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監査はなぜ必要?実施される理由と具体的な実施手順を解説

監査と聞くと背筋が伸びる人もいるかもしれません。「明日は監査が入るから身のまわりの整頓をしておくように」「チェックが厳しいから書類を整理しておきなさい」このように上司から一度は言われた経験のある方も多いでしょう。

とはいえ実際にどのような目的で、どんな流れで行われているのかを正しく理解している人は少ないはずです。そこで今回は監査の狙いと実施手順を中心に解説していきます。

監査とは

まずは監査について解説します。

監査とは

監査とは会社の財務・経営状況を確認する作業です。法律や社内規定の内容に沿って「ルールは守られているか?」「違反行為は行われていないか?」などを監査員が検査します。

万が一検査で指摘事項があると、罰金が科せられるケースも。違反の重さによっては罰金ではすまされない場合もあるのは念頭に置いておきましょう。

近年では粉飾決算や資金使途不正によって倒産に追い込まれた企業もあります。そのためにも、企業は日々身のまわりの会計状況や業務実態を把握しておかなければいけません。

監査について定める会社法

会社法のルールに基づき書類作成を義務付けられているのが会社法監査です。会社法監査の目的は株主及び債権者の保護です。

会社の運営状況や財務状態を示す資料に誤りや改ざんがあったり、計算書類が見当たらなかったりすれば株主や債権者は利益を害する危険性があります。そのような事態を避けるために会社法監査が実施されるのです。

また、後ほど詳しく解説しますが、会社法監査が義務付けられているのはすべての会社ではありません。基本的には大企業が対象となるのは念頭に置いておきましょう。

反対に利害関係者が少ない中小企業は監査の対象とはなりません。自社が会社法監査の対象となるのかはかならず確認しておきましょう。

監査が必要な理由

監査の必要性について解説しましたが、ここからはさらに詳しく見ていきましょう。監査が入らなければ投資家・株主・債権者・利害関係者などは重い責任を負ってしまいます。

例えば投資家は企業の損益計算書や貸借対照表を参考に投資しているのも事実。決算書の情報から出資の判断を下しています。ところが決算書の内容に誤りがあれば、その情報をもとに出資した投資家は多大な損失をこうむるのは言うまでもありません。

また、企業間取引においても決算書は大きな目安となります。「負債項目が少ないから安心して付き合えるな」「自己資本比率が高いから将来に期待できるな」などと決算書から読み取れるのです。

しかし、決算書の数値が事実と違えば、損害を受けてしまいます。金額以上に今まで作り上げた関係構築の時間が無駄になってしまうのも大きいです。そのために監査を行い、経営状態や経済状況の健全性や信頼性を確認しています。

2種類の監査

2種類の監査について解説します。

法定監査

法定監査とは法律で決められている監査です。後述する任意監査とは違い、すべての企業で義務付けられている監査となります。

具体的には税務職員が行う調査の一種であり、主に法定調書合計表の提出書類の審査です。法定調書合計表とは支払った給与の合計や源泉徴収税額の合計を記載した書類。法定調書と一緒に税務署へ提出する書類であり、この法定調書合計表に誤りがないかを確認するのが法定監査です。

ちなみに法定調書合計表には他にも、不動産の使用料等の支払調書・不動産の譲受けの対価の支払調書・不動産の売買又は貸付のあっせん手数料の支払調書などの項目があります。これらの項目もかならず確認されるため、管理はミスなくスムーズに進める必要があるでしょう。

任意監査

法律によって義務付けられていない監査をトータルで任意監査と呼んでいます。明確なルールはなく、監査会社と被監査会社の中で監査内容や対象範囲を契約で決められるのも特徴。

目的は外部からの信頼性と安全性の向上です。第三者視点から経営状態や財務状況についての意見をもらえるため、客観的に内部統制機能を高められます。

例えば今後上場を行うための準備監査や株式交換比率を算定するための監査などが対象です。監査を滞りなくクリアすれば上場も夢ではありません。

とはいえ任意監査にはデメリットも。例えば任意監査では提出書類が必要です。書類を揃えるまでに多大な労力と時間を要します。

加えて監査法人や会計士に対して報酬を支払う義務があるのも事実。金銭面に余裕がなければ監査は受けられないかもしれません。

このようにメリットデメリットを把握した上で任意監査を依頼しましょう。

監査とレビューの違い

監査とレビューはともに決算書の内容を確認するためにありますが、意味合いは若干異なります。大きな違いは保証性です。

そもそもレビューは四半期財務諸表に誤りがないかをある程度のレベルで確認する作業となります。完全なNGが無いかをチェックするためであり、OKかNGか微妙なラインの場合は一旦OKとするケースもあるでしょう。妥当な保証レベルが確約されている監査とは異なります。

