力量とは? 力量管理の重要性とスキルマップの作成方法を解説
「力量管理」とは従業員の持っているスキルを把握して会社運営に活用する方法で、適切な人材配置や人材育成に役立てることができます。しかし、管理するための方法や安定運用までに工数がかかることから、導入をあきらめてしまう企業が少なくありません。
今回は、力量の意味や管理方法、タレントマネジメントの観点から考える力量についてご紹介します。
力量とは?
「力量」は従業員が成果を上げるために、持っている知識や経験、技能を活用する能力を意味します。力量は従業員が担当する業務を進める上で求められるスキルを習得し、習得したスキルを実務に活かせるよう人材教育を進める際に役立ちます。
会社の運営では、総務や営業、人事、開発、広報など多岐にわたる業務をスムーズに回すことが求められます。しかし、それぞれの仕事で求められる技能や知識はまったく異なるため、誰でも簡単にできるものではありません。だからこそ、従業員個人の力量を把握して、最適な人材配置を決定することが大切です。
世界的な基準を定めている品質マネジメント規格のISO9001でも、企業が従業員の力量を把握して従業員の教育に注力するように求めています。
力量管理(スキル管理)が必要とされる背景
3つの背景を解説します。
能力向上による企業戦略の実行が容易になる
力量を管理すると、従業員1人ひとりに合わせた研修や配置転換を行うことでそれぞれの能力が向上しやすくなります。
従業員個人の能力向上は、企業全体の生産性向上につながります。効率的により大きな成果を生み出せるようになれば、結果的に企業戦略の実行が容易になるのです。
企業競争力が向上する
企業はさまざまな課題に取り組みながら、競合他社に負けないほどの競争力を持たなければ長く生き残ることができません。そこで役立つのが、力量管理です。
力量管理では、従業員の能力を正しく把握した上で、個人の性格や興味、素養に合わせた教育を実施することが重要です。その結果、企業のサービスや商品の評価や価値が高まり競争力が付きます。
最適な人材配置が多くの効果を生む
個人の適性やキャリアビジョンを無視して配属先を決定すると、業務効率や従業員のモチベーションを低下させてしまうため注意しましょう。
最適な人材配置を行うために力量管理を導入している企業が少なくありません。適切な人材配置ができると、離職率低下や業務効率アップのほか、残業代などのコスト削減が期待できます。
力量管理の基本要素(カッツ理論)とは
「カッツ理論(カッツ・モデル)」という言葉を耳にしたことがある人は少ないのではないでしょうか。
この理論は、1950年代に米国の経済学者であるロバート・リー・カッツ(Robert Lee Katz)が提唱したものです。
ここでは、力量管理には以下の3つの要素が含まれるとしています。
- テクニカルスキル
- ヒューマンスキル
- コンセプチュアルスキル
それぞれの基本要素を詳しく解説します。
テクニカルスキル
チームメンバー層であり、一般職として活躍する人材にとって「テクニカルスキル」は最も必要な能力です。簡単にいえば「業務遂行能力」であり、日常業務をスムーズに進めるために欠かせないスキルです。
例えば、
- Wordによる文書作成
- Excelによる図表作成
- 基本的なビジネスマナー
- 基本的なパソコンスキル
- 業務上必要な語学力
などが該当します。
上長に質問や相談せずとも仕事をこなせる状態が、テクニカルスキルを持っている状態だといえるでしょう。
ヒューマンスキル
昨今、在宅ワークといった非対面の働き方が増えています。しかし、どのような働き方、業務であっても、人と人とのコミュニケーションは少なからず発生するものです。
社内外の関係者と良好な関係を築くことは、コミュニケーションの円滑化に欠かせません。
例えば、
- 自分の考えを持ち、発信できる
- 他者の考えや思いを引き出して、理解できる
- 相手を配慮した行動ができる
などの能力は、ビジネスパーソンに必須だといえるでしょう。
特に、部下を注視して適切な指示出しとフォローを行うべき中間管理職にとって必要なスキルです。
コンセプチュアルスキル
経営陣など、トップマネジメント層にとっては、コンセプチュアルスキル(概念化能力)を有していることが重要です。
部下へのコーチング力や自己管理力を身につけても、企業そのものの方針や経営戦略を打ち立てることができません。現状を分析して自社の課題を見つけ、その上で問題解決につながる施策を打てる力が必要なのです。
例えば、
- ロジカルシンキング(論理的思考)
- ラテラルシンキング(水平思考)
- 俯瞰力
- 受容性
といったスキルが求められます。
力量管理で期待できること
力量管理を適切に運用した場合に得られる効果は4つあります。
従業員個人のスキルを可視化できる
1人ひとりの従業員について、「何ができて、何ができないのか」を可視化できるのが力量管理の効果です。経営層や人事担当者が配置転換や教育フローを検討する際に役立つ上、従業員本人が自分への理解を深めるのにも役立つでしょう。
伸ばすべきスキルが明らかになる
人材教育において、従業員の適性を判断して不足しているスキルを伸ばすことが重要です。力量管理によって個人の能力が可視化されると、必然的に不足しているスキルが明らかになるため、効果的な人材育成が実現できます。
