人事制度にもトレンドが!?最新のトレンド傾向と導入の効果を成功例とともに解説!
社会的に企業の人事制度が変化する時が訪れています。これまでのメンバーシップ型の考え方から一転、ジョブ型の役割主義的人事制度が主流になりつつあるのです。優秀な人材を確保し定着させるために、時代の変化に合わせて会社の制度を変えていく柔軟な姿勢が求められます。
自社に導入する際には、導入のメリットとデメリットを踏まえた上で検討し、十分な準備をする必要があるでしょう。今回は、2020年代における最新トレンドを解説しながら、実際の導入事例を紹介します。
最新のトレンド傾向の特徴とは?
現代はIT化が急速に進み、同一労働同一賃金の義務化やテレワークの普及の影響もあり、1990年代の働き方と比べて大きく変化してきました。
2020年代最新のトレンドは、「ジョブ(役割主義)型雇用」。これまで日本で主流だった年功序列や終身雇用が前提の「メンバーシップ型雇用」から、スキルや能力を発揮できるかといった成果を重視する「ジョブ(役割主義)型雇用」が注目されています。
より具体的に最新のトレンド傾向を解説します。
人事制度の変遷
人事制度は時代とともに変化を遂げてきました。1970年代の年功序列重視の制度をはじめに、職能重視から成果重視、そして役割主義型へと移り変わっています。その変遷は年代別に以下のようになっています。
- 1970年代:年功主義型
終身雇用が当たり前と考えられていました。勤続年数や年齢が上がるほどに昇給や昇格など良い処遇になります。
従業員一人ひとりの個性や能力には焦点が当たらず、全員が同じように会社の管理化で勤務していることが重視された人事制度だったといえます。 - 1980年代:職能主義型
個人の能力を加味した人事評価がトレンドに。仕事内容に活用できる資格を持っているかなどの職能査定が実施されるようになりました。
ただし、給与体系は能力に応じてではなく年功序列とする企業が主でした。 - 1990年代:成果主義型
会社の利益や発展につながるような成果を生み出すことによって処遇が良くなるなど、成果を重視した人事制度がトレンドになりました。終身雇用は当たり前ではなくなり、スキルやキャリアプランに応じた転職が一般的になったのです。
一見すると個々の成果に応じて正当な評価がされている成果主義型ですが、実は以下の5つのデメリットがあります。
・従業員が「個人主義」になり短期的な成果を求めるようになる
・社内の連携が弱まり、チームワークに影響する
・成果のみで評価するため、場合により離職率の上昇につながる
・何を成果として評価するか、定義が難しい職種もある
・成果が出ない場合の従業員の精神的負担が大きい
これらの問題点があったために、2000年代には新しい人事制度がトレンドになったのです。 - 2000年代~:役割主義型
個人の能力や成果に着目していた人事制度から、仕事の内容やポジションにおける役割や行動を多角的に評価するようになりました。会社が配置した役割に期待する行動を示すことで、正当な評価が可能になります。
客観的にも正当だといえる評価に基づいて報酬や待遇を決定するため、従業員の納得度も高くなります。また、評価基準が成果だけではなく「行動」になることで社内の活性化やメンタルヘルスの維持にも役立ちます。
行動にフォーカスされた評価基準
2000年代のトレンドとなった「役割主義型」の人事制度では、「成果」よりも従業員の「行動」にフォーカスします。年齢や個人の能力、スキル、生み出した結果よりも役割に応じて「どんな行動を取ったか」が大切なのです。
役割主義の特徴は、評価までのスピードの速さにあります。成果主義型だと行動の結果である成果が表れるまで時間を要しますが、役割主義型は行動そのものを評価するので行動した時点で評価することができます。
さらに、評価内容をオープンにすることで従業員一人ひとりが「どの行動がどのように評価されたか」を理解できる他、納得感を得られるようになるのです。
2021年最新の人事制度
4つの最新手法を紹介します。
ノーレイティング
ランク付けを行わない人事制度である「ノーレイティング」がトレンドになりつつあります。社内の等級制度でいう「等級」がランクに当たります。ランク付けをせずに従業員それぞれが短期的な目標を掲げるノーレイティングにより、細かなフィードバックや適正評価ができるようになるため納得感は高まります。
さらに、ランク付けをしないことは会社が組織として一体感を持つことにつながります。ランク付けをすると従業員同士で競い合い個人プレーが目立つようになりますが、ノーレイティングを導入すると協力して成果を出そうと行動するのでより効率的に業務の推進が可能になります。
