人事必見!ビジネスにおけるエンゲージメントの意味とエンゲージメント向上の具体的施策
「エンゲージメント」という言葉を知っている人事担当者は多いのではないでしょうか。雇用の流動化により、終身雇用が当たり前だった時代から、転職が当たり前になりつつある現代において、企業は優秀な人材の流出を防止する必要に迫られています。
今回は、人材流出の防止やコミュニケーションの活性化などに効果的なエンゲージメントの人事領域における意味や、向上の必要性および具体的な向上方法などを解説します。エンゲージメントを理解し、効果的に利用できれば、自社の成長に役立つでしょう。
エンゲージメントとは
「エンゲージメント(engagement)」とは、直訳すると「婚約」「誓約」「約束」「契約」という意味を持つ言葉です。一般的にはエンゲージリング(婚約指輪)として耳にする機会があるでしょう。
「エンゲージメント」は、どのシチュエーションで使うかによって意味が変化する言葉ですが、共通して言えるのは、「より深いつながりや関係性」を表します。
例えば、マーケティングにおけるエンゲージメントは、消費者がある企業やあるブランドに対して強い愛着を持つことを意味します。「このブランドの商品だから」「あの会社が販売しているから」と、商品やサービス購入の動機になるのがエンゲージメントだといえます。
企業におけるエンゲージメントの意味
企業での意味を詳しく解説します。
エンゲージメントの定義
マーケティング業界や一般的にも知られている「エンゲージメント」という言葉。人事領域で使う場合の意味は、評価する対象によって2つに分けられます。1つは、対顧客、もう1つは対従業員のエンゲージメントです。
人事領域で使う場合の多くは、自社の従業員との関係性を意味します。つまり、人事担当者にとって「エンゲージメントを高める」というのは、「自社の従業員の愛社精神を高め、従業員の貢献意欲を引き出す」ことです。
会社で働いている1人ひとりが会社を愛し、愛着心を持ってお互いに貢献し合える関係を目指すことが、エンゲージメントの向上に取り組む目的だといえます。
従業員のエンゲージメントとは
一般的に用いられる場合に「約束」や「契約」という意味を持つように、企業と従業員とのエンゲージメントは「従業員が企業の発展のために貢献し、企業が従業員の貢献に応える」と約束した状態を指します。
すなわち、従業員1人ひとりが会社に対して抱いている「愛着心(愛社精神)」や「思い入れ」だと解釈できるでしょう。
エンゲージメントの高い企業ほど、貢献意欲の強い従業員が多く在籍しており、会社とともに成長しようと努力します。従業員のエンゲージメントは、従業員1人がどれだけ勤務している企業に対して貢献意欲を持って励むかを知る指標となるのです。
これにより、企業の働きやすさややりがいの大きさ、経営ビジョンへの共感度などを把握できるでしょう。経営陣やマネジメント職からは分からなかった、現場のリアルな声を聞くきっかけとなるものです。
なぜ従業員エンゲージメントが必要なのか
従業員エンゲージメントが注目を集めている背景には、終身雇用制度の崩壊や実力主義の評価制度が台頭してきたことが挙げられます。
転職するのが容易になった結果、実力のある人ほどより高待遇な他社へ流出しやすくなっているのです。これは企業にとって大きな損失につながりかねません。そのため、企業は優秀な人材の流出を防ぐ施策を講じる必要があります。
人材流出に歯止めをかける際に効果的なのが、従業員エンゲージメントの向上です。企業と従業員のつながりが給与や福利厚生などの待遇だけでは、従業員は高待遇な他社に移りやすくなります。待遇以外の魅力で従業員を自社に確保しておくために、仕事のやりがいや愛社精神の育成が重要なのです。
エンゲージメントの高くなった企業は、営業利益率や生産性が向上したという調査結果が公開されています。つまり、エンゲージメントの向上は、従業員の離職を防ぐだけでなく、従業員のモチベーションを高め、結果的には企業の生産性や業績アップにつながるといえるでしょう。企業が優秀な人材を確保した上で、さらなる成長を続けていくために、従業員エンゲージメントが必要です。
顧客のエンゲージメントとは
顧客のエンゲージメントとは、企業が提供する商品やサービスを購入したり利用したりする人との関係を表す言葉として使われています。顧客が企業に良いイメージを抱いており、好感度の高さが商品購入につながる状態は、顧客のエンゲージメントが高い状態だといえます。
