内省はなぜ必要?実践メリットと効果的なアプローチ方法を解説
出社すれば上司や同僚と会話する時間が大半です。家に帰宅すると夕食や入浴を経て眠りにつくでしょう。そうなると自分自身で「今日の仕事ぶりはどうだっただろう?」「部下へ発した言葉は正しかったか?」などと振り返る瞬間も少ないかもしれません。
とはいえ社会人にとって内省は重要です。自分で気付きを得るからこそ成長につながります。そこで今回は内省を行うメリットと実践方法を中心に解説していきましょう。
内省の意味
内省とは自分自身で起こした行動や発した言葉について深く見つめ直す行為です。現在は売り手市場となり優秀な人材を簡単には採用できなくなりました。そこで育成へと舵を切った企業が増えたのです。
内省は人材育成の場でも採用されるケースが増えてきているのも事実。なぜならば成長できるか否かは自分自身の中にあるからです。気付きを得て、そこから学んでこそ成長につながります。
実際に優秀な人材は一日の中で内省の時間をつくっているもの。自分と向き合えばレベルアップした姿にうまれかわれます。
内省の本来の意味
内省は英語で言うとreflection(リフレクション)です。リフレクションとは反射や反響と訳せます。「鏡のように映る自分の心に対し素直に向き合っていく」そのような意味が込められています。
一人の時間をつくって自分と対話していくと言えば分かりやすいかもしれません。他にもリフレクションは反映や映像と訳せるものの、人事で言う内省は前述した意味と捉えてもらってよいでしょう。
内省の類義語
内省の類義語について解説します。
内省と反省との違い
内省と似た言葉で反省があります。反省は落ち込んだ自分、もしくは失敗した自分を見つめ直す意味で使われるでしょう。反省には主にネガティブな要素に注目されます。「失敗した原因は何だったのか?」「次回トラブルにあわないためにはどの工程を改善すべきか?」などと振り返っていきます。
一方、内省はマイナス要素だけでなくポジティブな要素にも着目していくのです。「今回プレゼンでうまくいったのは何が要因か?」「緊張しなかったのは何を心掛けたからだろう?」などと前向きに自分と向き合っていきます。このように内省は振り返る幅が広いと言えるでしょう。
内省と内観の違い
内省と内観の大きな違いは向き合うポイントです。内省は自分の考え方を振り返るのに対し、内観は心に対してアプローチしていきます。
例えば「今は心がざわついているから落ち着かせないと」「心が疲れていて気分転換も必要だな」などと向き合っていくのです。頭が冷静であっても心が不安定な場合もあります。
反対に心が安定していても頭で考えすぎているケースもあるでしょう。いずれにしても内省と内観は結び付いており、両者をバランスよく見つめ合っていく必要があります。
内省的とは
内省的とはこれまで紹介した内省に「的」がプラスされた語句です。名詞+的で「そのような性質をもったもの」と表現できます。
例えば内省的な人であれば、自分自身と向き合い成長できる人と訳せるでしょう。内省的思考は一つの視点で見るのではなく、様々な角度から物事を検証する過程を指します。
いずれにしても根底には内省の意味が込められており、俯瞰的な視点で振り返る意味を持っているのです。
内省をするビジネスパーソンが成長する理由
ビジネスでは内省できる人とできない人がはっきりと分かれます。
問題なくできる人に共通しているのは成長スピードが早い点です。「なぜこのような結果になってしまったのか?」「どうして急にうまくいったのか?」を常に自己分析しています。自分自身を振り返れば次の一歩も踏み出せるため、成長していくのです。
ビジネスは運の要素が絡んでくるのも事実。例えば偶然運が良かっただけで成績を残すケースもあります。その中で「多分今回は運が良いだけだからしっかり振り返らないと」と内省する人もいれば「これが実力。次もきっとうまくいくだろう」と慢心して内省しない人がいます。
内省できる人が成長するのは言うまでもありません。それだけビジネスパーソンにとって内省は重要なのです。
内省を行うメリット
内省を行うメリットについて解説します。
業務改善により生産性が向上する
内省を行えば考え方が変わるだけでなく、業務に取り掛かる行動内容が変わってきます。
例えば一日に5件しか電話アポイントできない営業マンがいるとしましょう。「10件へ増やすには優先度の低い商談を減らそう」「20件アポイントとるには他の業務を誰かに頼もう」などと業務改善できます。電話アポイントの数が増えれば、質の高い商談が成立するでしょう。
