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手形とは?手形の種類や取引の具体的な流れ、メリット・デメリットなどを解説

企業間取引において、現金ではなく手形を利用するシーンは多いのではないでしょうか。オンラインバンキングといったIT技術が発達している昨今でも、信用性の高さから手形が使い続けられています。

今回は、手形とは何か、その種類と書き方、取り扱いに関する注意点などを解説します。誤った扱い方をすると企業にとって大きな損害になりかねません。しっかりと手形について理解を深めておきましょう。

手形とは?

手形とは、記載された金額を一定期間後に支払うことを約束した有価証券です。現金と同様に扱われる決済手段であり、信用が重要な企業間取引で特に多く利用されています。

企業間取引で手形が使われるシーンは、商品の受け取りを先に行い、商品代金の支払いが後払いになるときです。このような掛取引では、定められた期日までに規定の代金を支払うことが重要だからこそ、手形を作成するのです。

専用の用紙に必要事項を記入して相手方に渡すことを「振出(ふりだし)」と呼びます。手形を作成した時点で、振出人から受取人への支払義務が生じる点が特徴です。

小切手との違い

手形と同じく現金に代わる決済手段に「小切手」があります。両者の違いは、受取人が現金化できるタイミングなどです。

2つの違いを比較してみましょう。

  • 小切手

小切手は多額の現金を持ち歩くリスクや不便さの解消のために用いられます。その性質上、現金に変えるタイミングは受け取った直後からとなります。

また、額面記載の金額は口座残高をもとに支払われる点も大きな違いです。

  • 手形

手形は期日までの支払いを約束するためのものなので、期日を迎えるまでは現金化できません。また、預金口座の残高がなくても発行が可能な点も大きな特徴でしょう。

残高がなくても発行できることから、手形を振り出せる企業は信用性が高いといえます。

両者の性質の違いをしっかり理解すると、場面に応じて決済手段を使い分けられます。それぞれの利点や特徴を把握して、実務に役立てると良いでしょう。

手形取引の現状

手形取引はいまだに実行されている決済手段ですが、近年の取引数は減少傾向にあります。財務省の財務総合政策研究所による「財務省法人企業統計調査」では、どれほど手形取引が実施されているのかを確認できます。

企業統計調査の結果から、1995年度末から2013年度末にかけて手形取引された金額が71%減少していることがわかっています。

手形は即座に現金化できない特徴があるので、手形以外の取引方法がさまざまある中で手形を選択する企業は減っています。

手形の書き方

手形のやり取りは、信用取引にあたります。企業の信用を守るためにも、書き方を間違えることのないように細心の注意をはらいましょう。また、必要項目の記載がなければ効力がない点もポイントです。

記載の必要がある項目は8つあります。それぞれ紹介します。

  • 管理番号

1つひとつの手形を区別するための番号です。番号に指定はなく、好きなように決められます。

  • 手形番号

作成にあたっては、手形のための専用用紙を使います。そのため、専用の紙には1枚ずつ異なる番号が事前に印字がなされています。

  • 支払期日

振出人である個人または企業の銀行口座から、額面の金額が引き落とされる日です。この日まで手形の現金化はできません。

  • 支払場所

振り出した人が指定した口座を管理する金融機関のことです。

  • 金額

支払う金額を記載します。算用数字は加筆などによって金額を変更しやすいため、不正防止の観点からチェックライターでの印字か漢数字での記入が安心です。

  • 振出日

振り出しを実行した日を意味します。西暦や和暦は間違えやすいので、しっかり確認してから記入すると良いでしょう。

なお、振出日は支払期日よりも前の日にちであることが大切です。

  • 振出人

手形の発行を行う人は、個人よりも企業である場合が多いでしょう。そのため、手形を振り出した企業の名前と住所、および代表者の氏名が必要です。

また、氏名の横には押印も必要となります。

  • 収入印紙

収入印紙とは、経済的取引に必要な書類に課せられる印紙税を支払うために発行されます。手形も印紙税の課税対象なので、支払金額に応じた収入印紙を貼り付けましょう。

手形の種類と取引の流れ

手形は3種類あります。

支払手形

企業間の取引には、基本的に商品の販売者と購入者が存在します。このとき、商品の購入者は販売者に対して代金を支払う義務があります。購入した商品が有形であれ無形であれ、企業は代金を販売元企業に支払わなければなりません。

このように、一定の金額の支払い義務が生じていることを示すものとして「支払手形」があるのです。

取引を行う流れを紹介します。

  1. 商品の購入者が手形を発行し受取人へ
  2. 振出人が期日までに指定した銀行口座の残高を確保
  3. 期日を迎えたら受取人が現金化を実行する
  4. 振出人の銀行口座から指定金額が引き落とされる

