MBOは何の略?導入目的と採用するメリット・デメリットを解説
目標を達成する上で欠かせないのがMBOです。自主性がポイントとなっている現代からこそ、個人の目標管理能力がより問われる時代となりました。実際にMBOは以前よりも注目されており、導入企業も年々増えています。
そこで今回はMBOのメリットや導入時の注意点を中心に解説していきます。また、M&AにおけるMBOについても解説していきますので、ぜひ参考にしてもらえると幸いです。
MBOの意味とは
MBOとは目標管理手法の一つです。具体的には設定した目標を自分自身で管理する方法を言います。立てた目標に対して「どれだけ目標が達成しているか?」「いつまでに目標をクリアできるか?」などを突き詰めていき、目標達成を現実のものとしていきます。目標を個人で管理すると主体性がうまれ、モチベーション高く業務に取り組めるのです。
また、目標を自分の中に落とし込んでいけば、達成に向けて「どうやって仕事を早く進められるか」のような効率化が実現します。今では会社の売上アップには欠かせない目標管理手法です。
MBOは何の略?日本語は?
MBOはManagement by Objectivesの略です。Managementは管理や経営と訳せ、Objectiveは目的や目標などと言い換えられます。直訳すると「目標を管理」。前述したように従業員自身が目標を設定し、管理する手法を言います。管理を徹底させれば一人一人が主体性を持ち、組織が一つの方向へ進むとされているのです。
P.F.ドラッカーが『現代の経営』内で提唱
MBOを提唱したのは経営者のピーター・ドラッカーです。ピーター・ドラッカーはユダヤ系オーストラリア人経営学者。「現代の経営」や「マネジメント」はベストセラーにもなっており、経営の礎を築いたと言っても過言ではありません。
実際に現在の経営層でドラッカーを知らない人はほぼいないでしょう。それくらい会社経営に影響を及ぼした人物です。MBOはドラッカーの著書である現代の経営の中で提唱されました。「目標管理は支配するものでなく、自分自身で管理すべきだ」と述べています。
この考え方は会社だけでなく、スポーツの世界でも浸透しているのも注目すべき点。「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」がベストセラーとなった背景からも、目標がある以上、どの世界でも自分自身で管理するのが重要なのです。
日本におけるMBOの現状と課題
MBOは多くの企業で導入され、現在は大企業と呼ばれる会社のほとんどが採用しています。それは一般的に個人へ目標を管理させれば、仕事へのモチベーションが上がると思われているからです。
とはいえMBOを導入すれば、かならず目標が達成できるわけではありません。個人に目標管理を委ねるあまり問題点も出てきます。例えば目標設定の自由度が高すぎて、明らかに低い目標を設定するケースがあります。自分自身で設定できるとなれば、達成しやすい目標を立てるのは当然かもしれません。
他にも、企業が考えるビジョンとは異なる目標を設定する場合もあります。MBOにはこのような課題もうまれているのも事実です。そのため、目標を個人で管理させるのを前提としつつ、管理者が目標をコントロールする瞬間も必要かもしれません。MBOは両者のバランスが重要と言えるでしょう。
目標管理の3種類の方法
目標管理の3種類の方法を解説します。
組織活性型
組織活性型はMBOの中でも最もメジャーな管理手法です。目標管理を個人に任せ、仕事に対するモチベーションを上げていきます。一人一人のやる気が上がっていけば、自然と他のメンバーも触発されて組織が活発になっていくのです。組織が活性化されると、企業全体の目標も達成しやすくなるでしょう。
とはいえ組織活性型には問題点もあります。目標設定ばかり注目がいき、目標達成までの過程がおざなりになってしまう点です。「どうやって達成させるか」「いつまでにクリアさせるか」などの目標達成計画の優先順位が下がってしまいます。組織活性型を取り入れる場合は、目標のプロセスも重要となるのは念頭に置いておきましょう。
人事評価型
人事評価型は個人に目標を設定させながらも、人事評価も組み込んでしまう手法です。「目標達成=人事評価に直結」となるため、従業員のモチベーションも上がりやすいのが特徴。評価側も目標達成具合をメインに評価するため、評価しやすいと言えます。