顧客のエンゲージメントが高い状態を保つと、自社の商品やサービスを購入する顧客との関係性がより強固になります。会社に対する信頼感や親愛の情が増すため、顧客はその会社やブランドのファンとして固定客になってくれるのです。
そうすると、企業の商品がより売れやすくなるため業績向上が期待できます。それだけでなく、親愛度が高まって顧客の生の声が届きやすくなります。顧客からの改善点などに関する意見を受けて改善に努めれば、より良い価値提供ができるようになるでしょう。
従業員満足度との違い
エンゲージメントについて理解を深めると、「従業員満足度と何が違うのか」と疑問を持つ人がいるでしょう。この2つの言葉は確かに類似していますが、意味は似て非なるものです。
従業員エンゲージメントは、「従業員がその企業に抱く愛着心や貢献意欲」を指します。その一方で従業員満足度は「従業員がその企業の待遇、業務内容、職場環境に満足しているかどうか」を表します。
従業員満足度が高いと、働き手は勤務環境に満足しているので離職を考えることなく、優秀な人材の流出を防ぐことができます。しかし、満足度が高いからといって企業の業績が向上するとはいえません。むしろ、高待遇を実現するために人件費や労務費がかさみ、業績を圧迫する可能性があります。
その反面、従業員エンゲージメントは、従業員の成長と企業の成長がリンクしており、相互に良い影響を与え合える関係性の構築が図れる考え方です。
エンゲージメントとモチベーションの違い
エンゲージメントと良く似た言葉に「モチベーション」があります。モチベーションは日常的にもよく使われているので、漠然と意味を理解している人は多いでしょう。しかし、具体的な意味の違いを問われると、答えにくいのではないでしょうか。
ビジネスでのエンゲージメントは、従業員と会社という組織の心のつながりを指します。従業員が所属する企業への高い貢献意欲を持っている状態は「エンゲージメントが高い」といえます。
一方、「モチベーション(motivation)」は「動機づけ」といった意味の言葉です。ビジネスでは「仕事へのやる気」や「業務に対する力の入れ具合」と言い換えられるでしょう。
従業員のモチベーションを高めると、仕事に意欲的に取り組めるようになります。しかし、モチベーションが上がる動機が「自分のため」となるケースが多いため、注意が必要です。
両者の違いは、仕事に打ち込む理由にあります。エンゲージメントは会社や部署などへ「貢献したい」という気持ちが前提にあるものです。モチベーションは従業員個人の「楽しい」「高く評価されたい」という気持ちから高まるケースがあります。
企業のエンゲージメントが上がらない4つの原因
エンゲージメントを高める施策を実行する前に、なぜ上がらないのかという原因を知っておきましょう。根本的な原因を知らなければ、再発防止につなげることが難しくなります。表面的な対策は本当の問題解決にはならず、同じ事態を繰り返す恐れがあるからです。
根本にあると考えられる、4つの原因を解説します。
原因①労働時間が大幅にオーバー
日本の企業の特徴として挙げられるのが、「勤務時間制度」です。これは、あらかじめ決められた労働時間に従って、規定の時間数は必ず就業する仕組みです。
フルタイム勤務の場合、一般的に休憩を含む9時から17時までの8時間労働となります。もしそれに満たない場合は賃金が減らされる可能性があるでしょう。
逆に、規定の時間数だけ働いていれば、業務の成果はあまり重視されません。たとえ短時間で効率的に業務を終えたとしても、早く帰宅することはできず、さらに業務を課されます。
この仕組みが、従業員エンゲージメントを低下させている要因の1つです。
「どうせ収入が変わらないなら、楽をしたい」と考え、仕事に前向きに取り組まなくなる従業員が発生しかねません。
従業員の能力が最大限発揮されず、従業員が仕事を楽しめなくなったり、会社全体の生産性が低下したりします。
原因②企業ルールが厳しい
昨今はコンプライアンス遵守が重視され、企業はどれほどコンプライアンスに配慮しているかが注目されるようになりました。こうした背景から、「オーバー・コンプライアンス(過剰法令順守)」に陥る企業が増加しています。
