勤怠管理の重要性とは?管理の目的と導入手順について解説
従業員が安全かつ健康な状態で働いてこそ、会社の生産性は大きく向上します。そのためには日々の勤怠管理は欠かせません。実際に右肩上がりで成長している会社は、従業員の働く状況を適切にとりまとめています。
とはいえ勤怠はどのように管理するのがベストなのでしょうか。そこで今回は勤怠管理の目的と管理方法について詳しく解説します。
勤怠とは
勤怠とは従業員の出勤と欠勤を指す言葉です。「勤」は誠実に仕事へ取り組む、「怠」は進んで仕事をしない状況を表しています。このような正反対の言葉が示している背景からも、欠勤や早退などのネガティブな勤務状況も含まれています。勤怠と言えば勤務状況全体を表す言葉と思ってよいでしょう。
勤怠管理とは
勤怠管理とは文字通り勤怠を管理する言葉です。「何時に会社へ来ていつ頃帰ったか?」「一日の勤務時間はどれくらいだったか?」「月に何回有給休暇を取ったか?」など、従業員一人一人の勤怠を管理していきます。
このように出勤や欠勤などの記録だけでなく、勤務時間や有給休暇取得日数もとりまとめるのが特徴です。従業員の健康を守るといった代表的な理由だけでなく、労働生産性の向上を図る上でも勤怠管理は欠かせません。
勤怠管理の目的
勤怠管理の目的について解説します。
正しい給与を支払うため
従業員へ正しい給与を支払うためには勤怠管理があってこそです。とくに最近は時短勤務やテレワークの普及により、一般的な勤務体系とは異なる従業員が社内でも増えはじめています。人事業務を管理する方は多種多様な勤怠を取りまとめる必要が出てきたのです。
その中で正しい給与を支払うためには勤怠管理を徹底しなければいけません。「フレックス勤務制にも関わらず毎日一緒の出勤記録になっている」「テレワークで長時間仕事しているのに残業代が出ていない」などの声が上がる可能性もあります。そのようなケースを未然に防ぐためにも勤怠を管理し、正しい給与を支払っているのです。
労働基準法遵守のため
労働基準法では「1日8時間・週40時間」までと決められています。労働時間を超過して働く場合、いわゆる残業は基本的には認められていません。万が一残業する場合は「月45時間・年360時間」の上限が設けられているのです。
これは2019年に政府が定めた働き方改革に沿って決まった規制であり、どの企業もルールを守らなければいけません。となれば、以前よりも勤怠を徹底する必要が出てきました。
さらに、現在はSNSの普及によって情報がすぐに出回る世の中へと変わったのも事実。決められた残業時間の上限を超えてしまえば「ブラック企業」と認定され、企業の評判は落ちてしまいます。このように法律違反を犯す以上の事態が待ち受けているのは、頭に入れておかなければいけません。
健全な労働環境を提供するため
企業経営は従業員が健康な上で成り立ちます。過去には過労死や重労働による健康トラブルにより、倒産へと追い込まれる会社もありました。企業は健全な労働環境を提供する義務があり、一人一人心も体も健康な状態で働かなければいけないのです。
その中で「残業上限までどれくらいか?」「有給休暇を取ってリフレッシュできているか?」「働き過ぎで体調を壊していないか?」などを勤怠によってチェックする必要があります。実際、このような勤怠管理が徹底されている会社は従業員が元気で、企業も順調に成長している傾向があるのも事実です。
ワークライフバランスを改善するため
ワークライフバランスとは仕事と私生活のバランスを見直すためにうまれた言葉です。「プライベートを豊かにすれば仕事の生産性が上がる」「仕事以外の時間も大切にすれば自己成長につながる」などの目的から誕生しました。
実際にノー残業デー・年次有給休暇7割以上の取得・連休取得の推進などを導入する企業が目立ちます。とはいえ、このような取り組みが実現できるのは勤怠管理あってこそ。毎日の働きぶりをチェックしていなければ、自社の従業員に合った施策を取り入れるのはむずかしいです。ワークライフバランスを改善するためには勤怠管理が不可欠と言えるでしょう。
勤怠管理の内容、特徴
勤怠管理の内容や特徴について解説します。
労働時間
勤怠管理において、労働時間の対象となるのは一般的な就業時間だけではありません。労働時間とは管理者の指揮命令下に置かれている時間を指します。そのため「業務中のデスク周りの清掃」「企業が義務付けている研修や勉強会への参加」「休憩時間の電話対応」など、このような場合でも企業は給与を支払う必要があります。
一見、業務に関係が無さそうに思えても、管理者の指揮命令下にある場合は業務対象となるのです。そのため勤怠を管理する際は、上記のようなケースが発生しているかどうか、もれなくチェックする必要があります。