人事評価型は年功序列制度の問題点を解消するためにうまれました。「実績が無いのに評価されるのは不公平」「在籍年数が長いだけで評価されるのは納得いかない」などの不満を最小限にするため、目標に責任感を持たせる人事評価型がうまれたのです。
人事評価型のデメリットはあくまで評価が優先される点。従業員は個人目標達成がメインとなり、企業や組織全体の目標まで目が行き届きません。結果的に売上アップにつながらない可能性もあります。
課題達成型
課題達成型は前述した二つの手法とは異なる手法です。前述した二つの手法はあくまで個人優先型の管理手法でした。課題達成型は企業や組織を第一優先とした目標管理です。「課題達成」と名付けられている背景からも、まずは企業全体が立てた目標を遂行していきます。
続いて組織や個人へと目標を設定していくのです。例えば「企業全体の売上目標は3000万円、A支店の目標は1000万円、○○さんの目標は200万円」のように設定していきます。上記の流れを見ると、はじめに企業全体の売上目標を立てているのが分かるでしょう。トップダウン形式で目標が枝分かれしていくのも特徴です。
課題達成型のMBOが理想とされる理由
課題達成型が理想とされるのは目標が「線」になるからです。企業・部署・個人の目標がまとまっており、達成のためには効率的と言えるでしょう。例えば個人の目標が達成できれば、必然的に企業全体の目標達成へと近付きます。それは個人目標と企業全体の目標が線でつながっているからです。
反対に組織活性型や人事評価型は個人のモチベーションは上がるものの、あくまで目標は「点」になります。個人目標が達成しても、かならず企業全体の目標達成へとつながるわけではありません。このように、MBOを導入する際はそれぞれの管理手法の特徴を理解しておく必要があります。
課題達成型の特徴
大きな特徴はどこに着目しているかです。前述した二つの管理手法は個人の目標に着目しています。「モチベーション」「成長」などにウェイトを置いており、企業の目標達成はそれにつづくかたちです。一方、課題達成型は企業の目標に着目しています。「売上アップ」「事業拡大」などを最優先事項としており、個人の優先順位は低いです。
とはいえ個人の意向を無視しているわけではありません。企業や組織が設定した目標の中で自由に決められるのも特徴です。管理職と一緒に相談しながら目標を決めるケースもあります。
また、個人の目標が組織の目標とリンクしている背景からも、前任者の目標は後任者へと引き継がれます。組織活性型と人事評価型とは異なる特徴を持っているため、ポイントを押さえておきましょう。
MBOのメリット・デメリット
MBOのメリット・デメリットを解説します。
メリット
まずはMBOのメリットを解説します。
自己管理によるマネジメントができるようになる
MBOを導入すれば「やらされ仕事」から脱却できる可能性も秘めています。目標をある程度自分自身で決め、達成に向けて行動するとなればマネジメント能力は不可欠。日々の目標進捗率の確認や行動の軌道修正なども必要でしょう。試行錯誤しながら行動していけば、目標管理能力も高まるはずです。
一方、上司が目標を管理すると自主性は芽生えません。目標に対する意識が低くなり、会社全体の売り上げにも直結してきます。目標を自己管理する効果はそれほど大きいのです。
モチベーションが高まる
目標に自主性を持たせられると従業員のモチベーションも高まってきます。例えば「今年の目標は営業部で一番になろう!」と目標を立てれば、自然と仕事に対するやる気も上がってくるでしょう。業務における生産性も向上し、社内全体で競争意識が芽生えてくるはずです。
一方「今年の目標は年1000万円でお願いします」と上司から一方的に言われてもモチベーションは上がりません。提示された目標が現実的に達成不可能であれば、さらにやる気もわかなくなります。従業員のモチベーションを上げるには、ある程度目標を自由に決めさせるのがポイントです。
目標を共有することができ、目標達成の実現性が高まる
課題達成型のMBOは経営層→部署→個人とトップダウン式で設定されていきます。経営層で会社全体の目標が決められ、設定された全体目標を軸に部署へとおりていくのです。
最終的には従業員へ「組織の目標を達成するために年間営業目標1000万円」「営業部全体目標2000万円に対して従業員目標500万円」などと設定されるのです。
