業務委託とはどんな契約?他の業務形態との違いやメリットとデメリットを詳しく解説
テレワークや在宅勤務など、場所や時間にとらわれない働き方が注目を集める昨今、「業務委託」という働き方を導入する企業が増えています。
業務委託は企業と雇用関係を結ばない働き方で、働き手と企業の双方にメリットがあります。自由度の高さが魅力ですが、注意して扱わなければトラブルが発生する可能性があるため注意が必要です。
今回は業務委託のメリットとデメリットを、働き手と企業の両面からご紹介します。具体的な注意点も含めて解説するので、自社の人事採用に役立ててください。
業務委託とは
業務委託とは、企業が雇用している従業員ではない人材に社内業務の一部を依頼することを意味します。正社員やアルバイト、パートタイマーなどは企業と雇用契約を結び、企業の指示に従って仕事をします。一方で業務委託の受託者は、企業との雇用関係にないため立場は対等です。
業務委託契約を結ぶと、就業した時間数ではなく、納品した成果に対する報酬が得られるようになります。就業時間や就業場所の定めがないため、好きな時間に仕事を進められる自由さが魅力的な働き方です。
社外の人物に仕事を依頼して任せる契約形態の特性上、企業はセキュリティ対策やトラブルを未然に防ぐ予防策を講じる必要があります。準備は必要ですが、導入するとメリットの多い働き方なので、必要に応じて導入を検討すると企業にとって良い効果がもたらされるはずです。
請負契約とは
業務委託ではなく「請負契約」があることをご存じでしょうか。これは民法第632条において定められた契約形態のことで、「業務を請け負った人が、受託した業務を完遂することを約束し、発注者は成果物に対して報酬を支払う」契約を指します。
業務委託契約と請負契約の違いは、成果物に対する責任の有無です。請負契約では業務の完遂はもちろん、成果物にミスがあれば修正対応までしなければならないと規定されています。もう一方は、修正対応の有無等も含めて法的な規定がないため、契約内容は企業によって変化するのが特徴です。
成果物だけを基準に判断されるため、プログラマやデザイナーなどの職種との相性が良いのが請負契約です。
委任契約とは
民法第643条では「委任契約」の規定が記載されています。これは受託した法的な業務の遂行を目的としています。業務に従事すること自体を目的としているので、成果物に対する責任が生じない点が特徴だといえます。
委任契約は成果物ではなく、成果を生み出す過程にある行為そのものに報酬が支払われます。そのため、客観的に明らかな成果物を提出しない弁護士や医師などは、委任契約との相性が良いでしょう。
準委任契約とは
委任契約は弁護士に代表されるような法律行為を行う業務に対して締結する契約ですが、それ以外の業務を委託する場合は「準委任契約」が適用となります。
該当する職種として、経営コンサルタントや受付などが挙げられます。両者の違いは対象職種だけで、行為そのものに報酬が発生する点は共通していると判断できます。
業務委託契約に関する法律
業務委託契約という名称はさまざまな場面で使われていますが、実際に「業務委託契約」を規定する法律は存在しないのが現状です。
法律上の規定がない契約なのに、法的な効力があるのでしょうか。
実は、民法が業務委託契約の法的根拠になり得るとされています。ただし、業務委託契約の内容は企業や業務内容によってさまざまなので、民法でカバーしきれないケースもあります。
そのためトラブルを未然に防ぐためにも、業務の受託者一人ひとりとの契約内容を細かく定め、契約書に明記しておく必要があるのです。
業務委託と他業務形態の違い
業務委託と似た働き方はいくつかありますが、その違いはどんなところにあるのでしょうか。企業はさまざまな契約形態の内容を正確に把握し、その違いから従業員一人ひとりにとって適切な働き方を選択することが求められます。
さまざまな業務形態との違いを詳しく解説します。
労働者派遣
労働者派遣は、働き手が登録している派遣元企業の指示に従って派遣先企業の業務を遂行します。業務委託と同様に、クライアントとなる企業と働き手が直接雇用契約を結ぶことはありません。
大きな違いは2つあります。
1つは、労働者派遣の場合、指揮監督権を持つのは派遣先企業となります。業務委託は仕事の進め方や働く時間や場所に関する指示を受けず、自分で決めて働けます。
一方で労働者派遣の働き方は、就業場所や時間、仕事の進め方などは派遣先企業が決定するため、働き手の裁量は大きくありません。クライアント企業が指示できる範囲が異なる点が両者の大きな違いの1つです。
もう1つは、成果物や業務内容に対する責任の所在です。派遣契約を結んで勤務する場合は、就業中の労働に対する責任は派遣元企業が持ちます。一方で業務委託は、成果物に対して働き手本人が責任を負います。もしも成果物に不備があった場合や契約内容に反した場合に生じた不利益は、業務委託の受託者本人が賠償する必要があるでしょう。
例えば、著作権フリーではない素材を使ってデザインしたバナー広告を納品後、著作権違反していると発覚した場合について考えてみましょう。このとき、著作権侵害した際の賠償金や、依頼元企業がバナー広告を使って打ち出した広告費用などを受託者が負担しなければならないかもしれません。
業務委託契約を結んで働くなら、自身が請け負った成果物にしっかりと責任を持たなければならないのです。
出向
出向とは、勤め先企業の関連会社やグループ会社、小会社などで勤務することです。この目的は人材育成や雇用調整、人材戦略のためなどとする場合が多くありますが、企業によって異なります。
勤務先の企業との雇用関係はそのままに、出向元と出向先企業の間で出向契約を締結するのが特徴です。この契約では、雇用関係における権利の一部を出向先の企業に譲渡するとする内容が記載される場合が多いでしょう。
