ジョブローテーション制度とは?その定義やメリット・デメリット、導入企業事例について
ジョブローテーションとは、定期的に職場を異動したり、職務を変更したりする制度です。各企業は人材育成計画に基づいて戦略的に部署異動や担当業務の変更を行っています。ジョブローテーションは個々の適材適所の見極めができるなどメリットがある一方、育成面でのデメリットもあります。
本記事ではジョブローテーションについての概要から、ジョブローテーションのメリットデメリットをご紹介します。
ジョブローテーション制度とは?
ジョブローテーションとは、社員の能力開発を目的として、定期的に社内異動や業務内容の変更を行うことです。「戦略的人事異動」や「計画的人事異動」といわれています。
日本では人材研修という名目で行われることが多く、社内異動の場合は短くて半年、長くて年単位での配属がされます。
企業の中には様々な職種があり、職種の中にも多くの業務があるので、短い期間で会社のすべてを把握することは困難です。そのため、人材研修で新入社員などがどんな職種があり、どんな業務が行われているのかを学び、本配属の際にも他部署とのコミュニケーションが円滑に進むようにジョブローテーションが行われています。
ジョブローテーションの多くは、実際に配属されOJTを通して業務を学びます。新入社員研修で数ヶ月かけて行う場合もあれば、幹部候補を育成するために行われる場合もあります。
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ジョブローテーションの背景
ジョブローテーションは従来の日本企業で取り入れられてきた「終身雇用制度」をきっかけに広がった背景があります。
多くの社員が新卒で入社し、そのまま定年まで働くことが前提となっている終身雇用制度。
終身雇用制度を取り入れているおかげで、人材育成を長期的に行うことができました。
しかし、現在の日本では終身雇用制度を取り入れている企業が徐々に減っており、その代わり海外企業で多くみられる「ジョブ型雇用」を取り入れる企業が増加しています。
その状況を考えると今後ジョブローテーションの活用方法は変わってくると言えるでしょう。
ジョブローテーションの期間や実施頻度
ジョブローテーションを行う期間や実施頻度は短くて半年程度、長くて3〜5年程度で行われることが多いですが、
これといった明確な基準はなく、ジョブローテーションを行う目的によってさまざまです。
例えばジョブローテーションを行う相手が新入社員だった場合、企業全体の把握や適性の見極めが目的となるため、短期間で多くの部署を経験させるといいでしょう。
新入社員本人にとっても今後役に立つ貴重な経験になり得るでしょう。
一方、ジョブローテーションを行う相手が幹部候補の社員である場合、各部署への深い理解や他部署との関係構築が目的になるため、ジョブローテーションの期間は3〜5年ほどと長くなります。
ジョブローテーションを行う相手や目的を明確にし、目的に合わせた期間や頻度を設けて活用しましょう。
ジョブローテーションの目的
ジョブローテーションの目的は、大きく3つあります。
- 人材育成
- 企業全体の把握
- 属人化の防止
人材育成
ジョブローテーションは、さまざまな職種や部署を経験を積むことができます。そのため、新人研修などで採用されている制度です。
入社後、ジョブローテーションを通して、多様な職務を行い様々な経験をしながら、適正や本人の意向を見極めて配属を決定します。
適性や本人の意向を見極めることができるため、人材育成に繋がります。
企業全体の把握
部署や職種の数が多いと、従業員がそれらの業務内容を会社説明のみで理解することは容易ではありません。そのため、それらの部署でさまざまな職務を経験することで、企業の全体像を把握することができます。
また、幅広い視野を得ることで、偏ったり固定されたりした部署にいては生まれなかったアイデアも生まれやすくなります。
属人化の防止
その人にしかできない仕事が多ければ、一人にかかる負担が大きくなったり、その従業員がやめたことによって大きな支障をきたすこともあります。
ジョブローテーションは属人化を防止し、従業員に業務の共有化を行えます。
人事異動との違い