目標の軸ができれば、社内全体で目標をいつでも共有できます。個人の目標が会社トータルの売り上げに直結するため、目標達成の実現性も高まります。
具体的施策を練りやすい
課題達成型のMBOは現実的な目標が事前にある程度設定されています。例えば「年間売上目標1000万円」「半期商談件数30件」など、数字で明確に提案されるのが特徴。現実的かつ実践的な目標を設定するのが一般的です。このような目標を与えられれば、自然と行動施策も練りやすくなります。
一方、従業員が自由に目標を決めてしまうと、目標は抽象的になりがち。「良い営業マンになりたい」「商談が取れるバイヤーになる」など、ぼんやりとした目標を設定しやすいです。結果的に施策がはっきりとせず、目標が達成しにくいのです。
人材育成につながる
目標管理を従業員へ任せれば、一回り大きく成長した姿が見られるかもしれません。自主性が身に付き、行動が積極的になります。自分自身から行動すれば吸収できる知識や経験も多いでしょう。もしかすると行動量が多くなり、失敗が増える場合もあります。
とはいえ失敗からの学びは大きいもの。失敗を重ねてこそ社会人として大きく成長できます。とくに最近は売り手市場もあり、即戦力人材をかんたんには獲得できません。そのため、以前よりも企業は育成に注力しているのも事実。人材育成を成功させたければ、MBOの導入は不可欠と言えるでしょう。
振り返りがしやすい
従業員個人で目標を設定すれば、自然と自分自身と向き合う時間も増えていきます。「今回はなぜ目標を達成できなかったのか?」「どの部分を改善すれば次回目標をクリアできるのか?」など、振り返りがしやすいです。さらに課題解決型のMBOは経営層や組織全体で目標が共有されています。
ゆえに従業員に対してフィードバックしやすいのです。いろんな角度から従業員へアドバイスできれば成長につながります。結果的に社員の成長が会社の成長へとつながっていくのです。
デメリット
続いてはMBOのデメリットを解説します。
個人に目標設定を任せた場合、社内や会社の目標が達成しづらい
一人一人に目標設定を任せると、会社全体の目標達成が困難になるケースもあります。課題達成型のMBOであれば、社内目標達成が最優先のため問題ないでしょう。しかし、組織活性型と人事評価型のMBOは社内のモチベーションアップや人材育成が目的です。
「MBOを導入したけど売り上げがアップしない」「本来願っていた結果とはかけ離れている」などといった失敗事例は目的をはき違えているケースが多いです。会社の目標を最優先と考えるのであれば、課題達成型のMBOを導入しましょう。
企業目標が個々の目標と一致しないケースもある
課題達成型は社内全体で目標を共有します。会社目標の軸があるため、従業員がある程度自由に目標を決められるといっても、大きく目標の中心からずれるケースは少ないです。一方、組織活性型と人事評価型のMBOは社内目標と関係なく、個人に目標設定を任されます。
会社全体の方向性と完全に合わせるわけではないため、個々の目標と会社の目標が一致しないケースもあるでしょう。企業目標と個人目標を一致させたい場合は、課題達成型をメインに考えると良いかもしれません。
従業員の不満が高まる可能性がある
課題達成型はメリットもありますが時としてデメリットも。経営層や部署全体から目標がトップダウンされるゆえ、従業員の不満が高まる可能性があります。課題達成型はあくまで会社の決定事項が優先です。個人の意見や考えは優先されないため、納得いかないケースもあるでしょう。
「社員によって渡された目標が全然違う」「自分だけ高い目標を提示された」など、満足いかない場面も。課題達成型を導入する場合は社員へフォローやサポートが必要です。
目標管理と人事評価を連動させる必要がある
今まで解説した内容を振り返ると課題達成型は目標達成メイン、組織活性型と人事評価型は評価メインと思われるはずです。とはいえMBO本来の目的は目標達成と人事評価をリンクさせるためにあります。企業の目標ばかり追いかけて人材育成がおろそかになってはいけません。
人材育成に注力しすぎたあまり、売り上げが低下したのでは本末転倒です。あくまで企業目標あっての人材育成と覚えておきましょう。そのためにMBOを導入する場合は課題達成型・組織活性型・人事評価型の3つの手法をバランスよく取り入れるのがポイントです。
MBO導入の注意点
MBO導入の注意点を解説します。
モチベーションに繋がる目標設定を行う
