よく聞く「委託」の意味とは?よく似た言葉との違いや契約形態について解説!
業務委託など、ビジネスシーンで「委託」という言葉を耳にする機会が増えています。混同しやすい言葉として「請負」や「委任」などがありますが、それぞれどのような意味を持つのでしょうか。
今回は、「委託」を中心によく似たさまざまな言葉との違いや、契約形態の種類、業務委託契約書に含めるべき項目について詳しく解説します。
委託の意味
「委託(いたく)」とは、「他人に任せる、代わりにやってもらう」といった意味を持つ言葉です。自分以外の誰かに何かをお願いする場面などに使うことが多いでしょう。ただし、かしこまった言葉なので日常生活で使う機会は多くありません。
ビジネスにおいては、自社の業務を外部の企業や個人に任せることを指します。可能な範囲で仕事を外部に任せることで、自社の従業員がコア業務に集中しやすい環境を整えられるというメリットが得られるでしょう。
委託と受託の違い
よく似た2つの言葉の相違点を解説します。
委託と受託の違い
「受託」は仕事を任せられることを指します。何かを他者に依頼するとき、「委託する」と使うのに対して、何かを他者から依頼されたときを「受託する」と表現します。
仕事を受ける側か依頼する側かという、立場の違いによって使い分けられます。
例えば、仕事を発注するなら「委託」になりますが、もし他社の仕事を受ける場合は「受託」といえます。
委託者と受託者の違い
「委託」が何かを任せることを指し「受託」が何かを任せられることを指していることからわかるように、委託者と受託者の違いは立場の違いで差別化できます。
ビジネスシーンにおける「委託者」は業務を外部へ依頼する個人または事業者です。反対に「受託者」は外部からの依頼を引き受ける個人または事業者を指しています。
言葉は似ていますが意味は反対になるので、使い分けに注意しましょう。
委託の類義語
6つの言葉を紹介します。
受託請負
受託の一種である「請負」は、仕事の成果に対して報酬が支払われることを指します。
何かを任されるという意味は共通していますが、違いは報酬の支払いタイミングです。受託は成果物の納品ではなく業務に従事することが目的とされます。一方、請負では成果物の納品が目的となります。
派遣
派遣会社に働き手として登録した人が、派遣先企業が求める業務に従事する働き方を指しています。この働き方は、出勤する企業と雇用契約を結ぶ企業が異なる点が特徴の一つです。
就業規則や給与形態は派遣先の企業に準じるので、雇用関係となる企業が違うだけで、通常の働き方と大きな違いはないといえるでしょう。
委任
「委任」は仕事を任せるという点で「委託」と同じ意味を持つ言葉です。ただし、「委任」は「信頼できる人に任せる」という意味を持つため、委託と全く同じ意味の言葉ではありません。
仕事を依頼する際は、企業と働き手が委任契約を締結することが求められます。仕事を他者に委任する場合は、契約書を用意するように注意しましょう。
準委任
「委任」とよく似た言葉に、「準委任」があります。この2つの言葉の違いは、任せる仕事内容にあります。
「委任」に該当する業務は、弁護士や行政書士の担当業務といった、法律に関わるものとされています。対して「準委任」に該当するのは、法律行為ではない業務です。
嘱託
「業務を頼み、任せる」という意味の言葉です。他者に任せるという点では「委託」と同じ意味を持っています。
会社によっては嘱託社員を導入しているところがあるでしょう。嘱託社員に明確な定義はありませんが、多くの場合は「正式な任命を受けずに会社から仕事を任せられた人」を指します。
アウトソーシング
英語で「outsourcing」と表記される言葉ですが、日本語では「外部委託」と訳されます。
その意味は、社内の業務を遂行するために必要な材料や人材を社外から確保することです。業務を社外に発注する形態がこれに該当します。
委託販売とは
さまざまな場面で使われる「委託」という言葉ですが、「委託販売」はどのような意味を持つのかご存じでしょうか。
これは、自社製品を代理店やインターネットショップに預けて、販売や発送業務を任せる販売形態を指します。例えば、個人のハンドメイド作品を雑貨屋やセレクトショップ、ネットショップで販売してもらうことが該当します。
委託販売を行う業者に販売手数料を支払う必要があるため、販売を委託する側は売上から手数料等を差し引いた額を受け取るのが一般的です。