このとき、従業員は2つの企業と雇用関係を結ぶことになるのが、業務委託との大きな違いです。また、指揮監督権を出向先企業が有する場合とは違い、業務委託では自身で裁量を持って仕事を進められます。
業務委託のメリット
さまざまな働き方が選択できる現代において、業務委託契約を結んで働く良さはどんなところなのでしょうか。新しい働き方として注目を集めている今、働き方を具体的にイメージしたいと考える人は少なくありません。
働き手にとっても業務委託を導入する企業にとってもメリットがあるため、積極的に導入を検討してはいかがでしょうか。両者からみた導入のメリットをそれぞれ解説します。
労働者のメリット
労働者が得られるメリットは4つです。
得意な業務のみを請け負える
雇用契約を結ばない働き方である業務委託は、どの仕事を請け負うか決める権利を有しています。そのため、自身が得意な仕事だけを選んで受託可能となり、少ないストレスで業務を進められます。
雇用契約を結ぶ場合は、労働者が仕事内容を選択することは難しいでしょう。企業の人事戦略などに従って異動や昇進などが決定されるので、本来は担当したくない業務であっても拒否できません。
得意な業務ややりたい業務がはっきりしている人にとって、業務内容を決められる業務委託の働き方は適しているといえるでしょう。得意な業務を引き受けることで専門性が増すため、多くの実績を積むことが期待できます。
高収入を狙える
業務委託で請け負える仕事内容は多岐にわたります。データ入力や文字起こしなど、特別なスキルが必要ない仕事から、高難度な資格やスキルを求められる仕事までさまざまあるため、得られる収入額も人によって異なります。
専門性が高く資格取得が難しい職種の場合は、報酬額が高めに設定される傾向にあるため、仕事内容によっては高収入を目指せるでしょう。
業務委託はやればやるだけ収入が増えるため、給与の月額があらかじめ固定されている働き方とは違って、頑張りが収入に反映されやすいといえます。
仕事に使える時間が多い人や専門的なスキルを持っている人は、雇用されて働くよりも高い収入を得られる可能性が高いというメリットを感じやすいでしょう。
時間や休日に縛られず自由に業務を行える
裁量権が大きい働き方である業務委託では、働く場所や時間、仕事の進め方など、業務にかかわる全般的な内容を自分で決められます。指揮監督権が就業先の企業にある雇用契約では、仕事をするオフィスの場所や業務に従事すべき時間、休憩時間、休日、仕事内容から進め方まで、企業の指示に従わなければなりません。
業務委託は自由度が高いため、体調や家庭の事情に合わせて当日に休暇を取ったりしても問題ありません。その分、企業から受託された業務を納期までに納品する責任が生じます。
働き方について指示されないということは、自分が最も働きやすいやり方を選べるということです。人によっては日中より夜の方が集中できるなど、自分の性格に合わせて仕事を効率的に終えられる方法を見つけられるのは大きなメリットです。
業務を選択できる
業務委託ではクライアントとなる企業と働き手は対等な関係にあります。雇用される場合は企業の指示を断ることは原則できませんが、業務委託ならできない仕事は断っても問題ありません。
例えば、クライアントが提示した報酬額と業務内容が見合っていないと感じたら価格交渉をしたり、依頼を断ったりできます。また、スキルアップするとともにより高収入が見込める企業の仕事を請け負うことも、報酬が低い企業との契約を更新しない選択をすることも可能です。
自身のキャリアプランや生活スタイルなどに合わせて、自由に業務を選択しやすい点はメリットの1つです。
企業のメリット
企業のメリットを3つ紹介します。
コストを抑えられる
業務を委託する企業は、委託業務を担う人材にかける人件費を削減できるでしょう。業務委託者は直接企業が雇用していない人材なので、健康保険料や雇用保険料などの社会保険料を負担しなくてもよいためです。
また、企業が雇用者向けに提供している福利厚生制度を業務委託者が利用することがないため、健康診断費用や育児休暇手当など保険料以外のコストもカットできます。
さらに、人材育成費用の削減も見込めるのが大きなメリットです。ある業務を人に任せる場合、初めてその仕事に挑戦する人にはマニュアルの整備や先輩従業員からの直接の指導、資格取得支援など、さまざまなコストをかける必要があるでしょう。
教育にかける時間や費用をカットして、即戦力となる人材を活用できる業務委託なら、必要最低限のコストで高い利益を得られます。
例えば、農業を営む企業が販路拡大のためにECサイトをオープンしたいと考えたとき、ホームページ作成スキルを持つ人材をゼロから育成するのは時間と費用がかかります。このとき、IT系に強い人材に業務を委託すれば人材育成の手間なくクオリティの高いホームページが完成すると期待できます。
専門外の業務が必要になったり、低コストで業務を進めたい場合は、業務委託を導入してみると良いでしょう。
業務の生産性が向上する
業務を委託するということは、それまでその仕事を担当していた従業員の手が空くことを意味します。つまり、手が空いた従業員がより重要な業務に従事できるようになるので、生産性向上が期待できるのです。
社外に委託する業務は、外部に依頼しても問題ない業務や専門性が高く社内で対応しきれない業務である場合が多いでしょう。そうした業務を積極的に外部に依頼すれば、従業員のスキルや経験を活かしたコア業務を効率的に進められるようになります。
効率的に仕事を進め、生産性アップが実現できれば、より短い期間での企業の成長が期待できるでしょう。
業務量に合わせた人材が確保できる
業界や業種によっては、繁忙期と閑散期がある場合があるかもしれません。時期に合わせて仕事を進める人材を増やしたり減らしたりできれば、必要最低限の人件費で業務遂行が可能になります。
無期限の雇用契約を結ぶ正社員であれば、閑散期で仕事が少ない時期であっても毎月規定の給与を支払わなければなりません。しかし業務委託なら、必要なときに必要な人数だけ人材を増やせるので、閑散期に余計なコストがかかりません。