MBOを導入する場合は、モチベーションにつながる目標設定が必要です。各従業員のスキルや性格に合わせて努力次第で達成可能な目標を設定していきましょう。具体的には達成確率50%前後であると本人のモチベーションも上がってきます。
「頑張り次第で達成できそう」「今までよりも毎月50万円の営業成績を上げればクリアできるはず」など、ゴールが見えそうな目標を設定すれば、自然と行動指針も明確になるでしょう。反対に目標設定が高すぎたり、簡単に達成できたりする目標はおすすめしません。いずれも本人のモチベーションが上がらず成長の妨げとなります。
目標達成の基準を明確にする
目標を設定する際は基準を明確にするのがポイントです。例えば「店舗年間売上1000万円をクリアするために個人月間目標100万円」と数字ではっきりと示していきましょう。目標の基準が明確になると、目標達成におけるビジョンが見えてきます。
反対に「昨年よりも売り上げを伸ばしましょう」「店舗売上目標1000万円に向けてとにかく売っていきましょう」など、目標が漠然としていると、従業員本人のモチベーションが下がるだけでなく、管理者側も評価しづらいのです。
上司が目標を押しつけない
MBO本来の目的は従業員自身に目標を設定させ、自主性を促す方針づくりにあります。目標をある程度自由に決定させれば、達成に向けて行動していくのです。とはいえ上司が目標を押し付けてしまうケースもあります。
例えば、管理者自身がもともと上司から目標を押し付けられていた場合です。「上司が部下の目標を強制するのが当たり前」と心の中にあれば、必然的に部下へ目標を強要するでしょう。そのようなケースを防ぐためにも、社内で意思統一し、部下の目標における自主性を尊重するのが大切です。押し付けるのではなく、相談や軌道修正によって正しい道へと導いていきましょう。
プロセスも評価する
目標は成果だけでなくプロセスも評価するのがポイントです。例えば「四半期個人売上目標500万円」だけでなく「毎日10件電話商談を行う」「月1回のプレゼンを欠かさない」などの行動を評価していきましょう。成果だけを見てしまうと、評価は0か100のどちらかになってしまいます。極端な話、99点の社員も0点になってしまうのです。
これでは従業員のモチベーションは上がらず成長も期待できないでしょう。プロセスや行動を評価していけば、従業員にとって日々の努力も認められます。結果的に公正・公平な評価となり、社員のモチベーションアップにつながるのです。
MBOとOKRの違い
MBOと似た目標管理手法にOKRがあります。OKRはObjectives and Key Resultと呼ばれ、直訳すると「目標と成果」です。一見するとMBOとの差を感じられませんが、両者には大きな違いがあります。2つの手法の違いを正しく知れば「自社ではどちらを導入したら良いのか?」「OKRよりもMBOを採用すべきだ」などと判断がつくはずです。
MBOとOKRの違いを知る上でのポイント
MBOとOKRの違いにおける要点を解説します。
評価の頻度
評価の頻度についてはMBOは6ヵ月~1年に1回、OKRは1週間~3ヵ月に1回です。OKRはMBOよりも評価頻度が高いと言えるでしょう。この違いは目的にあります。
OKRは従業員ひとりひとりの達成がむずかしい目標を設定するため、評価を含む面談が定期的に行われるのです。達成が困難となれば、逐一軌道修正を行わなければいけません。面談の期間が空いてしまえば違った方向に進んでしまうからです。
一方、MBOは人事評価を目的としても導入されます。6ヵ月~1年に1回は人事評価面談を行うタイミングとしては最適です。このように評価の頻度はMBOとOKRの目的が大きく関係しているのは念頭に置いておきましょう。
SMARTな目標設定
OKRの目標設定には「SMART」が使われます。SMARTとはSpecific・Measurable・Achievable・Related・Time-boundの頭文字をとった略語です。
目標を設定する際は具体的かつ達成度を測れるかがポイントとなります。例えば「月の売上目標は500万円。そのためには毎日20社へ電話でアプローチする」と数値を使い、誰でも共有できる目標設定が必要です。
さらに個人目標を企業目標にリンクさせ、現実的な目標を設定する必要があるのも特徴です。元来MBOには決まった目標設定がなかったものの、最近ではOKRのSMARTが利用されるケースも目立ってきています。
