理念の意味をわかりやすく解説【企業理念・経営理念とは?】ビジョンやミッションとの違いも
ビジネスで使われる言葉は多種多様にありますが、「理念」の正しい意味をご存じでしょうか。企業理念や経営理念、ビジョン、ミッションなど、似た言葉は複数ありますが、どれも同じ意味ではありません。
理念は企業の未来を創造する上で欠かせない要素です。正しく意味を知って使い分け、企業の成長につながる理念をつくりましょう。
今回は、言葉の定義や理念の作成方法、作成するメリットを具体例とともに解説します。
理念とは?
広辞苑によると、「事業・計画などの根底にある根本的な考え方」を指しています。物事を判断する際の指針となるもので、「こうあるべき」といえる姿です。
多くの企業では、
- 経営理念
- 企業理念
の2つが使われています。
2つの側面から定めることで、企業は方向性を見失うことなく、目指す理想に向かって成長できるようになるでしょう。
経営理念とは
「会社」という組織を運営する上で重視する価値観や方針を指します。経営陣が事業展開を決める際などに参考にする考え方となるため、組織全体の方向性を決定づけるものとなるでしょう。
人事担当者にとっては、採用や評価、教育の際の基準となり、組織文化を形成する一翼を担います。
具体的には、
- なぜ経営するのか
- 経営に対する考え方
- 企業としての目標
- 経営手段
などを含みます。
世代交代などによって経営者が変わると、内容が大きく変わるケースは少なくありません。経営状況や時代の変化に合わせて柔軟に変更できる点が特徴です。
企業理念とは
企業の存在意義や運営する目的を表すものです。従業員一人ひとりがその内容を理解していると、理念に沿った行動を選択できるようになるため、企業全体の行動方針を位置づける役割を持ちます。
具体的には、
- 重視する価値観
- 行動原理
- 最終的に目指す未来
が表現されます。
企業が理想とする姿や行動が含まれるため、時代の変化や経営者個人の考え方に左右されることがあまりありません。経営状況に合わせて変更される経営理念との違いは、その不変性にあるといえるでしょう。
また、企業理念があって初めて経営理念を打ち立てられる点は大きな特徴です。
理念とミッション、ビジョンの違い
ビジネスで使う言葉には、混同されやすい言葉や意味の似た言葉が数多くあります。
「理念」と混同されやすい、
- ミッション
- ビジョン
との違いは何でしょうか。
これら3つの言葉は意味が異なるため、使い方に注意しましょう。
「ミッション(mission) 」とは、企業が社会に貢献するために達成したい物事や、社会的な役割を指す言葉です。企業が存在する意義を社内外に示す効果があるため、企業はできるだけ具体的なミッションを掲げ、社内はもちろん、社外へも積極的にアピールすると良いでしょう。
「ビジョン(vision)」は、理念の実現につなげるために設定する具体的な目標のことです。設定される目標には、売上高や達成時期など、詳細まで含めます。長期的な目線で掲げる理念と比較して、ビジョンは中長期的な目標だといえるでしょう。
いずれも企業の方向性に関連する要素ですが、時間軸や設定する意味や目的が異なります。それぞれの役割を理解してから設定することで、価値ある目標設定ができるようになるはずです。
理念を掲げる理由とメリット
メリットは4つあります。
社員全員の足並みと方向を揃えるため
理念は、企業としての在り方を示すものです。社内外に周知することで、従業員が同じ認識と目的意識を持って業務にあたることができるでしょう。その結果、企業はブレることなく成長を続けられるのです。
どれほど優秀な従業員を雇用したとしても、従業員の考え方が企業の目指す姿や価値観と異なると認識のズレが生じやすくなります。これは、従業員のモチベーション低下や優秀な社員の早期離職を招く原因です。
自社に適した人材を見極め、従業員全員で足並みと方向を揃えるためにも、理念の設定は重要だといえるでしょう。
社員のエンゲージメントとパフォーマンスを向上するため
「エンゲージメント(engagement)」とは、「誓約・婚約・約束・契約」などの意味を持つ言葉です。社員のエンゲージメントが高い状態は、愛社精神が強く、組織に対する貢献意欲が高い状態だといえます。
理念には
- 企業が目指す未来
- 社会への貢献内容
- 価値観
などが表現されます。
そのため、企業の価値観に共感する人材が集まりやすくなるでしょう。その結果、従業員は帰属意識を持って仕事に打ち込めるようになるのです。
さらに、高い貢献意欲を持つことで、従業員のパフォーマンス向上も期待できます。社員の積極性が増して業務改善が実現できたり、理念で行動指針が提示されることで日々の決断力が高められたりするでしょう。
将来像を常に明確にしながら現在地を確認するため
理念とは、企業の将来像です。将来的に目指すべき姿が明確であれば、その過程で何を達成しておくべきなのか、いつまでに何を為すべきなのかを明らかにしやすくなるでしょう。
