AI時代の今こそ必須のEQとは?次世代の人材に求められる心の知能指数
ChatGTPをはじめ、さまざまなAIツールが話題になっている昨今、企業は時代に合わせた人材戦略を立てる必要に迫られています。
しかし「これからの時代に合った人材像がわからない」と悩む人事担当者は少なくありません。
次世代に必要なのは、感情をコントロールできる「EQ」の高い人材です。EQは、企業の生産性向上や人材教育に役立つ指標となるため、従業員のEQアップには早めに取り組みましょう。
今回は、EQの定義や関係する要素、高めるメリット、高い人の特徴などを解説します。
EQとは
「EQ」とは、「Emotional Intelligence Quotient」の頭文字を取った略語です。
日本語では、
- 心の知能指数
- 感情知能
などと訳されます。
これは、人が自身の感情をコントロールして応用する力を指しています。日常生活はもちろん、ビジネスでも活用できるとして、昨今注目を集める能力です。
EQの基本となる理論は、ニューハンプシャー大学教授のジョン・メイヤー博士と、エール大学学長のピーター・サロベイ博士が1990年に提唱しています。
アメリカの心理学者である2人の研究により、ビジネスの成功者は対人関係を築く能力が高いことが明らかにされました。つまり成功者の多くは、自身の感情を操りながら、良好な人間関係を維持している(EQが高い)といえるのです。
自他の感情の動きに敏感な人ほどEQが高く、相手の気持ちを察したり自分の感情を冷静に保てたりするので、無用なトラブルが生じにくくなります。
IQとの違い
多くの人にとって「EQ]よりも「IQ」という言葉の方が耳慣れているでしょう。この2つはよく似た言葉ですが、意味は大きく異なります。
「IQ(Intelligence Quotient)」は、日本語で「知能指数」と訳されます。IQが高い人は、高い記憶力と頭の回転の速さを持っているのが特徴です。いわゆる「頭の良い人」は、IQが高い傾向にあるでしょう。
IQが頭脳の知能指数である一方、EQは心の知能指数です。他人の気持ちや自分の気持ちを敏感に察する能力のことを指し、IQとは全く異なる意味を持ちます。
IQが高い人がビジネスで成功すると思いがちですが、昨今はビジネスでの成功のカギはEQにあると考えられるようになってきました。そのため、今後はEQの高い人材を確保するとともに、従業員のEQ向上に努めることが重要です。
EQを構成する要素
EQと一口に言っても、EQの値を決める要素は複数あります。それぞれの要素の資質を総合的に高めることが、EQ向上を早めるでしょう。
ここでは、4つの構成要素を紹介します。
感情の識別:気持ちを感じる力
「人の気持ちに敏感だ」と言われる人材に出会った経験はあるでしょうか。
自他の気持ちを感じられる能力は、高いEQを保つために欠かせません。今どのような感情を抱いているのかを正しく識別することで、人は適切な行動を取れるようになります。
反対に、感情を識別できなければ他人が何を考えているかわからない状況に陥ります。自分が何を感じているかもわからず、自分自身を大切にする行動ができなくなってしまうかもしれません。
感情の利用:モチベーションを作る力
感情を利用すると、自分自身をコントロールしやすくなります。仕事をしているとさまざまなプレッシャーに向き合う機会があるでしょう。このとき役立つのが、感情の利用です。
例えば、
- 重要なプレゼンテーション
- 転職活動の採用面接
- 売上目標の達成
- 仕事で失敗をした
といったシーンで役立ちます。
状況や目的に合わせて、そのときどきで必要な感情を自ら作り出すことで、仕事に対するモチベーションを高く維持できるでしょう。
感情の理解:気持ちについて考える力
気持ちについて考える力が、感情の理解力です。「なぜその感情が表れているのか」を深く考えることで、他人や自分への理解を深めることができます。
例えば、同僚が感情的に怒っている場合、怒りの感情が芽生えた理由について考えます。もしかすると、プライベートでイライラして感情的になっているかもしれません。スケジュールに余裕がなくて「早くしてほしい」という思いが表面化している可能性もあります。
相手の立場にたって気持ちを理解しようと努める能力は、人間関係を円滑にする上で重要です。正しく理解できれば、適切な対処ができるようになるでしょう。
感情の調整:感情をコントロールする力
感情の識別・利用・理解ができても、より良い行動につなげられなければ意味がありません。EQの高い人は、気持ちをコントロールする「感情調整力」が高い状態にあります。
感情の調整ができると、自分や周囲の感情の変化に合わせて、柔軟に行動を変更できるようになります。
自分の気持ちをうまく操れるため、感情に振り回されるリスクが少なくなるでしょう。その結果、周囲から「身勝手だ」と評価されることなく、良好な人間関係を築きやすくなるのです。
EQが左右する5つの能力
密接な関わりのある5つの能力を解説します。
傾聴力