約束手形

一般的に代金の支払いは商品を受け取ったと同時に実行されます。一方で、代金の支払いを即時に行わず定められた日に行うと取り決めする際に活用されます。

あらかじめ決めた日付を過ぎると、手形に代わって現金を受け取れるようになる仕組みです。そのタイミングで、振出人の口座から指定の金額の引き落としが実施されるのです。

一般的な流れは以下の通りです。

  1. 商品の購入者が手形を発行し、受け渡し
  2. 期日を迎えたら、受取人が任意の銀行で手形の取立を依頼
  3. 銀行が交換所で所定の手続きを行う
  4. 発行した企業の銀行口座から指定の金額を引き落とし
  5. 受け取る側の企業の銀行へ送金
  6. 現金を受け取る

為替手形

為替手形の大きな特徴は、取引に3つの企業が関わるということです。具体的には、購入者である「振出人」と、販売元である「受取人」、その仲介に立つ「名宛人」の3社です。なお、名宛人は「支払人」と呼ばれる場合もあります。

為替手形は、振出人が第三者となる名宛人に、販売元企業への支払いの代行依頼するようなケースで使われます。

手続きや取り扱いのルールが複雑なため使われる場面は多くはありませんが、外国企業との貿易取引における決済手段として用いられることがあります。

為替手形は、その取引の具体的な手段によって3種類に大別できますが、基本的な取引の流れは5工程になります。

  1. 振り出しを行う企業が支払い代行を他社へ依頼
  2. 振出人から受取人へ手形が引き渡される
  3. 名宛人が指定の金額分の残高を確保
  4. あらかじめ定められた期日を過ぎたら、受取人が手形の取立依頼を実施
  5. 名宛人の銀行から指定金額が受取人へ支払われる

手形取引のルールや特徴

取引上のルールと特徴を知っておきましょう。

手形サイト(支払期日までの期間)の決め方

手形には振出人の氏名や振出日などの他、支払期日を記入することが求められます。手形を受け取る側からすると、支払期日は「手形を現金化できる日」となるため、期日までの期間が長すぎるのは望ましくないといえます。

では、支払期日までの期間(手形サイト)はどのように決定されるのでしょうか。

基本的には、給付受領日を起算日として60日以内にするように規定されるとする方針が、中小企業庁により定められています。

だからといって60日ぎりぎりに期日を設定しては、振出人の口座残高が不足する可能性が高まります。会社の信用を確保するためにもできる限り短い期間の支払期日を設定すると良いでしょう。通常の取引では、手形サイトの決定は振出人と受取人、双方の合意の上で行われます。

手形割引

支払期日を迎えるよりも前に、手形を現金に変えることです。通常は事前に設定した日付を過ぎるまで、現金化できないのが原則です。

しかし、金融機関やノンバンクの専門業者に買い取りを依頼することで、期日以前でも現金に変えることが可能となっています。

ただし、申込日から事前に設定した日付までの日数に応じた割引料の支払いを求められるので注意しなければなりません。そのため、実際に受け取れる現金の額は、事前に設定していた額面よりも少なくなるでしょう。

割引率は振出人の信用度をはじめとするさまざまな要素に基づいて判断されます。一般的に、金融機関を利用する方が、ノンバンクの業者を利用するよりも低い割引率が適用されます。

手形の裏書

受取人が手形を他の企業に譲渡して、他社の商品の購入のために利用できることをご存じでしょうか。

手形の裏書をすると、支払期日よりも前であれば第三者へ譲れるという性質を持っています。そのため、手形を現金の代わりとして他社への支払いに充てる場合は、所定の手続きを踏むようにしましょう。

譲渡を受けた企業は、期日を迎える前に手数料を支払うことなく現金化できるようになります。

ただし、不渡りが起きた場合に指定金額を支払うのは、譲渡を行った側の企業だと定められています。手形を受け渡した結果、不渡りとなって支払責任が生じると企業の負担が大きくなるため注意しましょう。

手形のジャンプ

「手形のジャンプ」は「手形の書き換え」とも呼ばれます。これは、受取人の承諾があれば支払期日を延ばせる制度のことです。

手形は振出人の口座残高がなくても発行ができるので、期日までに資金が用意できない可能性をはらんでいます。さまざまな事情から期日までに指定の金額の入金ができなかった場合に、手形のジャンプが行われます。

この場合、過去に発行した分を無効化した上で、延長した期日を記入した手形を新規に振り出します。通常は、延長分の金利を上乗せするなどして支払金額も変更されます。

金額に応じて印紙税が課せられる

印紙税とは、課税文書を作成したタイミングで納税の義務が生じる税金です。納税を行うのは、課税文書の作成者とされています。

手形は課税文書だと定められているため、記載する金額が10万円を超えるときは印紙税の納税が必要です。過不足のないように注意しながら、金額に応じた収入印紙を手形に貼付しましょう。