ただし、細かなフィードバックのために従業員と上長の時間を取られる点には注意が必要です。時間だけでなく適正な評価をするための上長の負担も大きくなります。導入によるメリットの大きい手法ですが、注意点も踏まえて社内制度を整える必要があるでしょう。例えば、評価を下す立場の上長には明確化した評価基準やノウハウを周知し、評価を一任せずフォロー体制を整えるなどの準備をすると負担が軽減されます。
世界的に有名なマイクロソフト社でもノーレイティングは導入されています。導入前まではランク付けすることで人事評価を行っていましたが、評価基準を「会社や顧客へどれだけの影響を与えたか」に変更したことで生産性向上を実現したのです。
360度評価
一般的には直属の上長が行う評価を、同僚や部下なども行う制度が「360度評価」です。評価者が上長だけではないので、さまざまな視点から多角的な評価を下せるようになります。個人の評価基準に依存したり、人間関係に左右されたりしない正当な評価ができるため、従業員にとっても納得感の高い制度だといえます。
「行動」重視のトレンドと相性が良く、上長の立場からは把握しきれない日頃の行動も踏まえた評価が可能になる点が特徴です。さらに、コンプライアンス遵守のためにも有用です。お互いがお互いに見られる立場になる制度であるため、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントの防止効果が期待できるのです。従業員同士で評価し評価される環境が整うことで、仕事への意欲や業務効率化が期待できる他、従業員一人ひとりの当事者意識の高まりも実現できるでしょう。
バリュー評価
企業が求める行動規範に沿った行動ができたかが評価基準となる「バリュー評価」は、組織全体が同じ方向性で行動できる点がメリットです。「バリュー」とは「価値観」を意味しており、組織の価値観に沿って「何をすれば評価されるか」を従業員が考えられるようになります。バリュー評価に則った評価では、たとえ会社の利益につながるような大きな成果を上げても、行動規範から外れていては高い評価は得られません。組織力やチームの一体感の強化に有効な制度です。
メリットが大きい反面、評価の難しさがデメリットになります。数値化しにくく評価基準も言語化しにくいため、より具体的に行動規範や求める人材像を周知しておきましょう。従業員一人あたりの評価者を複数にして認識の差異が生じないようにしたり、具体的にイメージしやすいように評価基準を言語化したり、客観的に見ても公正だと判断できる工夫が必要です。
ピアボーナス
「ピアボーナス」では従業員一人ひとりの行動を都度評価し、従業員同士でポジティブなフィードバックを行うことができるようになります。アプリやオンラインシステムを使った全員が見れるオープンな場で、お互いに称賛や感謝の言葉と少額インセンティブを送り合うことができるので、仕事に前向きに取り組める環境が整うでしょう。
少額とはいえインセンティブを送り合える制度を整えるためには、コスト的には負担になる点には注意が必要です。送り先が特定の個人に集中してはいないか、コストに見合った効果が得られているかは確認しながら導入しましょう。
トレンド人事制度のメリットとデメリット
メリットとデメリットを解説します。
メリット
トレンド人事制度を導入するメリットは以下の3つです。
①生産性の向上に役立つ
トレンド人事制度は、結果だけでなくその過程にある行動に着目した評価を実現します。そのため、会社の方針や目標に向かってチームとして協力できるようになっていきます。成果主義型の人事制度では個人主体だった働き方がチーム主体に変わると、より効率的に業務が進んで生産性の向上につながるでしょう。必要な人材を獲得しやすくなる
②必要な人材を獲得しやすくなる
トレンドを汲んだ人事制度を導入しているということは、時代に求められている会社だといえます。社会のニーズに応えられる体制が整っていれば、就職活動や転職活動をする人にとって魅力的な企業だと判断されます。間口が広がるほど優秀な人材も獲得しやすく、人材確保の競争力が強まるでしょう。
③生産性の低い人材を判別
多角的な視点から公正な評価を行えるトレンド人事制度の導入により、それまで上長には見えていなかった従業員の勤務実態が明らかになります。オープンな評価制度は生産性の低い従業員を判別することができるため、生産性の低い人材の放出が可能になります。
デメリット
トレンド人事制度を導入するデメリットは2つです。
①長年在籍している従業員からの反発が起きやすい
会社にはそれまでの評価体制や歴史があります。長期間同じ会社に勤めていた人にとっては、人事制度の変更は負担になり反発しやすいものです。
変化が肌に合わなかった場合、優秀な人材の離職につながる可能性もあると念頭に置いておきましょう。トレンド人事制度導入の背景やその狙いについて事前にしっかりと説明し理解してもらえるような配慮が必要です。