企業の理念を明確に掲げていれば、常にその将来像に近づくための決断を下すことができます。
くわえて、将来像と現時点の姿を比べることで、目標の達成度合いを確認することも可能です。ゴール(理念の実現)に対する現在地を確認すれば、その時点ですべき物事を判断しやすくなるでしょう。もし行動がブレていたとしても、すぐに軌道修正できます。
企業のブランドイメージを向上させるため
経営理念や企業理念は、社内に周知するだけに留まらず、社外へも周知されるのが一般的です。
例えば、
- 自社ホームページ
- 自社パンフレット
- 採用イベント告知
- 投資家向けに行うIR活動
- 顧客向けの広告文
などが発信場所です。
理念は、企業の思いを端的に伝えられる手段だといえるでしょう。わかりやすい表現で社外に自社の価値観をアピールすることは、企業独自の魅力やブランドイメージを印象づけるために効果的です。
ブランドイメージが向上すれば、顧客を獲得しやすくなるほか、投資家や株主からの信頼を得やすくなるでしょう。また、高いブランド力によって優秀な人材を獲得しやすいといった効果も期待できます。
有名企業における理念の例
3社を紹介します。
例1:ソフトバンクグループ
携帯電話の販売や固定通信サービス、移動通信サービスなどを提供しているソフトバンクグループは、多くの人がその名を知っているのではないでしょうか。
携帯の3大キャリアの1つにまで成長したソフトバンクグループの経営理念は、「情報革命で人々を幸せに」です。
「情報革命」と「社会貢献」を軸にしている点は、創業当初から変わっていません。常に人々にとっての幸せの実現を目指してきたからこそ、顧客に愛されながら実用的なサービスを提供し続けているのです。
例2:Amazon
Amazon.co.jpの理念は、「地球上で最もお客様を大事にする企業」です。2000年11月に開設されたショッピングサイトであるAmazonは、今や誰もが知っている大企業に成長しました。アメリカのワシントン州シアトルに本拠地がある企業ですが、日本を含む世界中にサービスを提供しています。
「地球上で最もお客様を大事にする企業」という理念に則って、ショッピングサイトの利用者が欲しい商品を検索しやすく、見つけやすく・低価格で購入できる仕組みづくりに尽力してきました。
現在はショッピングサイトの運営だけでなく、動画や音楽の配信サービスやフォトストレージの提供など、顧客ニーズに合わせたさまざまなサービスを展開しています。
例3:株式会社ファーストリテイリング
株式会社ファーストリテイリングは、ユニクロやジーユーといった衣料品ブランドを展開する企業です。企画から生産、販売までのプロセスをすべて自社で完結させているのが大きな特徴で、世界中に愛されるブランドを発信し続けています。
株式会社ファーストリテイリングは、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」を企業の使命として掲げています。
そこには、「人々に本当に良い服を着て欲しい。良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供したい」という思いがあります。
衣料品は生活に欠かせないからこそ、顧客目線での製品づくりに注力した結果、世界中で愛されるブランドを生み出すに至ったのだといえるでしょう。
理念の作り方
理念を作る際は、適切な手順とポイントを押さえるように注意しましょう。やみくもに理念を設定しても、実際の思いとズレがあったり耳触りの良い言葉を並べただけになったりする可能性があります。
理念の作り方を順を追って解説します。
まずはコアメンバーでブレインストーミングしてみる
企業の運営に関わるコアメンバーで、ブレインストーミングをしてみましょう。ブレインストーミングとは集団発想法の1つで、複数人でアイデアを出し合う会議方式です。
この段階では、理念を作ることよりも、個々の理想を思いつくままに出すようにしましょう。関係がないからといって思いついたアイデアをシェアしないと、本当に共感できる理念が生まれにくくなります。
まずはコアメンバーそれぞれが思い描く会社の将来像を、自由に書き出してみることが大切です。
例えば、
- とにかく大きく稼ぎたい
- 秘書を雇って社長業に専念したい
- 上場企業になりたい
といった個人的な思いがあふれるかもしれません。
または、
- 地球の資源を守りたい
- 社会問題の解決に寄与したい
- 子どもたちが安心して住める社会にしたい
などの社会的な目標が出てくることもあるでしょう。
ブレインストーミングに参加するコアメンバーは、経営陣に限りません。その時点で雇用している従業員とも話し合う方が、やり取りが活発になるのでおすすめです。
自社のミッションを明確にする
自社が社会に提供できる価値とは何でしょうか。事業を通して、どのような社会を実現していきたいと考えるのか、ミッションを明確にしましょう。
具体的には、
