コア・コンピタンスをどう分析する?基礎知識から見極めるポイントまで紹介
「自社の強みは何か」と聞かれたら、何と答えるでしょうか。
競合他社がいる中で自社が生き残り成長するためには、自社の強みを見つけて差別化する必要があります。
コア・コンピタンス(強み)の発見は、企業の競争力強化につながります。
今回は、分析方法や知っておきたい基礎知識などを詳しく解説します。
コア・コンピタンスとは
「コア・コンピタンス(Core competence)」とは、企業にとって欠かせない強み、他社にはない能力を指します。
自社「だけ」にある要素が、コア・コンピタンスです。
具体的には、
- 他社にないスキルレベルや高品質の製品・サービス
- 真似したくても真似できない(しにくい)能力
が該当します。
コア・コンピタンスの重要性
注目されている理由は3つです。
環境の変化に柔軟に対応できる
コア・コンピタンスを持つ企業は、市場や産業の急速な変化にも柔軟に適応できる傾向があります。コアとなる製品やサービスがあれば、それを深掘りしてさまざまな製品に転化できるからです。
時代の変化が大きい昨今、スピード感を持って対応しなければ企業の成長が妨げられてしまいます。その中で、他社を抜いて成長するためにも自社の強みを持つ必要があるのです。
事業を多角化できる
自社の強みとなるコア・コンピタンスが1つあれば、それを活用して事業展開を考えられます。事業の多角化の際にも大いに役立つでしょう。
応用可能な能力や知識である自社の強みをもって、挑戦したことのない事業領域でも成功を収めやすくなります。
すでにある強みを活かせば新たなビジネスモデルや製品をスムーズに開発し、同業他社よりも優位な地位を築くことができます。
社内で価値観を共有できる
企業のコア・コンピタンスは、その企業独自の価値観や文化とも関連しています。企業という組織の中でコア・コンピタンスに由来する共通の理解や価値観を共有することで、組織全体が一体となり、統一された方向性を持つことが可能です。
価値観の共有により、社内のチームや部署が協力しやすくなります。社内のコミュニケーションや意思伝達がスムーズになるため、企業全体のパフォーマンス向上につながるでしょう。
コア・コンピタンスの企業事例
3つの例を紹介します。
本田技研工業株式会社のエンジン技術
古くから日本の工業製品は、世界から高い評価を得ています。本田技研工業株式会社もまた、世界的に高い評価を得ている機械工業メーカーです。ホンダの自動車やバイクは、日本国内のみならず世界でも愛されています。
創始者の本田宗一郎は、工業製品の中でもエンジン開発に特に注力したことで知られています。自動車やバイクなどは大切な命を乗せるからこそ、心臓部であるエンジンは厳格な基準をクリアすることが重要だという考えです。試行錯誤の結果、安全性能の高いエンジン開発を実現しました。
本田技研工業株式会社のコア・コンピタンスは、このエンジンです。
エンジンは乗り物以外にも草刈り機や農作業機械など、さまざまな製品に利用されます。そこで、自社で開発した高性能エンジンをコア製品に据えて商品開発をしてきたのです。
セブン&アイ・ホールディングスのバイイングパワー
株式会社セブン&アイ・ホールディングスは、知らない日本人はいないほどの大企業ではないでしょうか。コンビニエンスストアの経営をはじめ、スーパーマーケットやフード・金融・ITサービスを手掛けています。
自社の強みとして掲げているのは、
- 大きな販売力による仕入れ力と購買力
- 全国的に展開する充実の店舗
- 顧客ニーズへの柔軟かつ速度感のある対応
の3つです。
これら3つの強みを活かして、全国に展開する店舗やサービスを複数業種で実現してきました。
ナイキのデザインとマーチャンダイジング
ナイキ(Nike Inc.)はアメリカに本拠地を置く多国籍企業です。日本国内でもスニーカーでよく知られています。
世界的に支持を集めるNIKEのスニーカーの特異性は、2つあります。
1つは「デザイン」です。一足ごとのデザインに非常にこだわっているナイキならではの唯一無二感は、多くの顧客を魅了しています。
