RPAとは?導入するメリットとRPA導入までの6ステップ
「RPA」という言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。働き方改革や労働人口の減少を背景に、企業は限られた時間と労働力で成長を続けていくことが求められています。RPAは、企業の人手不足の解消や業務効率アップに役立つ取り組みとして、現在注目を集め、導入を進める企業が増えています。
今回は、RPAの概要と具体的な導入の流れ、メリットについて解説します。
RPAとは
「RPA(Robotic Process Automation)」とは、バックオフィス業務などをソフトウェアとして組まれたロボットシステムが代行する取り組みや概念を意味します。RPAでは、ルールエンジン・機械学習・人工知能などの認知技術を活用します。
人間が一つ一つ手作業で行っていた業務の中でも特に定型的でルーティンワーク化しやすい業務を、ソフトウェア・ロボットが自動化することで業務の効率化が期待できます。
人に代わって知的業務を進めることから、「仮想知的労働者(デジタルレイバー)」と称されることがあります。
RPAとAIの違い
RPAとよく似た言葉に「AI」があります。RPAとAIは混同しやすい言葉ですが、意味が異なるため使い分けに注意しましょう。
AIとは、「Artificial Intelligence(アーティフィシャル・インテリジェンス)」の頭文字を取った言葉であり、日本語では「人工知能」とも呼ばれます。この言葉は、アメリカの大学教授、ジョン・マッカーシー氏により提唱されました。
知能を持つコンピューターであるAIは、自ら学習するという特徴を持っています。指示された動きを学習しながら、過去のデータを参照して業務改善などを実施できるのです。AIは自身で判断できるため、単純作業よりも音声認識や画像の判別、外国語の翻訳などが適しています。
一方、RPAはシステムだけで学習して判断することができません。ただ、指示した動きや判断基準を正確に踏襲して動作するため、単純作業や判断基準が変わらない業務の遂行に役立ちます。
RPAの3つのクラス
一口にRPAといっても、対応できる作業の難しさなどには差があります。総務省は、RPAの機能や対応レベルに応じて、RPAを3つのクラスに分けていることをご存じでしょうか。
求める作業のレベルとRPAが対応できるレベルが異なると、業務の自動化がスムーズに進まない可能性があります。自動化を進めたい業務内容や作業の複雑さをしっかりと見極め、自社に導入するクラスはどれが適しているかを判断するようにしましょう。
クラス1:RPA(Robotic Process Automation)
クラス1は、「RPA(Robotic Process Automation)」です。ロボティック・プロセス・オートメーションの略称であるRPAは、情報の取得や簡単な情報入力など、定型的な業務に対応できます。
ルールが決まっていてマニュアルに従えば誰でもできるような単純作業には、RPAで十分に対処できるでしょう。
例えば、あるアプリケーションに登録しているユーザーの居住地を抽出して、企業が指定するデータベースに入力するなどができます。人間が行うと時間がかかったり、人的ミスが発生しやすい作業でも、ミスなく業務を遂行できるのが利点です。
多くのアプリケーションでは、データの抽出や入力をそのアプリ内でしか行なえません。RPAを導入すると、複数のシステムやアプリを経由しながらの作業が可能になります。そのため、システム同士の連携が実現しやすく、システム改変がスムーズになります。
クラス2:EPA(Enhanced Process Automation)
クラス2は、「EPA(Enhanced Process Automation)」です。エンハンスド・プロセス・オートメーションの頭文字を取った言葉で、「エンハンスド」は「強化された」という意味を持ちます。
RPAとAIの技術を組み合わせている点が特徴で、RPAよりも高いレベルでの作業が可能になっています。蓄積したデータから学習して自分で判断できるAIを組み合わせることで、非定型的な業務にも対応できる様になりました。
例えば、顧客からの問い合わせ対応がこれにあたります。昨今ではLINEなどのツールで企業が問い合わせを受け付けています。ここでは、顧客のメッセージから問い合わせ内容をAIが判断し、自動的に事前に指示していた回答内容を送信するという動きが可能になっています。
EPAの導入で非定型的な業務もロボットに任せられるようになり、ますます自動化を進められるようになるでしょう。
クラス3:CA(Cognitive Automation)