人事異動とは、配置転換や役職を与え組織の中での社員の役割(地位や職務、勤務地など)を変えることです。人事異動は経営戦略に基づく部署強化や欠員補充、組織活性といった目的で行われます。
一方、ジョブローテーションと人事異動は、社員の部署や役割などを変えるといった意味では同じですが、目的が違います。経営戦略に基づく部署強化や欠員補充、組織活性といった目的に加え、人事戦略の一環や人材育成といった目的も持ちます。
人事異動とジョブローテーションを比較すると、ジョブローテーションの方がより広義なものと言えます。
社内公募との違い
社内公募制度とは、会社が必要とするポストや職種などの条件を社員に公開し、希望者を公募する制度です。人事戦略に基づき実施されるという点では類似していますが、選定方法に大きな違いがあり、社内公募の場合、「特定の業務をしたい」と公募してきた社員の中から選定します。
一方、ジョブローテーションの場合、社員の意思とは関係なく、全社員の中から適切な人材を選ぶという点が、社内公募とは大きく異なる点です。
ジョブローテーションのメリット
ジョブローテーションのメリットは、異なる職務を持つ従業員同士を比較する評価基準が存在することになるため、部署を越えた人事異動を計画・実行しやすくなります。企業側としては柔軟に組織再編を行うことが可能になります。
適材適所の判断が可能
企業の生産性や利益の向上のためには、適材適所の人材配置を行うことが不可欠です。
特に新入社員はどの業務に適性があるかを見抜くことが難しいため、ジョブローションを通じて実際にいくつかの業務を経験し、強みや弱みが明確にすることにより。適材適所の判断を行うことができます。
部署間の連携が円滑になる
仕事をしていくうえで、成果を上げるためにさまざまな部署との連携が必要になる場面は多くあります。しかし、普段関わりがない人といきなり関係構築をしていくのは困難です。
ジョブローテーションを取り入れることで、関りを持つ機会が増えるため、部署間の連携が生まれやすくなります。
業務の属人化を防ぐ
同じ社員が同じ業務を長い間担当していると、業務が属人化されます。ジョブローテーションを行うことにより、複数の社員が業務を担当することが可能です。代替要員を確保でき、業務の一極集中がなくなり平等に業務の割り振りが行うことができます。
ジョブローテーションのデメリット
ジョブローテーションを行う企業は、社員は定期的に部署が変わり、新たな業務に取り組まなければならないため、特定の職種に特化したスキルを伸ばす環境には特化できません。
また、職種によって大幅に給与が変わる場合にはジョブローテーションを行うと不満が生まれる場合があります。
一時的な生産性の低下
前述したとおり、社員は定期的に部署が変わり、新たな業務に取り組まなければならないため、特定の職種に特化したスキルを伸ばす環境とは言いにくく、結果として勤続年数の長い従業員が出世が早くなる傾向にあります。
また、新しい業務に慣れるまでに一定の時間がかかる、受け入れる側も指導に時間を取られてしまう、後任への引継ぎ中に業務が停滞するといった生産性の低下にもつながる可能性が高くなります。スキルの高い社員を近くに配置するなど、生産性がなるべく落ちない施策が必要です。
社員の離職につながる
社員が「自分にはこの業務が合わない」と感じる場面が続くと、不満を感じる社員がでてきてしまい、離職に繋がる可能性はあります。
将来を期待して育成してきた社員に退職されないために本人の希望と会社の期待をすり合わせる場を設けるなどサポート体制が必要です。
⇒ジョブローテーションが退職につながるケースについて詳しく知りたい方はこちら
スペシャリストの育成が難しい
ジョブローテーションでは一定期間で業務内容が変化するため、業務の表面的なことは理解できても深い部分までは理解できていないことがあります。幅広い知識や経験を有する「ジェネラリスト」の育成は可能ですが、特定分野の知識や経験を有する「スペシャリスト」の育成には適していません。
ジョブローテーションを導入しやすい企業
どのような企業でジョブローテーションの効果をより発揮しやすいのか、導入に向いている企業の特徴を紹介します。
各部署の業務の関連性が高い企業
製造業など企業内の各業務が一連の流れでつながっている場合、ジョブローテーションで前後の流れを知ることで、業務が円滑になりでしょう。
幅広い知識が必要な企業