従業員
勤怠管理の対象は管理監督者以外の社員を指します。管理監督者とは役職上位の方。例えば部長・工場長・課長など、多くの従業員を管理する人です。このような方達は労働時間の概念がなく、労働時間だけでなく休日や休憩といった制限もありません。経営者と一体的な立場であるため、一般的な従業員とは扱いが違うのです。
また、近年は「名ばかり管理職」と呼ばれる方が増えているのも事実。管理監督者に任命されているにも関わらず、取り組む仕事は一般的な従業員と何ら変わりません。不十分な待遇を防ぐためにも、従業員自身が管理監督者であるかの確認も必要です。
勤怠管理が必要な職場
一般的にはほぼすべての業界・業種で勤怠管理が必要です。実際に法律でも「従業員を雇用して労働が発生するすべての事業所が対象」とされている背景からも、勤怠管理が不可欠となります。しかし、農業や水産業などの環境によって業務が制限される場合、勤怠管理は義務付けられていません。
加えて労働時間を管理するのが明らかに困難な職場の場合、勤怠を管理する必要はないです。代わりにみなし労働制が採用され、労働時間に関係なく一律の給与が支払われます。とはいえこのような例はほんの一部であるため、基本的には勤怠管理は必須と覚えておいて問題ないでしょう。
勤怠管理で管理する項目
勤怠管理で管理する項目について解説します。
出勤・退勤時間
勤怠で管理する項目で最も代表的なのは出勤・退勤時間でしょう。「何時にタイムカードが押されたか?」「定時通りに退社しているか?」「遅刻や早退はしていないか?」などを管理していきます。ここで間違いやすいのは出勤や退勤となるタイミングです。
例えば9:00~18:00が通常勤務体系だとしましょう。8時に出社しても出勤となるケースは少ないです。あくまで管理者の指揮命令下に置かれている時間が労働時間とされるため、一般的には8:55~9:00が出勤開始時間となります。勤怠を管理する担当者は出勤・退勤時間とされるタイミングを明確に押さえておくのがポイントです。
休憩時間
法律では6時間を超える勤務で45分以上、8時間を超える勤務で1時間以上の休憩を従業員が取らなくてはいけません。休憩時間に電話が入ったり、不意な顧客対応が入ったりするケースもあるでしょう。その場合は休憩時間に業務を行った分だけ、休み時間の延長が必須です。
まれに延長せず休憩時間を短縮される場合もありますが、違法であるのは念頭に置く必要があります。また、近年は「ランチミーティング」と称して昼休みに会議を行う企業も見受けられます。ところがランチミーティングは業務時間としてみなされるケースも。勤怠を管理する方は線引きを明確にする必要があるでしょう。
残業時間
残業時間は時間外労働時間とも言い換えられます。ここで言う労働時間とは1日8時間、週40時間以上の勤務を指します。例えば通常勤務体系が9:00~18:00の場合、9時以前もしくは18時以降の業務では残業代が発生するのです。
また、残業代は25%以上の割増賃金の支払いが必要になります。前述した例でいくと、9:00~18:00の時給が1,000円の場合、残業代は1,250円以上でなくてはいけません。そのため勤怠管理を行う方は残業時間の管理はもちろん、残業代の金額チェックも行う必要があります。
深夜労働時間
深夜労働とは22時~5時の間に勤務した場合を指します。この時間に働く場合は25%以上の割増賃金として支払わなければいけません。さらに、深夜労働時間内に残業として働いた場合は25%が加わり、合計50%以上の割増賃金が必要となります。
例えば通常勤務体系12:00〜21:00の方がいるとしましょう。23時まで残業する場合、2時間分計50%以上の割増し賃金の支払いが不可欠です。未払いが発生しないためにも、勤怠管理者は毎日欠かさず取りまとめておきましょう。
休日出勤日数
法律では週1回もしくは4週間のうち最低4日以上の休日を与えなければいけません。これに加え、原則として1日8時間、週40時間以上働かせてはいけないルールがあるため、結果的に週休2日を規則とする企業が一般的。そのため週に1回休日に働くと、休日出勤としてみなされます。
また、休日出勤が発生した場合は35%以上の割増賃金が発生。ここに残業代が加わると割増率はさらに上がります。例えば通常勤務体系9:00~18:00の方が休日出勤したとしましょう。19時まで残業した場合「休日出勤(35%)+残業時間(25%)=60%以上」の割増賃金となります。複雑になる場合はこまめに管理しておきましょう。
労働時間
