【2023年度最新】同一労働同一賃金とは?罰則有無や例外についても
法改正により、2020年4月から中小企業を含む全ての企業に同一労働同一賃金が適用されました。
同一労働同一賃金は、雇用形式や契約内容に関わらず、同じ仕事をする従事者は同じ賃金や待遇であるべきという考えを指します。労働環境の公平性や格差問題の改善に関わる同一労働同一賃金は、企業を継続的に発展させるためにも重要な取り組みとなります。
企業が同一労働同一賃金を実現するには、導入背景や、考え方を押さえておくことが大切です。今回は、同一労働同一賃金の概念やメリット・デメリット、罰則や例外などについて紹介します。
同一労働同一賃金とは?
同一労働同一賃金とは、労働者に公平な賃金や待遇を提供するための仕組みです。同一労働同一賃金では、雇用形態や契約内容に関わらず、業務内訳が同じ労働者には同じ賃金となるべきという考え方が示されています。
同一労働同一賃金は、賃金格差の是正や労働環境の改善を目指し、労働市場の公正性を高めるために導入されました。本制度の理解は、多様な雇用形態の労働者が平等に評価され、社会的な公正を実現するための基盤となる概念となります。
労働者や企業は、全従業員が平等に評価される環境や仕組み作りを促進し、今後の労働環境の向上に向けて積極的な取り組みが求められます。厚生労働省では、同一労働同一賃金制度の実施による公平で持続可能な労働環境の実現により、幅広い働き方を選べる社会を目指しています。
同一労働同一賃金は従来、努力義務とされていましたが、法改正により全ての企業に遵守が義務付けられました。各企業は、従業員ごとに格差がでないように、状況の改善に努める必要があります。
法改正が行われた背景や目的
同一労働同一賃金は、2020年4月の法改正により制定されました。法改正された背景や目的としては、以下が挙げられます。
- 正規雇用者と非正規雇用者の待遇格差が社会問題化していた
- 人口減少・少子高齢化にともない人材不足が深刻だった
- 国際的には一般的な考え方であり、グローバル化の中で標準化する必要があった
現代の労働社会において、公平な労働環境の確立が求められています。それぞれを、具体的に紹介します。
正規雇用者と非正規雇用者の待遇格差が社会問題化していた
日本の労働市場において、正規雇用者と非正規雇用者の処遇格差が顕著な点が、同一労働同一賃金が施行された要因として挙げられます。正規雇用者と非正規雇用者の待遇の違いについて、問題視する声は多いです。
正規雇用者とそうでない雇用者の待遇の違いとして、以下のようなケースが考えられます。
- 正規雇用者に比べ、非正規雇用者は給与や賞与が著しく少ない
- 正規雇用者は年齢や在籍年数により昇給があるが、非正規雇用者はほとんどない
- 正規雇用者には通勤手当があるが、非正規雇用者にはない
従業員ごとの格差が浮き彫りとなり、公正な労働環境の確立が求められるようになりました。労働者が公平な処遇を受けられる制度が必要とされ、法改正の動きが加速したのです。
とくに、現代では労働環境の幅が広がり、パートタイム勤務や派遣社員などの正社員でない働き方が増加傾向にある点も、状況の改善が求められる理由です。
人口減少・少子高齢化にともない人材不足が深刻だった
日本は人口減少と少子高齢化が進行しており、人材不足も深刻な問題となっています。企業は適切な人材を確保するために、多様な雇用形態を採用していました。
雇用形態が広まるなかでも、正規雇用者と非正規雇用者の待遇格差が表れるようになり、社会的な不公平感が広まりました。人口減少や少子高齢化が進み、人材不足が進んでいることにより、労働市場全体の健全な発展を図るためにも、法改正が行われることとなりました。
人口減少や少子高齢化が進み、人材不足が一層深刻化していく中で、労働市場全体の健全な発展を図るためにも、法改正が行われました。同一労働同一賃金制度は、公平な待遇の実現と労働市場の持続可能な発展に向けた一歩と位置づけられています。
国際的には一般的な考え方であり、グローバル化の中で標準化する必要があった