- どのような事業で
- 誰に対して
- 何を提供するのか
- その結果、どのような未来を実現するのか
などを言語化します。
この過程では、自社が「できること」と社会が「求めていること」を組み合わせて考えることがポイントです。自社の強みを発揮すれば社会問題の解決に寄与できないか深く考えましょう。自社の強みを活かすことで、オリジナリティが生まれ、早期ブランド化にもつながります。
未来のビジョンを見通してみる
自社の将来像がある程度具体化できたら、その目標を達成するまでのプロセスを検討しましょう。
1年後、3年後、5年後、10年後など、自社の未来を数年単位で想像します。その時点で何を達成しているべきなのか、ビジョンを持っておくようにしましょう。
ビジョンの設定は、企業の理念実現のために行うものです。理念と関係のない内容や、考え方が異なる内容にならないように注意すると良いでしょう。
進みたくない方向性も想像してみる
理念を作るとき「目指す未来」「将来像」ばかりに目が向きやすくなります。
しかし、実現したい物事のために、気乗りしない物事に取り組むときが来るかもしれません。その場面で適切な判断ができるように、「進みたくない方向性」も明確にしておくと良いでしょう。
例えば、
- 薄利多売は避けたい
- 従業員に愛されない企業は嫌
- 事業が成長してもコンサル業はしない
- 値下げ対応は不可
などです。
望まない未来があらかじめ想定できれば、将来の判断に迷った際の指針となります。
複数案出してみて、試行錯誤する
理念についてアイデアを出し合っても、一度で決まるケースは多くありません。企業の考え方や目指す未来を表す理念は、企業そのものを表現する重要な要素だからです。
コアメンバーや経営陣の全員が納得できる理念を掲げるためには、最初から案を絞るのではなく、複数案を出した状態で試行錯誤する必要があります。
大元となるA案の表現を変えるやり方よりも、A案とB案とC案の良いところを組み合わせてD案を作るといったやり方がおすすめです。広い視野で自社を表現する言葉を探せるようになるでしょう。
理念を社内に浸透させていくためには
具体的な方法を4つ紹介します。
経営陣や管理職が理念に基づいた行動をする
理念は会社全体の共通認識であるべきです。従業員の行動指針ともなる企業理念は、日々の業務で思い返す機会もあるでしょう。従業員が迷わずに理念に従った行動をするためには、経営陣や管理職が理念に基づいた行動をする姿を見せなければなりません。
企業の上層部が理念に反する行動をしていると、従業員は行動指針を失ってしまいます。判断基準が個人の裁量に委ねられるため、まずは上層部が理念を意識した行動を心がけましょう。
オリエンテーションを行う
理念の浸透を目指すなら、オリエンテーションを実施して企業への理解を深める機会を設けると良いでしょう。会社への理解を深めて自社に適応してもらうための説明会や研修を、入社後に実施すると、企業全体が持つ基本の考え方を身につけられます。
オリエンテーションは新卒採用者だけでなく中途採用者にも実施しましょう。中途採用者は前職での企業風土や価値観が強く残っている可能性が高いため、できるだけ早期にオリエンテーションを行って、自社に慣れてもらえるような工夫を凝らすことが大切です。
ツールを使ったコミュニケーションを行う
かつての企業は、経営陣と一般社員のコミュニケーションの場が、社内報や全体朝礼などに限られていました。それに対して昨今はITツールが普及していて、経営陣と一般社員がより近しい距離でコミュニケーションが取れるようになっています。
オンラインチャットツールやミーティングツールをうまく活用すれば、社内全体への理念の浸透を実現できるでしょう。ツールを使えば社内報の配布も簡単になり、従業員が気軽に目を通せるようになります。
その他にも、企業理念に沿ったアクションリストをチャットツールで配布したり、従業員同士が進捗を確認して競争できる環境を整えたりといった取り組みが可能です。
理念を取り入れた人事・評価制度を制定する
理念の浸透のためには、従業員に理念の実現を「自分事」だと感じてもらう必要があります。そのためには、理念に即した行動を取っている従業員を高く評価する人事評価制度を取り入れると良いでしょう。
例えば、従業員同士が日頃の感謝や称賛を伝え合えるピアボーナスという仕組みを取り入れるのが効果的かもしれません。理念に従った行動を取ったらピアボーナスを受け取れるようにすれば、従業員が意識的に行動を変えるようになるでしょう。
理念は企業の未来を創造する上で欠かせない要素です
理念とは企業が一貫した行動原理を持って組織運営するにあたって、非常に重要な要素です。企業理念や経営理念があってこそ、企業は目指す未来を見据えながら事業展開ができるようになるでしょう。
理念を作ることは、従業員のモチベーションアップやミスマッチ防止にも役立ちます。理念を設定する際は、自社の現状や強み、社会的意義などを幅広く考慮することが大切です。