また、確認範囲も監査が内部だけでなく外部にまで及ぶのに対し、レビューは社員へのヒアリングや社内資料確認に留まるのも事実。必然的にレビューよりも監査の保証性が高くなるのはうなずけるでしょう。

反対にレビューのメリットは低コストで確認作業が受けられる点です。確認範囲が狭く、短期間で行う点から費用面の負担が少なくなります。

監査が義務付けられている企業

監査が義務付けられている企業について解説します。

大会社

ある条件に満たした大規模な会社は監査が義務付けられます。その条件とは「最終事業年度における資本金が5億円以上」または「最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部の合計額が200億円以上である株式会社」です。

ここで言う「最終事業年度に係る」とは具体的には株主総会で承認された貸借対照表を指します。例えば2018年3月期の負債額180億円、2019年の3月期の負債額220億円だったとしましょう。2019年6月の株主総会で承認されれば、2020年3月より会計監査が必要となります。

このように大会社と該当される条件やタイミングは確実に押さえておきましょう。

監査等委員会設置会社と監査役会設置会社

監査等委員会設置会社は2015年の会社法改正によって導入されました。監査役会を廃止する代わりに、3名以上かつ半数以上の社外取締役から構成された監査等委員会を取締役会の中に設置している形態を指します。

現在は大企業だけでなく中小企業でも採用されており、該当する場合は監査が義務付けられるのです。

会計監査人の任意設置を行った会社

株式会社では株主総会と取締役会を設置しなければならないと法律で決められています。しかし、それ以外の機関では会社法に沿って対応する必要があるのです。

そこで会計監査人を設置した場合は監査が義務付けられています。会計監査人の他にも監査役・監査役会・取締役会・会計参与などが置けますが、それぞれのルールに従って対応していきましょう。

どのような期間でも会計監査人を設置できるものの、設置した場合は監査が義務付けられるのは頭に入れておく必要があります。

監査を置かなくてもよいケース

以前までは取締役会・監査役・株主総会が必須であったものの、平成18年の法改正により条件を満たせば監査の設置は不要となりました。

代表される条件のひとつが株式譲渡制限会社です。株式譲渡制限会社とは持株の譲渡制限をかけている会社。持株を譲渡する際には株主総会の承認を得なければいけません。大きな特徴は経営権を握れる点にあります。

例えば家族経営の場合、見知らぬ人に株式が渡って干渉されては経営も滞るでしょう。その点では株式譲渡制限会社は安心と言えます。

一般的には株式譲渡制限会社は中小企業向け、大企業は公開会社に該当します。他にも取締役会を設置しない場合や取締役会を設置して監査役の代わりに会計参与を設置する場合も、監査を置かなくても問題ありません。

【実施者による分類】監査の種類と目的

監査の種類と目的について実施者視点で解説します。

内部監査

内部監査とは社内対象者が監査を行う形式です。組織の内部監査室担当者を中心に監査を進めていきます。

組織内部の業務効率化・経営目標の達成・組織の不正防止といった目的で内部監査は実施。業務効率化では社内規定に沿って業務が行われているかを確認します。場合によっては指摘が入り、規定の改善や行動是正が求められるかもしれません。

続いて経営目標の達成では掲げた目標がクリアされているかをチェック。目標が達成されていれば健全な企業と見なされるのです。

最後の組織の不正防止は不祥事の防止を目的として確認が入ります。障壁となるリスクやリスクが及ぼす影響を事前に予測して対処していくのです。

外部監査

外部監査は決算書に誤りがないかを確認する評価形式です。株主総会で選任された監査役が実施する監査となります。

一般的に監査役には公認会計士・経営経験者・監査法人が選出されます。内部と違い外部の人間が実施するため、信頼性が担保されていると言えるでしょう。

外部監査の目的は投資家・株主・取引先などを保護するためです。決算書の内容が常に正当に保たれていれば、利害関係者が利害をこうむるケースはほぼないでしょう。

反対に決算書に虚偽が見つかると、大きな被害を受ける可能性はあります。そのためにも、日々業務が適正に行われているかを確認するのです。

また、外部監査は上場企業もしくは資本金5億円以上・負債金額200億円以上の非上場企業が対象となります。全企業が対象とならないのは念頭に置いておきましょう。

監査役監査

監査役監査は株主総会で選出された監査役が、取締役の職務が正当に行われているかを確認する監査です。

具体的には後述する会計・業務監査によって実施されます。監査役には公認会計士や弁護士などが選任され、場合によっては取締役が監査役から指摘や助言を受ける場合もあるでしょう。