金融業など幅広い知識が求められる企業では、本部と現場を見ることで知識を蓄えることができます。その知識を生かし、別の部署でも活躍が期待出来たり、自分自身の業務の中で何かを判断する際、的確な判断を行うための指針となるでしょう。
企業文化やポリシーを浸透させたい企業
M&Aを行った企業や店舗・支社の多い企業の場合、企業文化を統一させる必要があります。ジョブローテーションを行うことにより、M&Aを行った企業や店舗・支社の交流で社員の統一感を生むことができます。
社員数の多い大企業
社員数が多い大企業の場合、同じ業務を担当している従業員がいるため、ジョブローテーションできた人の指導を行うことが可能です。
そのため、ジョブローテーションに適しています。
ジョブローテーションの導入が難しい企業
反対に、ジョブローテーションの導入が難しい企業の特徴も紹介していきます。導入を検討する際に注意が必要です。
異動できる部署や職種が少ない
そもそも異動できる部署が少ない場合はジョブローテーションの実施が難しくなります。
無理にジョブローテーションを行っても、業務経験として活かせず、生産性の低下につながります。
社員の不満にも繋がりかねません。
その場合は無理に行わず、別の施策を検討してみましょう。
それぞれの部署の専門性が高すぎる
専門性の高い業務のスキル向上にはその業務に長時間携わることが必要です。
しかし、ジョブローテーションは決められた期間内で部署や職務を変えるので、その限られた期間で専門性の高い業務のスキル向上は見込めません。
短期間での異動が重なると専門性業務の習得が阻害される可能性もあります。
そのため専門性が求められる業務が中心の企業でのジョブローテーションの実施は難しいでしょう。
決められた期間内の人材育成が困難
ジョブローテーションを行うには一定の育成期間が必要になりまが、
中途採用や途中退職が多い企業ではジョブローテーションを行う期間を確保できません。
ジョブローテーションをより効果的に行うには育成期間を確保することが必須条件です。
そのため、人材の出入りの多い企業でのジョブローテーションの実施は難しいと言えます。
部署・職種によっての勤務体系の差が大きい
ジョブローテーションによって異動した部署と、元々いた部署の勤務体系が大きく変わってしまうと社員の不満にも繋がりかねません。
社員の不満によって最悪離職してしまった場合、ジョブローテーションを行った意味がまるでなくなってしまいます。
また、法的な問題に発展するリスクもあります。
ジョブローテーションを行う際には部署ごとの勤務体系の差が大きくならないよう見直したり、異動先を慎重に選びましょう。
ジョブローテーションの効果を高めるには?
ジョブローテーションの効果を高めるために必要なポイントを紹介します。
社員のジョブローテンションに対する理解
ジョブローテーションの目的を明確化したあとは、その目的を社員に共有し、理解してもらう必要があります。
なぜジョブローテーションを行うか理解できないまま行ってしまうと、社員は混乱し、モチベーションの低下にもつながります。
目的以外にもジョブローテーションの意義や、ジョブローテーションによる経験が今後の業務にどのように役立つかをきちんと説明し、社員のモチベーションを高めることが重要なポイントです。
社員の理解はジョブローテーションを効果的に行うために必要不可欠です。
サポート体制を整える
部署によって必要な業務やマニュアルなどが違うので、異動先の部署は異動してきた社員にスムーズに業務を行えるよう指導しましょう。
異動先の受け入れ体制が整っていると、ジョブローテーションを円滑に行うことができます。
また、異動にかかる費用のサポートも必要になります。
企業としての体制を整えた上でジョブローテーションを行いましょう。
ジョブローテーションを活用しよう
ジョブローテーションにはいい面もありますが、スキルに特化した環境とは言えない部分もあります。研修にジョブローテーションを組み込む場合は、自社の体制にうまく合っているかなどを視点に判断するとよいでしょう。
社員のスキル管理を行い、最適配置を考えたい場合はジョブローテーションを行うよりも、タレントマネジメントを行ことが有効な場合もあります。
⇒ タレントマネジメントとは?システム導入までの手順とポイント