業務委託のデメリット
メリットの多い業務委託という働き方ですが、良いことばかりではない点に注意が必要です。デメリットをしっかり理解してから導入することで、起こりやすいトラブルを未然に防いだり、メリットを最大限享受できたりするのです。
企業側、働く側、双方の視点からデメリットとなることをそれぞれ解説します。
労働者のデメリット
労働者のデメリットは6つです。
労働法によって保護されない
業務委託契約を結んで働き始めると、労働法による保護を受けることができません。これは、この法律が適用される範囲は「労働者」に限られているためです。
労働基準法第9条でいう労働者は、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されています。
つまり、企業の指揮監督下になく使用される立場にない業務委託の受託者は、法律で保護される対象の範囲外だといえるのです。
労働基準法では、最低賃金や最大労働時間など、働く人が心身ともに健康であるための最低限の基準が示されています。業務を請け負う人にはこの基準が適用されないため、最低賃金よりも低い報酬額で働いたり、1日8時間以上を費やし、夜を徹して働いたりしても企業に責任はありません。
就業中の事故等を理由にした怪我や病気に対する労災も、業務委託の場合は補助や補償を受けられないケースがほとんどでしょう。
働き手が働く時間や場所、休日などを自由に決められる反面、事業主として働く性質上、「労働者」として法律に守られない面はデメリットです。
社会保険・雇用保険に加入できない
社会保険や雇用保険に加入できない点は、大きなデメリットに感じられるでしょう。各種保険は、雇用されている従業員に対して適用できるとする企業がほとんどであるため、業務委託者に対する補償はありません。
例えば雇用保険は、失業したときに復職するまでの期間または一定期間、失業手当を受け取れる保険制度です。雇用保険に加入できる人は、その名称の通り雇用関係を結んで勤務する人のみです。
そのため、業務委託で請け負っていた仕事が急に途絶えても、失業手当を受け取れず、収入がゼロになってしまうかもしれません。
収入が不安定になる可能性がある
正社員などの雇用形態なら毎月安定した収入が入ってきますが、業務委託契約の場合は請け負う仕事がなければその分収入も減ってしまいます。
雇用される働き方ならたとえ閑散期で仕事量が減ったとしても収入額は変わりません。その点、業務委託は自分から能動的に仕事を獲得しに動かなければ収入は減り、生活が不安定になってしまうでしょう。
業務委託特有の収入の不安定さに悩むフリーランスや個人事業主は多くいます。仮に1つの契約先との仕事が終了してもある程度の収入が確保できるように、複数の企業と契約したり、契約が途切れないように成果物のクオリティを高めたりする努力が求められます。
自分で契約交渉をする必要がある
雇用される働き方では、あらかじめ雇用契約書で給与額や待遇が決められているため、労働者は契約書の内容を承諾する形式が取られます。月給額や待遇について雇用される労働者から企業側に交渉する機会は多くありません。
一方で業務委託では契約内容について交渉する場面が多いといえます。企業との業務委託契約を結ぶにあたって、担当する業務の内容や対応範囲、1件あたりまたは1時間あたりの報酬額などを細かくすり合わせします。その際に、相場よりも低い金額で契約していないか、企業側にばかり有利な条件が提示されていないかなど、契約内容をしっかり確認しましょう。
もし受託側に不利な条件や稼働時間数に対して報酬額が低いと感じられた場合は、クライアント企業と直接交渉する必要があります。あまりに高い金額を提示すると契約自体がなかったことになる可能性があるため、交渉は慎重に行うようにしましょう。
税金の管理を自分で行う必要がある
業務委託かどうかにかかわらず、所得税や住民税など、誰もが支払う必要のある税金があります。雇用契約する働き方なら、源泉徴収によって支払う必要のある税金を給与から天引きしてもらうことができます。そのため、正社員やパートタイム勤務者は、労働者自らが特別な処理をする必要がなく、企業が事務処理を代行してくれる仕組みです。
しかし、業務委託だと税金の支払いは自分自身で行わなければなりません。確定申告といって、年度末に昨年分の収入や経費を税務署に申告するのです。確定申告の内容に合わせて支払うべき税金の金額がわかる仕組みなので、一定額以上の収入がある人は確定申告を行う義務があります。
確定申告をせずに税金を未納していたことが発覚すると、滞納金の追加徴収をされる場合があるため注意しましょう。細かく収支管理を行い、書類や領収書を整理して保管しなければならず、「面倒だ」と感じる人は少なくありません。
自ら学ぶ姿勢がないと成長できない
業務委託は基本的に1人で業務が完結する場合がほとんどです。また、即戦力として仕事を請け負う場合が多いので、自ら未経験職種に挑戦しない限り、経験のない仕事を担当するチャンスは多くありません。
仕事を教えてくれる人との出会いが減る上、企業にあるような研修制度やセミナーといったスキルアップの機会も減るでしょう。
業務委託でより高収入や長期的な契約を目指すなら、能動的にスキルアップのために学び続けることや成長するチャンスを探すことなどが必要です。
企業のデメリット
企業にとってのデメリットは3つです。
従業員のスキルアップにつながらない
外部に業務の一部を委託する理由は企業によってさまざまですが、あまり外部に頼りすぎると社内の人材の成長を妨げる可能性があります。
例えば、企業の認知度アップのためにPR動画を作成する場合は、一時的に外部の動画編集者に業務を委託すれば良いでしょう。しかし、継続して会社紹介や部署紹介などの動画を複数作成するなら、社内でも動画編集や動画のアップロードなどを担当できる人材がいた方が作業はスムーズに進みます。
