嘱託社員はどんな雇用形態?必要とされる理由と労働条件について解説
高齢化社会が進むにつれ、嘱託社員という言葉を耳にするケースが増えました。企業・労働者双方に大きなメリットがあるため、今後も嘱託社員を積極的に導入する企業が増加すると予想されています。一方、若い方を中心に嘱託社員を知らない方もいるはずです。そこで今回は嘱託社員のメリットと、給料や待遇について解説します。
嘱託(しょくたく)とは
嘱託とは仕事を依頼する際に使う言葉です。「嘱」にはゆだねる・まかせる・たのむ、「託」にはたのむ・たよる・あずけるといった意味があります。2つの意味からも、業務を任せるシーンで使う言葉だと分かるでしょう。具体的には嘱託社員・嘱託制度・嘱託員などと呼ばれ、部分的な仕事を任せるケースで耳にします。現在は正社員としての働き方が絶対ではなくなり、多種多様な雇用形態がクローズアップされはじめました。嘱託社員も例外ではなく、現代の時代に合った働き方と言えるでしょう。
嘱託と委嘱の違い
嘱託と委嘱は同じ「嘱」の漢字を使っている背景からも、ほぼ同じ意味として使われます。嘱にはゆだねる・まかせる・たのむといった意味があり、仕事や役職を人へ依頼する際に用いられます。しかし、意味はほとんど同じであっても、依頼対象者によって使い分けが行われているのです。具体的に嘱託は正社員や正規の職員以外の人に依頼するケースで使います。一般的には定年退職後、正社員として雇用しない人に依頼する場合が多いです。
反対に委嘱は対象範囲が定められていません。正社員や契約社員などの雇用形態は問わず、仕事を依頼したり役職を任せたりするケースで使われます。聞き慣れない言葉かもしれませんが、行政の世界では使用される場合も。例えば審議会のメンバーに、その組織に属さない人間を任命する際に用いられます。
嘱託社員とは
嘱託社員について解説します。
定年後に再雇用された人
嘱託社員と呼ぶケースは大きく2通りありますが、もっとも代表的なのは定年後に再雇用された人です。企業は一般的に定年制を導入しています。基本的には60歳で設定している場合が大半であるものの、最近では65歳まで引き上げる企業も見受けられます。会社が定年制を導入している大きな理由は、企業の新陳代謝を促すためです。日本はアメリカとは違い、従業員を身勝手に解雇できません。何かしらの問題がなければ、企業側から解雇通告はできないのです。
そこで60歳の節目でキャリアを一旦ストップさせ、あらたな人材の育成につとめるのです。とはいえ、定年を迎えた人の中には優秀な人材もいます。スキルと経験を兼ね備えた人は企業も雇用継続させたいはずです。そこで定年後に再雇用し、戦力として貢献してもらいます。これが嘱託社員の代表的な例です。
特殊なスキルや知識を持ち依頼を受けた人
定年退職後に再雇用するケース以外にも嘱託社員と呼ぶケースがあります。それは特殊な能力や知識を持ち合わせた人を雇用する場合です。前述のとおり嘱託には頼む・任せる・依頼するといった意味があります。企業のリソースには限界があり、社内だけでは対応できない瞬間は幾度となくあるでしょう。多くの場合は専門家やプロフェッショナルに業務を依頼します。
その際、依頼を受けた人は嘱託社員と呼ばれるのです。例えば、医師や弁護士などに業務をお願いした場合は、60歳以上の方でなくても嘱託社員と呼ばれます。「嘱託社員=定年後に再雇用された人」と認識している方にとっては、混乱をまねいてしまうかもしれません。このように、嘱託社員と呼ぶケースは大きく2つあると念頭に置いておきましょう。
嘱託の雇用形態
嘱託の雇用形態について解説します。
有期雇用契約(非正規雇用)、業務委託契約
嘱託の雇用形態は一般的に雇用期間が定められている有期雇用契約となります。1年ないしは2年程度の契約を結び、仕事の成果と健康状態によって随時契約を更新していくのです。若い世代と異なり健康状態を一層考慮しなければいけないため、無期雇用(正規社員)では企業側が大きなリスクを抱えてしまいます。結果、たとえ優秀であっても、ほとんどのケースでは有期雇用として契約するのが一般的です。