もう1つは「商品計画・商品化計画」の意味を持つ「マーチャンダイジング」です。顧客に対して適切に商品を届けるプロセス全体は、ナイキの大きな強みだといえます。
ナイキは商品の価格設定や仕入れから製造などの過程、実店舗でのディスプレイなど、顧客に届くまでの過程1つひとつを大切にしているのが特徴です。
コア・コンピタンスの理解を深める用語
類似語との違いを解説します。
ケイパビリティとの違い
「ケイパビリティ(capability)」とは、「能力、才能、手腕、力量」などの意味を持つ言葉です。ビジネスにおいては、企業の組織的な能力あるいは他社より優位な強みを指します。
1992年に発表された「Competing on Capabilities: The New Rules of Corporate Strategy」という論文をご存じでしょうか。この論文では、「コア・コンピタンスはバリューチェーン上の特定の技術力や製造能力。一方ケイパビリティは、全体に及ぶ組織能力。」と解釈されています。
コア・コンピタンスもケイパビリティも、企業の強みを意味する点が共通しています。しかし、強みを持つ範囲が異なるといえるでしょう。前者は事業活動の機能ごとに持つ強みであり、後者は企業全体の強みだといえます。
コア・コンピテンシーとの違い
コア・コンピタンスとコア・コンピテンシーの違いは、対象にあります。前者が企業組織そのものを対象とするのに対し、後者の対象は個人です。
コンピテンシー(competency )は「行動特性」と訳されます。高い成果を出している従業員の行動や考え方の特徴を分析し、その特徴を備えているか確認する指標となるものです。
そのため、企業全体の強みなのか従業員個人の持つ強みなのかという点で2つの言葉が異なるとわかるでしょう。
コア・コンピタンスを見極める5つの視点
「自社の強みは何か」と問われたときに答えられないなら、まずは自社のコア・コンピタンスを見極めることがスタート地点となります。
何を基準に見極めるべきか、何をコア・コンピタンスと判断すべきかを迷った際は、5つの視点から自社を分析することをおすすめします。
このとき大切にしたい5つの要素を解説します。
模倣可能性(Imitability)
自社の強みとは、同業他社でも簡単に真似できるものではありません。模倣できる可能性がどれほどあるかを考えると、自社の強みを見つけやすくなります。
競合となる同業他社が持てない強みがあれば、自社は優位性を持って事業を継続できるはずです。
ただし、技術の発展などを理由に、自社の強みを他社が模倣できるようになるおそれがある点に注意しましょう。慢心せずにスキルや能力を高める努力を続ける必要があります。
移動可能性(Transferability)
コア・コンピタンスが異なる事業領域や市場においても活用できるかどうかは、「移動可能性」の有無で確認できます。
仮に特定の事業領域で自社が優位性を持っていても、それが他の分野で活用できない場合、その分野での企業競争に対応できる可能性は低いといえます。
代替可能性(Substitutability)
唯一無二の技術や製品などは、代替可能性があります。他の能力やリソースで置き換えられるかどうかという視点を持つと、自社のコア・コンピタンスを見極められます。
何でも取って代われる状態は、強みとはいえません。製品の完成度だけではなく、コンセプトの独自性やユニークさなど、他にはない個性を見つけましょう。
希少性(Scarcity)
特定のコア・コンピタンスが組織内外で限られた数しか存在しない状態なら、希少性が高く自社の強みを発揮できるといえます。
数が少なく珍しい技術やスキル、魅力を持っていれば、他社よりも優位に立つことが可能です。
耐久性(Durability)
自社の強みを持っていたとしても、それが継続的でなければ企業の優位性は保たれません。組織が持つコア・コンピタンスが一時的なものでなく、長期的に維持できるような仕組みや戦略があるかどうかが重要です。
