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インセンティブとは?種類や意味、導入するメリットやデメリットを解説

「インセンティブの支給は会社が損するだけ」「金銭を支給しても従業員のモチベーションが上がらない」といった悩みを抱える企業は少なくありません。

成果に応じた報酬を与えるインセンティブ制度を導入すると、企業も従業員も、さまざまなメリットを得られます。複数種あるなかで最適なものを導入すれば、従業員のやる気アップや業務効率化が見込めるでしょう。

今回は、インセンティブの定義や種類、導入によって得られるメリットや注意点を解説します。

インセンティブとは?

「インセンティブ(Incentive)」という言葉の本来の意味をご存じでしょうか。

本来インセンティブとは、「行動の動機、誘引、刺激」を意味します。つまり、外部からの刺激を受けて具体的な行動に移すことを指しているのです。

ビジネスにおいては、従業員が成果を上げた際に支払う追加報酬を「インセンティブ」と呼ぶ場合が多いでしょう。しかし、インセンティブで得られるのは金銭だけではありません。

例えば、

  • 社内表彰
  • 旅行のプレゼント
  • 金券のプレゼント
  • 研修無料化

などがあります。

マーケティング市場では「消費者インセンティブ」といった言葉も使われます。これは、消費者が購買行動に移す動機をマーケティング視点で捉える考え方です。

さまざまなビジネスシーンで活用される言葉ですが、従業員のモチベーションアップなどを目的に利用されるケースが多いでしょう。

インセンティブがビジネスに普及された理由

多くのビジネスシーンで活用されているインセンティブ制度の始まりは、1990年代までさかのぼります。当時はバブルが崩壊した後で、多くの日本企業が厳しい経営状況下に置かれました。

バブル崩壊後の日本企業が実施したのが、従来の終身雇用制度と年功序列制度の見直しです。成果によらず在籍年数や年齢で昇進と昇給が決まる制度を踏襲したままでは、業務効率化にはつながりません。

そこで注目されたのが、成果に重きを置いた評価制度とインセンティブ支給です。企業にとって価値のある人材を大切にする制度を導入することで、人件費の適正化が図れます。

昨今は雇用の流動化によって、インセンティブを取り入れる企業がますます増加しているのが現状です。

一人ひとりが将来設計やキャリアプランに従って、自由に転職するようになった今、企業は優秀な人材の流出を防ぐ必要があるでしょう。そこで導入されているのが、従業員満足度が高まるインセンティブ制度なのです。

インセンティブは「金銭」というイメージが強くありますが、昨今は金銭に限らないさまざまな形で支給されています。金銭に固定せずに企業独自の制度を導入するなど、企業の工夫次第で従業員のやる気を高く維持できるでしょう。

モチベーションとの違い

インセンティブは「動機」と訳される言葉です。同じく「動機」を意味する言葉に「モチベーション(Motivation)」がありますが、両者に違いはあるのでしょうか。

実は同じ「動機」を意味する言葉でも、ビジネス上でははっきりと使い分けされているので注意しましょう。

「インセンティブ」は、行動を起こすきっかけとなる刺激や働きかけを指します。原則として、外部の影響を受けて行動の動機を生むのがインセンティブです。

一方で「モチベーション」は、個人の持つ意欲そのものを指しています。内発的な行動の動機なので、企業が従業員一人ひとりのモチベーションをコントロールするのは容易ではありません。

そのため、インセンティブという外発的な動機を提供し、従業員のモチベーションアップを図るのです。

従業員のモチベーションをコントロールするには、それぞれの性格などを考慮したインセンティブ支給が重要です。モチベーションの高い従業員に、金銭的なインセンティブを支給した際、逆にモチベーションが下がるケースがあるので注意しましょう。

歩合制やボーナス・賞与との違い

成果に応じて支給される特性から、インセンティブは歩合制と同じだと思いやすいのではないでしょうか。歩合制との違いは、報酬が発生するタイミングにあります。

インセンティブは、あらかじめ定められた目標を達成して初めて、追加報酬を得られる仕組みです。一方で歩合制は、実績数に応じた報酬が支払われます。

具体的には、

  • インセンティブ:月50万円の売上目標を達成したら、売上の4%を追加支給
  • 歩合制:成約1件につき売上の0.5%を追加支給

といった違いがあります。

また「インセンティブは金銭的な報酬である」というイメージが強いため、ボーナスや賞与と混同されることが多々あります。

基本給にプラスされる金銭という点で、両者に違いはありません。ただし、インセンティブは金銭報酬に限らず、さまざまな形で支給されます。

企業はそれぞれの言葉の意味や労働基準法などをしっかり確認した上で、社内制度を整える必要があるでしょう。

インセンティブ制度は主に5種類

主な5種類の制度を解説します。

①物質的インセンティブ

金銭や品物を支給するものです。一般的にイメージされるインセンティブは、金銭報酬であるため、物質的インセンティブに該当します。

従業員の経済的不安の解消につながるのが特徴です。経済的な不安の大きい子育て世帯や、消費行動の活発な若い世代、老後の心配のあるシニア世代など、全世代のモチベーションにつなげられるでしょう。