業務委託した方が人件費が安く済むというメリットはありますが、社内でその業務に関わる人がいなければ社内にノウハウが蓄積されません。
業務委託契約を終了したいのに、社内で対応できる人材が育っていないために契約終了できないという事態にもなりかねません。委託したい業務の内容や、委託する期間などを鑑みて、業務委託するかどうか検討することが重要です。
製品やサービスの質が低下する可能性がある
企業にとって一番の懸念点となるのが、委託した業務の質が低下する可能性があるということです。業務を委託する相手のスキルや経験によって、成果物のクオリティは上下するでしょう。そのため、企業が求めるレベルのクオリティで納品がされず、質の低下につながるおそれがあるのです。
企業が指揮監督権を持たない業務委託では、細かい進捗確認や指示出しができません。成果物を納品されてから修正依頼をしたり、期待通りのクオリティでの納品が見込めないと判断したら別の人に依頼し直したりする必要があるでしょう。
企業が余計な時間や費用をかけずに効率的に仕事を進めたいなら、契約を結ぶ相手を慎重に検討することが欠かせません。
雇用契約よりもコストがかかる可能性がある
業務委託できる業務は多種多様で、簡単な仕事から専門性の高い仕事まで企業のニーズに合わせて委託が可能です。
専門的な仕事は委託時の報酬額が高めに設定される場合が多くあります。そのため、企業が想定していた金額よりも、高額な報酬を準備しなければならないことがあるでしょう。時には人材を雇用するよりも人件費がかさむケースもあります。
技術職と非技術職では報酬額が倍近く変わることは珍しくありません。同じ専門職であっても、業務の難易度からさらに高額な報酬を請求されることも考えられます。業務委託を結ぶにあたっては、予算と合わせて慎重に契約先を検討しましょう。
業務委託契約に契約書は必須
社内の業務を外部に委託する際、必ずしも契約書を作成しなくても良いことをご存じでしょうか。たとえ口約束やチャットでの簡単なやり取りであっても、業務委託契約は成り立ちます。
しかし、業務委託契約において業務委託契約書の取り交わしは必須だといえます。なぜなら、契約内容を書面で残すことがトラブル回避につながるためです。口約束で始まった契約では、働き手があとから「聞いていた報酬額より低い」と申告してもその金額を証明できる物的証拠がありません。また、「契約した業務範囲外のことまで依頼される」という不満を抱いたとしても、契約した業務が何か判別できるものがなければ訴えを証明できません。
契約書を取り交わして業務委託契約を締結しておくことで、さまざまなトラブルを未然に防げます。もしトラブルが大きくなって民事裁判に至ったときでも、契約書が効力を発揮するため、その内容にもとづいて裁判が進むでしょう。
契約書を用意するのは企業にとって負担になりますが、事前にしっかりと準備して契約しておくことが、企業にとっても働く側にとっても安心材料となります。業務を委託するなら必ず契約書を取り交わすことをおすすめします。
業務委託契約書の内容
記載すべき項目は6つあります。
委託業務の内容
委託する業務が何をするものなのか、任せる業務の範囲を詳しく記しましょう。内容があいまいだと、仕事を委託する企業と仕事を請け負う受託者との間で認識のずれが生じやすくなります。
認識のずれが生まれてしまうと、契約締結後に大きなトラブルに発展する可能性が大きくなるので注意しましょう。
専門性が高い仕事を外部に任せる場合や例外的に対応が必要なケースがある場合など、すべてを網羅して記すと長文になりそうなら、契約書とは別に書類を用意することをおすすめします。「添付資料」や「覚書」として、より詳しい業務内容を明記しておくと安心です。
指揮命令関係について
指揮命令権の所在を契約書面で明らかにしておくことも重要です。なぜなら、指揮命令権がどこにあるかによって、適用される法律が変わるためです。
業務委託における指揮命令権は働き手本人が持っています。企業との関係は対等であり、委託された業務や成果物の完成を目指すのが業務委託です。
一方で派遣労働などの指揮命令権は派遣元企業や派遣先企業が持ちます。そのため、労働者は企業の管理下で働く時間や場所を制限されます。
これより、指揮命令権が業務を委託する企業にある場合の働き方は派遣労働とみなされるケースがあるので注意しましょう。この場合、派遣法が適用されるため労働環境が業務委託者とは異なります。
報酬の支払いについて
報酬については、できるだけ細かく記載し、トラブルが起きないように働き手本人に確認しながら契約内容に同意を得る必要があります。できるだけ網羅的に記載することで、トラブルに発展しにくくなるでしょう。
具体的には、以下の6つについて明記することをおすすめします。
- 支払いのタイミング
報酬の支払いがどの時点で行われるのかを明らかにします。委託した業務を終了した時点とする場合や、成果物が納品された時点なのかなど、詳しく記載するように意識しましょう。
成果物の修正が必要となった場合に備えて、修正対応の回数や指示がある場合は修正対応する必要がある旨も記載しておくと安心です。
- 消費税について
支払う報酬額は税込みの金額なのか、消費税を含めない金額なのかを記載することは、トラブル防止のために大切です。
- 報酬額
委託する業務に対する報酬額を記載しなければなりません。支払う金額をはっきりさせておくことで、あとから言った言わないというトラブルに発展しにくくなります。
報酬額の記載方法は業務内容によって変わるので臨機応変にわかりやすい表記を心がけましょう。一般的には、成果物1件あたり○円としたり、1時間あたり○円として基準となる金額を明記します。誰が見ても報酬総額が計算できるようにしておくと安心です。
- 経費の扱い方
委託した業務に必要となる諸経費を、企業か受託者本人のどちらが負担するかを記載します。