問題発生時に再発防止策を講じるのは自然なことですが、それが行き過ぎた結果、オーバー・コンプライアンスとなっている可能性があるので注意が必要です。
例えば、再発防止をするためにダブルチェックとして工数を増やしたり、監視体制を強化したり、事務手続きをより複雑化したりしていないでしょうか。
過剰なリスクマネジメントは、従業員にとって精神的な負担となります。「信用されていない」と感じて仕事へのやる気が低下するケースがあるため、エンゲージメント向上を妨げてしまうでしょう。
原因③社員同士の連携が取れていない
従業員にとって最も身近な問題は「人間関係」だといえます。
同僚や後輩、上司との円滑なコミュニケーションができていなければ仕事はやりにくく、思ったことを素直に発言できなくなってしまいます。人間関係が構築できなければ「働きにくい」と感じ、エンゲージメントが低下します。
エンゲージメントの低下は、職場の雰囲気を悪くさせる可能性があるでしょう。それによりさらにコミュニケーションが取りにくくなり、エンゲージメントが低下するといった悪循環に入ってしまうかもしれません。
従業員同士が連携してスムーズに業務を進めるには、日常的な雑談や気兼ねない関係構築が重要です。連携が取れていないと、情報共有不足や認識不足によるミスや損失が発生しやすくなるでしょう。
原因④組織形態が複雑化
企業の規模が大きいほど、組織形態が複雑化するものです。その複雑化はときに、部署間やチーム間の連携を失わせてしまいます。横の関係が希薄になると、自分たち以外のチームや部署が何をしているのかが分からず、いざという時の連携が取れないのです。
さらに、やり取りをする際の時間的なロスや手続きの多さが影響して、意思決定から行動するまでに多大な時間を要してしまうでしょう。
やり取りが増えることによるコミュニケーションコストの増加は、従業員のやる気を削いでしまいます。その結果、仕事をしている意義が見出しにくくなってエンゲージメントが低下します。
エンゲージメント向上による3つのメリット
3つのメリットを紹介します。
メリット①:売上や利益が上がる
エンゲージメントを高めることは、従業員1人ひとりが企業のビジョンや理念に共感し、やりがいを持って業務に向き合える状態を作り出します。「この会社のために頑張ろう」と高い貢献意欲を持つため、業務効率が上がり、生産性アップが期待できるでしょう。
貢献意欲が高い従業員は、自らのスキルアップに積極的になりやすく、業務に関連する資格の取得に励んだり、講座やセミナーへ積極的に参加したりする可能性が高まります。従業員が身につけたスキルや経験を業務に活かすことで、企業は利益の拡大化やさらなる業務効率のアップが見込めるのです。
メリット②:優秀な人材の離職率が下がる
エンゲージメントを高めるメリットは、給与や福利厚生だけを理由にした離職を防止できることです。従業員が企業に対して愛着心を持ち、企業のビジョンに共感していれば、従業員は「この会社で長く働きたい、力になりたい」と考えます。
優秀な従業員の早期離職を防ぐためには、エンゲージメントを高め、十分なやりがいを持って仕事に向き合える環境づくりに努めることが大切です。そうした環境づくりに取り組むことで、従業員自身が「会社に貢献したい」という意欲だけでなく「会社に貢献している」という実感を得られるようになるでしょう。これがさらなるモチベーションアップにつながり、従業員は退職を考えることなく仕事を楽しむようになります。
人材流出にお悩みの際は、「優秀な人材が辞めるのはなぜ?退職する理由と優れた方を手放してしまう会社の特徴」をご覧ください。
メリット③:社員のモチベーションが上がる
高いエンゲージメントは、従業員が会社に愛着心や帰属意識を持っている状態を意味します。「会社のために力を発揮したい」という貢献意欲が高まるような職場環境は、従業員にとっては「会社のために力になっている」という実感も与えられます。
そのため、「意味のある仕事をしている」という達成感や自己肯定感から社員のモチベーションが上がって、より仕事に前向きに打ち込めるようになるのです。
モチベーションの高い従業員は積極的に仕事を進めるので、会社全体の生産性アップにもつながるでしょう。
従業員のやる気について詳しくは、「モチベーションマネジメントのメリットは?やる気を高める方法と合わせて解説」で紹介しています。
エンゲージメントを高めるためには?