また、嘱託社員は業務委託契約として働く場合もあります。嘱託という言葉からも、一部の業務を専門的に任せるために業務委託契約を結ぶのです。契約期間は1ヵ月~1年となり、こちらも年齢や業務成績次第で都度更新となります。他にも、委任契約や請負契約などの雇用形態を結ぶ企業もあります。
似た雇用形態との違い
似た雇用形態との違いについて解説します。
嘱託社員と契約社員の違い
嘱託社員と契約社員は有期契約の面で見ると同じです。就業先の企業と直接契約する点からも、両者はほぼ変わらないでしょう。実際に嘱託社員と呼ばず、契約社員として再雇用するケースもあります。ただ、一般的には「フルタイム勤務であるかどうか」が区別のポイントです。契約社員はほとんどの場合、フルタイムで働く雇用形態。反対に嘱託社員は週3~4日、一日4~5時間など、スポット勤務で働くケースが大半です。
定年退職した社員という背景もあり、健康に配慮した雇用契約を結んでいるのです。ちなみに社会保険は嘱託社員・契約社員ともに、条件を満たせば加入できます。給与面で見ると、当然ながら労働時間の長い契約社員が嘱託社員を上回ります。
嘱託社員とパートの違い
嘱託社員とパートは共に有期契約であり、短時間勤務である点も同じです。法律上の違いはなく、呼び方が異なるだけのケースもあります。しかし、唯一と言える違いは給与形態。嘱託社員は月給制、パートは時給制を導入している場合が多いです。月給制は欠勤をしない限り、月の給与が一定と言えます。
反対にパートは働いた時間だけ、給与が支払われる形態です。例えば、祝日が多い月の場合、時給制ではどうしても給与が下がってしまいます。月給制は祝日があっても給与は変わらないため、その点だけを見れば、月給制のメリットは大きいでしょう。尚、嘱託社員とパートは正社員と同様、条件を満たせば有給休暇が付与されます。ボーナスに関しても、企業によっては支給する場合もあります。
嘱託社員が必要とされる理由
嘱託社員が必要とされる理由を解説します。
シニア世代の活躍
高齢化社会と聞くと、どうしても悪いイメージが思い浮かぶ人も多いでしょう。高齢化社会は少子化とセットのため「これから若い世代がどんどん少なくなる」「経済規模が縮小していく」などとネガティブに考えてしまいがち。しかし、高齢化社会も考え方次第で、日本に明るい未来をもたらします。若い世代にあって、シニア世代にあるもの、それは知恵と経験です。
長年働いて得た財産は年齢関係なく発揮されます。シニア世代ならではのアイディアや工夫により、企業が大きく成長できます。実際に右肩上がりに伸びている企業は若手だけでなく、ベテラン社員の活躍も顕著です。若い人が活躍できるのも、シニア世代が働きやすい環境をつくっているからかもしれません。
年金受給年齢の開始繰下げによる影響
現在日本の年金支給は65歳からです。定年退職年齢は企業によってばらつきがあるものの、一般的には60歳と定めている企業が大半。となれば、60歳から65歳までの5年間は無給で暮らさなければいけません。定年までに貯金額が多ければ問題ないです。しかし貯金に余裕がないと、切り詰めた生活を送る事態となります。
世間一般的に老後資金は3,000万円必要と言われており、若い頃から貯金を意識していなければ、とうてい貯まっていきません。このような背景もあり「定年退職しても働きたい」「年金をもらうまでは元気なうちに稼ぎたい」と希望する方が増えているのです。老後資金の不安から、働かざるをえないとも言えるでしょう。
嘱託社員のメリットとデメリット
嘱託社員のメリットとデメリットを解説します。
嘱託社員のメリット
嘱託社員のメリットを解説します。
従業員