②組織弱体化の恐れがある
人事制度は従業員のやる気や信頼感などの精神状態に非常に大きい影響を与えます。人事制度の切り替えに失敗すると、組織弱体化の可能性も高い点はデメリットといえるでしょう。トレンドだからといって安易に導入せず、十分な検討と準備を行うことが重要です。
新しい人事制度を導入した企業事例
実際に導入した企業事例を紹介します。
①アドビシステムズ
アメリカのソフトウェア会社アドビの日本法人であるアドビシステムズ株式会社は、2020年6月18日にアドビ株式会社に社名変更しています。従来のアドビは年間目標を掲げ、年間目標の達成状況から評価を決定していました。しかし、その評価制度では年に一度の評価を行うマネージャーの負担が大きい上に、従業員のモチベーションの維持が困難でした。
そこでアドビが導入したのが「チェックイン」。上長と部下が1対1で対話する場を設けたのです。「そもそも評価する目的は従業員の能力を最大限引き出すこと」という考え方に基づき、上長とのコミュニケーションの機会を増やしました。
チェックインでは上長との対話内容が決められていて、まずは会社から期待されることをすり合わせます。そして、その期待に対する従業員の働きを上長からフィードバックされます。その上で、さらなるスキルアップやキャリアアップのため具体的にどのような行動ができるかを話し合うキャリア開発の時間が設けられます。
チェックインの導入により、従業員アンケートでは「働きがいのある会社だ」と回答した人は10%増え、「上長からのフィードバックが役立つ」と回答した人も10%増えています。このように従業員満足度の向上が見られた他、離職防止にも効果がありました。さらに、導入前よりも株価が3倍に上昇したのです。
②ゼネラル・エレクトリック
ゼネラル・エレクトリックが導入したのは「パフォーマンス・デベロップメント(PD)」です。かつて同社は「9ブロック」という、従業員の中でも特に評価が低い人材は退職か配置換えを行うとする厳しい人事制度を取り入れていました。この制度は従業員にとって心理的負担が大きく、一人ひとりが自由な発想で行動や意見を発することができない状況にありました。
そこでパフォーマンス・デベロップメントを導入し、上長との1対1の面談によるコミュニケーション量の増加を図りました。さらに、360度からオンタイムでフィードバックが受けられる仕組みを導入したのです。このフィードバックの交換を、専用ツールを用いてLINEのようによりフランクに行える体制にしたことで、従業員同士が気軽に褒め合える環境ができました。
この結果、失敗を恐れて行動できなかったゼネラル・エレクトリックの従業員は、失敗も前向きにとらえて挑戦できるようになり社員のモチベーション向上が実現できたのです。従業員のパフォーマンスを最大化していかに発揮できる環境を作り出すかが、人事制度の根底にある考え方なのだといえるでしょう。
③メルカリ
フリマアプリで有名な株式会社メルカリは2013年創業の比較的新しい会社です。メルカリは3ヶ月に一度「OKR評価」と「バリュー評価」を取り入れた人事体制をとっています。OKR(Objective and Key Results)では全社的な目標(O)に向けて達成すべき結果(Key Results)を部署単位や個人単位で設定する手法です。そして、メルカリの3つの行動指針「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be Professional(プロフェッショナルであれ)」が実践できたかを重視するバリュー制度を導入しました。
2つのトレンド人事制度の導入によってメルカリは多角的で公平な評価を実現しました。さらに、バリュー評価において特徴的なのは行動に対して賞を設けたことです。3つの行動指針に沿った行動をした従業員へ、Value賞やMVP賞を贈り全社に会社が重視している行動を周知することに成功しました。
また、メルカリはピアボーナスを「mertip(メルチップ)」という名前で導入していて、社内でいつでも誰でも感謝や称賛を届け合える環境を作り、モチベーション向上に役立てています。バリュー評価だけではなく、指針に従った行動に対してリアルタイムに仲間から評価される点が、社内の活性化や従業員のバリューに沿った行動を促しているのです。
まとめ
人事制度にもトレンドはあり、時代の流れに合わせて各企業は柔軟に制度を変化させる必要があります。新しい人事制度の導入によって得られるメリットは大きく、会社の発展のためにも有効です。しかしデメリットもあるため、導入前の準備は欠かせません。
トレンド人事制度を導入する前は、自社に最適な制度は何かを考慮して検討すると良いでしょう。そのためには、従業員の働きやすさやモチベーション向上などの人事制度導入の目的を明確にしておくことも重要です。