3つのポイントをお伝えします。
現状の把握
効率的かつ効果的にエンゲージメントを高めるためには、自社の現状把握が重要です。従業員1人ひとりが、今の業務にやりがいを感じているのか、楽しめているのかを確認して、現状の課題把握をしておくようにしましょう。
アンケート調査などは、社内のリアルな声を集めやすいのでおすすめです。
会社のビジョンを発信
エンゲージメントの高い状態をつくるために大切なのが、従業員が会社のビジョンや理念に共感できていることです。「この会社に貢献したい」という強い気持ちを持ち続けてもらうためには、目指すゴールが同じことが欠かせません。
そのため、まずは会社のビジョンを知ってもらうために会社全体が目指しているゴールを明確にして社内に発信しましょう。発信が不十分だと、せっかくのビジョンが社内に浸透せず共感を得にくくなってしまいます。
情報発信するのが1度きりでは効果が薄れてしまうため、定期的に社内報を発行してビジョンの周知を意識しましょう。定期的に継続して行うことが大切です。
環境づくりや社内コミュニケーション活性化
エンゲージメントの高さは、社内の職場環境や労働環境にも左右されます。従業員がやりがいを持って業務に向き合うためには、従業員の適正を見極め、適材適所に配置する必要があるでしょう。
例えば、単調な作業が苦手な従業員がルーティンワークの多いデータ入力を担当すると、集中力が続かず作業効率が下がります。しかし、細かいミスにも気づく注意深さと単純作業が苦にならない従業員にデータ入力を任せれば、人的ミスの少ない状態で効率的に仕事が進むようになるでしょう。
適性や性格に合った業務を任せることで、仕事の成果が出やすくなりモチベーションアップが期待できます。成果を評価されればますます仕事のやりがいが増し、エンゲージメントも高くなっていくでしょう。企業は、適材適所な人材配置を心がけることが大切です。
また、どれだけ適性がある業務だとしても、心身への負担が大きすぎてはモチベーションの維持は難しくなります。ある優秀な従業員1人に業務が偏りすぎていないか、長時間労働が当たり前になっている部署はないかなどを確認し、現場の働きやすさを確認するようにしましょう。必要に応じて労働環境の改善を行い、従業員がプライベートとのバランスを取りながら仕事を楽しめる環境づくりに取り組むことが求められます。
従業員のエンゲージメント向上に大切なのは、労働環境だけではありません。職場の人間関係も大きく関わることに注意しましょう。職場の雰囲気が悪く聞きたいことを聞けない環境では、ストレスが大きくなります。
企業は従業員同士のコミュニケーションが活性化する工夫をしましょう。そうすることで、企業に対する帰属意識の向上を図ることができます。例えば、外部講師を招いて社内研修を実施し、業務の進め方やビジネスマナーの習得を促したり、メンター制を導入して疑問を解消しやすい環境をつくったりすると効果的です。
特に、社内の教育体制を整えることは、教育される側だけでなく指導する側の従業員にとってもエンゲージメント向上につながります。これは、指導を通して改めて会社の事業の意義を見直すきっかけになるほか、指導する立場になり当事者意識を持てるためです。
エンゲージメントの調査方法
エンゲージメントの調査方法を紹介します。
一般的にはアンケート調査を行う
エンゲージメントの調査をする時に用いられる手法で一般的なのがアンケート調査です。簡単に実施でき、時間的・人的コストも少なく済むことから、現状把握をする際に特に多く利用されます。
エンゲージメントは定期的に継続して測定することが大切なので、月に1回から半年に1回程度の頻度でアンケート調査を行うと良いでしょう。また、回答する際の負担をできるだけ少なくするために設問数は2問程度、長文を書く必要がなくイエスかノーで答えられる設問にすることがおすすめです。
一般的にはアンケート調査が行われますが、その他にも下記のようなエンゲージメントの調査方法があります。
・キーボードで打ち込んだ文字数から、どれだけ集中しているか調査
・顔認証機能を利用して、表情から仕事への没頭感を測定