日本では雇用形態の中で正社員が最も評価されやすいため、嘱託・契約・派遣社員といった形態は良いイメージを持てないかもしれません。しかし、嘱託社員ならではのメリットも多くあります。代表的なのは働きやすい環境で継続して勤務できる点です。定年退職まで働いたということは、人間関係・仕事内容・通勤スタイルが自分の希望と合っていたのでしょう。
給与や勤務時間は違っても、環境を維持して働けるのは働く側にとって大きなメリットです。また、これまで正社員として働いていた方は嘱託社員になって給与が減るかもしれませんが、責任ある仕事から解放される利点もあります。責任がのしかかった状態で仕事をしていると、心身的にも大きな負担がかかるものです。勤務範囲を守って仕事できるのは、嘱託社員だからこそ実現するメリットです。
企業
企業側が嘱託社員を採用するメリットは大きく2つです。1点目は雇用リスクの圧倒的な低さです。もともと働いていた従業員を再雇用する点が特徴です。その人の性格・スキル・コミュニケーション力などはすでに把握しているため、新規人材雇用と比べて失敗がほとんどありません。そのため「どこの部署に配属させれば力を発揮できるか」「どのチームだったら他の人とうまくやれそうか」などの問題も、スムーズにクリアできるでしょう。一から人材を雇用し、育成や指導するよりも、生産性の高さが期待できます。
2点目は労働条件が締結しやすい点です。対象者における仕事のレベルを熟知しているため、企業が求めるスキルと給与が一致しやすいのは大きなメリット。「給料に見合った業務をしてくれない」「もう少し給与を低く設定すべきだった」などの失敗は少ないです。
嘱託社員のデメリット
嘱託社員のデメリットを解説します。
従業員
嘱託社員のメリットは多いものの、デメリットもあるため確認しておきましょう。まず有期契約の点に目を向けておかなければいけません。正社員と異なり、数か月ないしは1年ごとに更新するケースが一般的。生涯雇用を約束されているわけではないのです。万が一契約を更新できなかった場合、次の手段を考える必要があります。65歳まで貯金を切り崩して生活していくのか、あるいは新たな仕事先を探すのか、どちらかの選択を余儀なくされます。
加えて、60歳を迎えている事実からも、他の企業は気軽に雇用できないのが現状です。よほど目を見張る経験やスキルがなければ、働き口を探すのはむずかしいでしょう。あるいは希望条件の見直しを行い、シニア世代を歓迎しているアルバイトにチャレンジしてみるのも面白いかもしれません。
企業
嘱託社員のデメリットは企業側にもあります。まず1点目は契約手続きが煩雑な点です。歴史の長い企業であれば問題ありませんが、ほとんどの会社は嘱託社員契約を結んだ経験が少ないでしょう。更新手続きや給与交渉などに時間がかかると、本来の業務時間を確保できなくなります。
2点目は企業全体の世代交代における問題です。ベテラン社員が残る事実は、言い換えれば若手の活躍を奪うデメリットもあります。「やりがいのある仕事が若い社員にまわってこない」「いつまでも先輩社員に頼って自覚が芽生えてこない」などの問題点もうまれてくるでしょう。そのため、最近では重要な業務は積極的に若い世代に譲り、ベテラン社員は相談役として接する企業も増えています。
定年後再雇用制度における嘱託社員
定年後の再雇用制度について解説します。
高年齢者雇用安定法
高年齢者雇用安定法とは文字通り、高齢者の雇用を安定させるためにうまれた法律です。1971年に制定され、これまで何度も改正を重ねてきました。最近では2021年に改正され、60歳以上でも働きやすい環境が整ってきています。これまで制定された内容とともに見ていきましょう。まず大きな変更点は定年年齢の引き上げです。今まで60歳で設定されていた定年年齢を65歳まで引き伸ばしました。これまで60歳で定年退職を迎えてきた方は、プラス5年同じ職場で働けるのです。
