有給消化はなぜ義務化された?その背景と取得メリットを解説
働き方改革が導入されて以降、有給消化と呼ばれる言葉が頻繁に聞かれはじめました。それまでは有給休暇に対して「なかなか取りづらい」「周りの空気で長期休暇が取れない」などの声もしばしば。
有給消化がネガティブなイメージとして浸透していたのかもしれません。とはいえ有給休暇の義務化によって、働き方への意識も変わりはじめました。そこで今回は有給消化の義務化と、取得時の注意点を中心に解説します。
有給消化とは
有給消化とは与えられた有給休暇を消化する際に使われる言葉です。消化とは主に取得する意味であり「有給休暇を使って休みを取る」と言い換えられます。有給休暇は人によって10日~付与されるため、具体的には残している分を使う際に聞かれる言葉です。
とはいえ日本人は真面目な性格ゆえ、仕事を休む感覚はないかもしれません。実際に以前までは有給をほとんど使わない方も多く、消化するのに苦労する場面もありました。普段有給を消化しないと、退職時にまとまって取得したり、連休に加えて大型連休にしたりするケースも見受けられます。
また、日本人の性格上、人に合わせる傾向があります。有給消化が積極的に進んでいない企業であると、なかなか自分自身も取得しづらいかもしれません。有給取得の義務化がはじまったものの、依然として有給消化への対応が求められそうです。
有給(有給休暇)とは
有給とは有給休暇を簡略した言葉です。休暇を取得しつつ、賃金の支払いを受けられる権利となります。正式には「年次有給休暇」と呼ばれ、労働基準法で正式に定められています。労働者にとってはどんな理由でも取得できる権利であり、言い換えれば、どんな事情があっても取得しなければいけません。
有給を消化しない、あるいは休暇を与えない企業は違法となります。法律に違反すると6ヵ月の懲役、または30万円以下の罰金が科せられるのを念頭に置いておきましょう。
有給消化とは
有給消化の順番と期限について解説します。
有給消化の順番
有給消化の順番について、2つのケースから解説していきます。例えば有給付与後にすぐ取得する場合で見ていきましょう。2022年6月に10日間付与された方が、当年12月までにすべて利用。消化順番を考える必要はありません。次に消化せず持ち越すケースです。
後ほど詳しく説明しますが、消化期限は2年まで。加えて有給は勤続年数に比例して、付与日数が増えていきます。2022年6月に10日間付与された方が、2023年12月にはじめて有給を取得するケースを見ていきましょう。この方は2022年の段階で10日有給を保持しており、2023年6月にあらたに11日付与されます。
2023年12月取得時には合計21日所持していると分かります。そこで12月に取得すると2022年6月に付与された分から使われるのです。すなわち、付与された古い休暇から順番に消化されます。
有給消化の期限
有給消化の期限は2年と決められています。取得せずに2年を過ぎると消滅してしまうので注意が必要です。これは法律で定められている期限のため、会社の規則で「2年ではなく1年に短縮している」「企業独自の決まりで4年に延長している」などの取り決めは許されません。
たとえ会社で決めても、その規則は無効となります。また、有給を大量に保持している場合、消化期限は逐一確認しておきましょう。前述した例で言うと、2022年6月に付与された10日分の有給は、2024年6月をもって消滅します。
親切な会社であれば有給残数を教えてくれますが、社員自身で管理させる企業も。思わぬかたちで有給が使えなくなる前に、日頃から有給残数の確認が必要です。
有給消化の義務化
有給消化の義務化について解説します。
義務化された背景
2019年に改正された労働基準法により、有給消化が義務付けられました。義務付けられた背景には有給消化率の向上があります。それまで日本の有給消化率は約50%。世界を代表する19ヵ国を対象とした調査では最下位となりました(有給休暇国際比較調査2017)。
この理由としては「人手不足」「仕事が多忙」「周囲の空気感」があげられます。まず、日本は業界によって人手不足が深刻です。建設・福祉・飲食業界などは様々な打開策を講じつつも、人手不足は解消されていません。人手不足であると一人一人の仕事量が増え、結果的に有給が取得できないのです。
また「周囲が取ってないから消化しづらい」「有給を取得すると評価に響きそう」と考える方も。このような理由から、誰でも気軽に有給を取得できる環境づくりに着手しはじめました。
義務化された内容
2019年の法改正によって、年間5日間の有給消化が義務付けられました。対象となるのは管理監督者を含む、10日以上有給が付与された方。すなわち、同じ企業で半年以上働いている方は、早めに消化しなければいけません。