・心拍数などの生体データから、エンゲージメントを測定
エンゲージメント測定のためのシステムなどの導入コストや労力を考慮しながら、自社に合った方法を選択してください。
従業員エンゲージメントの3つの指標
従業員エンゲージメントが高い状態とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。測定の基準となる指標があれば、より客観的に自社のエンゲージメントを把握できます。
3つの指標を紹介しましょう。
- 総合指標
従業員が「今、企業を総合的にどう思っているのか」を把握するための指標となります。これは、「eNPS」「総合満足度」「継続勤務意向」という3つの構成要素から判断することができます。
「eNPS」は「従業員ロイヤルティ」と言い換えることができ、従業員が勤め先の企業を親しい友人や家族に薦めたいと思っているかを表します。多くの人は、企業に対してポジティブな印象がなければ、友人に自分の会社を推薦したいとは思いません。従業員ロイヤルティを測ると、従業員が考える企業全体への評価を知ることができます。
「総合満足度」は、従業員個人が勤め先企業に満足しているかどうかを把握できます。そして、「継続勤務意向」ではどの程度長くその企業で働き続けたいと思っているのかを知ることができるでしょう。
- レベル指標
就業している仕事内容に対してどれくらい集中して取り組めているかを測る指標です。
レベル指標は3要素に着目した調査を行います。1つは、担当する業務に感じるやりがいの大きさを表す「熱意」です。
また、熱中していたらいつの間にか時間が経っていたという経験がないでしょうか。仕事にどれだけ集中しているかという「没頭感」も、レベルを測定する要素の1つです。
さらに3つ目の「活力」は、レベル指標に大きく影響します。仕事を楽しみながら生き生きと働ける職場環境が整っているかが確認できます。
- ドライバー指標
従業員のエンゲージメント向上の要因となる指標です。
ドライバー指標を構成する要素は、職場の人間関係や職場環境などに関わる「組織ドライバー」、職務や仕事内容そのものに対する満足度や業務の難易度に関わる「職務ドライバー」が影響します。
さらに、3つ目の要素として個人の資質が業務に及ぼす影響に関わる「個人ドライバー」の3つがあります。
ドライバー指標は、「自分の仕事を褒められたり認められたりする機会はあると思うか」「自分が所属する部署や会社全体の目標や戦略を理解しているか」などの設問で測定されます。
従業員エンゲージメント調査の質問例
従業員のエンゲージメントを調査するためには、比較的簡単に実施できるアンケート調査が有効です。アンケート調査では、従業員の負担を極力減らして定期的な調査に協力してもらえるように工夫しましょう。
フリーコメント欄をなくし、アンケートに記載する質問はイエスかノーで答えられるものにすると、アンケートの回答者の負担を減らせます。ただし、回答が2択では正確な現状把握をしにくいため、1~5(強く反対、やや反対、どちらでもない、やや同意、強く同意)の中から選択してもらう形式がおすすめです。
エンゲージメントの「総合指標」「レベル指標」「ドライバー指標」をそれぞれ測るために適した質問をいくつか紹介します。
エンゲージメント総合指標を測る質問例
・3年後もこの会社で働いていると思うか?
・親しい友人にこの会社を転職先として薦めたいか?
・この会社に所属していることを誇りに思っているか?
・会社の経営陣を信頼しているか?
エンゲージメントレベル指標を測る質問例
・終業時間が近づくと時間の進みが遅く感じることがあるか?
・仕事では自分の強みを活かせていると感じるか?
・同じ部署のメンバーは仕事に専念していると思うか?
・仕事をしていて気づいたら時間が経っていることはあるか?
・仕事を進めるために必要な環境が十分にそろっているか?
エンゲージメントドライバー指標を測る質問例
・職場の同僚や上司から自分は尊重されていると感じるか?
・会社の経営ビジョンを理解しているか?
・会社や社会にとって自分の仕事に価値があると思うか?
・1ヶ月以内に仕事の成果を褒められたか?
