ISO9001における力量とは?取得のための5ステップを解説
国際的な品質マネジメント規格であるISO9001の取得や維持には、組織内の力量を適切に管理することが不可欠です。
しかし、力量とは具体的に何を指すのか、どのように管理すればよいのかについて、まだ十分に理解できていないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ISO9001における力量の定義と、その取得のための5つのステップについて分かりやすく解説しています。ISO9001の取得を目指す組織の担当者の方はぜひ参考にしてみてください。
ISO9000シリーズにおける力量の定義
力量とは、ISO9000シリーズの品質マネジメントシステムの用語で、『意図した結果を達成するために、知識及び技能を適用する能力』 と定義されています。
この定義は、単に知識を持っているだけではなく、それを実際の業務や状況に合わせて柔軟に使いこなす能力のことを指しています。たとえば、ある分野に関する専門的な知識を持っていても、それを実際のプロジェクトやクライアントのニーズに応じて適切に活用できなければ、IT業界で活躍することは難しいでしょう。
力量を向上させるには、単なる知識の積み重ねだけでなく、その知識を具体的な状況で使いこなす技術や経験も併せて必要となるのです。
力量の例
例として、IT業界のプログラマーの場合を考えてみましょう。
プログラマーには、プログラミング言語の知識はもちろんのこと、ソフトウェアの設計能力、チームでの協力やコミュニケーション能力、さらにはユーザーの要望を正確に理解し、それをソフトウェアに反映させる能力なども求められます。
また、新しい技術を取り入れる能力や問題解決のための論理的思考力も、プログラマーの力量として非常に重要です。
このように、力量とはさまざまな要素から成り立っています。求められる力量は職種によって異なりますが、適切な力量管理の導入は企業と従業員双方にとって大きなメリットとなります。
ISO9001で要求される力量について
ISO9001では、組織が提供する製品やサービスの品質を確保・向上させるためには、関わる従業員の「力量」が非常に重要であると位置づけられています。
では、ISO9001は具体的にどのような力量を要求しているのでしょうか。
ISO9001の規格要求事項「7.2 力量」
品質マネジメントシステムを運用するには「ISO9001:2015 7.2力量」に適合する必要があります。「7.2 力量」の要求事項は以下の通りです。
組織は、次の事項を行わなければならない。
a) 品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務をその管理下で行う人(又は人々)に必要な力量を明確にする。
b) 適切な教育、訓練又は経験に基づいて、それらの人々が力量を備えていることを確実にする。
c) 該当する場合には、必ず、必要な力量を身に付けるための処置をとり、とった処置の有効性を評価する。
d) 力量の証拠として、適切な文書化した情報を保持する。注記 適用される処置には、例えば、現在雇用している人々に対する、教育訓練の提供、指導の実施、配置転換の実施などがあり、また、力量を備えた人々の雇用、そうした人々との契約締結などもあり得る。
ISO9001:2015「7.2 力量」
この要求事項には、適切な力量を持つ従業員が業務を行うことで、高い品質や安全性、信頼性を実現するという目的があります。
ISOが要求する力量について分かりやすく解説
ISOが要求するa~dの項目がどのようなことを意味するのか、分かりやすく解説します。
最初の項目では、品質マネジメントシステムの成果に直結する業務を担当する人々が、どのような力量を持っているべきかを明確に定義することを求めています。
次に、上記で定義した力量を持つための手段として、教育や訓練、経験を通じて従業員の能力を向上させることを強調しています。
力量が不足している場合は、そのギャップを埋めるための具体的な処置を実施しなければなりません。これには、教育や訓練だけでなく指導や配置転換なども含まれます。
最後に、従業員の力量やそれに関連する活動(教育、訓練など)の記録は、文書化して証拠として保持するよう求めています。
これらの要求は、組織が目的を達成するために必要な力量を確保することを目的としています。具体的には、製品やサービスの品質を一定以上に保つため、関与する従業員の力量を明確にし、それを維持・向上させるための取り組みをどのように行うかを指示しています。
ISO取得のためにすべき力量管理の方法
製品やサービスの品質を高めるためには、関わる従業員の力量を適切に管理することが重要となってきます。
ISO取得のために必要な力量管理の方法について、以下で詳しく解説していきます。
1.どんな力量が必要かを明確にする
力量管理の第一歩として、組織の目的や業務内容に基づいて必要な力量を明確に定義する必要があります。業務の内容やその背景をしっかりと分析することで、どのような知識、技能、経験が必要かを特定することができます。
また、新しい技術の導入や市場の動向に応じて、組織が持つべき力量を再評価することも重要です。このような再評価を定期的に行うことで、組織は変化する環境に柔軟に対応することができ、競争力を維持・向上させることが可能となります。
2.対象業務に関わる従業員が、必要な力量を持っているかを判断する
次に、従業員が持つ力量と業務内容が適切にマッチしているかを判断します。
従業員の力量を評価する際には、その人が持つ知識、技能、経験だけでなく、業務遂行における意欲やコミュニケーション能力も考慮することが重要です。具体的な評価方法としては、実務上の実績や成果、面談、能力テストなどが挙げられます。
このような評価を定期的に実施することで、従業員のスキルの変化や新たなニーズに迅速に対応することができ、組織全体の効率と競争力を高めることができます。