手形発行時の印紙税の課税金額は、200円から20万円ほどまでと多岐にわたります。10万円に満たない場合は非課税ですが、それ以上になると必ず課税義務が生じるので注意しましょう。

不渡りが続くと取引停止になる

ごくまれに手形の「不渡り」が起きます。これは、手形の支払期日までに指定の金額の受け渡しが完了せず、掛取引が未完了の状態になることです。

半年以内に2回、同じ振出人が不渡りを続けると、銀行の指示により取引停止処分になります。取引停止とは事実上の倒産であり、企業が存続できなくなってしまいます。

万が一不渡りになりそうな場合は、期日を延長する手形のジャンプなどを活用しましょう。

手形取引のメリット

4つのメリットを紹介します。

支払いを先延ばしできる

本来の商取引では、商品の購入と同時に代金の支払いが実行されるものです。それに対して手形取引は、事前に定めた期日までに代金を支払うことを約束するため、即時の支払いが求められません。

手形は現金と同等の取引手段として扱われます。そのため、手形を発行した企業は商品を購入したタイミングではなく、期日までに代金を用意すれば問題ないのです。

支払期日は任意で設定できますが、60日以内という規定があるので注意しましょう。一般的には、振出人と受取人の双方の合意の上で決定されます。

金利が発生しない

銀行で融資を受けると、借入金額に応じた利息や保証料の支払いが求められます。これによって、企業の資金繰りがより圧迫される可能性もあるでしょう。

手形取引では支払期日がいつであっても金利が生じない点は、大きなメリットだといえます。金利分の支払金額の上乗せがないため、企業にとっては銀行の融資を受けるよりもコスト削減につながるのです。

金利が発生しないことで、キャッシュフローの余裕が生まれ、経理上も金利分の処理が不要となり簡便になります。

支払いの確実性が高い

銀行残高がなくても振出可能という手形の性質上、手形を発行できる企業は厳しい審査を通過しています。銀行の審査を通過して手形を振り出せる企業は、資金面での信頼性が高いといえるでしょう。

そのため、手形取引は代金の支払いが確実に実行される可能性が高い取引手段です。請求書や口頭での約束に比べても確実性が高い手段なので、受取人からすると安心感があるでしょう。

社会的信用を得られる

手形を振り出す場合は、預金の引き出し先となる取引先銀行からの与信を受ける必要があります。企業の経営状況や銀行口座の動きなどをもとに、銀行は信用に足る企業かをしっかり見極めるでしょう。

そのため、手形の振り出しが可能な企業は「社会的に信頼できる会社」だとみなされます。取引先からの信頼が厚くなるといった効果も期待できるでしょう。

手形取引のデメリット

デメリットは3つあります。

印紙税がかかる

手形は課税文書に該当するため、額面金額が10万円以上となる場合には印紙税の納税が義務付けられます。

課税対象者は手形の振出人とされているため、商品の代金に加えて印紙税にかかる費用も上乗せされる点に注意が必要です。

課税金額は額面金額によって大きく変わります。10万円以上の場合、最低200円ほどですが、最高で20万円と定められています。

手形のジャンプを起こしてしまう可能性がある

手形を振り出すと、支払期日までに指定の金額を銀行口座に入金しておかなければなりません。ときには資金の準備が難しく、期日までの入金ができない可能性があるでしょう。

資金の準備が間に合わないときには、支払期日を延長する手形のジャンプを実行できます。不渡りとなる前に対策できる有効な手段ですが、手形のジャンプは受取人が拒否する可能性もあります。

また、利息として支払金額が上乗せされたり、信用を失ったりする可能性が高いため、資金繰りの方法には十分に注意しましょう。

不渡りによる倒産のリスクがある

振出人が手形に記載された金額を入金していないまま、事前に定めた期日を過ぎると手形が不渡りとなってしまいます。

半年に2回の不渡りがあると、各種金融機関との取引が停止されます。銀行からの融資を受けられなくなるといったデメリットが生じ、結果的に倒産につながるケースは少なくありません。