②評価的インセンティブ

誰しも「自分を認められたい」という承認欲求を持つものです。これは企業運営においても重要で、会社が従業員一人ひとりの働きを認めることで従業員のモチベーション維持が期待できます。

例えば、

  • 社内表彰
  • 成果に応じた昇進、昇給
  • 上司からの褒め言葉や適切なフィードバック
  • 高い人事評価

などが該当します。

③人的インセンティブ

多くの人が、職場の人間関係を理由に転職しています。企業は優秀な人材の流出を防ぎ、人材不足を予防するためにも、従業員が気持ちよく働ける環境を準備しなければなりません。

そこで有効なのが、人的インセンティブです。職場の上司や同僚以外に、取引先の担当者や顧客など、仕事中に関わる人すべてについて、従業員が抱える悩みを解消するのがインセンティブとなります。

良好な人間関係は、社内外のコミュニケーションを活発化させるでしょう。

楽しく仕事に打ち込みやすい環境を整えるためには、

  • 異動希望を出しやすい仕組みづくり
  • 悩みや希望を伝えやすい1on1の実施
  • 上司に相談しやすい職場づくり

などに取り組む必要があります。

④理念的インセンティブ

人が行動する動機となるのは、金銭や評価だけではありません。

自分が「役に立っている」「理想を実現している」と感じられることも、従業員のやる気アップにつながります。

例えば、企業の経営理念、目指す未来、重視する価値観などは、従業員にとって大切な指針です。企業理念に共感できないままでは、仕事に身が入らなかったり、働く意義を感じられなかったりするでしょう。

理念的インセンティブは、社会的意義を感じることで自己実現欲求を満たす効果があります。企業は、自社事業が社会や人のためにどのように役立つのか、意識的に従業員に伝えていく必要があるでしょう。

⑤自己実現的インセンティブ

昨今は、一人ひとりがライフスタイルや将来設計に合わせて柔軟に転職をする時代です。自由に職業や働き方を選べる現代において、実現したい夢を追いかける人も増えています。

従業員個人の夢を叶える手助けをすることは、自己実現的インセンティブになります。

例えば、

  • 従業員がやりたい仕事ができる部署への配属
  • 資格取得支援
  • 裁量権を与える

などが効果的です。

従業員が「自分のなりたい姿に近づいている」と感じられることが重要です。成長していると実感するのが大切なので、あまりに高いハードルを課したり、能力を発揮できない部署へ異動させたりするのは望ましくありません。

個々の適性や習熟度、やる気に応じて、適切なタイミングで適切な難易度のインセンティブを与えるように意識しましょう。

インセンティブ制度を企業が導入するメリット

メリットは3つです。

社員のモチベーションアップ

従業員にとって、自分の活躍が認められ、相応の評価や報酬がもらえる環境は「働きやすい」場所です。働きやすさが実現された職場なら、「もっと努力して認められたい」というやる気が湧いてくるでしょう。

インセンティブ制度を導入すると、年齢や在籍年数に依存しない、納得感のある人事評価ができるようになります。従業員の不満が発生しにくいため、従業員のモチベーションを高く維持できるでしょう。

会社の活性化

インセンティブは、一定の目標を達成した場合にのみ支給されるのが一般的です。具体的な数値目標や行動目標を設定するので、従業員は自分が何をすれば良いかを判断しやすくなります。

目指す成果がわかりやすい状況では、従業員が適切な行動を起こしやすく、意欲的に仕事を進めるようになるでしょう。従業員一人ひとりが真摯に目標達成に向けて取り組むことで、社内活性化が期待できます。

また、目標が明確になると従業員間でお互いの進捗を確認できるようになります。その結果、お互いの存在が刺激となり、競争心やモチベーションアップが実現できるのです。

給与に納得ができる

終身雇用制や年功序列制が残る企業では、能力や経験、スキルの習熟度は関係なく、年齢や在籍年数によって昇給や昇進が決定されています。

これでは、能力不足であっても在籍していれば自然に給与が増える仕組みであるため、優秀な人材が自身の給与に納得できないといった事態が起きます。

納得感のない給与は、離職理由になり得ます。優秀な人材の流出が起こる原因になるため、適切な人事評価を実現しましょう。

インセンティブ制度による成果主義を取り入れると、目標や評価基準が明確になるでしょう。能力のある優秀な人材が適切に評価されるようになり、給与額に納得できるようになるのは大きなメリットです。