成功事例が増えると業務における取り組み方の共有も可能です。結果的に内省を行えば生産性が向上します。
自立性のある人材が育成できる
近年指示待ちの社員が増えており、自分で考えて行動する人が少なくなっています。それは内省ができていないとも捉えられるでしょう。
自問自答して仕事へ取り組めば、自分の中に問題点が見つかるはずです。課題が分かってくれば行動に移しやすくなります。積極性が身に付くと成果が伴うのは言うまでもありません。
反対に内省を行わなければ課題が分かりません。「上司から指摘された点だけ改善する」「言われた仕事だけ取り組む」などのケースが増えてくるのです。自立性のある人材を育てたければ内省は不可欠と言えるでしょう。
管理職のマネジメント能力向上に繋がる
内省は一般社員だけが行う育成方法ではありません。管理職や経営層にも取り入れたい手法になります。なぜなら管理職の考え方や心構えはトップダウン式で現場へ伝わるからです。
例えば管理職が「仕事は質より量だ」と考えていれば、現場は勤務時間が長くなり残業時間も増えていきます。働きにくい環境になるのは言うまでもありません。加えて全社員の中で「残業も良し」と浸透されてしまうのです。
これが内省を行えば仕事は量より質だと考え直すでしょう。結果的に管理職のマネジメント能力が向上し、管理職自身の評価も上がります。
業務可視化によるマネジメントコスト削減
内省の導入次第では業務の見える化が実現します。
例えばメンバー間で内省の内容を共有したとしましょう。「1000万円の発注がもらえたのは毎日こまめに連絡を取っていたからだ」「ミスが減ったのは事前にシミュレーションを行っていたから」などです。他の社員も行動内容が共有できれば、各自の目標達成につながりやすいでしょう。
管理職が手取り足取り教育する必要もなく、内省の共有だけで成長していきます。マネジメントコストが大幅に削減できるのです。
内省の方法
内省の方法について解説します。
経験学習モデル
内省を取り入れる方法として一般的なのは経験学習モデルです。
経験学習モデルは具体的経験→内省→概念化と抽象化→実践からなるフレームワークとなります。社会人にとって成長へつながるのは何よりも経験です。成功や失敗を繰り返せば次へとつながっていくでしょう。
とはいえ経験を重ねるだけでは成長へとつながりません。経験から振り返りが必要になります(内省)。振り返った内容から「次は上司に頼ったほうがいいんじゃないか」「もっと消費者へのヒアリングが必要なのではないか」などとイメージしていきます(概念化と抽象化)。
最後はイメージした内容を実際の行動へと移していくのです(実践)。この一連の流れを繰り返せば、経験が知識や知恵へと変わります。年齢や社歴に関わらず実践できるため重宝されているのも特徴です。
経験を整理し、再構築する
内省を行う際は経験の整理が重要です。前述の通り、概念化と抽象化を行ってイメージさせていきます。その中で紙面に書き上げる方法もおすすめです。
例えば「月間売上500万円」の目標に届かなかったとしましょう。紙面には「商談件数を増やす」「商談には上司も同行してもらう」などの具体的行動も書いていきます。
このように紙面でまとめるとイメージが現実化していくのです。いつ・誰が・何を・どうやってなどの要素が一目で分かるため、足りない部分を補えます。結果的に整理できた内容をより客観的に分析できます。
内省に効果的なアプローチ
内省に効果的なアプローチについて解説します。
質の高い問いかけ
内省を行うには質の高い問いかけがあってこそ。質問によって相手自身に気付きがうまれれば、成長へとつながるのです。
そのためにも「失敗から得られた経験は何か?」「今後自分だけができる取り組みは何か?」などの良質な質問をしていきましょう。
このような質問をしていくと自分自身で考える力がつきます。様々な角度で自分を振り返れば新たな発見がうまれるのです。普段何気なくしている質問に一工夫入れるのが重要と言えます。
対話型のワークショップ
対話型のワークショップは近年導入企業が増加している手法です。まずはじめに直近起きた出来事を約3分間、聞き手と話し手で対話をしながら内省していきます。
次に主催者がテーマを発表。例えば「過去1ヵ月の売上」「売れる販売トーク」などを議題にあげていきます。テーマに沿って悩みや疑問をオープンにし、対話を深めていきましょう。主催者は仲人となり、二人の話が円滑に進むよう話を引き出していきます。