消化期日については有給付与日を基準として1年以内。2022年6月に10日付与された方は2023年5月までに5日、2024年5月までに5日取得する必要があります。また、この決まりはあくまで取得日を基準として1年以内がポイントです。義務付けられた期日が2022年12月までの「年内」ではないため、あらためて確認しておきましょう。
有給の取得条件
有給の取得条件について解説します。
6か月継続して雇用されている
有給は基本的に6か月継続して働いていれば付与されます。1月に入社した方は6月に付与。その後勤続半年を基準に、1年ごとにあらためて付与されていきます。2022年1月に入社した方は当年6月、2023年6月、2024年6月といった流れで、年数を重ねるごとに付与日数が加算されてきます。
6年半以上働くと20日付与。入社初年度が10日と考えれば、倍の日数が付与されるのは嬉しい点でしょう。それだけ会社に貢献している証拠であり、企業からのご褒美と思ってもらえれば良いでしょう。
とはいえ、半年働いても付与されない場合もあります。対象外とされる条件もあわせて確認するのが大切です。
全労働日の8割以上出勤している
たとえ6か月継続して働いていても、全労働日の8割以上出勤していなければ、有給は付与されません。全労働日とは会社が定めた、従業員に「働いてもらう」日数です。土日・祝日・夏季休暇・年末年始休暇などを除いた、会社が定めた労働日数です。
この全労働日に対し、出勤率が8割以上であれば有給は問題なく付与されます。出勤率は「出勤日÷全労働日」で算出可能。例えば入社から半年間の全労働日を120日(毎月20日想定)とし、その中で110日働いたとしましょう。110÷120=92%(91.6)となり、8割以上を超えています。
そのため、この方は6か月継続して勤務していれば、有給が付与されるのです。ちなみに休日出勤は出勤日に含まれないため注意しましょう。休日はあくまで会社が休むべきと定めた日であるからです。
アルバイト、パートも有給の対象になる
出勤日数別に有給の解説をします。
週4日出勤の場合
有給は正社員・契約社員・派遣社員の特権と思われがちですが、アルバイトやパートも6か月継続して雇用が続けば有給の対象となります。とはいえ社員と同じく、10日付与される確約はありません。出勤日数によって付与日数が変わるため、事前に確認しておきましょう。
まず週4日勤務の場合、1日の労働時間が8時間以上であれば、半年後に10日付与されます。これは法律で定められた所定労働週30時間以上勤務を満たしているからです。週4日×8時間=32時間となり、30時間を超えています。
しかし、所定労働週30時間未満の場合は10日付与されません。年間労働日数169日~216日の場合、雇用開始から半年後に7日、1年半後に8日、2年半後に9日と続いていきます。社員と同じく10日付与されるのは、入社から3年半後となるのは念頭に置いておきましょう。
週3日出勤の場合
アルバイトやパートでよく見かける求人は、週4日と週3日が多い傾向にあります。企業は安定して働ける人を求めているため、週3日や週4日勤務の条件で募集をかけているのです。
とくに週3日は勤務バランスが良く「週4日だと多いな」「だけど週2日は少なく感じる」などの要望に応えられるのも、人気の一つ。
その週3日出勤でも年間労働日数に応じて有給が付与されます。具体的には6か月勤務で年間労働日数121~168日の場合、勤務6か月で5日付与。その後は1年半後に6日、2年半後に6日、3年半後に8日と増えていきます。
週2日出勤の場合
週2日出勤も継続して6か月働けば有給は付与されます。年73日~120日間勤務と仮定すると、半年後には3日。1年半・2年半後には4日、3年半後には5日と付与されていきます。しかし、最大で7日しか付与されないのは念頭に置いておきましょう。
社員・週4日・週3日勤務のように、頑張り次第で10日付与されるわけではないのです。また、週3日と比較して年ごとに加算される日数もゆるやかになります。もちろん個人的な事情もあるかもしれませんが、週2日勤務を希望する方は、出来る限り週3日以上を希望するのがおすすめです。
週1日出勤の場合
仕事の合間や掛け持ちで勤務している、週1日出勤の方も有給付与の対象となります。勤務開始から6か月経過すると有給が発生。週1日出勤の場合は年間労働日数48日~72日で、半年後に1日、1年半後に2日、2年半後に2日、3年半後に2日、4年半後に3日付与されます。
とくにこの週1日出勤で有給が発生する事実を知らない方は多いもの。「あと少し働けば有給をもらえた」「有給付与日数まで数日勤務が足りなかった」と嘆く人が見受けられます。労働者が理解不足である職場もあるため、まずは自分自身で把握していきましょう。
有給休暇のメリット
有給休暇のメリットを解説します。
生産性の向上