「違法行為を行っていた場合は当該行為をやめるよう請求を実施する」「調査や報告を請求する」などの監査義務があるからです。

また、監査結果は最終的には株主総会にて報告されます。

【対象による分類】監査の種類と目的

監査の種類と目的を対象による分類で解説します。

会計監査

会計監査とは損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書の内容を確認する監査です。会計処理に誤りがなく、財政状態が健全であるかをチェックしていきます。

上記3点の書類をまとめて財務諸表と呼ばれる背景からも、財務諸表監査と呼ばれる場合もあります。具体的な実施手順は公認会計士や監査法人などが監査を行い、結果が記載された報告書が株主総会で共有されるのです。

報告書では「決算書の内容が正当である」の適正評価から「財務諸表に誤りが見つかった」などの不適切評価も下されます。

業務監査

業務監査とは前述した会計監査以外の内容を確認する監査です。具体的には「業務効率化を図るためにマニュアルが作成されているか?」「マニュアル通りに業務が進められているか?」「進められていない場合は改善する姿勢が見られるか?」などを監査していきます。

業務監査が行われる目的は経営目標の達成に業務効率化が不可欠だからです。例えば業務マニュアルがなければ、新入社員が入社しても情報を共有できません。

マニュアルに誤った記載があると、企業が望む社員には成長しないのです。そのためにも業務監査を実施して会社の生産性を確認しています。

その他の監査

その他の監査について解説します。

システム監査

システム監査とは社内システム環境の適切性を確認する監査です。現在使用されているシステムを対象に、内部だけでなく外部からも信頼性の確認を行っていきます。

システム監査を行うのは内部監査担当者やシステム監査人が実施します。具体的な流れはテーマ決定→予備調査→本調査→報告書の作成→監査報告会→フォローアップです。

現在は情報社会が急速に進んでおり、デジタル化への対応が急務となっている実情からも、システム監査は重要とされています。

ISO監査

ISO監査とは国際基準に従っているかを確認するための監査です。国際標準化機構の機関名の通称です。世界で定めた基準をISO規格と呼んでおり、基準を設定することで誰でも評価がしやすくなります。

ISO規格は商品やサービスだけでなく環境活動や品質活動も対象となるのが特徴。ISOは業種によって分かれておらず「なぜISOマネジメントを取得したいのか?」「取得した先に何を求めているのか?」などによって取得する規格の種類が異なってくるのです。

そして、ISO規格取得後は基準の達成可否を確認するため、監査が入ります。調査結果によっては早急に改善を行っていきましょう。

内部監査の実施手順

内部監査の実施手順について解説します。

フロー1:監査計画の作成

内部監査実施にあたってはまず情報取集を行っていきます。

具体的には前回監査の指摘事項や指摘される可能性のある問題点の洗い出しです。「前回指摘された事項は何か?」「新規事業を立ち上げたが収益計算は適切に行われたか?」などの懸念点を浮き彫りにしていきます。

情報収集が完了したら監査の対象範囲を決めていきましょう。その上で方針・目標・対象範囲・スケジュールを記載した監査計画書を作成します。

ここでは内部監査人を決める必要があるため、選定はよく考えて決めていくのもポイント。独立性があり、冷静かつ客観的に監査できる人を選出する必要があります。

フロー2:予備調査

監査計画書の作成が終了したら、次は予備調査です。本調査前にはかならず予備調査を実施します。

予備調査を実施する理由は本調査の確実性を高めるためです。例えば監査人が少数の場合、専門分野に偏りが出る可能性もあります。

監査人全員が経理出身であれば、営業部門の監査を準備無しで行うのは困難です。そのために「営業部ではどのような業務が行わているのか?」「どんなマニュアルをもとに仕事しているのか?」を事前調査するのです。予備調査があることで本調査はスムーズに進みます。

