定義済スキル標準(iCD)とは?iCDを利用したスキル標準化やスキル管理、iCDを使ったスキル標準化方法について
定義済スキル標準とは?
定義済スキル標準とは、特定職種向けに作成されたスキルテンプレートです。
各職務を遂行するためのタスクを分析し文書化している企業は、それほど多くはありません。このような企業がスキル定義を標準化するためには、業務プロセスの分析から始める必要がありますが、定義済スキル標準を利用することで、多大な工数と長い期間を費やすことなく、スキル定義の標準化を実現することができるようになります。
定義済スキル標準の多くは、IT技術者、ロボット技術者といった高度なスキルを要求される技術系職種、もしくは企業内での知的財産管理といった特殊な職種を対象としていますが、営業職といった一般的な職種を対象としているものもありますので、多くの企業で利用することができます。
そもそも、スキル標準化とは何なのでしょうか?
スキル標準化とは?
サービスやスキルを含めた業務内容を体系化しマニュアルを共有することで、サービスやスキルを標準化すれば、一部の社員だけが持っていた知識やノウハウを全員が共有すると、スタッフ全員のスキルが底上げされることが期待されます。
一方で、スキル標準化は、スキル管理の文脈の中で語られることも多いです。
スキル管理とは
スキル管理とは、単に公的資格や社内認定資格の取得状況を管理することではなく、社員のスキルを総合的に管理)することを目的としています。
スキル管理においては、最初に社員に求められるスキルの定義を標準化した上で、スキル項目として設定します。
スキル項目が設定されたら、個々の社員が自己評価を行い、自分の求められるタスクおよび評価項目とのギャップを判定します。同様の評価と判定を上司も行い、それぞれの結果を面談などで調整した結果として、将来求められるより上位のレベルになるために、どのスキルが不足しているかを確認し、次の目標として設定します。
スキル管理では、社員一人一人についての評価と目標設定が一定の間隔で繰り返されることになります。
この際、最新のデータだけではなく、前回以前のデータも履歴として保存しておくことで、人事担当者や上司が社員のレベルアップ具合を時系列にトラッキングすることができるようになります。
スキル標準化に関する詳細
スキル標準化の具体的な説明をしていきます。
スキル管理を開始する際には、スキル定義の標準化が絶対条件です。スキル定義が標準化されていない場合、スキル評価は本人やマネージャの属人的な基準で行われてしまい、評価の公正性がなくなってしまいます。
スキル定義はタスクとスキルから構成されます。ここで、タスクは特定業務を遂行するために必要な能力要素を指します。
例えば、ITエンジニアが行う「アプリケーションシステム開発・構築」業務に必要なタスクが次のように定義できます。
- アプリケーション開発
- アプリケーション基盤の構築・テスト
- システムテスト計画
- ソフトウェア方式設計
- ソフトウェア要求分析
- テスト
- 運用・移行設計
- 開発環境の構築
- 業務プロセスの設計
しかし、このタスクの定義では、大雑把すぎて、客観的で公平な評価はできません。そこで、タスクとは別にスキルを定義します。
スキルは客観的で公正な評価が可能であると同時に、研修講座など修得に必要な具体的な施策が設定可能なレベルで定義します。
先ほどのタスク例のうち、「アプリケーション開発」に関連するスキルとしては、例えば以下のようなものが考えられます。
- アプリケーション開発技法と、開発ツールの評価
- オブジェクト指向の活用
- セキュリティ(機密保護、改ざん防止など)への配慮
- ソフトウェア部品やフレームワークの活用
- 既存のプログラムソースの解読
- プログラミングツールの活用
- データ構造の理解とSQLプログラミング
- プログラム管理方法の理解と実践
- フローチャートの記述
- プログラムの書き換えによる影響範囲の特定
- 処理速度を意識したプログラミング
- 単体テスト計画書の作成
これらスキルの洗い出しは、当初はタスクを細分化することで行ってもかまいませんが、多くのスキルは複数のタスクで必要とされますので、最終的にはタスクとは別の体系として管理する方が効率的です。
タスクとスキルは別々の体系として管理されますが、タスクとスキルを関連付けることで、双方から参照できるようになります。
最後に、客観的で公正な評価を可能にするために、各スキルについて習熟度レベルと呼ばれる点数を定義し、合わせて、タスクの遂行に必要なスキルの習熟度レベルの点数も設定します。
タスクとスキル双方の定義と関連付けが完了したら、自己評価や上司の評価が可能になります。
評価はスキル単位で行われますが、タスクと関連付けられているため、特定のタスクの遂行に必要なスキルの習熟度レベルを満たしているか、満たしていない場合は、どのスキルをどの程度レベルアップすれば良いのかが一目でわかるようになります。
定義済スキル標準の例
それでは、定義済スキル標準の代表例をいくつかご紹介します。
ITSS(ITスキル標準)
ITSSは、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が作成したITベンダーに所属するIT技術者を対象とした定義済スキル標準です。
11の職種と、その下に35の専門分野が定義されており、7段階のスキルレベルが設定されています。
IPAでは、ITSS以外にユーザー企業のIT部門に所属するIT技術者を対象としたUISS(情報システムユーザースキル標準)と組込みソフトウェア開発者を対象としたETSS(組込みスキル標準)も作成しています。
知財人材スキル標準
知財人材スキル標準は、経済産業省(特許庁)が作成した企業内で知的財産管理に携わる人材を対象とした定義済スキル標準です。