マネジメントや人事に関わった人なら傾聴することの重要性をよくご存じではないでしょうか。人の話にしっかりと耳を傾ける「傾聴力」は、相手の感情理解につながる重要な能力です。
EQが高まると、いわゆる「聞き上手」な人になれるでしょう。相手の話に割り込むことなく、主観的ではなく客観的に話の内容を受け入れます。
相手の意見を理解した上で、自分の意見を述べるようになるため、ビジネスをスムーズに進めるために重要な力です。
また、相手を否定しないことにより、良好な人間関係を築きやすいのもメリットだといえます。
共感力
「共感力」とは、他者の感情に理解を示す力です。EQが高まると、自分だけでなく他者の感情の動きも敏感に感じ取れるようになります。その結果、相手が感じたことを否定することなく、理解して寄り添えるようになるでしょう。
共感力が高い人は「思いやりがある」と評価されやすいのが特徴です。
能力の高さや内容によっては、相手が「自分のことを深く理解してくれている」と実感できるでしょう。その結果、周囲からの信頼感が増し、円滑な人間関係が形成されます。
協調性
多くの仕事は、職場の同僚や取引先、上司とコミュニケーションを取りながら進めます。そのため、周囲の人とスムーズにやり取りできる「協調性」は、ビジネスパーソンに欠かせない要素だといえるでしょう。
EQが高いと、周囲の意見をしっかり聞き入れながら仕事を進められるようになります。相手の意見や思いを理解した上で、自分の気持ちを伝えられるようになるため、ミスコミュニケーションが少なくなるでしょう。
柔軟性
仕事を円滑に進める際に大切なのは、臨機応変な対応力です。
「状況に応じて対応しよう」と心がけていても、ついつい自分の考え方に固執してしまった経験はないでしょうか。固定観念や主観が強すぎると、状況に応じた対応がしにくくなってしまいます。
さまざまな物事を寛容に受け入れる「柔軟性」を高めると、常に変化する状況に対応できる力が身につきます。
柔軟性の向上はEQアップにつながるため、積極的に高めることをおすすめします。多種多様な意見や考え方を柔軟に吸収し、成長し続ける人材が育つでしょう。
ストレス耐性
ストレス耐性の向上は、企業が優秀な人材を確保しておくために重要な要素です。ストレス耐性が低い状態では、ちょっとした環境の変化や仕事へのプレッシャーからストレスを溜め込みやすくなってしまい、従業員の離職が起きます。
EQの高い人材は環境変化への対応力が高く、ストレス耐性が高い人です。また、周囲や自身の感情変化を敏感に察知して、適切な行動を取れるため、無用な衝突や不和を防ぐ力があります。そのため、ストレスを感じる環境に陥りにくいともいえるでしょう。
EQが高い人の特徴と傾向
EQが高い人はどのような特徴を持つのでしょうか。人によって程度の差はあれど、EQの高い人は一定の傾向があります。
例えば、
- 自己理解が進んでいる
- モチベーションが高い
- リーダーシップがある
- 周囲から慕われている
- 自分に厳しく自己管理能力が高い
- 判断力が高い
などが特徴です。
自分の気持ちを知覚しているEQの高い人は、自分がどのようなシーンで何を感じるのか、何をして欲しいのかを正しく理解しています。
また、感情を理解した上でコントロールできるため、大事な場面でモチベーションを高く維持できる傾向にあります。感情をコントロールできるので自分の行動を統制しやすく、自己管理がしっかりできているのも、EQの高い人の特徴です。
EQが高いと、自分だけでなく周囲の人の感情も敏感に察知して適切な行動を選択できます。相手の気持ちに寄り添いながら行動できることから「優しい」「頼れる」「相談しやすい」と思われやすいでしょう。そのため、周囲からの信頼が厚くなります。
EQが低い人の特徴と傾向
EQが高い人に対して、EQが低い人にも共通する特徴があります。企業が人材育成に取り組む場合は、従業員一人ひとりのEQの値を見極めて、段階に合わせた教育プログラムを実施する必要があるでしょう。
一般的な特徴は、
- 自分の意見を曲げない
- 他人のミスを許容できない
- 他人の気持ちに共感しにくい
- 不平不満を言いやすい
- チームプレイが苦手
- 感情をすぐ表に出す
などです。
自分や他者の感情変化に敏感なEQの高い人に対し、EQの低い人は感情を知覚しにくい傾向にあります。そのため、相手を慮った行動を取れず、自己中心的になりがちです。
同様に、周囲に合わせた行動ができないために、チームで仕事をするとチーム内で孤立したり、個人プレイに走ったりして「うまく人間関係を築けない」といった悩みを抱えやすいのが特徴です。
AI時代の今こそEQが求められている
近年、働き方改革や労働人口の減少などを理由に、企業のDX化が急速に進んでいます。それまで人が担当していた業務をAIに任せられるようになった今、人はより高難易度かつ重要な業務を担当するようになってきました。
難しい業務をスムーズにこなすためには、周囲の人との連携が欠かせません。個人プレイではミスコミュニケーションが起きやすくなるため、企業は従業員のEQ向上に取り組むことが大切です。