例えば、資料の送付にかかる送料や就業中の受託者の電気代など、各種費用が報酬として加算されるかどうか決めておく必要があります。
- 支払い方法
報酬の支払い方は複数ありますが、主に受託者本人の銀行口座へ振り込む企業が大半です。その他の支払い方法としては、現金支給や手形を発行する方法が挙げられます。
- 手数料の負担
意外と重要なのが手数料を負担するのは企業か受託者かということです。報酬の支払いを銀行振込にした際にかかる振込手数料など、どちらの負担とするかで支払う金額が変わるため、しっかりと書き記すようにしなければなりません。
報酬にかかわる内容は、最もトラブルに発展しやすい項目です。できるだけ詳しく記載して、企業も受託者も納得した上で契約を結ぶようにしましょう。
なお、支払い方法や業務内容によっては、支払う報酬額が変わることも知っておかねばなりません。
例えば、事務やコンサルティング業務など、1件あたりの報酬額を設定しにくい業務を委託する際は、毎月固定額を仕払う形式になりやすいでしょう。1ヶ月ごとに固定の金額を支払うため、受託者にとっては収入が安定しやすいメリットがあります。
成果報酬型の仕事は業務委託しやすいでしょう。獲得したアポイントの数によってインセンティブ報酬が発生するテレフォンアポインターや、営業代行などの仕事は、受託者が生んだ成果によって報酬額が変動します。そのため、受託者のモチベーションが維持しやすく、企業は比較的安価な人件費で事業の成長が見込めます。
また、1度きりで終了する単発報酬型の業務もあります。短期間で業務が終了する場合に取り入れられる契約形式で、あらかじめ成果物の数量や報酬額、納期が決められています。例えば店舗のロゴを新規作成したいときに、1回限りのデザイン業務を委託するといった使い方ができます。
契約の解除について
業務委託契約を締結後、求めるクオリティの成果物が納品されないことが続いたり、やり取りがスムーズにできず業務に遅れが生じたり、さまざまな理由から契約解除を検討することがあるかもしれません。しかし一度結んだ契約を解除するのは、企業側または受託者側から一方的にはできません。
もしどちらかが契約内容に不満を持っている場合は、契約期間中に契約解除をしなければならないのです。契約期間中に契約解除する場合を想定して、解除できるケースや解除時の注意点などを契約書内に含めておくと良いでしょう。
契約の解除ができるケースの記載に加えて、解除に伴って発生した費用を負担するのはどちらかを明記しておくと、もしものときに対応しやすくなります。
成果物の権利について
委託した業務によっては、著作権や所有権が発生するものがあります。業務上で発生した成果物の権利が、どの時点で誰に帰属するのかを明らかにしておくことは重要です。
例えば、デザインや記事の執筆で発生する著作権が、納品完了時に委託者である企業に帰属するとしておくなどしましょう。
受託者が成果物についての権利を譲渡したあと、その成果物に関する情報を公開したり別の企業との仕事で利用できるかなど、取り扱い方についてもしっかり確認しておくと安心です。
損害賠償の範囲について
業務委託契約において、業務の受託者は成果物に対する責任を負います。そのため、何らかのトラブルによって委託者である企業に損害が生じた場合、損害賠償義務が生じるでしょう。
このとき、賠償の範囲を明確にしておかなければトラブルが大きくなりやすいので注意が必要です。
例えば、損害賠償の限度額は業務委託契約の報酬額としたり、発生したトラブルの責任の所在に応じてルールを定めたり、どのような損害で賠償責任が発生するかを決めておいたりすると良いでしょう。
万が一に備えて事前にルールを決めておけば、仮に民事裁判に発展しても客観的で納得感のある判決が得られるはずです。
契約書のひな形(サンプル)
企業によっては初めて業務委託を導入するところがあるでしょう。そうした場合、ゼロから契約書を作成するのでは、記載の必要な事項が契約内容に含まれていなかったり、トラブルシューティングが不十分でトラブルに対応しきれなかったりするでしょう。
契約書の作成にあたっては、インターネット上に公開されているひな形を参照して契約書を作成すると良いでしょう。
業務委託契約書のサンプルを無料でダウンロードや閲覧できるサイトは数多くあるため、外部に任せる業務の内容に合わせて改変して活用すると効率的に書類を用意できます。
契約書作成時の注意点
3つの点に注意しましょう。
請負契約、準委任契約のどちらか確認する
業務委託は、「請負契約」と「委任契約」に大別できます。委託する業務がどちらの契約形態に該当するのかをあらかじめ確認しておくことで、成果物に対する責任の所在を明らかにしておきましょう。
契約形態は、契約書の名称によって左右されるものではありません。委託された業務が目的としているのは何かを共通認識として持っておくことで、報酬を支払うタイミングが変わる場合があると知っておきましょう。
具体的には、仕事の完遂を目的とする請負契約ならば、受託者が成果物を納品し、企業が検収を完了した時点で報酬が発生します。一方で成果物の納品を目指すのではなく、遂行自体を目的としている委任契約は、はっきりとした成果が出なくても、業務に従事していた時間に対して報酬の支払いが発生するのです。
もし契約形態が明確化されていないと、報酬の支払いタイミングや成果物の権利の譲渡のタイミングなどを巡ってトラブルになる可能性があります。
請負契約とは
請負契約において、受託者が負うべき責任があるので注意が必要です。成果物の納品によって業務の完遂を目指す請負契約では、「無過失責任」が生じるとされています。
「無過失責任」とは、過失があるかどうかによらず損害賠償責任を負うことを指します。つまり、受託者の故意または過失で生じた損害でなかったとしても、発生した損害について損害賠償しなければならないのです。