労働時間とは使用者の指揮管理下にある時間を指します。指揮管理下とは会社が業務を下している状態。業務に関わる仕事はほぼすべて労働時間としてみなされると思ってよいでしょう。そのため9:00~18:00や10:00~19:00などの8時間労働が一般的です。
しかし、ここで問題になるのは指揮管理下にある状態。例えば始業前の開店準備や夜勤中の仮眠時間などは、労働時間であるか不明瞭でしょう。基本的にはこのような2つのケースは労働時間としてみなされ、時間外労働であっても残業代が発生します。従業員と会社の間でトラブルを招かないためにも、事前にルールを明確にしておきましょう。
勤務日数
勤務日数とは従業員が働いた合計日数です。勤務日数は会社の規定で決められており、労働契約書の中に詳細があります。一般的には会社の募集要項に「年間休日〇〇日」と明記されており「365日-年間休日115日=勤務日数250日」だと分かるでしょう。
さらに月の勤務日数を調べる場合は「250日÷12ヵ月=20もしくは21日」で算出できます。企業によっては隔週土曜日が出勤だったり、年末の金曜日は出社だったり様々。それぞれの会社に合った勤務日数を入念にチェックしていきましょう。
有給休暇
有給休暇は一定期間働いた見返りとして、給料を支給されながらも休暇が取れる権利です。正式名称は年次有給休暇ですが、一般的には「有給」と呼ばれるケースが多いでしょう。有給休暇は雇用形態に関わらず、条件を満たせば付与されます。
「半年間継続して勤務」または「出勤率が所定労働日の8割以上」をクリアすれば、たとえアルバイトやパートでも付与対象となります。勤務年数を重ねるごとに、付与日数が増加するのも特徴。勤怠管理者はまずこの基本事項を押さえておきましょう。
欠勤
欠勤は様々な事情で会社を休む際に使われる言葉です。様々な理由とは例えば、体調不良・家庭の事情・交通トラブルなど。予期せぬ事態に遭遇し、会社を休んだ場合は欠勤扱いとなります。欠勤の場合は給与支給の対象とならず、休んだ日だけ月の給与から引かれていくのです。
しかし、有給休暇を所持していれば、欠勤を有給休暇として扱う場合も。欠勤と有給休暇では月の給与額が大きく変わるため、勤怠管理者は休んだ本人と欠勤にするかどうかの確認が必要です。
勤怠管理の方法とメリット、デメリット
勤怠管理の方法を中心に解説します。
紙の出勤簿
最近は利用シーンは減ったものの、依然として紙の出勤簿を活用する企業は多いです。とくに小規模の企業で利用しているケースはよく見受けられます。最大のメリットは誰でも使いやすい点。機械に触れることはないため、高齢の従業員でも問題なく記録できます。
一方、デメリットは自己申告制である点。労働時間を上乗せさせて申告する社員も出てくるかもしれません。そのため、紙の出勤簿を採用する場合は、不正申告を防止する仕組みづくりが大切です。
タイムカード
紙の出勤簿同様、タイムカードを利用する企業は今でも見受けられます。こちらも規模が小さい会社で使われるケースが多いです。タイムカードのメリットは導入コストが最小限に抑えられる点。タイムカードボックスと紙の記録用紙があれば、どこでも簡単に導入できます。
デメリットは記録が手動である点。テレワークや出張が発生した場合は打刻できません。大抵のタイムカードは後日打刻ができないため、記録が正しく残らない場合もあります。
ICカード
ICカードは社員証や専用カードを用いて勤怠管理する方式です。備え付けられたICカードリーダーにカードを読み込むだけで記録が取れます。ICカードのメリットは給料計算の効率性が上がる点。読み込んだデータはPCの給与管理システムへ自動反映されます。
そのため、勤怠管理者は記録を残す手間が掛かりません。一方、デメリットはICカードの紛失時や破損時に再発行コストが掛かります。タイムカードと比べて割高になるのは念頭に置いておきましょう。
クラウドシステム
クラウドの勤怠管理はサーバーを介さず、スマホやタブレットで手軽に出勤や退勤をまとめられるシステムです。時代の変化により、在宅勤務やサテライトオフィス勤務が普及しました。その中で、離れた場所から気軽に打刻できる点が重宝されています。
また勤怠以外にも、ワークフロー申請書や掲示板機能が付いているシステムもあり、利用メリットは大きいです。一方、導入ハードルが高かったり、慣れるまでに時間が掛かったりする点はデメリットと言えます。
Excel
Excelによる勤怠管理はPCを使った管理の中で、最も一般的な管理方法です。各従業員が出勤・退勤時間をExcelへ入力し、管理者が出勤時間を確認します。Excelは誰でも一度は使ったことのあるソフトのため、スムーズに導入できるでしょう。
無料テンプレートもインターネット上に公開されているため、一から作る必要もありません。デメリットは紙の出勤簿同様、自己申告制である点。不正申告を防ぐ環境をつくれれば、効率良く運用できます。