不渡りは会社の信用問題に関わります。1度でも起こさないように、資金の管理は徹底して行いましょう。

手形に関する用語

3つの関連用語を解説します。

手形の裏書

手形は、裏書譲渡という手順を踏むと第三者へ譲り渡すことができると規定されています。裏書は、受取人が第三者の商品の購入代金として使うときに活用されます。

手形を現金の代わりとして譲るにあたって、受取人の社名や住所の記載および押印をした上で、譲る先の企業名を記載する必要があります。

記載する場所は手形の裏とされていることから「裏書」と呼ばれるのです。

回数に制限はないため、譲渡された企業がさらに別の企業へ受け渡しても問題ありません。手形が譲渡される度に、裏に詳細情報が記入されていく仕組みです。

手形割引

支払期日を迎える前に手形を現金化できるようになる制度を指します。これを実行するためには、銀行や手形割引業者などの割引人を経由しなければなりません。

このとき、期日までの利息や事務的な手数料が差し引かれるのが一般的です。そのため、最終的に現金として手元に残る金額は、手形の額面よりも少なくなります。

不渡り手形

不渡り手形とは、支払期日を過ぎて受取人が現金化を依頼したのに現金化できなかった手形を指します。銀行から残高不足などを理由に支払いを拒否されることで、手形が不渡りとなってしまいます。

不渡り手形が発生する理由としては、振出人の残高不足以外に、記載事項に間違いがある場合、盗難のおそれがある場合などが挙げられます。

手形に関する注意点

各ケースにおいて、取り扱い上で気をつけるべきことがあります。

振り出す場合

手形の発行は、代金の支払いを行う側となる企業が実施します。記載内容にミスがあったりすると、手形の不渡りにつながるため、取り扱いには注意しましょう。

注意点は3つです。

振出人の署名を確認する

手形には振出人の署名が必須です。振り出しをしたのが企業なら、企業名および、住所、代表者の氏名などが必要となります。署名は企業の代表者に限らず、支店長の氏名や経理部長の氏名でも構いません。

氏名の記載をせず会社名だけ記載しては、手形が無効となってしまうので注意しましょう。

金額の改ざんがないようにする

支払金額を書き記す際には、改ざんができないような工夫を凝らすことが大切です。

例えば、

  • 手書きはせず、チェックライターで印字する
  • 額面先頭に「金」や「¥」をつける
  • 末尾には「也」など書き記して、終わりを示す
  • 算用数字ではなく漢数字を使う

などを行うと良いでしょう。

支払い条件を確認する

支払い条件とは、代金の支払方法や期限など、金銭授受の取り扱い全般に関わる取り決めのことを指します。

基本的に、支払い条件は振出人と受取人の双方の話し合いと合意の上で決定されるものです。手形を振り出す際は支払い条件に反していないかしっかりと確認しましょう。

受け取る場合

受け取る場合の注意点は2つです。

必要記載事項を確認する

手形には、さまざまな詳細情報の記載が必要です。必要事項がすべて正しく記入されているか、細かく確認しましょう。

また、額面金額が10万円を超えるときは、収入印紙の貼付が求められます。万が一、記載漏れが出てしまうと「効力なし」と判断されてしまうかもしれません。取引を有効化するように細心の注意を払うべきポイントです。

裏書が連続しているか確認する

手形は、所定の手順を踏めば第三者へ譲り渡すことが可能となります。このとき、手形の裏には受け取った企業と譲った企業の情報が記載されます。

手形を譲り受けたときは、裏書が複数あるか細かく確認すると良いでしょう。

もし複数あるなら、裏書がしっかり連続して記載されているかチェックすることをおすすめします。万が一、空白期間がある場合には、振出人から支払いを拒否されるかもしれません。

新型コロナウイルス感染症拡大における状況での取扱い

2019年12月初旬に世界的に大流行した新型コロナウイルスの影響は、手形の取扱い方にも及んでいます。

手形の扱いは、感染拡大防止の観点から次のように変わっています。

支払期日を超過した場合は金融機関との話し合いの上で取立可能。支払いが不可能となった手形は不渡りがあったことの周知や取引停止処分に対する配慮がされる。

上記の処置は新型コロナウイルスの影響によって資金繰りが難しくなった企業の救済処置として取られたものです。感染拡大の影響がない場合には適用されないため注意しましょう。

手形の理解を深めたうえで活用しましょう

企業間取引において利用される決済手段の1つに、手形取引があります。手形は現金と同じように扱われるため、さまざまなルールや注意点があります。手形が無効になったり不渡りを起こしたりしないように、取り扱いには十分に注意しなければなりません。

手形を振り出すと、支払期日までの余裕が生まれ、社会的信用を獲得できるといったメリットが得られます。しかし、印紙税が課税されたり、不渡りによる倒産のリスクがあったりするので、資金管理能力が求められます。

企業にとってメリットの大きい手形取引。取引数は減少傾向にあるものの、信用性や確実性の高さからいまだ活用シーンはあります。扱い方に細心の注意を払い、自社の取引手段として取り入れていくと良いでしょう。