請負契約を遂行する上で必要な材料などに関わる「瑕疵担保責任規定」が適用される点にも注意が必要でしょう。なお、材料や仕事を進める手順など、業務遂行に必要なものを委託者である企業が用意した場合は、受託者に瑕疵担保責任は生じません。
瑕疵担保責任が有効な期間は、一般的に成果物の納品から1年とされる場合が多いでしょう。
準委任契約とは
準委任契約では、「善管注意義務」が発生する点に注意しましょう。これは、管理者としての注意義務を指しており業務の受託者が負うものです。民法第644条においてこの契約形態は、「仕事を請け負った人は委任した事業主の希望に従い、善良な管理者の注意をもって事務を処理すべき」と定められています。
つまり、業務の受託者は、企業の管理者と同様の意識を持ち、社会通念に照らし合わせたときに、一般的かつ客観的に注意すべき事項を理解して業務を遂行することが求められるのです。
注意すべき事項は、業務内容によって変わるため具体的な定義づけが難しいでしょう。仕事を請け負う人が第三者的な視点を持って常に行動していれば、大きな問題にはならないはずです。
偽装請負になっていないか
「偽装請負」という言葉を知っている人は多くはないのではないでしょうか。
業務委託契約において、知らず知らずのうちに法律違反をしてしまう可能性があるので、委託者は細心の注意を払って契約を履行しなければなりません。法律違反として罰則が科せられる偽装請負は、特に知らずに行ってしまいやすいので、事前に知っておきましょう。
偽装請負とは
「偽装請負」とは、業務委託契約を結んでいながらも労働者派遣のような勤務形態をとっているケースを指します。
こうしたケースでは、企業側にばかり有利で労働者側にとって不利な就業環境が実現してしまいます。契約形態が明確にされないまま契約が結ばれていることが原因となって起こるもので、問題視されることの多い事象です。
本来なら業務委託は働き手が裁量権を持って業務を進められますが、偽装請負になると企業が指示を出して働き手の自由を制限してしまいます。不当な労働条件下での就業となることから、法律違反に該当するとして罰則が設けられています。
これは、企業がコストカットや労働法の適用範囲外の人材確保を目的に悪用するケースと、遵守すべき法の内容を理解しておらず意図せずに違反してしまうケースがあります。
厚生労働省が公開している偽装請負になるパターンを参照して、違法行為をしないように留意して業務を進めましょう。
違法と判断される契約形態の例を紹介します。
- パターン1
契約形態は委託でありながら、仕事を依頼する企業の担当者が働き手に必要以上に細かな指示出しをしすぎる場合です。
仕事の進め方や進捗についてのアドバイスを過剰にしたり、就業時間の総数や出退勤の日時について指示または管理をしないように注意しましょう。
- パターン2
一見すると問題ないように見えて、実態はクライアント企業からの細かい指示が出ていたパターンです。
仕事を依頼した企業の担当者とやり取りするための責任者を立て、チーム単位で業務にあたっている場合に多い例です。このとき、責任者は仕事を依頼した企業の担当者の言葉を、チーム内にそのまま伝えるだけとなっているので問題視されます。
- パターン3
雇用主や成果物に対する責任の所在が明確でないことで、問題となるパターンがあります。
ある人が請け負った仕事を、別の人に再委託したときに該当する場合が多くあるので注意しましょう。これを防ぐため、基本的に業務委託契約書で業務の再委託は禁止している企業が多くあります。
再委託された人は元々の受託者からの指示を受けて仕事をすることになるでしょう。さらに、元々の受託者は委託先企業の指示や要望に従って成果物を納品することになるため、指揮系統が複雑になってしまいます。
- パターン4
労働者の斡旋を受けた企業が、斡旋された人材と雇用関係にならず、業務委託契約を締結した場合に該当します。
請負契約であるにもかかわらず、企業の指揮命令下で就業させることは法律違反となります。
法律違反は、「知らなかった」では済まされません。罰則が科せられることで社会的な信用を失いかねません。契約に至る前に、関連する法律などをしっかり把握しておくことが大切です。
特に、人事担当者は知っていても業務を請け負う個人と直接やり取りする担当者は知らなかったことで、法律違反になってしまう事態は避けましょう。事前に研修時間を設けるなどして、法律や受託者への対応のポイントを社内に周知しておくことをおすすめします。
下請法への抵触に注意する
注意すべきポイントの1つに、「下請法」の存在があります。下請法は、資本力が小さい中小零細企業や個人事業主を守る法律として、不当な報酬金額の減額や返品、支払いの遅れを禁じています。
正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」とするこの法律は、立場の弱くなりがちな個人や中小企業を守ることを目的としています。個人との契約の機会が多い業務委託において、業務を委託する企業は下請法に抵触しないように細心の注意を払わねばなりません。
下請法で禁止している行為の例としては、「成果物の受け取りを拒否する」「報酬を減額する」「報酬の支払い遅れ」「相場より低い報酬額を設定する買いたたき」「物品の購入を強制する」「受託者への報復行為」「不当な利益提供を求める」「不当な修正依頼」などが挙げられます。
下請法は、フリーランスや個人事業主にも適用されます。取引条件や業務内容をはっきりと明記した書面を取り交わしておかなければ、法律違反とみなされる場合があるので注意しましょう。
業務委託契約書には収入印紙が必要
収入印紙について解説します。
収入印紙とは
租税や、行政に支払う税金の支払いの際に使われるもので、政府が発行する証票です。使用される場面として代表的なのは、手数料や罰金の支払いなどで、訴訟費用や登録税の支払い時にも使われます。