気付いた内容はメモに取り、ワークショップが終了しても振り返るのがポイントです。最後に次回の議題を発表し終了です。場合によっては次回までの課題を与えてみるのも良いでしょう。
行動を計画し、行動を内省する
いくら内省しても次の一歩を踏み出さなければ意味がありません。人によっては「時間がなくて行動できなかった」「行動するための人的資源が足りなかった」と理由を付ける方もいるでしょう。
しかし、言い訳を言い出したらきりがないです。結果を出す人は弁解せず行動へと移しています。だからこそ成長へとつながっています。
アクションに移せなければ、行動を起こさない自分が基準となってしまうでしょう。結果的に言い訳ばかりの人間になります。自分自身の行動はあらためて見直してみるのもポイントです。
本来の気持ちを認識する
社会人になると自分の気持ちを抑えてしまう瞬間も多いでしょう。本来であれば「もっと違う業務に取り組みたい」「売上アップさせるなら会社の販売スタイルを見直すべきではないか」など、言いたいケースもあるはずです。
とはいえ会社での立ち位置を気にしたり、人の顔色を伺ったりしていると本音を隠してしまいます。結果的にありきたりな発言しかできなくなるのです。
内省は自分自身の気持ちと正直にならなければ意味がありません。本来の気持ちを認識し、オープンにする姿勢が大切なのです。
内省する上でのポイント
内省する上でのポイントを解説します。
内省する際の注意点
内省する際の注意点を解説します。
完璧を求めすぎない
内省は十分に整っていなくても問題ありません。
とくに真面目な人は完璧を求めすぎる傾向にあります。「できない自分はだめなんだ」「こんなこともできないなんて」とネガティブになるのも特徴。結果、マイナス面ばかりが目に付き、内省が嫌になってしまうのです。
内省本来の目的は自分自身と継続的に向き合う点にあります。ネガティブになって長続きしないのでは意味がありません。自分自身を柔らかく包み込み、焦らず長い目で内省を行っていきましょう。
内省を目的にしない
内省を続けていると、時に内省自体が目的となるケースもあります。とくに内省を取り扱った研修会やワークショップを継続的に行っていると、反省点の洗い出しが中心となりがちです。
しかし、内省は「良い部分にも着目する」「過去を振り返って次につなげる」などが本来の目的。反省ばかり行っていたのでは反省会となんら変わりません。社員の成長へはつながらないでしょう。
そのため、まずは実践する前に内省の目的を明確にし、内省中も常に未来へアプローチするよう心掛けるのが大切です。
広い視野で考える
内省は広い視野で考えてこそ成功に近づきます。視野を広げれば問題の本質が分かり、判明した原因に対して的確にアプローチできるのです。結果的に進むべき方向が見つかって成長へとつながっていきます。
とはいえ広い視野で物事を考えるのはかんたんではないでしょう。とくに新入社員や社歴の浅い社員にとって、自分で考える習慣は今まで少なかったはずです。
そのため上司や先輩を頼ってアドバイスをもらうのも得策と言えます。「先輩だったらどう行動しますか?」「いつも振り返りはどのように行っていますか?」などを質問してみると、的を得た助言をもらえるかもしれません。
効果的な内省を行うコツ
効果的な内省を行うコツを解説します。
意義や喜びを感じることが何か考える
内省を行う際は意義や喜びを感じることが何かを考えていきましょう。
自分自身の使命を分析していけば、自然とやりたいことや実践して貢献できる業務が見つかってくるはずです。自分が持っている力を最大限引き出せると、会社の力となり、自分自身へのモチベーションへとつながっていきます。
そのためにも「会社から求められているのは何か?」「何に取り組めば会社に貢献できるのか?」を自問自答していきましょう。効率的に理想の自分へと近付けるはずです。
組織のミッションを意識する
意義や喜びを感じることを考えるのは重要ですが、矢印が会社に向けられていると理想的でしょう。実践して楽しいと思えることが組織の使命とつながっていれば、効果は絶大です。
反対に内省が自分の中だけで留まってしまうと、深堀りできず長続きしません。内省の効果としては薄くなってしまうのです。
そのためにも内省を行う際は「組織とリンクさせる」「ミッションは周りを見渡して考える」を意識づけしていきましょう。結果的に会社全体のモチベーションアップへとつながります。
柔軟性を持つ