最も高度な作業に対応できるのがクラス3の「CA(Cognitive Automation)」です。「認識」「認知」という意味の「コグニティブ」という言葉と、「自動化」を意味する「オートメーション」という言葉の頭文字を取った言葉です。
ディープラーニング、自然言語処理、意思決定までも自動化できるようになるので、RPAに比べて利用可能な範囲が広く、複雑な業務に対応できます。
自立型AIを搭載することで学習を繰り返す仕様のため、意思決定の精度が徐々に向上するのが特徴です。導入すると、単純作業のみならず業務フロー全体を自動化できるようになる可能性が高いでしょう。
活用できる場面として、例えば商品の在庫管理が挙げられます。季節によって販売数が異なる商品であっても、過去の販売データを参照しながら適切な時期に必要な数量を自動で判断、発注してくれるようになります。発注漏れや発注担当者に依存した数値管理体制がなくなり、経営改善に役立つことでしょう。
なぜRPA導入企業が増えているのか
RPAを導入する企業は増えていますが、なぜRPA導入企業が増加傾向にあるのでしょうか。そこには、2つの社会的背景があります。
- 働き方改革の推進
「働き方改革」とは日本政府が推進する取り組みの一つで、働く意欲を持った人が自由に仕事を選択してより良い将来への展望を抱ける社会である、「一億総活躍社会」の実現を目的としています。
具体的には、長時間労働を減らし、非正規労働者の待遇改善などに取り組むことが求められるため、企業は少ない時間と労働力でより大きな成果を上げなければなりません。そこで重要になるのが、業務効率化です。
RPAは、業務を効率化する上で有効な手段です。RPAの導入によって業務が自動化できれば、人的ミスが削減できるほか、それまで自動化した業務にかけていた時間をより生産性のある業務に費やすことができるでしょう。これにより業務効率や企業全体の生産性がアップして、従業員の残業時間減少など、働き方改革の実現につながるのです。
- 労働環境や労働人口の変化
労働環境の変化もまた、RPA導入企業が増加している一因だといえます。日本は世界的に見ても全人口に占める高齢者の割合が高い「超高齢化社会」です。高齢化に伴い、働き盛りの若年層の人数が減少しているため、人手不足が課題となる企業が増えているのです。
日本の人口は2053年に1億人を下回り、2065年には約9000万人以下になると予測されています。労働人口の減少によって、企業は少ない労働力で成長を続けていくための取り組みをせざるを得ない状況です。
業務の自動化と効率化を実現するRPAなら、労働人口の減少に対応できるでしょう。RPAのみならず、IT化を進めることやAIロボットを導入することが、人手不足対策として有効です。
RPA導入のメリット・デメリット
自社に新しい設備やシステムを導入するときに気になるのが、導入して企業がどのような恩恵を得られるのか、不利益はないのかという点ではないでしょうか。企業が利益を最大化して効率的に業務を進めていくためには、導入するシステムについて事前にしっかりと吟味する必要があるでしょう。
RPAを導入後に「こうしておけば良かった」と後悔しないためにも、メリットとデメリットを把握した上で、導入する業務を選定することをおすすめします。
RPA導入のメリット
4つのメリットを紹介します。
メリット1:業務の効率化
RPAは人のように労働基準法による労働時間の制限がありません。24時間365日動かせるRPAを導入することで、単純作業はすべてスピーディーに消化できるでしょう。
業務を遂行する速度の改善だけでなく、処理可能なデータ量も増大するため、人間では対応しきれないほどのデータ処理も短時間で実現可能になります。人間が苦手とする単純作業はシステムに任せると、浮いた時間をより思考力や判断力が必要な業務に使えるようになります。そのため、業務の効率化が図れるでしょう。
業務効率のアップは、会社全体の生産性向上につながります。従業員一人ひとりがムダな作業をすることなく業務に集中できる環境が整えば、それまで単純作業をしていた従業員は、より重要な業務に集中して取り組めるようになります。
より重要な業務として、商品企画や販売計画、顧客ニーズのリサーチなどの業務が挙げられます。RPAの導入は、企業の商品やサービスの付加価値の向上のために必要な業務を進めやすくしてくれるでしょう。その結果、よりクオリティーの高い仕事が実現できるのです。
RPAの導入を検討している企業は、自社のどの業務が自動化に適しているかを判断し、業務のすみ分けを進めると良いでしょう。
メリット2:コスト削減
企業が持っている財産は「ヒト・モノ・カネ」の3つだと言われていますが、この中でも特に「ヒト」にかかるコストが、企業の経費の大部分を占めています。RPAを導入すると業務の一部を自動化できるため、人件費の削減が期待できます。
