した規則です。従業員を10人以上雇用している企業は必ず就業規則を労働基準監督署へ提出する必要があります。
労働協約とは企業と労働組合で取り交わす契約です。就業規則と労働契約よりも効力を有しています。
そして最後の労働契約は企業と労働者の間で交わす契約です。雇用契約書と呼ぶケースもあり、入社時に明示するのが一般的。
以上紹介した3つの規則・契約いずれかの中に賞与について記載しておきましょう。
賞与額の決め方
賞与額の決め方も企業によって様々です。とはいえ「基本給の3ヶ月分」「基本給の〇%」などと明記するのが一般的となります。
ここで注意しておきたいのは基本給に対しての考え方です。基本給はあくまで従業員へ支払われるベースの部分。交通費・営業手当・残業代などを差し引いた金額になります。
よく総支給額によって賞与が割り出されると認識している方もいますが、基準は基本給であるのは覚えておきましょう。
このような認識の違いを防ぐためにも、規則や協約の中で詳細を明示しておくのがポイントです。
企業規模ごとの賞与額の決め方
賞与の決め方は企業規模によっても変わってきます。数名規模の場合は社長が直接一人一人と面談を行うケースが多いでしょう。社長と直に賞与について話す機会が設けられるため、フィードバックがより明確にもらえます。
数十名規模の場合は管理職が従業員の評価を下し、最終決定は社長が行う傾向にあります。管理職の負担こそ増えるものの、経営者は本来の業務へ集中できるでしょう。
数百名以上の規模になると直属の上司が評価を行い、管理職が最終決定する企業が多いです。この規模になると、社長は賞与についてほぼ関与しない企業もあります。すでに賞与の評価項目が細分化されており、質の高い考課システムが完成されているからです。
このような高品質な考課システムをつくっておけば、経営層が関与しなくても正当な評価を下せるのも納得と言えます。
限度を超える減額はできない
賞与額は企業独自に決めて問題ありませんが、限度を超える減額はできません。政府による働き方改革推進もあり、賞与に圧倒的な差をつけるのはNGとされているからです。そのため減額以外にもボーナスを与えない行為も禁止されています。
限度を超えるとは一般的に「遅刻や欠勤が多く業務が進まない」「自分自身の行動が会社に大きな損害を及ぼした」などがあげられます。企業側はいずれかに当てはまる場合、限度を超える減額はやむをえません。
とはいえ、従業員は真面目に日々働いていれば、毎年同等額の賞与はもらえるはずです。万が一大きな減額が発生した場合は必ず理由を聞いておきましょう。
賃金を決める制度(職務等級制度・職能等級制度)
ここからは賃金を決める制度について解説します。
職務等級制度
職務等級制度は賞与を決める際、より一般的に用いられる制度です。企業には部長・課長・係長などの役職があります。決められた役職に対して賞与を当てはめていく形式です。
例えば「課長1級であれば賞与は120万円」「係長3級は一律70万円」などと割り当てていきます。企業側は賞与を決める手間が減るため、人事業務の効率化が実現。従業員に対しても根拠を説明しやすいでしょう。
デメリットは職務があいまいであると評価しづらい点です。例えば前述したように役職の中でも細かく分かれていれば良いものの、不明瞭であると混乱を招きます。課長代理や課長代行などのポジションも「課長」としてひとくくりにされるため、あいまいな点が残ってしまいます。
職能等級制度
職能等級制度は社員のスキルや能力に応じて賞与を決める方式です。
「ボーナス対象期間に資格を取得した」「持ち前のプレゼン能力で商談をまとめあげた」などが採点項目となり、役職に捉われず従業員自身に着目できます。一人一人に応じた評価となるため、能力をつけた分だけ評価されるのは大きなメリットです。
デメリットは保有スキルの判別が分かりづらい点。前述した資格取得であれば目に見えて分かりやすいものの、コミュニケーション力やリーダーシップなどの見えにくい評価はしづらいもの。社員間から不満をうむケースもあります。
そのためにも評価項目をよりきめ細かくしたり、1on1ミーティングを定期的に実施したり、工夫が必要です。
業績連動型賞与のメリット・デメリット
業績連動賞与のメリット・デメリットを解説します。
業績連動型賞与(デジタル方式)とは
業績連動型賞与とは企業の売上に比例して賞与が決まる方式です。
業績連動型賞与を導入する際は事前に売上高・純利益・キャッシュフローの目標を決めていきます。定めた目標に対して「目標を達成したか?」「達成度合いはどれくらいか?」などを見ていくのです。達成した場合は超過分すべて、もしくは超過分の数割を従業員へ分配していきます。
一般的に業績連動型賞与は成果主義の会社で用いられ、年功序列型の人事制度では採用されません。最近は成果主義の会社も多くなっており、注目されている賞与システムでもあります。
メリット
業績連動型賞与の大きなメリットは「賞与の見える化」が実現する点です。
一般的に賞与は担当者による労使交渉の場で詳細が決定します。事実を把握しているのはあくまで担当者、加えて経営層のみです。従業員へ明確な説明がなされるわけではありません。