業務委託契約が請負契約であるなら、請負契約を結ぶ際に作成された契約書は印紙税法における「第2号証書」または「第7号文書」として課税対象になります。
課税の対象になると、印紙税の支払い義務が発生するので必ず収入印紙を契約書面に貼付しましょう。
第2号文書
請負契約に関連する契約書を指します。第2号文書だとされる契約書は、委託された業務の完遂を目的に、成果物を納品することを定めているのが特徴です。
請負契約に当てはまる場合は、収入印紙を購入して印紙税を支払うことが求められます。支払うべき金額は、契約内容で決められた契約金額によって異なるので注意しましょう。
契約金額が1万円に満たないときは、非課税となるので印紙税の支払義務は生じません。1万円以上の場合は200円から60万円までの間で、税金を払うことになります。
なお、契約金額が契約書面に明記されていない場合は、一律200円と例外が定められています。
第7号文書
中長期的な契約期間を設けた業務委託契約書を指し、請負契約に該当する契約形態であるものを指します。契約期間の基準は3ヶ月であり、3ヶ月を超える請負契約を結ぶ契約書が第7号文書となります。
場合によっては第2号文書に合致する場合の条件と重複するケースがあるかもしれません。このとき、書面に報酬金額が明記されているなら第2号、明らかにされていないなら第7号と区別されています。
書面で取り決めた報酬額に応じて段階的に税額が増える第2号文書に対して、税額が4,000円に統一されている点が特徴です。
第7号として扱われる条件は以下の通りです。
- 継続する請負契約であり、報酬の金額が明記されていない
- 営利目的の事業主が締結する契約である
- 取引が2件以上である
- 内容が2件以上の取引に共通する
- 電気またはガスの供給に関連しない
条件に合致するか確認して、必要性があったら必ず支払うようにしましょう。
委任契約は非課税(印紙は不要)
印紙税の支払い義務が生じないパターンには、業務委託のうちの委任契約が該当します。
委任契約についての契約書は課税対象ではなく、非課税となるため収入印紙の貼付は必要ありません。契約形態や内容によって支払うべき金額が変わることを念頭に置く必要があるでしょう。
業務委託の場合の源泉徴収
源泉徴収について解説します。
源泉徴収とは
給与や報酬を支払う事業者が、給与等を支払う際に、国へ支払うべき税金を差し引いて、従業員に代わって税金を納付する制度のことです。
この制度について、「会社員が給与から引かれるもの」という認識を持っている人が多いでしょう。しかし、フリーランスや個人事業主など、業務を受託する人にとっても無関係ではありません。
業務の内容や契約した金額、報酬を受け取る対象の違いなどから、源泉徴収税の支払い義務が発生するケースがあります。業務委託をするにあたっては、こうしたケースに当てはまるかを事前に確認しておくことが必須だといえるでしょう。
源泉徴収の対象となる報酬、料金
所得税法第204条において、対象となる報酬と税額が定められています。
具体的には、以下の報酬が対象範囲内です。
- 原稿料または講演料
- 特定の資格保持者への報酬(弁護士や司法書士など)
- 規定の機関が支払う診療報酬
- モデルやスポーツ選手など、特定の職業の人への報酬
- 芸能関係の個人に対する報酬
- ホステスへの報酬
- 広告を目的とした賞金など
所得税法の規定文では、該当の報酬や料金の支払いをする事業者は、所得税を徴収した日の翌月10日を期限として、国への納付が義務付けられています。
対象範囲内かどうかが不明瞭な場合は、国税庁へ問い合わせると確実です。
納付方法
徴収した所得税は、どのように納付したら良いのでしょうか。納付先として選択できるのは、納付義務のある事業者の所在地を管轄する税務署か、最寄りの指定金融機関です。
報酬を支払った日の翌月10日までに納付しなければ、延滞金として追加徴収が発生する可能性もあるので、確実に支払いを実行するようにしましょう。
納付の際は、指定の納付書を使用します。事業者に対して毎年送付される「報酬・料金等の所得税徴収高計算書(納付書)」を使うか、税務署の窓口で指定の納付書を入手しましょう。
なお、弁護士など特定の職種の人に支払う報酬に関しては、「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(納付書)」を使用して源泉徴収を行います。
税率
源泉徴収の対象となる金額は、報酬の支払い総額によって異なります。金額によって税率が変わるため、企業は事前に確認して正しい税額を算出しなければなりません。
例えば、支払額が100万円に満たないなら税率は10.21%になります。100万円以上の報酬額に対する税率は20.42%に上昇するため、計算間違いのないように注意しましょう。
この税率は、消費税を抜いた金額に対して適用されるものです。税込み金額をもとに税額を計算することのないようにしましょう。
業務委託に関する疑問点に回答
よくある6つの疑問に回答します。
電子契約の業務委託契約書は有効なのか?
IT化やペーパーレス化が進む現代において、電子契約を取り入れる企業が増えています。電子契約は、電子署名やタイムスタンプといった認証が正しく行われている場合に限り有効とされます。
電子契約における懸念点は、容易に改ざんできるというところですが、電子契約専用のサービスが普及したことで改ざんできない仕様の契約書を取り交わせます。
電子契約を導入すると、収入印紙の貼付が不要になるためコスト削減につながります。ペーパーレス化が実現してデータで情報管理できるようになったり、事務方の手間が減らせたりするでしょう。
しかし、電子契約に使用するサービスの使用料がかさむため、安易に導入しては費用対効果が悪いと感じられるかもしれません。デジタル化が進む昨今、電子契約の需要は高まると予想されるため、タイミングを見て導入を検討すると良いでしょう。
業務委託契約書の保管方法、保管期間は?