また、昨今はIT技術の発達によるオンラインサービスやシステムが普及しています。オンラインミーティングツールや、オンライン勤怠管理システムなど、さまざまなツールが誕生したことで、在宅勤務やリモートワークを導入する企業が増加しています。
オフィスで顔を合わせて仕事をしている場合と異なり、在宅勤務などではテキストによるコミュニケーションがメインとなります。文章だけで細かいニュアンスを伝えたり、相手の感情を推し量って言葉を選んだりするには、高いEQが求められるので注意しましょう。
これらの背景から、EQの高い人材の需要は今後ますます高まると予想できます。早めに人材育成に取り組み、時代の変化に対応できる準備を進めると良いでしょう。
EQを高めることで向上するビジネススキル
2つのスキルを紹介します。
リーダーシップ
従来のリーダー像は、論理的思考ができる人、労務管理の知識がある人、部下に明確な指示出しができる人でした。
IQの高い人ほどリーダーに向いているというイメージが強くありますが、昨今はIQよりもEQが重要視されています。なぜならEQの向上に取り組むと、従業員のリーダーシップスキル向上が期待できるからです。
リーダーシップを発揮するには、自身が束ねるべきチームを統率し、チームメンバーからの信頼を獲得する必要があるでしょう。そのためリーダー候補の人材は、他者の気持ちを理解し、気持ちを否定せずに寄り添う姿勢を持たねばなりません。
EQが高まると、リーダーとしてチーム全体に気を配り、一人ひとりの精神的負担を軽減するチーム運営ができるようになります。
ホスピタリティ
ホスピタリティは、ホテルや飲食店といったサービス業でよく使う言葉です。「本心でのおもてなし」「深い思いやり」といった意味を持ちます。
ホスピタリティの本質は「相手を思って行動すること」だといえるでしょう。
EQが高まると、相手の感情を察知して、相手のためになる行動ができるようになります。その結果、ホスピタリティ向上が実現されるのです。
社内の従業員同士で思い合える職場環境が整うと、従業員にとって働きやすい企業に成長できます。
社外の取引先とやり取りする際も、取引先担当者の感情を汲んだコミュニケーションが可能になるでしょう。そのため、顧客満足度が高くなる効果が期待できます。
従業員のEQを高めるメリット
メリットは4つです。
組織全体の生産性が向上する
EQの高い人材は、良好な人間関係を築きやすく、状況に応じた適切な判断能力を有するなどの特徴を持っています。
社内に高いEQの人材が多いほど、組織全体のコミュニケーションが円滑化する上、業務効率化が早まるでしょう。
また、多くの人が飽きて作業効率が落ちやすい単純作業やルーティンワークでも、EQの高さが関係します。
EQが高い人は感情コントロールが得意です。自分の感情を理解できるため、単純作業であっても目的意識を持って高いモチベーションを維持できます。
リーダー人材の育成につながる
多くの企業が抱える課題の1つに、後継人材の育成が挙げられます。将来の企業運営を支える人材を育てるために、企業はリーダー人材の育成に注力する必要があるでしょう。
従業員のEQ向上に取り組むことは、リーダー人材の育成につながります。なぜなら、他者の気持ちに理解を示し、感情に寄り添った行動を取れる人材こそ、リーダーとして信頼を集められるからです。
メンタルヘルス対策になる
心の知能指数とも呼ばれるEQは、心の強さやストレス耐性に密接に関係しています。
従業員にとってストレスとなるのは、業務負荷の大きい職場や周囲の人間関係の悪化などです。メンタルヘルスの不調は、従業員の早期離職を引き起こすでしょう。
その予防策として、EQ向上に取り組んで従業員のストレス耐性を高めることをおすすめします。EQが高くなるとストレス要因となる人間関係の悩みが軽減されます。さらに、自分の感情を理解して受け入れられるので、ストレスに強くなるでしょう。
ハラスメントや離職の防止につながる
近年問題視されるようになったハラスメントは、企業のブランドイメージを悪化させます。そのため、ハラスメントは未然に防がなければなりません。
同じく予防したい問題に、優秀な人材の流出が挙げられます。
ハラスメントや離職の原因は、
- ストレス耐性が低い
- 感情コントロールができていない
- 自己中心的で自己管理力が不足している
などです。
EQが高まると、自分自身の感情変化を理解して、自己マネジメントができるようになるでしょう。そのため企業が抱えやすい問題の予防が期待できます。
これからはEQの高い人材こそが未来を変える
自他の感情を汲み取り、気持ちに配慮した行動を起こせる能力が「EQ」です。この能力を高めることは、従業員の成長を促すとともに、企業の生産性向上にもつながります。
変化の激しい現代で企業が長く存続するには、EQが高い人材を多く確保しておく必要があるでしょう。
先天的な要素であるIQと異なり、EQは後天的に高められます。従業員の心の健康を保ちながら、企業として成長を目指すなら、従業員のEQアップに取り組むと良いでしょう。