累進課税とは?どのような税金に適用される?
累進課税は所得税を始めとして相続税や贈与税に適用されますが、具体的にどのような内容で税率が決められているかについてはあまり知られていません。
しかし、累進課税について正しく理解できていれば税率を抑えることも可能であり、さまざまな控除を活用しながら自身の所得についても把握するのが大切です。
本記事では累進課税の詳しい内容に加えて、適用される控除などについても解説するので参考にしてみてください。
累進課税とは
累進課税の基本的な考え方としては所得金額などに伴って税率が高くなる制度であり、税率を調整しながら負担しています。
課税の種類としては2種類が存在していて、税金の種類に合わせてどちらかが適用されているのが特徴です。
収入が多い人でも低いでも負担をすることで、一人ひとりが国民の義務を果たすのが重要といえるでしょう。
累進課税と比例課税の違い
累進課税は所得金額などに合わせて税率が変動していきますが、比例課税は所得金額などの大きさに関わらず決まった金額が課税されます。
比例課税は消費税や固定資産税などが対象になっていて、すべての人に対して同じように課税することでお公平性を実現してきました。
そのため、所得が1000万円でも100万円でも同じように課税されます。
累進課税制度が採用されている理由
累進課税制度が採用されている理由としては日本国民全員に同じように課税してしまえば、問題なく税金が支払える人と税金を支払ってしまうと生活を維持できなくなる人が生まれます。
税金はあくまでも日本に住んでいる人々が安心して公共サービスを受けられるように活用されるため、所得に対しての税金額が大きくなりすぎて生活ができなくなると本末転倒です。
しかし、公共サービスを提供するためには資金は必要になるので、所得金額などが高い人に対しては税率を高く設定しています。
累進課税の種類
累進課税の種類は主に単純累進税率と超過累進税率の2種類が挙げられ、日本では超過累進税率が各種税金に適用されているのは把握しておきましょう。
それぞれの種類は異なった特徴を持っているため、実際のケースでどれくらいの税金支払いになるかについて計算していきます。
単純累進税率
単純累進税率では課税標準額に対して決まった税率で計算をするのが特徴であり、課税標準額が329万円で税率が10%なら税金は32万9000円です。
ただし、課税標準額が330万円以上695万円未満の場合は税率が20%となるため、課税標準額が330万円なら税金は66万円になります。
そうなってしまうと多くの人が税率が高くならないように所得の調整をおこなうと考えられ、積極的な経済活動が停滞してしまう原因になるでしょう。
超過累進税率
超過累進税率は日本の税金の考え方であり、課税標準額が一定以上に達しすると超えた金額に対して高い税率で計算されます。
課税標準額が600万円とした場合には、195万円以上330万円未満の税率が10%、330万円以上695万円未満の税率は20%です。
課税標準額の全体に対して税率20%が適用されるよりも、特定の部分に対して決まった税率のほうが全体的な税金は少なくなります。
全体的な収入が高くなっても自動で税率は計算されますが、自分でもある程度は把握しておきましょう。
累進課税が適用される税金、税率、計算方法
累進課税の税金としては「所得税」「相続税」「贈与税」の3つであり、それぞれ異なった税金・税率・計算方法がある点が大切です。
それぞれの税金・税率・計算方法についても解説するので、どれくらいの税金がかかる気になる方は参考にしてみてください。
所得税
所得税の税率は以下の通りです。
課税所得 | 税率 | 控除額 |
195万円未満 | 5% | 0円 |
195万円以上330万円未満 | 10% | 9万7500円 |
330万円以上695万円未満 | 20% | 42万7500円 |
695万円以上900万円未満 | 23% | 63万6000円 |
900万円以上1800万円未満 | 33% | 153万6000円 |
1800万円以上4000万円未満 | 40% | 279万6000円 |
4000万円以上 | 45% | 479万6000円 |
表を用いて課税所得が400万円とすれば、400万円×20%-42万7500円=37万2500円です。
実際には超過累進税率によって細かい金額は変わりますが、簡単におおよその税金を知りたいなら表を用いて考えるのがおすすめといえます。