目標管理の目的
MBOを導入する目的は社員の給与を決めるためです。従業員へ目標を自由に決めさせ、その達成具合で給与が判定されます。自分で給与を決めればモチベーションも上がり、責任感持って仕事に取り組めるからです。目標や評価に対する不満がうまれにくく「すべては個人次第」の流れがつくれるでしょう。
一方、OKRの目的は生産性の向上です。社員の評価は度外視し、売上を最優先とした目標が組まれます。そのため、目標は従業員が容易に達成できない場合も出てくるでしょう。このようにMBOとOKRの導入を考える際は、目標管理の目的をあらかじめ把握しておく必要があります。
M&AにおけるMBO(マネジメントバイアウト)の意味とは
ここまでは目標管理におけるMBOを解説しましたが、同じMBOでもM&Aに関連した経済用語があります。それはManagement Buy-Out(マネジメントバイアウト)です。バイアウトとは株式買取を意味します。
マネジメントは経営を意味する背景からも「経営権を買い取る」と訳せるでしょう。自社株を保有する株主や投資家から買取り、企業体制の見直しを図ります。
あるいは大企業の事業拡大の際に行われる場合も。MBOを行えば意思決定が早くなり、時代の変化にも迅速に対応できるのです。
経済産業省「経営者による企業買収(MBO)に関する指針」
平成19年、経済産業省が企業買収における指針を発表しました。内容は「株式の利益を守るため、買収する場合は公正なルールに従うべき」とされ、株主を保護するルールがつくられたのです。
背景には2005年以降、急激に増えたM&Aへの規制があります。当時は明確なルールがなく、言わば「買収側の好き勝手」が許されていました。結果的に株主が不利な立場となり、反発がうまれる事態へと発展したのです。そのような背景もあり、平成19年に経済産業省がルールを制定。2019年には経済産業省が指針を全面改訂しました。
MBOの成功事例
ここからはMBOの成功事例としてすかいらーくグループを見ていきましょう。すかいらーくグループはガスト・バーミヤン・ジョナサンなどのファミリーレストランを運営する大手外食企業です。すかいらーくは1970年に1号店をオープンすると、飛ぶ鳥を落とす勢いで1990年代まで加速していきました。
ところが2000年代に業績が悪化。2006年にMBOを実施したのです。企業名でもある「すかいらーく」を完全閉店し、ガストやバーミヤンに注力しました。そして2014年に東京証券取引所市場第一部に上場。今では外食チェーン業界を代表する企業へと成長しています。
すかいらーくグループの歴史・沿革
https://corp.skylark.co.jp/about/history/
MBO(マネジメントバイアウト)の目的
ここからはMBOの目的を解説します。
経営体制の見直し・経営権の完全取得
MBO最大の目的は経営体制の見直しと経営権の完全取得です。自社株を保有している株主や投資家が多く存在していると、自社が思い描く会社をつくるのには期間を要します。それは株主や投資家の意見や考え方を少なからず反映させなければいけないからです。
MBOを行えば、業績が悪い事業や自主的に事業を止めたい際も迅速に対応可能。経営権を完全取得すると、企業は思い切ったシフトチェンジで危機を乗り越えられます。
メリットのない株式公開をやめる
株式公開はメリットもありますが、デメリットもあります。株式を公開すれば資金調達が実現し、企業の運用負担も減るでしょう。資金が潤沢になれば広告費用にまわせ、会社の知名度も上がっていきます。
反対に知名度が上がれば社会的責任を負う場面も増えてくるはずです。事業が拡大すれば資金面だけでなく、人材への負担も大きくなります。MBOのメリットとデメリットを天秤にかけた際、デメリットが上回れれば株式公開を中止させるのです。
情報公開の厳格化に対する対抗策
株主や投資家は会社の持ち主です。自社に対して投資をしてもらっている以上、様々な情報も共有しなければいけません。例えば「今後○○株式会社と事業提携を行うかもしれない」「年内に社長が変わるかもしれない」などの重要な情報も報告義務があります。
情報が多くの人に出回れば、それだけ情報漏洩のリスクが伴うでしょう。仮に情報が漏れれば、会社が危機的状況に陥る可能性もあります。そのようなリスクを考えた際、上場廃止も視野に入れるのです。
短期利益を追求する株主からの脱却