この販売形態は、自分の店舗をゼロから立ち上げる必要がない簡便さと、大手販売会社を利用すれば消費者の目に止まる機会が増える効率の高さが魅力です。
しかし、思うように販売数が伸びなかった場合は、大きな損失につながりかねません。販売を委託する際は、適切な管理と運用ができる販売業者を選ぶことが大切です。
業務委託とは
働き方改革やIT技術の発達などの影響で、耳にする機会が増えているのが「業務委託」ではないでしょうか。
業務委託とは、自社の業務を社外の専門家やスキルを持つ個人または事業者に任せることです。一般的には「業務委託契約」を締結して業務をスタートします。
昨今は社内にいなくてもオンラインツールを利用して、外部から仕事を進められるようになりました。その結果、業務委託を導入する企業が増えています。企業は重要度の低い業務を外注するので、従業員はより経営や売上に直結するコア業務に集中できるようになるでしょう。
業務委託契約に関する法律
「業務委託契約」というと、法律上で定められた契約形態のように感じられますが、実は業務委託契約に関する法律上の表記はありません。そのため、業務委託をする場合には民法第632条における「請負契約」や民法第643条における「委任契約」が法的根拠とされています。
法律上の定めがないため契約書の内容は企業によってさまざまですが、業務委託契約を締結するにあたっては、この2つの契約の条項も参考にすると良いでしょう。
のちのちトラブルに発展しないように、記載する内容は細かく定め、企業と働き手の双方の合意を得るようにすることが大切です。
業務委託契約と請負契約の違い
業務委託契約の法的根拠として扱われることの多い請負契約ですが、両者の違いは責任の所在にあります。
請負契約では、仕事を請け負う側が納品した成果物に対して責任を持つという特徴があります。契約内容で取り決めた条件に従って成果物を納品することが業務完了の目安となることから、納品する義務が発生している点に注意が必要です。
一方、業務委託契約では契約完了の条件を自由に規定できます。自由度の高さから契約内容を作り込むのは大変ですが、大きなトラブルにならないように契約段階でしっかりと取り決めておくと良いでしょう。
業務委託契約と委任契約の違い
民法第643条における委任契約とは「受注した業務に関して、行為の遂行を目指す」ものだと定められています。つまり、成果物の納品が必ずしも必要ではなく、業務に従事することが目的となっているのが特徴です。
弁護士や行政書士など、成果物がわかりにくい業務は委任契約となる場合が多いでしょう。
業務委託契約でも同じように業務への従事を目的とした契約を取り交わすことが可能ですが、それに限らず内容を変更できる点が違いです。
業務委託契約と準委任契約の違い
契約内容を自由に定められる業務委託契約に対して、準委任契約は法的行為を行わない業務への従事を目的とする契約です。
また、よく似た「委任契約」と「準委任契約」の違いは、法的な行為を伴うかどうかで判断できるでしょう。法律に関わる業務へ従事する場合は前者に該当し、法律行為にあたらない業務の場合は後者に該当します。
区別の仕方は単純なので、どの契約に当てはまるかは確認しやすいでしょう。
業務委託契約に契約書は必須
法的には定められていない業務委託契約において、必ずしも契約書を取り交わす必要性はあるのでしょうか。
企業がさまざまなリスクを回避するためには、業務委託契約書の作成は必須だといえます。業務委託契約書を取り交わしておけば、万が一認識の相違が発生した時の判断基準となりますし、仮に裁判沙汰になったとしても根拠として契約書の提示が可能になります。
契約内容によっては、経理や税務上の処理の仕方が変わるケースもあるでしょう。もしもの時に困らないためにも、業務開始前に契約内容を細かく決め、書面上で合意しておくことが大切です。
業務委託契約書の構成、書き方
契約書に必要な内容を解説します。
契約形態
契約形態によっては、報酬の支払い義務が生じるタイミングが変わってきます。成果物を納品した時に支払い義務が生じる請負契約に準じる形態なのか、業務への従事が目的の委任契約に準じる形態なのかを記載することをおすすめします。
明記されていないと、報酬の未払いといったトラブルが発生した時に根拠を提示できなくなってしまうでしょう。
業務内容