従業員の格差をなくす労働環境の改善は日本国内だけでなく、国際的にも一般的な考え方として浸透しています。世界的にも、同一労働同一賃金は公平な原則として認識されており、グローバルな競争環境においても公正な労働条件が求められています。
欧米では、同一労働を行う従業員間に賃金格差を設けることを、禁止している国があるほどです。日本の企業が国際的なステージで競い合うためにも、労働環境の改善と標準化は避けて通れない課題として残り、法改正が行われる背景の一つです。
実施により企業が受けられるメリット
労働環境の公平性を高める目的で制定されたのが、同一労働同一賃金制度です。同一労働同一賃金の導入により、企業にもたらすメリットを紹介します。
非正規雇用メンバーのモチベーション向上につながる
同一労働同一賃金の実施は、非正規雇用メンバーのモチベーション向上に大きな影響を与える効果が期待できます。正規雇用者との賃金格差の縮小により、仕事への意欲が高まり、成果の向上につながりやすくなります。
正規雇用者との格差があると、労働者は「仕事をしても評価されない」「頑張っても賞与がない」と不満を抱えたり、モチベーション低下につながったりするのは、致し方ないことです。メンバー間の不公正さや格差をなくすことで、従業員はやりがいや、業務意欲を持ちながら、仕事に取り組みやすくなるでしょう。
同一労働同一賃金により、業務の効率性や品質の向上につながると同時に、チーム全体の協力体制が強化される効果につながります。
求人でアピールすれば応募者増加が見込める
同一労働同一賃金は、企業の求人広告においても大きなアピールポイントとなります。公平な待遇を提供する姿勢は、求職者からの信頼を得られやすくなり、非正規雇用者の応募が増加につながります。
幅広い業務に対応できる人材が集まることで、組織の多様性が増し、新たなアイディアや視点が生まれることも期待できます。同一労働同一賃金の実施により企業の組織力や競争力向上を促進する効果を生み出します。
同一労働同一賃金により考えられるデメリット
「同一労働同一賃金」制度が導入される一方で、実施にはデメリットも存在します。制度実施により課題となる可能性があるポイントを紹介します。
人件費が高騰する可能性がある
同一労働同一賃金の実施に伴い、企業が支払う人件費の増加は避けられない課題となるでしょう。同一労働同一賃金は、従来では異なる雇用契約の下で働いていた従業員も、一律で同じ賃金を受けることを意味します。
同一労働同一賃金は、経営コストの上昇の影響により、企業の収益に影響を及ぼす可能性を考慮する必要があります。とくに中小企業など、予算に制約のある組織では課題となるかもしれません。
人事制度の見直しを行う必要がある
同一労働同一賃金の実施には、人事制度の見直しが必要となる点も押さえておくべき課題です。従業員の給料体系や評価基準、就業ルールなどの要素が影響を受けることになります。
就業規則や給料体系の変更には、従業員が納得できるように説明する場を設けたり、書類を作成したりといった手間が生じます。同一労働同一賃金の実施には、組織全体での調整や変更への対応が求められ、そのプロセスには一定のコストや時間がかかることを把握しておきましょう。
従業員からの不満が生まれる
同一労働同一賃金の実施により、従業員からの不満や不平等感が生じる可能性も考えられます。これまで高い賃金を得ていた従業員が、同一賃金に移行することに対して抵抗感を抱く場合があります。
同一労働同一賃金でも、業務内容や配属プロジェクトによっては、非正規雇用者内でも待遇の格差が生じる可能性もあるでしょう。賃金格差の是正によって一部の従業員の賃金が減少するケースも考えられ、これによる不満の声が組織内で広がることも考慮しなくてはいけません。
不満が生じる環境は、従業員のモチベーションや労働意欲の低下につながることもあるため、慎重な対応が求められます。従業員への丁寧な説明や対応を行うなどの運用が重要となります。
何をもって「同一労働」とするの?