また、今まで60歳で嘱託社員に切り替わった方は65歳まで雇用が約束されていたものの、法律の改正により70歳まで働けます。いずれもあくまで努力義務であり、法律を無視して罰則がかせられるわけではありません。しかしながら、高齢化社会が今後加速するにつれ、本格的に導入する企業は増えていくでしょう。
高年齢雇用継続給付金
高年齢雇用継続給付金とは60歳以上の従業員に対し、大幅な年収ダウンを防止するためにうまれた給付金です。具体的には60歳到達時点の年収と、60歳以降の年収を比較し、25%をこえる年収ダウンが発生した際に適用されます。給付金制度が誕生した背景は従業員の保護です。例えばそれまで500万円もらっていた方が40%減となれば、年収は200万円減って300万円。共働きでなければ生活は途端に苦しくなるでしょう。
しかし、企業は定年を迎えても、継続して同じ年収を払うわけにはいきません。そこで企業と従業員を救済するためにうまれたのが高年齢雇用継続給付金です。支給額は資金の低下率に応じて算出され、65歳になる月まで支給されます。
有期雇用の労働条件
有期雇用と無期雇用で圧倒的な格差をつける行為は禁止とされています。正社員を明らかに優遇し、嘱託・契約・派遣社員を冷遇してはいけないのです。これは法律で定められており、待遇格差が生じるのを防ぐ目的で制定されています。具体的には責任範囲・職務内容・福利厚生など。有期雇用の労働条件は法律で守られているとも言えます。
一方、無期雇用と有期雇用で格差をつけても良いとされている項目も。例えば食堂の利用・通勤手当・安全管理などは、正社員だけを優遇しても問題ありません。このように正社員との労働条件の格差有無は項目によって異なるため、気になる場合はかならず確認しましょう。
嘱託社員の無期転換ルールとは
嘱託社員に限らず、有期雇用契約には無期転換ルールが存在します。そのルールとは通算5年契約を更新できれば、本人の希望により無期雇用形態へ移行できるのです。例えば契約社員として入社したAさんがいたとしましょう。仕事ぶりが評価され、毎年契約が更新されていきました。時が経つこと5年、無期雇用希望のAさんが「正社員になりたいです」と申し出たとすると、企業は正社員契約を結ばなくてはいけません。
会社側に拒否権はなく、無期雇用契約の義務が発生します。労働者側が安心して働ける環境をつくるために、このルールがうまれました。嘱託社員も例外ではなく、会社に貢献した方は正社員へ移行できる権利があります。
無期転換ルールの特例制度
有期雇用労働者にとって無期転換ルールの存在は喜ばしいですが、実は特例が存在します。それは定年を迎える嘱託社員は適用外となる点です。例えば60歳を迎えて嘱託社員へと移行し、5年間契約を更新できても、無期雇用契約の申告権がうまれるわけではありません。あくまで無期転換ルールの対象嘱託社員は「専門的なスキルを持ち合わせた、一部分の業務を任された人材」です。定年を迎えた嘱託社員は対象外となるのは念頭に置いておきましょう。
65歳で無期雇用に切り替わってしまうと、いざ従業員に健康の問題が出ても、契約し続けなければいけません。他にも世代交代にストップをかけてしまうなど、デメリットを加味して特例制度がうまれました。
公務員の嘱託職員とは
嘱託社員は民間企業だけの特別な雇用形態ではなく、公務員にも該当します。ただし公務員の場合、定年を迎える社員の再雇用を意味するわけではありません。一般的には非常勤職員を指します。例えば地方公務員の嘱託職員は週1~3日出勤、1日4~5時間勤務など、常勤職員にくらべて短時間勤務です。
「仕事と育児を両立させたい」「夢実現のために時間をつくりたい」などの思いがある方は、すすんで嘱託職員を希望する傾向にあります。契約期間も2~3年であり、正規職員よりも限定的な働き方と言えます。しかし、労働条件は職場によって大きく異なるため、公務員の嘱託社員を希望の方はかならず契約内容を確認しましょう。