現代の日本はストレス社会です。日頃ストレスを抱えている人は半数以上と言われているほど。人間関係や仕事のプレッシャーなどで不安や気分の落ち込みが発生してしまうのです。とくに真面目な方は事態を深刻に受け止め、自分自身を追い込んでいるのもしばしば。
そのような状態で働いても、当然ながら結果は出ません。ミスやトラブルが続き、最終的には自分の評価が下がってしまいます。そこで有給休暇をうまく使えば、心身ともにリラックスできるもの。
有給で好きな趣味や習い事などの時間に利用すると、心・体・頭が休まります。結果的に仕事との切り替えがスムーズにいき、生産性が向上するのです。
労働環境が整備されていることでのイメージ向上
コロナ禍の影響もあり、若年層の働き方に対する意識は年々変わりつつあります。以前までは「プライベートよりも仕事を重視したい」と考えていた方が多かったものの、現在は「どちらかというとプライベートを重視したい」「プライベートのほうが大切」と答える若者が上回りました。
世代特有の性格や性質が大きく関わっているのかもしれません。そうなると当然就職先や転職先に求める条件は、仕事の内容よりも人間関係や労働環境が重視されます。労働環境に焦点を当てると、有給が気軽に取得できるか否かは重要なポイントです。
近年、有給の取得率が高い企業ランキングも発表されているのも、有給に対する関心の高さがうかがえます。このような事実からも、有給が取得できるだけで企業のイメージ向上につながるのです。
離職防止
なかなか有給が取得できない会社は実は今でも多く存在します。例えば人手不足で1人の負担が大きかったり、取得するのに納得できる理由を伝えなければいけなかったり。そのような状況であると、有給を取りたくても取りづらいです。
有給取得について相談できる人が他にいなければ、なおさら有給を使い切れません。結果的に嫌気がさして、退職を申し出る方もいるでしょう。このように有給と退職には大きな関連性があります。
今回の例を反対の視点に立つと、有給を取りやすい雰囲気に変えるだけで、離職防止につながるのです。「たかが有給されど有給」と言え、有給を軽視すると大切な人材も失います。
モチベーションが上がる
有給を定期的に取得できると、モチベーションは上がっていきます。例えば有給を使って気軽に好きなアーティストのライブに参加できれば「次は地方のライブにも行ってみたいな」「違うアーティストのライブにも興味が出てきたな」と興味がわいてくるもの。
そうなるとライブに行くための資金が必要です。仕事に対するやる気は上がり、本人にとっても、会社にとってもプラスになるのです。このようなケースはあくまで一例ですが、家族・習い事・スキルアップなどの時間が作れると、様々な面で良い影響が出てきます。企業は人に休まれるとネガティブになりがちですが、以上のようなメリットもあります。
有給休暇を消化しない場合のデメリット
有給を消化しないデメリットについて解説します。
ストレスがたまる
有給と人の健康状態には大きな相関関係があると言われています。有給を取得できると心身共に万全な状態で仕事へ臨める一方、取得できなければストレスがたまって満身創痍の状態で働くことになります。働き詰めで休みがうまく取れなければ、プライベートも充実しません。
心も体も疲労困憊となり、ストレスレベルは上がっていく一方なのです。とくに自発的ではなく受け身で仕事をしている方であると、ますます仕事に対するやる気は落ちてしまいます。従業員のストレスを極力感じさせないためにも、有給消化は重要です。
社内の風通しが悪くなる
社内全体で有給が使いにくい空気であると、風通しは徐々に悪くなります。「有給を取得したら怒られそう」「自分だけ取得すると変な目で見られそう」と職場全体が感じていれば、雰囲気が良くなるはずもありません。結果、社員同士で距離感ができてしまい、仕事における些細な内容も報告しなくなります。
情報を共有しなくなり、仕事のしづらさを発生させてしまうのです。反対に有給が取得できている企業は、意見を交わしやすい雰囲気が出ているもの。ミスやトラブルが発生しても即座に情報共有できるため、大きな事態に発展しにくいです。
仕事の効率が下がる
有給を取得できなければ、体調不良や精神の不安定で欠勤する方が増えてきます。そうなると人員が減り、一人一人の負担が大きくなります。作業量が増えると、仕事の質は下がる可能性が高いです。
ミスやトラブルが発生する確率も上がり、予期せぬ事後対応に追われるケースも。結果的に作業量の増加であらたな体調不良者をうむ原因となり、職場全体の生産性は著しく低下してしまうのです。
離職率が上がる
現在は有給休暇が取りやすい企業が増えています。その中で依然として「休みを取らずに仕事をする人が優秀」「有給は正当な理由がなければ取得できない」などの社風があれば、従業員は嫌悪感を抱きます。
とくに近年はSNSによって情報がすぐに確認できるため「有給が取得できない=ブラック企業」と認識してしまうかもしれません。仮に優秀な人材が離職すると、あらためて人材を採用する必要があります。戦力になるまでには時間も必要なため、あらゆるコストがかかってしまうのです。