一般的に株主は目先の利益にこだわっています。「これからこの会社は儲かるだろう」と勝算が見込めれば株式を買います。反対に「世界的な問題が起こったため、これ以上株式を保有しても意味はないな」と考えれば株式を売却するでしょう。
長い目で会社を見て、我慢強く株式を保有する株主は少ないのが現状。すると会社側は資金調達の計算がたちにくく、長期的なプランニングは困難となります。このようなデメリットを感じて上場廃止を行うのです。
上場廃止
MBOを行って結果的に上場廃止につなげるケースは多いでしょう。上場廃止を行う理由は前述した通りです。「上場していてもネガティブな結果になるだけ」「上場廃止したほうがメリットは大きい」となれば企業はMBOを行います。株主や投資家からすべて株式を買取り、自社のみが株式を保有している状態となれば、上場廃止が成立します。
MBO(マネジメントバイアウト)の方法
ここからはMBOの方法を解説します。
企業価値の算出
MBOを行う場合、まず企業価値の算出を行わなければいけません。株式の価格は企業の価値によって割り出されるからです。企業価値は大きく、コストアプローチ・マーケットアプローチ・インカムアプローチによって分けられます。
コストアプローチは保有している現金・土地・設備などから算出する方法。客観的に価値を分析できたり、時価で価値を算出できたりする点がメリットです。マーケットアプローチは市場価格を基準に算出する方法。未上場企業の価値を算出したい場合に使われます。
最後のインカムアプローチは将来の収益を加味して価値を算出する方法です。企業の価値を長期的な目で割り出せる利点があります。
新会社の設立
保有している事業を切り離したい場合、あらためて会社をつくる必要があります。いわゆる「のれん分け」が必要になるのです。新会社を設立し、新しい経営陣が親会社から事業を買い取ります。新会社が事業を買収し、新会社は自由に経営を動かせるわけです。
この方法であると少ない資金で独立でき、経営体制がうまく浸透された状態で運営可能。似た手法のM&Aよりもメリットは大きいでしょう。
MBO(マネジメントバイアウト)のための資金調達
MBOを行う場合、買収のための資金が必要です。資金調達先は主に金融機関・ビジネスローン・日本政策金融公庫があります。金融機関は銀行や証券会社などが対象です。私たちの身のまわりでも住宅ローンやマイカーローンで銀行を利用するケースは多々あるため、イメージしやすいかもしれません。
マイナス金利が影響し、借り入れの障壁が低くなったのはメリットです。ビジネスローンは企業を対象とした金融機関になります。銀行より利息が高いものの、保証人なしで借入できるのがメリットです。最後の日本政策金融公庫は政府管轄の特殊会社になります。中小企業でも低金利で資金調達できるのが特徴です。
MBO(マネジメントバイアウト)のメリット
意思決定が素早くなる
株式会社は株式を保有する株主や投資家から成り立っています。重要な決定事項があれば、株主総会で発表する義務があり、情報を共有しなければいけません。たとえ「今すぐに決断をしなければならない」「選択を迫られている」などの状況に置かれても、株主の意見や考え方を加味する必要があります。
となれば、意思決定は自然と遅れてしまうでしょう。しかし、MBOで株式を買収してしまえば、株主の意見を反映する必要はありません。結果的に意思決定は早くなります。
スムーズな事業承継
MBOは自社が交渉先であるがゆえ、スムーズな事業承継が可能となります。既に自社のビジョンやルールを理解しているため、進むべき方向が大きくそれるケースは少ないでしょう。引継ぎにかける時間も少なくスムーズにいきやすいです。
一方M&Aで事業買収を行った場合、引継ぎ漏れや伝達ミスによるトラブルも起きやすくなります。M&Aは利益最優先の関係で成り立つため「いかに損をしないか」と考えるのも一苦労でしょう。
上場廃止による買収リスク回避
MBOは保有株がすべて経営陣にあるため、事業会社それぞれ自分の都合で判断できないのは大きなメリットです。例えば「将来性を見込まれて他の企業から買収を迫られた」「多額の買収額を引き合いに、事業合併をすすめられた」などの場合でも、独断で買収されるリスクは少ないでしょう。MBOを行っても、自分達の手である程度コントロールできるのはメリットと言えます。
企業秘密の保持が可能になる