個々の自己実現が期待できる
企業が成長を続けるために人材は重要ですが、昨今は多くの企業が人手不足や優秀な人材の流出に頭を悩ませています。企業は離職の要因の1つであるモチベーションの低下を防止する必要があります。
力量管理で個人のスキルが把握できるようになると、スキルアップのスピードが早まります。結果的に個々の自己実現につながり、従業員満足度の向上が図れるでしょう。
適切な人材配置により企業の成長が促進される
限られた人材で企業が成長を続けるためには、個人の適性に合わせた人材配置を行うと効果的です。そのために、力量管理を実施して従業員が最も能力を発揮できる部署や業務を任せるように心がけると良いでしょう。
力量管理の課題
力量管理を導入したからといって、その効果を最大限に発揮できるほどうまく運用できている企業は多くありません。
多くの企業が抱える課題として、「すべて手入力なので人的コストがかかる」「管理が部署ごとなので組織内で情報共有ができていない」「自社の社内体制に適したスキル体系ができていない」などが挙げられます。
力量管理を始めた結果、誰かに運用の負担が集中したりコストが増加しては意味がありません。効果的かつ継続的に管理するための仕組みづくりが重要です。
力量管理を活用するためには
せっかく力量管理を始めるなら、その効果を最大化して長期的に運用したいものです。効果的に活用するために3つのポイントに注意しましょう。
効果範囲を認識する
ただ「国際規格のISOで定められているから」と運用を始めるのではなく、運用を始めるとどのような変化が期待できるのか知りましょう。結果的に会社の成長につながる効果が得られるので、積極的に活用することをおすすめします。
目的や目標を周知する
導入後に期待する変化は何か、目的や目標を明確にして社内に周知しましょう。共通認識が持てなければ、経営陣と評価を行う担当者との認識のズレが生じやすくなってしまうので注意が必要です。
継続的な運用のための仕組み構築を行う
いざ運用を開始しても、入力の煩雑さや通常業務を圧迫するほど入力に時間がかかるといった場合は、継続的な運用は難しくなります。形骸化させないことに留意して、効率的に入力や管理できるシステムの導入が望ましいでしょう。
力量管理表(スキルマップ)とは
力量を適切に管理するには、「力量管理表(スキルマップ)」の作成がおすすめです。これは、従業員個人の能力や保有資格情報をまとめた記録を指します。力量管理表を作成することで、どのスキルが足りていないのかなどを簡単に把握できるでしょう。
力量は定期的に評価、記録を続けるようにしましょう。これによって、会社全体で働き手全員の成長度合いを経過観察することも可能になります。
力量管理表を作成するメリット
6つのメリットを紹介します。
人材配置の際に活用できる
従業員個人の能力を把握すると、最適な人材配置を検討する材料になるでしょう。対人交渉が得意な従業員は営業部に配属したり、タスク管理能力が高い人材を営業担当者の補佐にしたりすればより効率的に業務が進むようになります。
力量管理表には従業員の保有資格や受講講座などを追記すると、より一層人材配置を検討しやすくなります。
採用や人材育成において活用できる
力量管理表を作成すると、「どのスキルを持った人材がどの部署に何人在籍しているか」が判別できるようになります。その結果、「どの部署にどのスキルを持つ人が何人足りないか」も明らかになるのです。
これは、採用活動において採用人数や求める人材像を決定する際に役立つでしょう。さらに、従業員の人材育成に活用して通常より短時間で個々のスキルを伸ばすことができます。
スキルやノウハウの共有に役立つ
力量管理表を作成したら、社内に公開して社内のスタッフが自由に活用できる環境をつくると良いでしょう。
これは、それぞれが力量管理表を参照して、仕事上の悩みを相談する相手やロールモデルとなる人物を探すためです。
個々の強みや弱みが明確化される
従業員個人の力量を公開すると、同僚がどのように評価されているかお互いに確認できます。個々の強みや弱みが明確化され、互いの競争心の向上が期待できるでしょう。さらに、社内のコミュニケーションが活性化する場合もあります。
人事異動の透明性を高める
力量は従業員の評価決定の参考になると同時に、人事評価の透明性を高める効果を持ちます。どのスキルが評価されて人事決定が為されたかを誰でも確認できるので、従業員の納得感が高く、具体的な目標を持つきっかけになります。
ISO9001認証だけで終わらせない!本当に役に立つ力量管理とは?「人事異動と引継ぎ編」
営業に活用できる
建築業など特定の資格やスキルを持っている従業員数が明示できれば、営業活動でのメリットが得られるでしょう。具体的かつ客観的な数値を提示できるので、他社や取引先からの信頼が得られ、成約率がアップするのです。
ISO9001における力量管理についてはこちら↓
力量管理表の作成方法
従業員一人ひとりのスキルについて管理を行うのは、従業員数が多いほどに骨の折れる作業です。
できるだけ情報をまとめて効率的に活用するために、力量管理表(スキルマップ)をつくりましょう。