例えば、月給が28万円の従業員15名と雇用契約を結んだ場合、ひと月にかかる人件費は420万円です。420万円を投入して進めていた作業をRPAに任せられる場合、人件費はどれほど削減できるのでしょうか。
RPAを導入すると作業が自動化され人的ミスもなくなるので、業務遂行に必要な従業員は最終確認要員として5名だけになったとします。このときにかかる人件費はひと月あたり140万円です。つまり、システム導入以前と比べて約33%ものコストカットが実現するのです。
さらに、削減できるコストは従業員の給与だけではありません。自動化した業務にかけていた時間を他の業務のために使えるので、従業員の労働時間が短くなるでしょう。その結果、残業代などのコストもカットできます。また、従業員が使用する備品や福利厚生にかかる費用などのコスト削減も期待できるでしょう。
メリット3:ミスが少なくなる
単純作業は慣れや集中力の低下が生じやすく、どうしても人的ミスが起こりやすいといえます。
人的ミスはたとえ軽微なものであっても、その後の工程に遅れを生じさせたり、軽微なミスに気づかずいつの間にか大きな問題に発展したりする可能性があります。そのため、できる限りミスは減らし、顧客満足度やスピーディな業務遂行に尽力することが大切です。
RPAを導入すれば、予め決めておいたルールに従って作業を行ってくれるので、ミスが起こりません。ミスや抜け漏れを防止する上でも、RPAの導入は有効なのです。
予期せぬヒューマンエラーによって、企業が失うのは業務の遂行スピードだけではありません。スピードが低下することで、顧客への対応に遅れが出て商品販売の機会を逃したり、顧客満足度を下げて信用を失ったりするおそれもあります。
スムーズかつ満足度の高いサービスや価値提供をするためにも、RPAを導入してミスを極力減らすことが重要です。
メリット4:社員のモチベーションが上がる
RPAが人間に代わって遂行できる業務は、単純作業が主です。単純作業やルーティン化された業務を人間が行う場合、思考する必要がないために集中力が続かず注意力散漫になりやすいでしょう。その結果、人的ミスが発生してしまいます。
従業員にとって、単純作業はミスが許されないけれど飽きやすく集中できない業務です。そのため担当する従業員が抱える心理的負担は大きく、単純作業に取り組む際のモチベーションが低いことが多いでしょう。
RPAは人的ミスなく、飽きることもなく単純作業を遂行できます。そのためRPAに単純な業務を任せて、従業員はよりクリエイティブな仕事や自分のスキルや経験を活かせる業務を担当できるようになるのです。
自分のスキルを活かし思考する業務は、単純作業よりもやりがいがあるものです。従業員のモチベーションが向上するため、優秀な人材の離職防止も期待できるでしょう。
RPA導入のデメリット
デメリットは5つです。
デメリット1:導入コストがかかる
RPAを導入する方法には、専用のツールを購入するか、自社で新たなツールを開発するなどがあります。どのような方法を取るにしても、導入にかかるコストがゼロではない点はデメリットだといえるでしょう。
ツールを購入する場合、初期費用以外にも月額料金やメンテンナンス費用などが必要になるケースが多くあります。人件費を削減できても、ツールの導入費用が必要以上にかさむようでは、ツール導入のメリットを最大化できません。
導入の際は、どの業務を自動化したいのか、現状はどのような課題があるのか、工数や時間、期待できる効果をしっかりデータとして見える化しましょう。RPAの導入による業務効率化や人件費削減が、必要なコストと見合っているかどうか、慎重に検討する必要があります。
なお、検討に必要な選定時間や担当者の人件費、ツールの使い方をレクチャーする研修費用なども含めて考慮することが重要です。もし迷う場合には、コンサルタントなどに相談するのもおすすめです。
デメリット2:システム障害やバグが発生する可能性がある
RPAはITツールであるため、システム障害やバグが発生する可能性があります。これは人間では起こり得ないトラブルであり、障害やバグの発生が業務をストップさせるおそれがあるので注意が必要です。
システムはさまざまな要素が関連しあって動作しているため、一部機能の変更が他の機能の誤作動を引き起こす場合があります。こうしたトラブルは事前に予測することが難しく、トラブル発生時に対応できる人も限られているでしょう。
システム障害やバグが発生すると、業務がストップする以外にも、入力していたデータが破損する可能性があります。企業ができるのは、随時バックアップを取っていつでも最新の状態に復元できる状態を保つことなどでしょう。データの破損を防ぎ、安全にツールを運用するように心がけ、事前にできる限りの対策を講じることが大切です。