現代は「情報はお金よりも大切」と呼ばれる時代となりました。実際に情報管理を最優先と考える企業は多く、情報セキュリティに多くの労力を割くケースがあります。それは以前よりもSNSや口コミの普及によって、情報が出回りやすい世の中となったからです。
MBOを行えば株主総会を行う必要はありません。貴重な情報を知られる心配も少なく、企業秘密の保持が可能となるのです。
MBO(マネジメントバイアウト)のデメリット
既存株主から反対を受ける可能性がある
MBOを行う際は既存株主から反対される可能性もあります。MBOは全ての株式を買収して成り立ちます。となれば自社を気に入っている株主からも、株式を買わなければいけないのです。
買収に対して反発を受ければ、株式取得が困難になるのは言うまでもありません。対策としては全部取得条項付種類株式を利用する方法もあります。
経営の監視機能が弱まる
株主や投資家が株式を保有していれば、必然と株主総会を開く機会がうまれます。株主総会が開かれるということは、それだけ多くの方から自社に対する貴重な意見をもらえるのです。耳が痛くなるような意見もあるでしょう。
とはいえ企業が成長するためには欠かせない意見かもしれません。MBOを行えば株主総会は開かれないため、企業内の意見や考え方が偏る可能性もあります。価値観が凝り固まってしまえば、成長の機会も奪われてしまうでしょう。
買収後に残る債務に注意する必要がある
買収にあたって金融機関やビジネスローンにお世話になるケースもあるでしょう。資金調達は借入で行うため、当然債務の返済も頭に入れておかなければいけません。
収益がある程度上がる算段があれば問題ないです。とはいえ長期収益計画が不透明であると、返済が困難となります。そのため、MBOを行う際は未来の懐事情を考えた上で取り組んでいきましょう。
資金調達の選択肢が狭まる
今までは株主や投資家に株式を購入してもらえれば資金調達が可能でした。ところがMBOを行うと上場廃止となります。今まで調達できていた株式の純資産は無くなってしまうのは念頭に置いておきましょう。
残る資金調達の手段は金融機関やビジネスローンなど、借入のみとなります。借入を行えばビジネスプランも大きく変わってくるはずです。借入も加味してビジネスを考える必要が出てくれば、企業経営の自由度も下がっていきます。
グループ内から離脱した場合、売上減少のリスクがある
MBOを行えば経営体制の見直しが図れます。新会社を設立してグループ化し、企業を整理できるのは大きなメリットと言えるでしょう。しかし、事業会社がグループ内から離脱する場合も考えられるのは、頭に入れておく必要があります。
グループから外れれば売上は減少し、知名度も下がります。資金繰りが悪化するケースもあり、MBOを行う場合はあらゆるリスクも加味しなければいけません。
MBO(マネジメントバイアウト)の問題点
ここからはMBOの問題点を解説します。
買収側がタイミング決定を行う
MBOを行うタイミングは買収側が自由に決められます。例えば株主にとって不利な状況であっても、株式の買取は行われます。実際に買収側が得するタイミングで、買取が行われるケースも多々あるのが事実。株価に対して不満や反発がうまれる場合もあるでしょう。その場合は株主側は裁判による申し立ても可能です。
価格を買収側が決められる
買収側が価格を決められるのも大きな問題点となります。株式の買取価格はMBOが行われるタイミングの価格です。この価格にプレミアム価格(時価に上乗せされる価格)を付けて、最終決定されます。
一般的にプレミアム価格は10~50%と設定されているものの、明らかに低い場合もあります。その場合は前述の通り、株主側は不服を訴えられるのです。
MBOについてそれぞれ意味を理解しましょう
目標を管理する上でMBOは欠かせません。MBOは従業員一人一人に目標管理を任せ、自主性を持たせる手法です。「現段階でどのくらい目標をクリアしているか?」「あとどれくらいで達成できるか?」などが分かればモチベーションは上がりやすいです。
とはいえ、従業員へ目標管理をすべて任せるのは危険かもしれません。違った方向へ進んでしまったり、的を得ていない目標を設定したりするケースもあるからです。そのためにも、管理者がある程度目標を示し、その中で従業員が自由に決める形が理想でしょう。
また、MBOにはM&Aにおけるマネジメントバイアウトの経済用語もあります。経営権買取の意味を持ち、目標管理のMBOと合わせて、今一度内容を把握しておきましょう。