一般的な生活をしていて所得税は毎年かかるため、自分自身の課税所得について把握しながら行動するのは大切といえるでしょう。
相続税
相続税の税率は以下の通りです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1000万円以下 | 10% | 0円 |
3000万円以下 | 15% | 50万円 |
5000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2700万円 |
6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
相続税は他の税金と比較しても金額がかなり高くなる傾向にあるため、設定されている取得金額や控除額についても高いのが特徴です。
どうしても相続する内容は現金以外にも土地や家屋などの不動産に加えて、株や貴金属なども挙げられるので高くなりやすいといえます。
このように相続税はかなり高くなってしまう可能性が高いので、場合によっては相続を放棄することも視野に入れて考えるケースも少なくありません。
贈与税
贈与税の税率は以下の通りです。
基礎控除後の課税額 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | 0円 |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1000万円以下 | 40% | 125万円 |
1500万円以下 | 45% | 175万円 |
3000万円以下 | 50% | 250万円 |
3000万円超 | 55% | 400万円 |
毎年一年間で贈与された金額を計算しますが、基礎控除として110万円が設定されています。
決められている金額までなら贈与税はかからず、今すぐ贈与が必要でないなら金額を分けて数年間にわたって贈与するのも1つの方法です。
一部例外として教育費や生活費として渡されたお金は贈与税の対象外であり、あくまでも贈与が対象といえます。
累進課税制度によるメリット、デメリット
累進課税制度は課税所得が多い人ほど税率が高くなるため、最終的な課税金額も多くなるのが特徴として挙げられます。
この制度が適用されることで発生するメリット・デメリットについては把握して、どうして日本で適用されているかについて理解することが大切です。
メリット
累進課税制度によるメリットとして考えられるのが、日本に住んでいる納税者が一人ひとりできる範囲で税金を負担しようとの考え方が基本になっています。
多くの所得を得ている納税者の納税を多くして、所得が低い納税者は納税を少なくするのは貧富の格差を広げないのも1つのメリットです。
また、累進課税ではそれぞれの課税所得に合わせて税率が設定されるため、節税対策も金額を確認しながらおこなえます。
累進課税制度によるデメリット
累進課税制度によるデメリットとして考えられるのが、所得が高い人ほど納税額が高くなるので労働報酬に対しての中立性が失われる点です。
頑張って働いても課税によって手取り金額が少なくなってしまうケースも挙げられ、高所得者の労働に対しての意欲が低くなってしまうかもしれません。
他にも物価上昇などで収入は変わっていないのに自由に使えるお金が少なくなる可能性もあるため、経済循環の停滞にも影響します。
累進課税に適用される控除
累進課税に適用される控除について理解して、年末調整で活用すれば課税所得を大きく抑えることが可能です。
適用される控除としては、以下の7つが挙げられます。
- 青色事業専従者給与
- 基礎控除
- 社会保険料控除
- 配偶者控除
- 扶養控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
それぞれの控除についても解説するので、少しでも課税所得を抑えたいと考えている方は参考にしてみてください。
青色事業専従者給与
青色専従者給与は一緒に事業に取り組んでいる親族に支払い給料のことであり、配偶者や親・子どもなどが対象になります。
注意点としては誰でも適用されるわけではなく、いくつかの条件を満たさなければいけません。
各種条件を満たしている場合は支払い給与の中から86万円を上限として経費申請ができます。
基礎控除
基礎控除は一律で引かれる金額を差しているため、会社員でも個人事業主でも同じように適用されるのが特徴です。
基本的には48万円が適用されますが、所得金額が2400万円を超えると金額が低くなります。
社会保険料控除