耐久性があると、他社の追随を許さずに自社が成長を続けられるといえるでしょう。
コア・コンピタンス分析のやり方
正しく分析するステップを解説します。
1.事業と製品を洗い出す
まず行うのは、自社の事業と製品の洗い出しです。強みを理解するためには、何よりも自社のことを知る必要があるでしょう。
どれだけ小さな規模の事業であっても、どれだけ販売数が少ない製品であっても、すべてリストアップすることをおすすめします。重要ではないと思っても、そこに自社の強みが隠れている可能性があるためです。
2.コア製品を挙げる
自社に関わる全要素を洗い出せたら、自社にとって核だといえる「コア製品」を探してみましょう。
コア製品と聞くと自社の主力商品だと思いがちですが、ここでいうコア製品は「自社事業や最終製品に欠かせないベースの製品」を指します。
例えば、
- エンジン
- コンプレッサー
- ネジ
など、1つの製品を生み出すために欠かせない製品が該当します。
製造業では想像しやすいものですが、サービス業のように製品が無形でもコア製品は存在します。顧客対応やディスプレイ、接客態度などの要素が、コア製品になり得ます。
3.コア製品を選別する
コア製品と思われる要素を挙げたら、その中から「確かにコア製品だ」といえるものを選別しましょう。
このとき「模倣可能性」「移動可能性」「代替可能性」「希少性」「耐久性」の5つの視点を持って選別にあたることが重要です。
1つの最終製品にしかならない候補や最終製品にならない候補は、候補から外して考えても良いでしょう。この過程が自社の強みを見つけるベースとなるため、選別は慎重に行う必要があります。
4.コンピタンスを考え、グループ化する
コア製品を見つけられてようやく、自社のコンピタンスを検討する段階に入ります。
コア製品にはどのような技術が使われているのか、製品はどのような工程でつくられるのか、誰がどのように関わっているのかなど、多角的な視点を持って強みだと思える要素をすべて洗い出しましょう。
全要素が洗い出せたら、それらをグループ化します。グループ化する判断基準や名称は、自由に決めて問題ありません。分類できない要素があっても不都合はありません。
5.コンピタンスを評価する
グループ化したコンピタンスを確認すると、自社の強みがどのような効果や特性を持っているかを明らかにできます。それらを企業として評価しましょう。
見つけたコンピタンスについて、
- 自社の強みとして強化していくか
- 本当に顧客に価値を提供できるか
- 技術の発展等で将来的に真似される可能性があるか
- 今後の事業構想に役立つか
などを評価します。
評価の結果は企業のビジョンや事業計画に大きく関わるため、経営陣やマネジメント層を含めた関係者全員で実施することをおすすめします。
コア・コンピタンスを生み出すのは「人材」
企業の強みとはすなわち、その企業の歴史や取り組み、考え方を反映した結果です。企業文化や企業の製品あるいはサービスを作り上げてきた人材こそが、コア・コンピタンスを生み出した張本人だといえるでしょう。
昨今はSNSの普及によって、企業自らが自社の色を出して発信できる時代です。SNS担当者の人柄が人気を集め、独自性のある親しみやすさを獲得した企業があるように、人材によって新たなコア・コンピタンスが生まれることも少なくありません。
企業は人材のスキルアップやキャリアアップを積極的に支援し、新たなコア・コンピタンスの醸成につなげると良いでしょう。
自社の強みを打ち出していきましょう
競合他社と差別化につながる要素の1つに「コア・コンピタンス」があります。自社の強みを理解するには、複数のステップを踏む必要がありますが、強みを把握するとその後の事業計画や経営方針の打ち立てがスムーズになります。
自社だけの技術やスキル、個性があると、顧客から選ばれるブランド力が手に入ります。さらに、変化の激しい昨今の時代を生き抜く競争力が高まるでしょう。
さまざまな面でメリットのあるコア・コンピタンスを見つけることは、激化する競争社会に残る企業にとって大きな課題です。5つの視点を持って、自社だけの強みを見つけましょう。