デメリット3:情報漏洩のリスクがある
RPAは、さまざまなアプリケーションやシステムを経由しながら作動するITツールです。複数のシステムを経由するということは、その分情報漏洩のリスクが高まるといえるでしょう。
経由するアプリケーションやシステムのセキュリティ体制によっては、外部からのサイバー攻撃への耐性がなかったり、不正アクセスを許したりしてしまうかもしれません。仮に一つのシステムでログインIDやパスワードが流出すると、芋づる式に他に連携しているものにもログインされてしまう可能性が高まります。
情報漏洩は企業にとって大きな損失です。RPAの導入を進める場合は、使用するすべてのログイン画面等のセキュリティを万全にすること、連携する各種サービスのログイン情報をシステムごとに変えることなどを行いましょう。
デメリット4:ミスが起こる可能性がある
事前に決めた手順や動作に従って作業を進めるRPAは、自動的に規定の業務を遂行してくれるため、人的ミスの発生を防ぐことができます。
しかし、AIのように学習して機能を改善するといった動作はできません。そのため、業務フローや作業内容に変更が生じた場合は、都度設定を変更する必要があります。
もしRPAに指示した内容自体が間違っていたら、人間なら違和感を覚えて作業をストップできる内容でもシステムは止まらずに間違った作業を続けてしまいます。時間的なロスが大きくなってしまうため、システムの設定内容に誤りがないかを定期的にチェックするなどのルールを設けると良いでしょう。
デメリット5:きちんと引き継ぎがされていないケースがある
作業を自動化するRPAを導入すれば、業務の担当者が変わる際の引き継ぎは必要ないと思われやすいものです。そのため、業務の引き継ぎを行うにあたって、RPAが実行している作業の内容や手順などの説明は省略されて作業がブラックボックス化する場合が多いのが難点です。
作業の内容や手順を誰も知らない状態になると、いざシステムの変更が必要になった場合に対応できる従業員がいないなどの弊害が起きるでしょう。
こうした事態を防ぐために、企業としては引き継ぎ内容をしっかり確認しておくとともに、RPAに設定した作業内容や手順等を網羅して記録しておくことができるでしょう。適切な運用を行うための社内体制を構築することが重要です。
RPAが効果的な業務
RPAが効果的なのは以下の2つです。
ルール化されている定型業務
判断基準が明確で、条件によって対応が決まっていたり、作業フローが固定化されているような業務があるなら、RPAの導入を検討してみましょう。RPAは決まったルールに基づいて作業を自動で進められるので、ルールが明確な定型業務をスムーズに行えます。
例えば、書式が決まっている書類の不備をチェックしたり、記載項目が決まっている書類の情報を社内システムに登録したり、膨大なデータから必要な情報を抜き出してまとめたりすることが可能です。
パソコンのみで完了する業務
パソコンだけで完結する業務とRPAの相性は良いといえます。なぜなら、RPAはパソコンやインターネット上のソフトウェア・ロボットを活用して、業務を自動化する取り組みだからです。反対にデータを印刷する必要があるなど、パソコンだけでは完結しない業務はRPA導入に向いていません。
例えば、日々パソコンに打ち込む営業実績を担当者ごとに集計してグラフ化したり、必要なデータを指定したアドレスに自動送信したりする場合に、RPAが役立ちます。
定期的に行われる業務
RPAは定期的に行われる業務にも適しており、その効果を発揮します。
例えば、インターネット上で寄せられた自社商品の口コミ収集です。社内の従業員が手作業で口コミを集めるときは、時間的なロスが多く費用対効果が悪くなってしまいます。そのため、RPAを導入して週に一回だけ口コミを集めるとコスト削減につながります。
規定の業務を行う頻度を事前に決定してしまえば自動で作業を繰り返してくれるため、作業をし忘れることもありません。データ入力やデータ整理など、人間が行うと時間がかかりやすく定期的に発生する作業はRPAの導入を検討すると良いでしょう。
RPA導入の流れ
6つのステップに沿って進めましょう。
業務プロセス見直し
RPAを導入できる業務があるかどうか見極めるために、まず現状把握から始めましょう。業務プロセス全体を見直して、ボトルネックになっている業務や自動化できそうな業務をピックアップします。