従業員エンゲージメントサーベイの例
サーベイとは「調査」という意味を持ちます。エンゲージメントサーベイは、エンゲージメントを測定して組織の現状を知る社内調査のことを意味します。
エンゲージメントサーベイの中でも、欧米などでも一般的に用いられる代表的な2つを紹介します。
- eNPS
eNPS(Employee Net Promoter Score)とは、従業員ロイヤルティを可視化する指標です。eNPSはアメリカにある大手コンサルティング会社、ベイン・アンド・カンパニーの名誉ディレクターであるフレデリック・F・ライクヘルドが提唱しました。
eNPSは、それまで数値化することが難しかった顧客ロイヤリティを客観的に測ることができる指標として高く評価され、現代でも広く利用されています。
具体的には、「あなたはこの企業を、家族や友人に薦めたいと思いますか?」というアンケートを実施することで測定されます。
回答は「とても薦めたい」から「まったく薦めたくない」までの10段階に分けられ、薦めたいと答えた人の割合から薦めたくないと答えた人の割合を引いた数値が、顧客ロイヤリティの高さを表すスコアになります。
- Q12(キュートゥエルブ)
エンゲージメントを測定する方法として知られているのが、アメリカの調査会社であるギャラップ社が開発提供する「Q12」です。「Q12」では、名称の通りわずか12個の質問に答えるだけでエンゲージメントを測定できます。
Q12で使用される質問は以下の12個です。
①あなたは今、仕事で期待されていることが何か知っていますか?
②あなたは、仕事を進めるために十分な環境が整っていますか?
③あなたには、仕事で成果を出すため機会が十分にありますか?
④過去1週間で、成果に対して評価されたり褒められたりしましたか?
⑤職場の同僚や上長は、あなたのことを尊重し気にかけてくれていますか?
⑥職場にあなたを激励してくれる人はいますか?
⑦あなたの意見は尊重され、聞き入れられていますか?
⑧あなたの会社のミッションやビジョンは、仕事に誇りを持たせてくれますか?
⑨あなたの同僚は、成果を出すことに力を注いでいますか?
⑩あなたは職場に親友がいますか?
⑪過去6カ月間で、あなたの仕事の進捗について誰かと話しましたか?
⑫昨年、あなたは仕事を通して学び、成長することができましたか?
これらの質問を通して、従業員へどれだけ会社のビジョンや価値観が浸透しているのか、職場環境の評価、人間関係の評価、従業員個人の成果に対する評価を知ることができます。
分析における注意点
従業員エンゲージメントを測定した後は、アンケート結果などをもとに自社の課題や改善点を分析します。この時、相関関係と因果関係をはっきりと区別して考えることが重要です。
相関関係とは、お互いに影響しあっている関係を指し、どちらかが変化するともう片方も変化します。因果関係とは、原因となる物事とその結果生じた物事がある関係を指します。
例えば、「残業時間が長い人ほど昇進している」という事実と、「昇進する人は残業時間が長い」という事実は相関関係にあります。しかし、これを「残業時間が長いから昇進できる」という因果関係に捉えると危険です。事実を間違って認識してしまうと、従業員エンゲージメントを高めるために「残業時間を長くするよう強いる」という結論に到達しかねません。
似ているようで意味が異なる相関関係と因果関係を区別して、エンゲージメントの測定結果を正確に分析するように注意しましょう。
エンゲージメント向上のための具体的な施策
5つの施策を紹介します。
従業員の価値観を把握する
「十人十色」という言葉があるように、従業員1人ひとりが持っている価値観は異なります。
仕事を楽しんでいて積極的にキャリアアップしたい人がいれば、仕事とプライベートの時間をバランスよく取るために残業はしたくない人がいます。仕事はあくまで生活のための収入源と考え、プライベートの時間を多く確保したい人もいるでしょう。
それぞれの考え方をしっかりと把握して、適材適所な人材配置を心がけることが大切です。従業員全員の希望に沿っては、会社経営がとどこおる可能性があるので、全体的なバランスを見ながら従業員が働きやすい環境づくりに取り組みましょう。
そのために、定期的なヒアリング調査やアンケート調査を行って従業員の価値観とその変化を定点観測することがおすすめです。