「同一労働」の定義としては、主に以下の2つが関わります。
- 業務内容
- 業界や職種
同一労働を判断する際の基準として、業務内容があり、責任や仕事の難易度、経験年数などが含まれます。単純な仕事の内容だけでなく、背後にある様々な要素までも考慮する必要があります。
たとえば、同じ仕事をしている人でも、日々の作業に加えてプロジェクトリーダーやマネージャーなどを兼業している人とは、同一労働をしているとは言えません。
同じ職種であっても、経験年数やスキルによって差異が生じるため、客観的かつ公正な評価基準を設けることが求められます。
同一労働の定義については、業界や職種の特性も考慮されます。異なる業界や職種においては、同じような仕事内容でも価値が異なることがあります。業界や職種の違いを把握し、幅広い視点から評価基準を設けることが重要です。
同一労働同一賃金制度の成立において、「同一労働」とは何を指すのか、は重要なポイントとなります。同一労働の基準を確立することで、公平な賃金体系を構築し、労働者間の公正な評価を実現する一方、企業側も適切な報酬体系を構築しやすくなります。
努力義務?罰則や例外はあるかどうか
従来では、派遣社員や契約社員などの非正規雇用者に対する給与や待遇について、正規雇用者との公平さの確保は、企業の努力義務とされていました。しかし、2020年4月の法改正により、労働者派遣法では、正規雇用者と非正規雇用者の「待遇に違いがあってはいけない」と断言する表現に変更されています。
同一労働同一賃金は全ての企業が遵守すべき制度ですが、守らなくても現時点(※)では罰則は定められていません。(※2023年8月)
法改正後の同一労働同一賃金の考えは、全企業が目指すべき思想を示すものであり、法的拘束力はない点を押さえておきましょう。しかし、法的罰則がないからといって、あまりにも不合理な待遇や環境を放置していると、従業員から訴訟されるケースに発展することもあるため、注意しなくてはいけません。
従業員の格差をなくす目的で制定された同一労働同一賃金ですが、一方で例外や抜け道が指摘されています。次項で、詳しく紹介します。
例外や抜け道は存在する?
同一労働同一賃金は、中小企業を含むすべての企業が対象であり、会社規模による例外はありません。基本的には全ての企業が対象となる同一労働同一賃金ですが、例外・抜け道として以下が指摘されています。
経営者は、以下の3点について押さえておきましょう。
・無期転換したフルタイム労働者は対象外
同一労働同一賃金制度では、無期転換したフルタイム労働者は対象外となります。たとえば、契約社員、アルバイト、パートナー社員など契約期間がある従業者が当てはまります。
無期転換したフルタイム労働者は、同一労働同一賃金の対象外となるため、待遇面によるトラブルが生じないように注意しましょう。
・定年後再雇用者
同一労働同一賃金は、従業員間の格差をなくす目的で制定されるため、正社員として雇われる高齢者には適用されません。一般的に定年を超える高齢者は、定年前に比べて給与が下がるケースが多いです。
・会社をまたいだ雇用
同一労働同一賃金は、同一企業の正規雇用者と非正規雇用者の差を縮める目的であるため、会社をまたいだ雇用には適用されず、同一企業の雇用者のみ対象となります。
リスクのない人事業務のために、組織メンバーのスキルを管理しよう
当社が提供するスキルナビでは、組織メンバーのスキルや評価を管理する機能が備わっています。同一労働同一賃金制度を適用し運営していくためには、適切な人事管理業務が欠かせません。
規模が大きい組織ほど、従業員管理の負荷がかかり、マネジメントが難しくなる課題を抱える企業は少なくありません。そのような企業に向けて、スキルナビでは、以下のような機能が利用できます。
- 保有目標管理
- 社員評価管理
- スキル管理
スキルナビの活用を検討している場合は、ぜひお気軽にご相談ください。
待遇差の点検や解消に努めましょう
現代の労働市場では、同一労働同一賃金制度が浸透してきました。同一労働同一賃金は、多様な雇用形態の労働者が公平な待遇を受けるための重要な考え方です。
異なる業務背景や契約形態にかかわらず、同じ仕事に対しては同じ賃金を支払うことが求められ、労働市場の公平性向上につながります。制度導入による企業のメリットやデメリットなどについて理解することは、労働環境の改善と社会的な地位の確立に向けて大切になります。
同一労働同一賃金の要点を押さえ、より公平で持続可能な労働環境の実現を目指しましょう。