業務開始後の認識のズレを防ぐためにも、委託する業務の内容はできる限り細かく記載しておきましょう。記載内容があいまいだと、後になって「依頼した業務ではない」あるいは「想定していた仕事と実際の仕事が違う」といったトラブルに発展しやすくなります。
文章だけでは具体的に記載しにくい業務の場合は、契約書だけでなく「覚書」や「添付資料」を作成して、情報を補足することが大切です。
この時注意したいのは、業務をスタートしてから、業務内容や業務フローに変更が生じる可能性があることを明記しておくことです。状況に応じて柔軟に対応できる内容にしておくと良いでしょう。
成果物に関して
成果物の所有権や著作権の所在を契約書面で明記しておくことは、トラブル回避のためにとても重要です。
外部に依頼した業務の成果が、どのようなタイミングでどこに帰属するのかを細かく記載しておくように心がけましょう。例えば記事の執筆を依頼した場合は、委託した企業の担当者が検品を終えた時点で委託業者に所有権が譲渡されるなど、できるだけ詳細に記載します。
成果が形に表れない業務でも、委託した業務を実績として公開可能かどうか、他の業務に再利用できるかなどを取り決めるようにしましょう。
報酬額、支払方法
報酬額とは、成果に対していくら支払うかを示すものです。成果に応じて価格が変わる場合には、その計算方法も明記しておきましょう。
例えば、データ入力業務なら「1件あたり○円」、事務業務であれば「1時間あたり○円」などと記載します。コンサルタントなどの場合には月に1度固定額を支払うケースもあるでしょう。
記載の仕方に定めはありませんが、第三者が見ても報酬額が判断できるように、曖昧な表記は避けることが大切です。
支払方法は、一括払いや分割払いなどの他、着手金の有無、銀行振込の場合は振込手数料の負担者まで明記しましょう。
経費の取り扱いに関して
経費とは、受託者が業務遂行にあたって必要とする電気料金やデータ通信費、交通費などを指します。業務に必要となるお金なので、その金額をどう取り扱うのかまでしっかりと決めておきましょう。
受託者が負担するのか委託企業が負担するのかによって請求金額が変わるため、契約書に必ず含めたい項目です。
損害賠償に関する条項
もしもトラブルが起きた場合の対応方法や損害が生じた時の損失分の負担について取り決めます。
例えば、受託者が著作権侵害をしていたことが発覚したら、損失金額は受託者が補填するなど、業務内容に合わせて記載内容を工夫しましょう。
機密情報保持に関する条項
自社の業務を他者に依頼するにあたって、自社の機密情報や顧客の個人情報を開示することがあるかもしれません。それによる情報漏洩のリスクを下げるためにも、機密情報保持に関する内容は必須だといえます。
受託者が知り得た情報を外部に漏らさないことはもちろん、業務で使用した情報やデータの保管期間や処分方法について、細かく規定しておくと安心です。
有効期限や中途解約の条件
契約がどの期間まで適用されるのかを明記しておきましょう。多くの場合「双方から申し出がない限り、1ヶ月ごとに自動更新」とされます。業務委託契約は企業と雇用関係を結ぶ働き方ではないため、有効期限について記載しなければ契約書の効力が薄れてしまいます。
また、契約期間中でも契約解除できる場合の条件を記載することも大切です。条件に合致していれば中途解約に至っても大きなトラブルに発展しにくいため、必ず記載しておくことをおすすめします。
契約書のひな形(サンプル)
いざ契約書を作ろうとしても、何から手をつければ良いのか、どのような言い回しが適切なのかわからず、作業がなかなか進まないものです。
業務委託契約書の作成時には、インターネット上で公開されているひな形を参考にすると良いでしょう。必要な項目が網羅的に記載されたひな形をもとにすれば、重要な項目が抜けたり、言い回しで悩んだりすることがなくなります。
言葉の意味について理解した上で使い分けましょう
「委託」によく似た言葉はさまざまありますが、それぞれに意味があり使い分けがされています。仕事を他者に任せるという意味を持つ「委託」は、ビジネスでも多く活用されており、業務を外注する業務委託を導入する企業も増えてきました。
業務委託をする際は、トラブルが発生した時のリスクヘッジとして「業務委託契約書」を取り交わすことが大切です。ひな形を活用しながら自社に合った業務委託契約書を作成し、外部の人材の力を借りながら、社内の業務をスピーディに処理していきましょう。