近年は売り手市場で人材を採用するのも困難であり、従業員の離職は大きなリスクを伴います。
企業の対応方法
企業の対応方法について解説します。
企業と従業員が取得日を話し合い、決定する
企業側は社員側から有給を自ら申し出てもらうのが理想です。有給を期間内にすべて使い切ってもらうのがスムーズな流れとなります。とはいえそう上手くはいかず、従業員が有給を消化しきれず、残してしまうケースが多いでしょう。そこで企業と従業員であらかじめ話し合いの場を設けるのがポイントです。
有給は年間5日消化するのが義務となるため「半年経過したら取得日の目安を相談する」「前もって有給取得計画表を提出する」などの対策もおすすめです。いずれにしても、従業員が自ら有給を取得する運用が必要となります。
年次有給休暇の計画的付与制度の導入
年次有給休暇の計画的付与制度は、政府公認の有給取得促進制度です。有給のうち5日を超える部分は計画的に利用可能(労使協定を結ぶ必要あり)。例えば、有給を10日付与された従業員の場合、5日をあらかじめ申請できます。20日残している方の場合、15日分が制度の対象です。
当制度を利用すれば、従業員はストレスなく自由に休暇が取れます。一方、企業側も積極的に有給を利用してもらうことで、有給残を心配するケースも減っていくのです。最近では年末年始休暇や夏季休暇に有給を加え、大型連休とする方も増えました。事前に休暇希望日が分かっていれば、積極的に活用していきましょう。
有給休暇を取得する際の注意点
有給取得時の注意点について解説します。
上司への報告を怠らない
有給はいつ取得しても構いませんが、上司への報告だけは確実に行っていきましょう。報告をせずに休んでしまうケースはまれにあり、トラブルのもとになりかねません。評価を下げる原因にもつながるため、事前に申し出るのが大切です。
申し出る期間は法律によって決められているわけではありません。企業によって異なるものの、一般的には1か月~2週間前に申し出るのがスムーズと言えます。とはいえ、ふと有給を使いたくなるケースもあるでしょう。その場合はすみやかに業務の引継ぎを済ませ、社内に情報共有するのがポイントです。
有給取得義務に違反すると労働基準法違反となる
労働者が有給取得を申し出た場合、一般的に企業側は拒否権がありません。労働者の有給申請を確実に受理しなければいけないのです。万が一労働者の有給を拒んだ場合は罰則の対象となります。
具体的には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられます。ちなみに有給においては「時季変更権」と呼ばれる権利があるのも事実です。企業はある条件を満たせば、労働者が申請した有給日程を変更できます。
例えば「今月3日の有給を10日に変えてくれないか」「15日の有給をできるだけ早めに使ってほしい」というもの。しかし、権利はよほどの理由がなければ行使できません。
有給休暇の買取は原則不可
有給の買取は以前までグレーゾーンで行われていましたが、現在は働き方改革の影響もあり原則NGです。1年間で最低5日間取得し、定められている2年間で使い切らなければいけません。企業側も2年間で取得しなければいけない旨を徹底的に周知し、正しく取得させる行動が必要となります。
しかし、有給の買取は認められる場合も。例えば退職時に有給が残ってしまうケース。退職すると有給は使えないため、買取は可能です。また、使用期限を過ぎてしまった場合も買取の対象となります。2年の期間を過ぎると使用できないため、買取は認められているのです。
退職や転職の際に有給休暇を取得できる
退職や転職の際、最終出勤日以降にまとめて有給を取得する方は多いです。例えば7月末で退職の方が20日有給を保有している場合、6/30を最終出勤日とし、7月の平日を有給を使えば1か月まるっと休めます。この取得方法であると他の従業員に与える影響は少なく、ストレスなく取得できます。
長期休暇を取れるため、海外旅行や集中したスキルアップに使えるのもメリットと言えるでしょう。退職時に次の会社が決まっていなければ、1か月の休暇を利用して転職活動に集中しても良いです。もちろん最終出勤日以降でなく、最終出勤日以前に取得しても問題ありません。
有給を積極的に活用しましょう
有給は休暇を取得しつつ、賃金の支払いが受けられる権利です。近年は働き方改革の影響もあり、有給消化を全面的に進めています。実際に1年間で5日間の有給を消化する義務があり、企業側もそれに合わせて行動する必要があるのです。
そのためにも、定期的に有給残の話し合いをしたり、従業員に取得計画表を提出させたりするとスムーズです。有給を積極的に取得できれば従業員も企業側もメリットは大きいため、有給消化は前向きかつ積極的に進めていきましょう。