勤怠管理制度の導入手順
勤怠管理制度の導入手順について解説します。
勤怠管理運用の準備(分析・整理・就業規則の再構築・賃金規定の確認)
まずは勤怠管理運用の準備をしていきます。その中で重要となるのが自社分析です。「自分の会社にはどんな特別休暇があるのか?」「残業時間の定義は何か?」「有給休暇の取得チェックは正しく行われているか?」など、見直していきましょう。
万が一法に触れるかどうかグレーな点が発見できた場合、適切なルールへと再構築する必要があります。また、割増賃金についても計算が複雑であるため、この機会に一度見直すのがおすすめです。
勤怠管理システムの選定・設定
自社分析ができたら、次はシステムの選定及び設定です。勤怠管理システムは目的や機能によっても様々。例えば、勤怠のみ管理するシンプルなシステムもあれば、ワークフローや予定を管理できるものもあります。
「自分たちはどんな目的で使いたいのか?」「どんなシステムだと効率良く業務ができるのか?」などを考えながら選んでいきましょう。目的と異なるシステムを選ばないためにも、選定は入念に行う必要があります。
社員への周知
勤怠管理システムの設定が終了次第、社員への周知を行っていきましょう。導入したシステムが複雑である場合、人によっては使いこなせない場合があります。そのためにも、導入時研修や操作勉強会などは定期的に行っていくのがおすすめです。とくに勤怠管理者は利用機会が多いため、他の社員よりも頻度を高めに実施する必要があります。
勤怠管理にまつわる問題
勤怠管理にまつわる問題を解説します。
長時間労働
働き方改革によって勤務時間は短縮傾向にありますが、依然として長時間労働を強要する会社があります。とくにベンチャー企業や中堅企業は人的資源が少なく、ひとりひとりの労働量が常識を超えている場合も。
生産性の低下はもちろん、従業員の健康状態にも悪影響を及ぼす可能性があります。特別な事情があれば月45時間以上の勤務も可能ですが、従業員の健康面を考えると月45時間未満で抑えておきたいところです。
有給休暇の取得率
2019年より年5日間の有給取得義務が発生しました。これによって従業員がほぼ強制的に有給を取得しなければいけなくなったのです。とはいえ、スムーズに取得するのはなかなかむずかしい面もあります。「他の社員が取得してないから休みづらい」「繁忙期だからなかなか休めない」などの問題もあるでしょう。
そのためにも、有給休暇を取得しやすい環境をつくったり、勤怠管理者から従業員へ取得数を共有したりするのも必要です。
リモートワークにおける管理
リモートワークを積極的に導入している企業は、より勤怠管理体制の強化が必要です。近年は在宅勤務やサテライトオフィスワークを採用する企業が増えています。
しかし「離れて仕事をしている関係上、打刻時間が正当かどうか確認できない」「時間通りに終業しているか把握できない」などの問題がうまれているのも事実。そのため、リモートワーク導入企業はGPSや人体認証が付いたシステムの導入も検討していきましょう。
勤怠管理の注意点
勤怠管理の注意点について解説します。
打刻ミスを減らす仕組み作り
勤怠管理でよくあるのは打刻ミスです。Excelで入力間違いを起こしたり、ICカードをスキャンし忘れたりしがち。勤怠管理者はミスが発覚するたびに修正するのは一苦労でしょう。そのためにも「従業員の目に付く場所へ注意喚起を促す」「タイムカードを打刻しなければ始業できない流れにする」などの対策が必要です。
リモートワークを見据えたシステム選び
時代の変化によって今後勤務の仕方が変わる可能性もあります。そのような場合に備えたシステムを選んでいきましょう。例えば従業員がパソコンに触った時間を記録できるシステムがあります。いつ・誰が・どんな操作を行ったか管理できるものも。現状の課題と照らし合わせて選んでいきましょう。
システムにおける給与計算や人事評価制度との互換性を確認する
勤怠管理を導入する場合は、現在利用中の給与計算や人事評価制度との互換性を確認しましょう。例えば連携ができる場合、あらためて人事評価及び給与関連を見直す必要はありません。一方、連携できなければ一から作り上げる必要があります。このあたりももれなく確認しておきましょう。
自社に合った勤怠管理方法を見つけましょう
勤怠管理は従業員が健康で安全に働くためには欠かせません。管理方法は様々あるものの、効率良く運用するにはクラウドシステムが最適です。リモートワークにも対応しており、離れた場所でも正確に管理できます。まずは自社の管理方法を見直し、どのような問題点があるか確認していきましょう。