一方、業績連動型賞与であれば、事前に達成度の何%が賞与に分配されると説明されます。そのため従業員はボーナス額の根拠が明確になるのです。社員が納得するだけでなく、業績を上げようとモチベーションも上がるでしょう。
デメリット
業績連動型賞与のデメリットは業績に大きく左右される点です。
たとえ個人で優秀な成績を残していても、会社全体の業績が上がらなければ賞与は減額されます。もしくは業績次第で賞与が支給されないケースもあるでしょう。「いくら営業で商談をまとめてもボーナスが増えない」「部署の売上が上がっても、会社の業績が落ちたから賞与は減額された」などの事態にもなりかねません。
頑張っているかどうかよりも、結局は会社の業績が大きく関係してくるのです。いわゆるギャンブル的な要素も含んでいるため、採用する場合は従業員への詳細な説明が必要となるでしょう。
賞与(ボーナス)における社会保険料の計算、手続き方法
賞与が支給されるにあたっては、全額手元に支払われるわけではありません。毎月の給料と同様、ボーナスにも社会保険料が掛かってきます。社会保険料とは雇用保険料・厚生年金保険料・健康保険料です。
加えて40~64歳の社員が支払う介護保険料も対象。人によっては4つの保険料から引かれた金額が手元に残ります。
まずは賞与提示額すべてが支給されるわけではなく、社会保険料を引いた額が支給されると念頭に置いておきましょう。
賞与(ボーナス)にかかる社会保険料の控除時期
社会保険料は一般的にボーナスから天引きされます。そのため、支給される時期と社会保険料が控除されるタイミングは同じです。
ちなみに同時期であるのにはいくつか説があります。代表的な説の一つに、過去に保険料を意図的に逃れる行為が多発したからです。
以前までは給料と賞与を同月に支払う場合「給与を減らして賞与をその分上乗せさせる」のような操作が可能でした。表面上給与額を減らせば、社会保険料を減額できるからです。このような勝手な行為が頻発したため、賞与にも社会保険料が掛けられはじめました。
保険料の算出方法
保険料の算出方法について解説します。
健康保険料
健康保険料は賞与額から1,000円未満を切り捨てた後「標準賞与額×健康保険料率」で割り出せます。標準賞与額は年間530万円で設定されており、上限を超える場合は上限額から算出していきます。
尚、健康保険料率は地域によって異なるのも事実。加えて料率は毎年変わるため、確認しておきましょう。
また健康保険については、中小企業の場合は協会けんぽに加入、大企業の場合は健康保険組合を設立して加入しています。一般的に健康保険組合の料率は協会けんぽよりも低い傾向にあります。
厚生年金保険料
厚生年金保険料は70歳未満の従業員が加入する保険料です。将来年金をもらうためには厚生年金保険へ加入する必要があります。
健康保険料と同じく、賞与額から1,000円未満をカット後「標準賞与額×厚生年金保険料率」で算出されます。従業員と企業側が半分ずつ負担する流れも同じです。
異なるのは保険料率が毎年一緒な点。18.300%で固定されています。例えば賞与額30万円の方の場合「30万円×18.300%×1/2」で算出。この方の場合は 27,450円となります。
基本的には保険料率が固定されているため、計算しやすいと言えるでしょう。
雇用保険料
雇用保険料は前述した2つと同じく「手元に残る賞与額×雇用保険料率」で割り出せます。
ここで注意しておきたいのは計算の元となる賞与額が標準賞与額でない点。手元に残る賞与額がベースとなるのは注意しておきましょう。
加えて雇用保険料率は従業員と企業で半分に分けるわけではなく、事業の種類や負担額で異なります。事業の種類は一般の事業・農林水産、清酒製造次号、建設事業に分かれており、一般の事業は労働者負担が3/1,000、事業主負担が6/1,000と決まっています。
介護保険料
介護保険とは介護が必要になった際、より金銭負担を軽くし、誰でもサービスを受けられるためにつくられた保険です。
保険料はすべての従業員が負担するわけでなく、40~64歳の社員が対象となります。健康保険料や厚生年金保険料と同じく、賞与額から1,000円未満を切り捨てた後「標準賞与額×介護保険料率」で算出されます。従業員と企業側がそれぞれ半分ずつ負担する流れも同様です。
介護保険料率は地域によっても差が出ています。近年は全体的に値上がり傾向にあるため、かならず確認しておきましょう。
労災保険料
労災保険料は業務中のケガや病気に見舞われた際に給付される保険となります。日常問題なく出勤している方にとっては馴染みが薄い保険かもしれません。
労災保険料は「手元に残った賞与額×労災保険料率」で割り出されます。従業員は負担せず、企業側が全額負担するのも特徴のひとつです。
賞与(ボーナス)から保険料が控除されないケース
賞与から保険料が控除されないケースを解説します。
賞与支給月の月末までに退職するケース
退職タイミングによっては賞与から保険料が控除されないケースもあります。
ここで押さえておきたいのは、保険料は資格喪失月の前月までが徴収される点。賞与支給月の月末までに辞める場合は、支給月の保険料は免除されます。
例えば、8/15が賞与支給日、8/20に辞める場合は8月退職とみなされ、8月分の保険料は控除されます。また、この方が8/31に退職する場合、9/1に資格喪失となるため保険料は徴収されてしまうのです。