3.力量がない場合、何らかの処置をする
力量が不足している場合、そのギャップを埋めるための処置が必要です。教育訓練はもちろんのこと、必要に応じて配置転換や指導の実施、実務上のサポートについても検討しましょう。
また、力量のギャップが発生した原因を分析し、組織全体での改善策を検討することも大切です。これにより、同じようなギャップが再発することを防ぐとともに、組織全体の力量管理の質を向上させることが期待できます。
4.一連の活動の記録を文章化して保持する
力量管理に関する一連の取り組みは、文書化して記録として残しておきます。記録を残すことで、過去の取り組みや成果を容易に振り返ることができ、今後の方針や戦略の策定にも役立てることができます。
特に、品質やサービスの認証を受ける際の監査や評価において、取り組みの過程や結果を具体的に示すことが求められるため、文書化はその要件を満たす上で欠かせない作業となります。
5.内部監査を行う
ISO9001における内部監査とは、組織の力量管理が適切に行われているか、またその結果として品質が向上しているかを自社で確認するためのものです。
内部監査員は組織内の異なる部署やチームから選定され、文書の確認や関係者へのヒアリングを通じて、実際の業務の進行状況や成果を詳細にチェックします。
内部監査はISO認証後も定期的に実施しなければなりません。第三者監査で重大な不適合が見つかった場合、認証が取り消される可能性もあるため、内部監査の段階で問題点を発見し是正措置を講じる必要があるのです。
力量管理に欠かせない「力量評価表(スキルマップ)」
力量管理の成功の鍵として、「力量評価表(スキルマップ)」は欠かせない要素となっています。この評価表は、組織内の各従業員が持つ技能や経験を一目で把握することができるツールとして、人事や教育担当者から高く評価されています。
力量評価表とは
力量評価表は、従業員の持つ力量を体系的に可視化するためのツールです。
この表には、各従業員が持つ技能や経験、さらにはその技能をどの程度習得しているかのレベルを記載します。力量評価表の活用は、従業員の現在の力量だけでなく、将来必要とされる力量や、その取得のための方針や計画を明確化するのに役立ちます。
たとえば、新しいプロジェクトや業務展開に伴い、新たな技能や知識が必要となる場合、スキルマップを参照することで、どの従業員がその要件を満たしているか、どのような教育や訓練が必要かを迅速に判断することができます。
力量評価表の作成方法
力量評価表を作成する際は、まず業務遂行に必要な技能や経験を詳細にリストアップするところから始めます。このとき、将来の業務展開や市場の変化を見越して、必要となるであろう能力も考慮しておくことが重要です。
次に、リストアップした能力ごとに具体的な評価基準を設定します。この基準は、従業員の技能レベルを明確に区分するためのもので、具体的な達成目標や何段階評価にするかなどの詳細を細かく決めていきます。
ここから実際に表を作っていきますが、一から力量評価表を作成するのは手間がかかるため、すでに公開されているテンプレートを活用するとよいでしょう。一般的には、縦軸にスキルの分類と概要、横軸に社員名を記入する形式のものが基本形としてよく使われています。
力量評価表が完成したら、従業員自身に自己評価を行ってもらいます。その後、上司や専門家による第三者評価を追加することで、より公平で客観的な評価を得ることができます。導入後は、定期的に見直しや更新を行い、常に最新の状況を反映させるよう心がけましょう。
タレントマネジメントシステムの活用
ISOにおいての力量管理では、教育・訓練や評価を定期的に実施し、従業員の能力やパフォーマンスを向上させることを目的としています。しかし、これらのプロセスをExcelなどのツールで管理すると、データの入力や更新に多くの時間と労力がかかります。
そこで、力量管理を効率的に運用するためには、タレントマネジメントシステムを活用してみましょう。
タレントマネジメントシステムの意味合いは、従業員の情報や評価結果を一元的に集約し管理できるシステムのことで、各種の分析やレポートの作成も簡単に行えます。また、教育や訓練の履歴も管理できるため、従業員の成長を継続的にサポートすることが可能です。
以前は高額な導入コストが必要だったタレントマネジメントシステムですが、最近では低コストで短期間に導入できるクラウド・サービスもあります。
力量管理の品質やその効果を高めようと考えている組織や企業にとって、タレントマネジメントシステムの導入は非常に有効な手段であると言えるでしょう。
ISOにおける力量管理の補足
ここまでISO9001の力量管理に焦点を当てて解説してきましたが、その他の規格においても力量管理の基本的な考え方は同じです。
たとえば、情報セキュリティマネジメントシステムの規格であるISMS(ISO/IEC 27001)では、情報の安全性や信頼性を保つため、情報セキュリティ分野における高度な技術や専門知識が要求されます。
必要な力量は職種や業種によって異なりますが、「適切な力量を持つ従業員が業務を行うことで、高い品質や安全性、信頼性を実現する」という全体の目的は共通しています。
今回はISO9001で採用されている力量管理の方法を紹介しましたが、この方法はISMSなど他の規格でも活用することが可能です。
ISO9001の取得や維持には力量管理が必要です
この記事では、ISO9001における力量の定義と、その取得のための5つのステップについて解説しました。
力量とは、単なる知識や技能の蓄積ではなく、それを実際の業務に適用する能力のことを指します。この力量を適切に管理し、必要に応じて教育や訓練を行うことで、組織は持続的な品質向上を実現することが可能になります。
力量評価表の作成やタレントマネジメントシステムの活用は、この力量管理をより効果的に行うための手段としてさまざまな企業で導入されています。ISO9001取得を目指す組織の担当者の方は、ぜひ導入を検討してみてください。