知的財産管理に関わる業務を、機能とサイクルの視点から18の分野に分類し、それぞれの分野で必要となるスキル項目とスキルレベルが定義されています。
URA(リサーチ・アドミニストレーター)スキル標準
URAスキル標準は、文部科学省からの委託を受けて東京大学が作成した研究・教育機関で研究開発活動を管理する人材を対象とした定義済スキル標準です。
研究活動管理に関わる業務を、4つの大項目からさらに詳細な22の項目に分類し、それぞれの分野で必要となるスキル項目とスキルレベルが定義されています。
ロボットSIerスキル標準
ロボットSIerスキル標準は、経済産業省が作成したロボットシステムの導入ベンダーを対象とした定義済スキル標準です。
12の技術区分と、その下に59のスキル項目が定義されており、7段階のスキルレベルが設定されています。
iCD(iコンピテンシ・ディクショナリ)
iCDは、前述のIPAが作成した3つのスキル標準(ITSS、UISS、ETSS)を統合、拡張した定義済スキル標準で、タスクディクショナリとスキルディクショナリから構成されています。
タスクディクショナリでは、組織、個人に求められる機能や役割が4階層のモデルで整理、体系化されています。
スキルディクショナリは、タスクを支える能力(スキルや知識)を体系化したもので、スキル3階層と知識項目から構成されています。
iCDは、ITSSなどのIT技術者向けスキル標準がベースになっていますが、拡張部分には、ラインマネジメント、マーケティング・セールス、総務・人事・経理といったIT技術者以外の一般的な職種も含まれており、ITベンダーやIT部門以外でも利用可能な内容となっています。
スキル標準化における課題
スキル管理の前提条件となるスキル定義の標準化は、実際にやろうとすると難易度が高く、多くの企業がスキル管理の準備段階で止まっているのが現状です。
各職務を遂行するためのタスクを分析し文書化している企業では、比較的容易にスキル定義の標準化ができますが、そうでない企業にとっては、業務プロセスの分析から始める必要があり、スキル定義の標準化に多大な工数と長い期間を費やすことへの承認を得ることは容易ではありません。
このようなスキル標準化における課題を解決する方法として、特定職種向けに作成されたスキルテンプレートである定義済スキル標準を利用することが考えられます。
それでは、スキル標準化をするためにはどうすれば良いのでしょうか?
iCDを使ったスキル標準化の方法
iCDを利用したスキル標準化の方法をその手順に沿ってご紹介します。
タスクの選択と整理
iCDを利用したスキル標準化の最初の作業は、タスクの選択と整理です。
タスクディクショナリのタスク一覧からタスクを選択し、組織にマッピングします。
ここでは、単に現状(As Is)に基づいてマッピングするだけではなく、将来あるべき姿(To Be)も含めて行います。
以下の例では、As IsとTo Beの区別を〇(現状、十分に実施されている)、△(現状、実施されているが十分ではない)、▲(現状実施されていない)の記号で判別できるようにしています。
タスクプロフィールを活用して、タスクの選択と整理を簡略化できる場合もあります。
まず、「タスクプロフィール一覧」で自社のビジネスや組織に合うタスクプロフィールを見つけます。
タスクプロフィールには、ビジネスタイプ別や役割別といった様々な分類が用意されていますので、全てのタスクがカバーできなくても、一部の部門や業務をカバーするタスクプロフィールが見つかる場合もあります。
タスクプロフィールが見つかったら、「タスクプロフィール×タスク対応表」から、そのタスクプロフィールに必要なタスクが選択できます。
評価項目と診断基準の設定
タスクの選択と整理ができたら、次に評価項目と診断基準の設定を行います。
タスクディクショナリでは、タスク一覧のタスク小分類ごとに、あらかじめ複数の評価項目が設定されています。設定済の評価項目をそのまま使用することも可能ですが、自社の業務内容、規定、用語などに応じて変更したり、必要に応じて評価項目を追加することも重要です。
評価項目が設定できたら、スキルレベルの診断に必要な基準を設定します。診断基準は、自社の組織や人事評価制度に応じて、自由に設定することができますが、iコンピテンシ ディクショナリでは、例として、以下のような一般的な診断基準を提示しています。
タスク診断の試行と改善
評価項目と診断基準の設定が完了した段階で、最初のスキル標準ができあがったことになりますが、制度化の前に、最低1回は試行を行い、その結果から見直しを行うことが重要です。
最初に、各評価項目に対してレベル診断を行い、その集計結果と自社で定める「タスク小分類のレベル判定基準」を使ってレベルを判定します。
以下の例では、評価結果のレベル値を平均した値が、0.5以上ならレベル1、1.5以上ならレベル2、2.5以上ならレベル3、3.5以上ならレベル4という判定基準を使用しています。
次に、タスク大分類・中分類別レベル判定を行うための基準を設定し、タスク小分類の判定結果をタスク大分類、タスク中分類ごとに集計します。
ここでは、個人ごとではなく、組織ごとに集計を行うことで、タスク遂行力を可視化することができます。以下の例では、「タスク小分類のレベル判定基準」と同じものを使用して、タスク大分類・中分類のレベルを判定しています。
タスク診断の試行が完了したら、その結果に基づいて課題検出、分析と見直しを行います。
見直しの内容としては、以下の例2にあるような評価項目の修正が多くなりますが、以下の例1にあるようなタスク項目の変更につながる場合もありえます。
以上のように、定義済スキル標準であるiCDを利用することにより、少ない工数と短期間でのスキル定義の標準化を実現することができます。