このように、退職日が数日違うだけで、数十万円もらえるか否かが決まってしまいます。ボーナスをもらって退職する場合はタイミングをよくチェックしておきましょう。
育児休業、産前産後休暇を取得中のケース
育児休業、産前産後休暇取得中は保険料が控除されます。各種制度を申請すれば、賞与から引かれる額は所得税や雇用保険料のみとなるのです。
また、対象の範囲は「休暇開始月から終了日(翌日含む)の前月」までとなります。
加えて令和4年10月から「賞与発生日から連続1ヵ月を超える休暇を取得した場合に免除される」と見直されました。
賞与(ボーナス)の手続きと流れ
賞与の手続きと流れを解説します。
フロー1:賞与支払い予定月の登録する
まず押さえておきたいのが賞与支払届です。賞与にかかる保険料を割り出し、提出すべき届出となります。
企業側は賞与の支給が義務ではないものの、支払う場合は保険料を納める必要があります。そのためにもはじめに支払届を提出していきます。提出作業を行うには賞与支払届を受け取りましょう。
「新規適用届」または「事業所関係変更(訂正)届」を年金事務所へ事前に提出し、支払予定月を登録していきます。
フロー2:賞与支払届を受け取る
登録後は支給日前月に被保険者の氏名や生年月日などが記載された賞与支払届が各企業へ送付されます。手元に書類が届いたら各項目に不備がないか確認しておきましょう。
基本情報項目に記載が無い場合は、手書きで追記する必要があります。また、届け出は給与計算システムで作成も可能です。作業の効率化が図れるため導入企業も増えています。
とはいえ健康保険組合固有のフォーマットもあり、指定書式でなければ受け取ってくれないケースも。システムで作成する場合は事前に確認しておきましょう。
フロー3:標準賞与額、保険料を算出する
支払届提出後は標準賞与額が決定します。標準賞与額は保険料が引かれる前の総支給額であり、1,000円未満をカットした金額です。この金額に保険料を掛けたのが、賞与に対する保険料となります。
保険料率は健康保険や厚生年金保険によって異なります。例えば厚生年金保険料率は18.3%で固定であるものの、健康保険や雇用保険は地域や事業種別によって異なります。そのため、算出する前にあらためて確認しておきましょう。
フロー4:賞与支払届を作成する
まずは項目(企業情報・支給金額・標準賞与金額)を漏れなくうめていきましょう。
複数社会保険に加入している場合は「二以上勤務」に丸で囲む手続きをします。支払届に記載されている社員で賞与の支払いがない場合は空欄で構いません。
とはいえ、賞与を支給しない場合は賞与不支給報告書の作成が必要です。書式は年金機構のホームページから入手可能。
また、支払い予定月の登録を済ましている場合は、該当月の前月に郵送されてきます。
フロー5:賞与支払届を提出する
賞与支払届が完成したら提出手続きに入ります。すべての書類を賞与支給日5日以内に年金事務所または事務センターへ提出しましょう。
ここで気を付けたいのは健康保険組合に加入している場合です。提出先は各種健康保険組合と日本年金機構の2ヵ所になるため、忘れずに提出する必要があります。
また、CDやDVDなどの記録媒体で提出も可能です。自社で作成しても良いですし、日本年金機構ホームページからプログラムをダウンロードして提出もできます。
最後に提出が完了すると保険料決定通知書が届き、翌月末日までに納付すれば手続きは完了です。
ボーナスの手取り額を計算する方法
ボーナス手取り額の計算方法を解説します。
厚生年金保険料、健康保険料、雇用保険料、所得税が差し引かれた金額
ボーナスの手取り額を計算する場合、ポイントとなるのが保険料や税金です。
標準賞与額から厚生年金保険料・健康保険料・雇用保険料・所得税が差し引かれた金額が手元に残ります。おおまかに言うと、標準賞与額から約15~20%引かれると思ってもらえれば良いでしょう。
とはいえ年齢・扶養家族の有無・地域差などによって大きく変わるため、事前に確認が必要です。
計算方法の具体例
ここからは計算方法の具体例を見ていきましょう。
今回紹介するのは東京在住の男性・扶養家族無し・25歳・額面給与30万円・標準賞与額40万円の方です。まず厚生年金保険料は40万円×9.150%で算出できます。算出した結果、厚生年金保険料は36,600円です。
続いては健康保険料になります。健康保険料率は加入する団体によって異なりますが、今回は東京都の協会けんぽ9.90%を採用します。計算式は40万円×4.95%(負担は折半のため)となり、19,800円です。
続いて雇用保険を割り出していきます。雇用保険料率は一般事業所一律0.3%と定められているため40万円×0.3%です。結果、1,200円となります。
最後は所得税額です。今回のケースで社会保険料合計額を40,000円と仮定(給与明細書で確認可能)。(前月の給与-社会保険料等)×税率(国税庁が定めた税率)で算出できます。(300,000-40,000)×4.084=10,684円となります。
今まで計算した数字をすべて足すと68,284円。手元に残るのは400,000-68,284=331,716円となります。
一般的な賞与(ボーナス)の支給額
一般的な賞与の支給額を解説します。
企業の賞与額はどのくらい?