法人税法では、契約書類を7年間保管するように規定しています。たとえ契約期間が短くても、一度取り交わした契約書は7年間社内で保管しなければならない点は注意しましょう。
保管方法も規定されていて、紙か電子データか選択できます。紙での保管は保管スペースを要する上、必要な書類を見つけにくく管理が難しいことが難点です。一方で電子データでの保管は物理的なスペースを消費することなく、膨大な数のデータを保管できます。
電子帳簿保存法では、より詳細に保管方法について定められているので参考にすると良いでしょう。契約書などの重要書類の管理は、法で定められた規定を満たしている契約書管理ツールなどを活用すると管理が簡単になるのでおすすめです。
業務委託契約の内容を変更する方法
受託者のスキルアップなどに伴って委託できる業務の種類が増えたときや、報酬額の増額または減額をするときなど、業務委託契約を締結後に契約条件などに変更が生じた場合、どうすれば良いのでしょうか。
まず、契約を結んだあとからでも内容の変更は可能です。その際は、「変更契約書」や「覚書」を作成して双方の同意を得ると良いでしょう。
「変更契約書」や「覚書」では、契約書の内容に関わる修正事項や変更点のみを記載すれば問題ありません。たとえ軽微な修正であってもしっかりと書面にしておくことで、万が一のトラブルを防げるので、必ず変更箇所は文書化しておきましょう。
なお、契約内容の変更に際して、変更する対象の契約を明記しておくことと、変更箇所を詳細に記すこと、変更が適用される日時を記すことが重要です。変更した内容以外の項目については、元の契約書の内容に準じることも記載しておくと良いでしょう。
業務委託契約の更新方法
業務委託契約では、契約期間の定めを設けている場合が多いでしょう。そのため、契約が満了したあとの取り扱いについて事前に決めておく必要があります。
契約期間満了を迎えたと同時に契約終了する場合、特に必要な処理はありません。しかし、契約を更新したい場合はどのような処理をするべきなのでしょうか。
2つの方法を紹介します。
1つ目は、契約を自動更新とする方法です。契約書で契約期間を明記した上で、「委託者および受託者のどちらかから契約終了の意思を伝えられない限り、契約を自動更新する」とすることで、余計な事務手続きや契約書の新規作成が不要になります。
自動更新は、業務の終了時期が明確ではなく長期的に業務が発生する仕事で適用される場合が多いでしょう。
2つ目は、委託者および受託者、双方の合意が得られた場合に限って契約書を再発行する方法です。想定していたよりも業務の遂行に時間がかかる場合や、納品した成果物のクオリティが高くて契約の継続に至る場合が当てはまります。再契約の手間はかかりますが、定期的に契約内容を見直すきっかけとなるでしょう。
業務委託契約を解除する方法
状況に応じて、契約期間内にあっても契約を解除する必要が生じることがあります。センシティブな問題であり、ときには損害賠償や民事裁判に発展する可能性があるため、不備のないように慎重に行いましょう。
契約解除をするためには、以下の手順に従って準備を進めます。
- 手順1:契約内容を確認
契約書面の記載内容を細部まで確認しましょう。有効期限や契約解除についての項目、違約金の有無や金額に関する規定などを確認するとともに、損害賠償に関する記載も把握しておくようにしましょう。
一般的には、契約を解除できる場合の事由が記されています。その内容に現状が当てはまるかどうか、しっかりと精査しておくことが大切でしょう。
もしも解除事由にない事柄を理由に解除したい場合は、民法などを参考に方法を考えると解決策が見つかる可能性があります。
- 手順2:受託者へ相談
委託者と受託者は対等な立場にいるため、一方的に解除を通告しないようにするべきです。
契約解除にあたっては、相手との話し合いの場を設けて、そうするに至った理由などを伝えるようにしましょう。誠実な態度でいることが、トラブルを防ぎ円満に契約を解除するために大切です。
- 手順3:解除通知書を送付
契約を解除するためには「業務委託契約の解除通知書」の作成が必要です。必要書類を準備したら、相手方に送付して同意を得ましょう。
書類には、契約を解除する旨はもちろん、解除する日、解除の対象となる契約内容、解除する理由などを記載します。
違約金の支払いが発生する場合は、振込期限や振込先の銀行口座などを明記しておく必要があるでしょう。
- 手順4:解除合意書を作成
必ずしも作る必要はありませんが、解除通知書への合意が得られたら「解除合意書」を準備することをおすすめします。
これは、解除した契約内容や双方が合意した日、精算状況の共有、原状回復に関連する内容などを明記した書類で、契約解除後のトラブル防止に役立ちます。
例えば、委託先企業から仕事で使うパソコンを支給されていた場合に、いつまでにどのような方法で返却するかを具体的に明記するなどしておくと良いでしょう。
業務委託費用の会計処理の方法
従業員を雇用した際に支払う給与と、業務委託者に支払う報酬とでは、会計処理の方法が異なるため、最初は戸惑うかもしれません。
業務委託にかかる費用は勘定科目としては「外注費」や「支払手数料」、「販売手数料」などが該当します。
詳しい分類は委託先の事業者や委託する業務の内容によって変わるため都度確認しながら会計処理をすると良いでしょう。
例えば、事務処理やデータ入力のような一般的な業務であれば外注費として計上されます。委託する事業者が専門的な士業であるなら「支払手数料」となるため、詳しい分類方法は税理士へ相談しましょう。
業務委託は自由な働き方である一方、注意も必要です
業務委託は、雇用される働き方と異なり、就業場所や就業時間、仕事の進め方などを、業務の受託者が自由に決められます。業務の性質によって請負契約と委任契約に分類できる業務委託では、収入印紙の必要性など、それぞれの契約形態に合わせた対応が求められます。
業務を委託する側にとっても受託する側にとってもメリットの大きい働き方である業務委託。しかし、場合によってはデメリットが強く表れることもあるため、メリットとデメリットを正しく理解した上で導入を検討することが大切です。
契約書に含めるべき内容は複数ありますが、ひな形を参照して作成すると過不足のない契約書をスムーズに作れるのでおすすめです。