具体的な作成方法を紹介します。
ステップ1:目的設定
力量管理表を作成して、何を実現したいのでしょうか。何のために活用するのか、その目的を明らかにしておきましょう。
例えば、目的が「営業活動への活用」と「人材育成への活用」では、必要な項目が異なります。
前者は営業スキルに特化した項目があれば問題なく運用できます。後者は、業務遂行スキルだけでなく、獲得してほしいスキルや仕事へのモチベーションや積極性といった項目も必要になるでしょう。
目的が明確でなければその後の運用方法がブレやすくなるため注意が必要です。
ステップ2:対象の設定
せっかくなら社内全体で「一気に運用を開始したい」と思うかもしれません。しかし、いきなり全従業員を対象に力量管理を行うのはリスクが高いため避けましょう。
まずは、試験的に運用を開始して、問題なく運用できる段階になってから対象範囲を広げることが大切です。
そのため、最初にスキルマップを作成する対象部門あるいは部署を選定しましょう。
ステップ3:項目の洗い出しと選定
スキルマップに記載する項目をすべて洗い出し、必要なスキルを厳選します。
項目の洗い出しは徹底的に行い、できるだけ細かく挙げておくと良いでしょう。より具体的かつ鮮明に必要スキルを社内で共有しやすくなります。
細かく洗い出すには、人事労務担当者だけではカバーしきれない業務内容があるはずです。現場の担当者や管理力、チームリーダー等にヒアリングを行って、漏れや認識のズレが出ないように注意しましょう。
ステップ4:評価基準の設定
スキルを評価する際の基本的な価値観を設定します。何段階評価にするのかといった内容や、達成基準を定めましょう。
基準はあいまいすぎても具体的すぎても危険です。
あまりに抽象度が高いと、評価者の主観が入りやすくなるので、評価にブレが生じやすくなります。
一方で、基準が具体的すぎると評価に要する時間と手間がかさみます。評価に取られる時間が多くなると、評価者の負担を増大させてしまうため注意しましょう。
簡潔かつ客観的に評価しやすい基準設定を心がけることが重要です。
ステップ5:評価者の選定
実際に評価を行う人材を選びます。
職場の上長やリーダーなどが担うケースが一般的です。しかし、客観的な評価を行うために、特定の人物を評価者として定めても良いでしょう。
いずれにせよ、評価者が過度に業務負担を抱えないような配慮は欠かせません。評価する項目数や担当する従業員数などをしっかりと把握した上で、評価者を選びましょう。
ステップ6:フィードバック
ある程度基本的な内容が定まったら、社内で試験的な運用をスタートすることをおすすめします。力量管理表が使いやすいか確かめるには、実際に使ってみるのが一番です。
あらかじめ対象としていた部署に対して、力量管理表の運用を依頼し、一定期間活用してみましょう。
その後、評価者からフィードバックを受けることが重要です。評価に迷った点や書きづらさを感じた点、基準がわかりにくい項目についてヒアリングを行います。
フィードバックの内容をもとにより質の高い力量管理表を作成しましょう。
ステップ7:社内で実施
改善した力量管理表ができたら、社内に展開して問題ありません。不安があれば再度試験的な運用を行っても良いでしょう。
全社的に運用する際は、迷いなく記入できるような記入マニュアルや、運用目的を共有するための説明資料もあわせて共有すると安心です。
必要なら社内に専門の問い合わせ窓口を設置したり、適宜社内アンケートを実施してフィードバックを受けたりすると良いでしょう。
一度運用をスタートしたからといって完成ではありません。社内の声を聞き入れながら、改善を続けることが大切です。
タレントマネジメントシステムで力量管理(スキル管理)
タレントマネジメントとの関連性を解説します。
タレントマネジメントにおける力量管理とは(スキル管理)
従業員の能力を会社が管理することで最適な人材配置や人員計画を立てることを「タレントマネジメント」と呼びます。
これは従業員個人のスキルを把握する力量管理とのつながりが深いため、組み合わせて活用するとよりその効果を発揮できます。
エクセルを利用した力量管理
システムをする前に試験的に運用するなら、まずはエクセルのような表計算ソフトで管理してみましょう。インターネット上に公開されているテンプレートを利用すると、簡単に力量管理の基本が整います。
エクセルを利用する場合、縦軸に業務内容やスキルを記載し、横軸に従業員名を記載するとわかりやすいでしょう。
業種や運用目的ごとに、項目を調整するとより使いやすくなります。
タレントマネジメントシステムを利用した力量管理(スキル管理)
効率的に力量管理を行うなら、タレントマネジメントに特化した専用のシステムを導入してみましょう。
さまざまな情報を一元管理しながら、効率的に会社の発展のために役立てることができるのでおすすめです。
力量管理で最適な人材配置を
力量管理は、従業員1人ひとりが持つ能力や資格などを可視化します。力量管理表を作成して社内に公開することで、企業はさまざまなメリットを得られます。
昨今注目を集めているタレントマネジメントとの関連性が高いため、力量管理機能を備えたタレントマネジメントシステムを利用すると効率的に効果を発揮できるでしょう。