1つの業務プロセスに含まれる、細かな作業も見直しておくようにしましょう。例えば、「営業実績を上長に報告する」という業務工程は、「その日の実績をシステムに打ち込む」「今後の実績予測や目標を立てる」「データを添付して上長にメールを送る」などに細分化できます。一つ一つのプロセスを細かく見直すことで、改善点に気づきやすくなるでしょう。
ツール比較検討
業務効率化やIT化が重要視されるようになって、さまざまなRPAツールがリリースされています。RPAを導入できそうな業務が見つかったら、その業務内容に合ったツールを比較検討してみると良いでしょう。
ツールの検討は、自動化したい業務の規模や、その後の業務フローとの兼ね合い、費用対効果を踏まえて行うことが大切です。
課題の洗い出し
RPA導入を成功させるためには、正確な課題抽出と適切なRPAツールの導入が重要です。社内の業務プロセスを見直し、導入するツールの候補を絞り込んだら、さらに踏み込んで自社課題の洗い出しを行います。
ツールを導入した場合に起こり得る問題点や、会社にもたらされる利益を踏まえて課題に向き合うと、優先して改善すべき業務が明らかになるでしょう。
トライアル導入
多くのRPAツールはトライアルを実施できます。導入候補となったツールを実際に自社の業務フローに組み込んで活用してみると、思ってもみなかった問題点が見つかるかもしれません。
本格的に導入する前に一度トライアル期間を設けてみると、本格導入後の認識のズレや自社との相性を確かめられます。
本格導入に向けて課題の再設定・見直し
トライアルを実践して初めて、新しい課題や気づいていなかった問題点が明らかになる場合があります。ツールの本格導入に移る前に、社内の課題の再設定と見直しを行いましょう。
また、本格導入に先んじてツールを使う従業員へ、操作方法マニュアルを配布したり、研修を実施したりして、導入後の業務が滞らないように配慮しておくと安心です。
本格導入
課題や課題解決に役立つツールを選定できたら、本格的にツールを自社に導入しましょう。導入しただけで終わらせず、導入後は定期的に運用状況の確認と改善に努めることが大切です。
本格導入後の運用によっては、期待以上の業務効率化や業績向上が実現できるかもしれません。RPAをうまく活用できていないと感じる場合は、業務プロセスや課題の見直しに立ち戻ってみましょう。
RPAの導入におけるポイント・注意点
6つのポイントと注意点を紹介します。
目標・指標の明確化
RPAを導入したからといって問題点が解決できるわけではありません。そもそも、導入の目的や目標、目標達成の指標が明確に打ち立てられていない場合は、RPA導入の効果を感じにくいでしょう。
目標や指標がはっきりしていないと、導入後に成果が実際に出ているのかわからず効果検証できないという事態が起こります。業務の効率化や人件費の削減、人的ミス減少などの目的を持って導入を進めるように心がけることが大切です。
また、明確な指標をつくるためには自社の現状をしっかりと把握する必要があるでしょう。作業に必要な人員やスキル、時間のほか、ミスの発生頻度や作業の具体的な流れなどを明らかにして、導入前後の変化を確認できるようにしておくのです。
テスト導入を行う
社内に初めてRPAを導入するなら、まずはテスト導入を実施することをおすすめします。実際に導入してわかる課題点や問題点、運用上必要な知識が明らかになるため、本格的に導入する際の参考となるはずです。
テスト導入を行う業務内容は、複数の業務ではなく一つだけにしておく方が問題点などを確認しやすいといえます。一つの業務をRPAで自動化できたら、徐々に別の業務にも導入を進めましょう。
RPAツールは数多くあるため、どのツールが自社に合っているか確認するためにも、まずは各ツールの無料トライアルなどを利用してスモールスケールで導入してみましょう。ツール選定を行いながらテストを実施して、最低限のコストとリスクでRPAを自社に導入するとスムーズです。
導入支援のサポートを受ける
自社で独自のツールを開発しない限り、企業はRPAの導入にあたって各種RPAツールを利用するために購入する場合がほとんどでしょう。多種多様なツールがあるなかで、自社に合っているツールを選べるかは重要なポイントです。
もしも社内にITツールに強い人材がいない場合は、導入支援のサポートを実施しているツールを選びましょう。また、初めて導入する場合も、各種機能を使いこなして効果を最大化するために導入支援を受けることをおすすめします。
RPAツールが高機能であっても、複雑な内容だと使いこなすことができません。プロによるコンサルティングサポートを行っているものなど、サポート体制が充実している場合もあります。ツール選定の際の判断基準の一つとして、サポートの有無も検討しましょう。
運用体制の明確化