マネジメント層を教育する
マネジメント層の教育が、エンゲージメント向上に役立ちます。エンゲージメントには、従業員自身が評価されている、認められていると感じられる職場環境かどうかが大きく影響します。職場の人間関係や雰囲気も従業員のモチベーションに影響するので、各部署やチームのリーダーなど、マネジメント職に就く人の手腕が問われるのです。
マネジメント層の教育には、コーチングについて学ぶ研修を実施したり、メンターシップ制を導入して若手従業員のうちからマネジメントへ関わってもらったりすることが有効です。
タレントマネジメントを活用する
タレントマネジメントの活用もエンゲージメントを高めるために効果があります。
タレントマネジメントとは適切な人材配置を行うことです。従業員1人ひとりの能力を最大限に活かせるように人事担当者が采配するのです。
人と話すことが好きな従業員が黙々と作業するデータ入力をしては、やる気は削がれ仕事を楽しめなくなります。営業部に配属すると営業スキルが開花して、会社の業績アップに貢献する可能性があるでしょう。成果が出れば従業員自身のモチベーションがアップするため、エンゲージメントの向上が見込めます。
より詳しい内容は「タレントマネジメントとは?システム導入までの手順と選定ポイント」で紹介しています。
従業員にオーナーシップを持たせる
エンゲージメントの向上のために、従業員にオーナーシップを持たせると良いでしょう。当事者意識を持って仕事に取り組める環境づくりと意識づけを行うと、従業員は自発的に仕事に向き合い、成果を上げる努力をしてくれます。
指示待ちになって言われたことしかやらない状態では、成果は上がりませんし、従業員のモチベーションは低いままです。従業員が責任感とやる気を持てるように、オーナーシップを持たせてみると、社内コミュニケーションの活性化やモチベーションアップが期待できます。
リーダーシップを推奨する
リーダーシップの推奨はエンゲージメントを高めるために効果的です。リーダーシップのある人材が1人いれば、管理者やマネジメント層の管理下になくてもリーダーとして組織的に仕事を進めてくれるでしょう。
頼れるリーダーがいると、社内の士気は高まります。結果的にモチベーションアップや仕事へのやりがいを感じ、エンゲージメントが高まるのです。
リーダーシップのある人を適切に評価し、リーダーシップのある人を重要視する評価制度を構築することをおすすめします。
エンゲージメントが上がらないときの対策
企業によっては、自社に合わせて施策を打ってみても、なぜかエンゲージメントが上がらないと悩むかもしれません。思うように効果が表れないときは、現状の見直しをしてみましょう。
エンゲージメントに関わる主な要素は、
- 従業員の承認欲求(努力や能力が認められているか)
- キャリアビジョンが描けるか
- 良好な人間関係が築けるか
- 納得できる給与が支給されるか
です。
4つの要素において大きな変化がない場合は、施策の変更が必要です。エンゲージメント向上につながる要素は、従業員一人ひとり異なります。自社にどのような人材が多いのか見極め、それぞれのエンゲージメントを高められるような仕組みづくりに尽力していきましょう。
優秀な人材の流出防止のためにエンゲージメント向上を
ビジネスにおけるエンゲージメントは、企業と顧客または企業と従業員の関係性の深さを知るために重要です。従業員満足度とは異なり、従業員がどれだけ会社に対する愛着を持ち貢献意欲があるかを知ることができるのが従業員エンゲージメントです。
従業員エンゲージメントを高めると、会社の売上や利益の上昇が期待できるほか、優秀な人材の流出防止にもつながります。
会社のビジョンを社内に周知したり、現状を正確に把握したりしながらエンゲージメントを高め、従業員とともに会社の成長を図っていくと良いでしょう。
測定方法はアンケート調査が一般的ですが、調査結果を正しく分析して改善に役立てることが重要です。具体的には、従業員の価値観やマネジメント層の重要性を理解すること、適材適所な人材配置を心がけること、従業員がオーナーシップを持つことやリーダーシップのある人材を評価するなどの施策が有効です。
自社の状況に合った施策を検討しながら、従業員エンゲージメント向上を目指していきましょう。