社会保険料控除はその名前の通り支払った社会保険料が控除対象になっており、対象となっているものとして「国民健康保険料」「介護保険料」「国民年金保険料」「厚生年金保険料」などです。
会社員として働いている場合は会社側がそれぞれの保険料などを代わりに支払っていますが、個人事業主では自分自身で支払わなければいけません。
それぞれの社会保険料を合算して考えると、数十万円になるケースも多いです。
配偶者控除
配偶者が所得48万円以下(給与所得のみの場合は103万円以下)、納税者と配偶者が生計を同じにしているなどの条件を満たさなければいけません。
どれくらいの金額が控除されるかについては所得金額などを参考に決定されますが、最大で48万円が控除対象になります。
扶養控除
扶養親族に該当する子供や親がいる家庭が対象となり、納税者と生活を同じにしているや所得金額が48万円以下などが条件です。
扶養親族の年齢や人数によって控除額は違うのが特徴として挙げられ、最大で63万円までが対象です。
注意点は所得金額が多くなると対象外になるため、パートやアルバイトで働く際には意識しなければいけません。
パートやアルバイトの雇用に慣れている店舗や企業なら先に伝えておけば、シフトなどについても調整してくれるケースが多いです。
生命保険料控除
生命保険料控除は一年間で支払った保険料が控除され、一般保険料や介護保険料などを参考にして決定されます。
控除額が全額が対象となる場合以外にも「支払保険料×50%+1万円」「支払保険料×25%+2万円」「一律4万円」のどれかです。
地震保険控除
地震保険料控除は一年間で支払った地震保険料が対象であり、地震が多い日本で家屋の安全を守るために必要になる保険に対しての控除といえます。
控除される金額としては住民税が最大2万5000円・所得税が最大5万円ですが、控除自体を知らずに申告を忘れてしまうケースは少なくありません。
累進課税に関する相談場所
自分自身の課税所得について詳しく知りたいと考えている方や、累進課税についてしっかりと理解したいと考えている方も多いと思います。
そのような場合には以下の相談場所に相談して、専門家からの意見をもらうのがおすすめです。
- 税務署
- 国税庁
- 役所
- 税理士
それぞれの相談場所の特徴についても解説するので、参考にしてみてください。
税務署
税務署は各都道府県で各種税金について取り扱っている機関であり、確定申告などの専門的な知識やノウハウが必要になる事柄についても相談できます。
ただし、確定申告時期になると混雑してしまう傾向があるのに加えて、相談内容によっては事前に予約しなければいけません。
直接訪問して相談する方法以外にも電話でも相談できるため、自分自身に合った方法で相談しましょう。
国税庁
国税庁は日本全体の税金を取りまとめているといえ、各種税金について困ったことがあれば公式ホームページから調べられます。
税に関してはどうしても専門的な知識やノウハウが必要になる場面が多いため、多く寄せられている質問に対してはオンラインサービス「タックスアンサー」で回答がまとめられていて検索が可能です。
検索方法も税金の科目別の検索方法を始めとしてキーワードによる検索もできるので、自分が知りたい情報に関して柔軟に探せます。
役所
役所も地域に住んでいる人たちが安心して暮らせるようにサポートをしており、地域の税理士や税務署などと連携しながらセミナーや相談会を開催していることも多いです。
具体的な開催内容については役所の公式ホームページや掲示板で公示されているので、定期的に確認して参加したいものがないか確認します。
税金の種類によっては役所が管轄しているものもあるため、詳しい内容について相談してみましょう。
税理士
税理士は税金関係のスペシャリストとして助言や確定申告をおこなうのが仕事といえ、個人事業主や法人では税務関係を任せているケースも少なくありません。
自分自身で確定申告をするのは手間がかかると感じている方、会社員として働いているけれど詳しい税金について知りたい方は相談するのがおすすめです。
場合によっては無料で相談会を開催しているケースもあるため、自身が住んでいる地域の税理士会から発信される情報は確認しておくのが大切です。
累進課税の内容を把握しておきましょう
累進課税は課税所得に応じて課税金額が変わる制度であり、一人ひとりができる範囲での税金負担が目的として挙げられます。
しかし、少しでも課税金額を抑えるためには各種控除を活用したり、累進課税に関しての相談場所に相談したりが大切です。