RPAは作業の自動化を行うツールであるため、一度ツールを導入してしまえば業務内容を確認したりツールの運用に関わる必要がないと思うかもしれません。しかし、実際にRPAツールを導入すると、定期的なメンテナンスや異常時への対応を求められるケースがあります。そのため、運用体制を明確にしてイレギュラーなどにも対応できる状態にしておくことが大切です。
RPA導入にあたっては、業務フローを把握する人、RPA導入後の課題の洗い出しを行う人、改善を実行する人など、複数の人材が必要です。RPAの運用業務が属人化してしまうと、業務自動化を社内に拡大することが難しくなるでしょう。さまざまな業務に応用できるように、運用メンバーは複数名で構成すると安心です。
また、ツール選定の際には知識のない人でも操作しやすいツールや、社内でも修正改善作業ができるほど簡単なつくりのツールを検討するのも運用体制の強化に役立ちます。
RPA人材の育成
RPAの導入後は、導入前後の効果を検証するためやイレギュラーに対応するための人材を配置する必要があります。そのためには、RPAに関する知識を持った人材が必要になるため、企業はRPA人材の育成に取り組むことが大切です。
適切な人材を育てるためには、従業員一人を選定するのではなくて複数の従業員からなるチームをつくった方が効率的です。担当者が複数いれば、RPA導入の拡大がしやすい上、業務の属人化を防ぐことができます。
ツールの使い方や運用方法について学べる研修会やウェブセミナーなどが開催されているので、人材育成のために積極的に利用することをおすすめします。
野良ロボットの発生を防ぐ
「野良ロボット」という言葉を知っているでしょうか。これは、運用担当者が移動したり退職したりしたことで、管理者がいなくなってしまったロボットを意味します。一度導入してから、思うような効果が得られずに管理されなくなったロボットも野良ロボットと呼ばれます。
業務遂行上は必要のなくなったロボットをそのまま残しておくと、社内システムに不必要な負荷がかかったり、他のシステムに悪い影響を及ぼしたりする可能性があります。こうした事態を防ぐためにも、野良ロボットが発生しないような運用体制を整える必要があるでしょう。
使わなくなったRPAロボットは速やかに停止し、社内でしっかりと管理できるように、運用チームを構成することをおすすめします。
RPAの導入事例
多くの企業が導入を検討しているRPAですが、ここでは実際に導入した企業の成功事例を紹介します。
- 株式会社ジュピターテレコム
J:COMでなじみ深い株式会社ジュピターテレコムが取り組んだのは、サービス申請時の手続き簡略化と自動化です。もともとは担当者1人が複数のシステムを横断しながら、顧客情報の登録や本人確認などを行っており、担当者1人あたりの業務負担が大きいという課題がありました。
そこで、モバイルサービスの申し込みに対してRPA半自動ロボを導入。煩雑だった手続き業務の自動化を進めた結果、手続き1件あたりにかかる時間がおよそ70%削減されたのです。
さらに記入漏れや記入間違いなどの人的ミスがなくなったことで、オペレーションが安定しより質の高いサービスを提供できるようになりました。
- マルコメ株式会社
日本の食品メーカーであるマルコメ株式会社が抱えていた課題は、卸先企業ごとのPOSデータダウンロードの速度でした。POSデータとは、商品販売店舗のレジに記録される商品ごとの売上や販売数などのデータです。このデータを取得するのに、1社あたり20分近くかかる上、卸先企業は約50社ほどと、時間的ロスの大きさが課題となっていたのです。
そこでPOSデータ収集用にルーティンワークを自動で行うRPAを導入し、1社あたりのデータダウンロード時間を20分から5分に短縮することができました。
- アイリンクス株式会社
通販事業を手掛けるアイリンクス株式会社では、顧客情報の入力や転記作業などの定型業務に追われ、人手不足や人的ミスの多さが課題でした。
そこでRPAツールの導入を検討したアイリンクス株式会社は、全社的に業務改善に取り組めるように従業員一人ひとりから日常業務で困っていることを募集したのです。
従業員の生の声を踏まえて、必要な業務工程にRPAを導入したことで、データの転記作業にかかる時間が大幅に削減され業務の効率化が実現されました。
RPA導入は6つのステップに沿って進めましょう
今後減少する労働人口や働き方改革に対応していくために、多くの企業がRPAを導入しています。実際に導入して業務改善や効率化につながったという企業も数多く、今後も多くの企業がRPA導入に向けて取り組むでしょう。
RPAは業務効率化や人的ミスの減少などが期待される、メリットの大きい取り組みです。効果を最大限に引き出すためにも、適切な手順に沿って自社の課題の洗い出しを行い、RPAを導入することをおすすめします。