インセンティブ制度を企業が導入するデメリット

3つのデメリットを解説します。

収入が安定しない

基本給が低めでインセンティブに重きを置く企業では、従業員の収入が不安定になりやすいのが懸念点です。

安定しない収入は、将来への不安を増長させてしまいます。金銭的な余裕がないために、より安定的な収入が見込める企業への転職を決断する要因にもなるでしょう。

インセンティブで従業員のモチベーションを高めるのは適度な範囲内で行い、従業員が不安なく生活できる程度の収入は確保できる給与体系を考える必要があります。

協調性がなくなる

インセンティブは従業員個人を対象に支給されるケースが多いため、成果主義の導入が個人プレイを加速させるおそれがあります。協力して成果を上げることよりも、個人で抜きん出た成果を上げることが重視されて、本来あるべき協調性が失われる可能性を考慮して導入を勧めましょう。

協調性がなくなると、社内のミスコミュニケーションが増えたり、ノウハウが共有されず人材教育が進まなくなったりします。

予防策として、個人に対するインセンティブだけでなく、チーム単位でも評価をする仕組みをつくるなどの工夫が必要です。

制度に不満を持つ人が生まれる

導入時に考慮すべきは、インセンティブをもらいたくても成果が上げられない従業員の存在です。成果主義的な制度であるインセンティブ制は、優秀な人材にとってはメリットの多い仕組みですが、成果を上げるまで時間がかかる従業員にとってはストレス要因になります。

「頑張っているのに評価につながらない」とストレスや不満が募り、モチベーションが下がりかねません。

インセンティブの支給基準を検討する際は、従業員全員がやる気を持って取り組める難易度の達成目標を立てるように心がけましょう。

インセンティブ制度を導入した企業

導入事例として3社を紹介します。

株式会社メルカリ

株式会社メルカリはフリマアプリ「メルカリ」を運営しています。金銭的なインセンティブだけでなく、企業独自の仕組みを構築したのが特徴です。

具体的には、

  • 持株会制度
  • 譲渡制限株式ユニット(RSU/Restricted Stock Units)
  • mertip(メルチップ)

といった取り組みを実践しています。

株式を従業員自らが保有できるようにすることで、従業員一人ひとりが企業の成長に対して当事者意識を持つことができます。

また、従業員間でインセンティブを与えあえるメルチップを導入して、社内コミュニケーション活性化を図りました。これにより、インセンティブ導入による協調性の消失を予防し、互いに協力し感謝を伝えあいながら就業できる職場環境を実現しています。

株式会社インテリジェンス ビジネスソリューションズ

株式会社インテリジェンス ビジネスソリューションズは、現在はパーソルプロセス&テクノロジーに社名変更していますが、残業時間の短縮を目指した取り組みが特徴です。

インセンティブと聞くと「成果を上げたら支給される報酬」とイメージされるケースが多くあります。それに対して同社は、作業効率化によって残業時間ゼロを達成したらインセンティブを支給するようにしました。

これにより、従業員は残業時間が減ってプライベートに時間を充てられるようになる「働き方改革」が実現しています。さらに「残業時間短縮とともに収入が減る」という従業員の経済的不安の解消も期待できる、効果的なインセンティブ制度だといえるでしょう。

株式会社サイバーエージェント

株式会社サイバーエージェントは、インセンティブ導入によって離職率低下を実現した企業です。

高い離職率は、社内のノウハウ共有が不十分になりやすく、ミスコミュニケーションの増加、管理職人材が育たないといったデメリットを生じます。

そこで導入されたのが「勤続インセンティブ」です。具体的には、30歳から積立スタートできる退職金を、最短で40歳のときに一定の条件を満たした場合に受け取ることができるとしています。

インセンティブを効果的に活用しましょう

雇用の流動化によって転職が当たり前になった昨今、企業は優秀な人材を確保するための工夫を凝らす必要に迫られています。

人材の定着化を目指すには、従業員がやる気を持って仕事に向き合える環境づくりが重要だといえるでしょう。インセンティブは、従業員のモチベーションアップや社内の活性化および人事評価への納得感を高めるといった効果をもたらす制度です。

5種類のインセンティブを効果的に活用し、働きやすい職場づくりに努めましょう。