2021年民間企業の賞与平均額は夏・冬それぞれ38万円であり、合計すると76万円となります。
産業別で見ると電気・ガスの77万円からはじまり、情報通信業67万円、金融・保険業63万円と結果が出ています。
全体的にインフラやIT関連事業の賞与が高いのも事実。反対に飲食サービス業は5万円でした。新型コロナウイルス感染拡大の影響に左右されない事業が高い傾向にあります。
※数値は「厚生労働省の毎月勤労統計調査」
ボーナスが高い企業ランキング
2021年ボーナスが高い企業ランキング上位5社は1位三菱商事株式会社 552万円、2位東京エレクトロン株式会社 517万円、3位株式会社キーエンス 363万円、4位伊藤忠商事株式会社 349万円、5位中外製薬株式会社 335万円となっています。
ランクインされた企業を見ても、総合商社やメーカーが上位に躍り出ているのが分かるでしょう。加えてボーナスだけではなく、平均年収も高い傾向にあります。実際に三菱商事やキーエンスは平均年収でも上位にランクインされるケースが多いです。
※YAHOO!JAPANしごとカタログのデータ
アルバイト・パートにも賞与はあるのか
一般的にアルバイトやパートに賞与が支払われるケースは少ないです。
正社員と比べて責任が軽い仕事かつスキルを問われない仕事を任される傾向にあるため、基本的には賞与は発生しません。とはいえ例外もあります。
例えば「アルバイトでありながら正社員並みの実績を出している」「パートにも関わらず正社員よりもスキルが高い」などの場合、寸志で支給する企業も。人によっては数万円の寸志を受け取る場合もあるでしょう。
賞与に関するトラブル例
賞与に関するトラブル例を解説します。
賞与の金額に大きな個人差がある
賞与金額に大きな差があると、不満がうまれる場合もあります。
例えば同じ仕事をしていて似たような実績であるにもかかわらず、ボーナスが数十万円違えば納得はいかないでしょう。実際、上司の好き嫌いや価値観の違いによってこのようなケースは見受けられます。
もちろん正当に評価すべきであり「無断欠席が何日も続いた」「会社に大きな損害を与えた」などの理由が無ければ、個人差をつけてはいけないのです。
そのためにも従業員へ賞与基準を明確に説明し、定期面談で認識のそごを無くしていく必要があります。
賞与が支払われない
賞与関連の詳細については、入社時に必ず確認しておきましょう。
例えば入社時に口約束をしていても、実際の契約書には盛り込まれていないケースもあります。賞与支給は義務でないため、契約書に記載がなければ従うしかないのです。
反対に契約書に記載されているにも関わらず支給されない場合は違法となります。労働基準監督署や弁護士へ判断を仰いでいきましょう。
またあいまいになりがちな「業績次第では支給」「年によって支給されたケースもあり」などの場合、企業側に支払い義務はありません。認識違いを防ぐためにも、入社時に確認が必要です。
賞与について正しく理解しましょう
従業員にとって賞与とは「頑張った証」「少しだけぜいたくできる瞬間」などと捉えられるでしょう。実際にまとまった収入が手に入り、支払い計画も立てやすくなります。
仕事へのモチベーションが上がるからこそ、支給額を増やす企業も多い傾向にあるのが事実。とはいえ、従業員側が賞与を何となくもらっているのは危険かもしれません。
「社会保険料でどれだけ控除されているのか?」「なぜ額面金額から〇万円も引かれているのか?」などの知識を深めるのが重要と言えます。