質の高い内省を繰り返し行っていくと果たすべき使命が明確になっていきます。その際、定まった使命には柔軟性を持たせるのが重要です。組織で働いていると人事異動や入退職者によって状況も変わります。
結果的に個人の使命も都度変わってきてしまうのです。今までの使命を変更しなければ、会社から求められている課題を達成できません。
となれば内省を行う意味がなくなります。そのため内省は柔軟性を持ち、与えられた環境でベストな使命を掲げていきましょう。
フレームワークを活用する
フレームワークを活用する方法を解説します。
KPT法
KPT法はKeep・Problem・Tryの頭文字をとったフレームワークです。
Keepは継続を意味し、成功につながった行動を引き続き実践していくフェーズ。Problemは問題点に焦点を当て、何が原因かを究明していく考え方。最後のTryは問題点を解決するための挑戦です。行動に移して成長へとつなげていきます。
KPT法が注目されているのは客観的な視点で内省を行える点です。失敗から振り返るのではなく、成功体験に対しても注目するのは内省の本質を捉えています。複数人で行えば、より課題が明確化していくでしょう。
KDA法
KDA法はKeep・Discard・Addからなるフレームワークです。
Keepは成功体験から継続して今後も行うべき内容。Discardはこの先やめるべき行動。最後のAddは振り返って新しく取り入れるべき挑戦となります。
KDA法はKPT法と全体的に似ていると言われていますが、大きく違うのは取捨選択する点です。不要だと感じた行動は取り除いていく工程が含まれています。
KPT法の「問題点を見つける→改善につなげる」とは違うと分かるでしょう。何かを捨てることで次への一歩が踏み出しやすくなります。
YWT法
YWT法は株式会社日本能率コンサルティングによって開発されたフレームワークです。
Yはやったことに焦点を当て、今までの行動を振り返っていきます。失敗だけでなく成功も振り返るのもポイント。今後の行動に活かすためのベースをつくっていきます。
次のWはわかったことであり、振り返った内容に対する気付きを抽出します。視野を広げて様々な角度から気付きを深めていくのです。
最後のTは次にやることに着目し、YやWで判明した内容をもとに改善点を書き出していきます。
YWTは一度だけにとどまらず、継続して繰り返す作業が必要です。
自分の強みを見つけるツール
現代の教育は弱点を克服するよりも、強みを活かす方針に切り替わりつつあります。なぜなら弱みを消してバランスを求めてしまうと、強みまでも消してしまう可能性があるからです。強みを伸ばせば本人のモチベーションも上がり、より貢献度の高い仕事ができるでしょう。
また、自分が苦手な部分はその分野を得意とする社員へ任せれば効率的です。そのような仕事の効率性を求めるため、現在は自分の強みを見つけるツールもあります。この後詳しく解説していきましょう。
ストレングスファインダーR
ストレングスファインダーとは自分の強みを知れる自己分析ツールです。アメリカのコンサルティング会社が開発したツールであり、現在では多くの企業でも導入されています。
内容は177個の質問に答えていくだけ。人間関係構築力・影響力・実行力・戦略的思考力の4つの大項目に分かれ、さらにその中から細かく資質が分かれます。合計34種類。自分自身の強みをタイプ別に知れるのです。
「社員のパフォーマンスを高めたい」「長所が活かせる会社をつくりたい」などの希望を持った方におすすめと言えます。
内省の資質を持つ人とは
内省をすすめても誰もが完璧にできるわけではありません。内省に向いている、もしくは内省が好きな方がいます。
そのような人は「物事をじっくり考えるのが好き」「答えを色んな角度から導き出せる」などの特徴を持っているのも事実。該当する方には知的な方と一緒に内省してみると良いかもしれません。
反対に内省が苦手な方は複数人でサポートしたり、考える時間を長くしたりすると、よりスムーズな内省が行えます。このように内省を行う場合はそれぞれの人に合った対応をとっていきましょう。
成長のために内省は欠かせません
内省は人材育成に欠かせません。自分自身を振り返り、成功や失敗を自力で深堀りするからこそ、次への行動に移せます。アクションを起こせば理想の自分へと成長するでしょう。
結果的に会社全体の効率化が実現します。内省を行うにはワークショップを取り入れたり、ストレングスファインダーを導入してみたりすると効果的です。ぜひこの機会に内省を実践してみましょう。