フロー3:本調査

予備調査が終了するといよいよ本調査です。本調査は予備調査の1~2ヵ月後に実施するケースが多く、本調査を始める前に指定書類を準備するよう言い渡されます。

そして本調査は予備調査で得られた情報と監査マニュアルの項目に沿って進めていきます。ここでは「マニュアル通りに仕事が進んでいるか?」「不正事項はないか?」「データや情報に改ざんはないか?」などを確認。感情移入せず、かならず客観的に監査するのもポイントです。

尚、本調査は抜き打ちで行うのも可能となります。準備期間がないため調査に時間を必要とするものの、より不正を見極められる点を考えれば有効かもしれません。

フロー4:調査内容の報告

予備調査・本調査が終われば、最後に行うのは調査内容の報告です。

まずは調査で得られた情報や証拠物品より調査報告書を記載します。報告書には監査目標・範囲・監査人の意見・改善計画の記載が不可欠。このような項目が記載されていればフォーマットに指定はありません。

是正ポイントが見つかったら改善期間・内容・具体案を説明していきます。早急に対応するのがベストであるものの、改善までに期間を要する場合はあらためて解決方法を考える必要があります。

そして、最後に報告書を経営幹部や取締役に提出して終了です。

監査対応が負担となる理由

監査対応が負担となる理由について解説します。

内部統制が機能していない

監査対応が負担となる原因のひとつに内部統制の機能不全があります。内部統制とは企業が効率的に業務を行うための仕組みづくりです。

仕組みが整っていなければ売上が上がらないだけでなく、監査対応でも負担をかけてしまいます。例えば必要な書類が用意されていなかったり、用意されていても記載内容に不備があったり。結果的に監査担当部門の確認に時間が掛かってしまうのです。

監査に必要以上の時間が掛かれば、監査部門の他の業務にも支障が出るでしょう。このように内部統制が機能していないだけで周囲にも迷惑をかけてしまいます。

業務がデジタル化されていない

アナログな職場は監査対応の負担も大きいと言えます。例えばデータ化されずにすべてが書類のままであれば、監査対象の項目を探す作業は困難をきわめます。加えて書類であると人為的ミスが発生しやすく、書き間違えや記入漏れの危険性もあるでしょう。

そこをあらためて確認したり、指摘したりするだけでもストレスや時間が掛かってしまうのも事実。データ運用に切り替えるだけでも多くの問題が解決されます。

また、一般的に「業務がデジタル化されていない=内部統制が機能していない」と言えるでしょう。アナログな企業はこの機会に見つめ直してみるのも良いかもしれません。

監査対応を効率化させるためにはIT化がポイント

監査対応のIT化について解説します。

データベース化の推進

前述の通り、書類中心で業務を進めていると生産性が低下します。そのためにもデータベース化を進めるのがポイントと言えるでしょう。

例えば、現在は今まで溜め込んだ書類をデータ化できるソリューションもあります。文字認識エンジンが搭載されており、読み込むだけで質の高いデータ文書が完成します。さらに読み込む際の補正機能があるため、誰もが読みやすい文書に仕上げられるのです。

データベース化が実現すればコストが大幅に削減できます。監査対応における確認作業や集計作業の労力と手間を省けるでしょう。

ツールやシステムの導入

データベース化を考えるならツールやシステムの導入も視野に入れていきましょう。

例えば現在は申請書をデータ化できるツールがあります。出張申請書・作業報告書・出退勤記録表などをデータで申請できるのです。そのため上司の元へ直に書類を提出する必要はありません。確認印も自動入力されるため、押印の手間も防げます。

さらに、申請したデータを文書管理機能へ保存可能。アナログ業務でありがちな書類を棚にしまったり、書類を整理したりする必要はありません。申請から保存までをデータ化できるのです。

他にも出勤記録やアンケートをデジタル化するグループウェアも存在するため、この機会に導入を検討してみましょう。

監査の対象や手順を確認しておきましょう

監査は企業の経営状態や財政状況が健全であるかを確認するために行われます。株主・投資家・取引先は企業の財務諸表をもとに投資判断を下しているため、常に記載内容を正しく保たなければいけません。

監査の対象となるのは主に大企業です。社員数が多い企業はあらためて業務の効率化や会計状況を見直す必要があるでしょう。

また、中小企業でも監査が必要となるケースもあります。「自分の会社は監査の対象となるのか?」「監査はどんな手順で実施するのか?」をあらためて確認しておくと安心です。