嘱託と臨時(臨時的任用職員)の違い
臨時的任用職員とは育児休暇や介護休業など、長期休暇が発生した際に臨時で雇用される職員です。半年ないしは1年程度、長期休暇者が復帰するまでの間を穴埋めします。最近は働き方の見直しが行われており、以前よりも長期休暇が取りやすくなりました。臨時職員を活用できれば、いざ長期休暇者が出ても安心です。
このような特徴があり、嘱託職員とは大きな違いがあります。例えば契約期間を見ると嘱託職員よりも短いです。嘱託社員が2~3年に対し、臨時職員は長くても1年程度。最初から短期間雇用を希望の方は、臨時職員が向いているかもしれません。
嘱託社員の労働条件
嘱託社員の労働条件を解説します。
有給休暇
条件次第では嘱託社員も有給休暇が取得できます。一般的な条件は雇用スタートから半年継続して勤務、かつ指定された労働日のうち8割以上出勤した場合です。この条件を満たすと10日付与され、以降年数を重ねるごとに与えれる日数が増えていきます。全労働日の8割とは具体的に週4日以上、週トータル31時間以上働いた方が該当。基本的には正社員同様の働き方であれば自然と有給は発生します。
とはいえ、時間を制限ながら働く嘱託社員も多いでしょう。その場合、週4日、週トータル31時間以上働かないと、有給は10日付与されません。かわりに初年度は1~7日付与されます。なお、短時間勤務でありながら10日付与されるには、週3日で1日6時間勤務であると、同じ職場で約5年半の勤務が必要です。
賞与
嘱託社員で賞与がもらえるかどうかは会社によって異なります。そもそもボーナスの付与は絶対ではなく、実際に法律上でも支払い義務はありません。あくまで会社ごとの労働契約にもとづき、賞与の支給可否が決まります。一般的にはボーナスが支給されるのは正社員のみであり、嘱託・契約・派遣社員は支給されません。
とはいえ、最近は有期雇用契約の社員にも賞与を支給する企業も増えており、中には10万円近く支給する企業も。他にも社員旅行に嘱託社員を呼んだり、福利厚生を手厚くしたりして、有期雇用社員のモチベーションを上げる取り組みがなされています。
退職金
退職金も賞与と同じく支給義務はありません。大企業では当たり前に支給されていますが、中小企業では支給されないケースも。退職金が支払われる企業の場合、定年を迎える時点で退職金が振り込まれます。そのため、嘱託社員として再雇用され、あらためて退職する際はもらえないケースが一般的でしょう。退職金は給与の一部を天引きし、最終的に貯めたトータル金額が一括ないしは分割で支払われるものです。
嘱託社員として数年間働いただけでは大きな金額とならないため、嘱託社員契約時点から天引きしないケースが多いです。加えて退職金は「定年まで働くためのモチベーションアップ」の意味合いがあるため、定年をこえる社員へ支給するのは本来の目的と異なるのです。
嘱託社員の給料、待遇
嘱託社員の給料・待遇を解説します。
給与について
定年を迎えて嘱託社員へ移行すると、給与の減額はまぬがれません。仕事量は少なくなり、こなす業務の幅も狭まるため、自然と給与は正社員時と比べて下がってしまいます。加えて給与には今後の成長度を加味して支払われるため、成長の観点から外れる嘱託社員の給与はどうしても低下してしまうのです。
しかし前述のとおり、大幅な減額を防ぐための救済策があります。具体的には以前よりも25%を超える年収ダウンの場合、一定の条件を満たせば、減った額から算出して給付金が支払われます。嘱託社員として安定した収入を得るためにも、契約時に積極的な交渉を進めていきましょう。
正社員との格差
正社員との格差を解説します。
通勤手当、皆勤手当
通勤手当も皆勤手当ても法律上支払う義務はありません。そのため、2つの手当とも支給されるかどうかは企業によります。しかし一般的には通勤手当も正社員同様、嘱託社員も支給の対象となるケースが一般的です。中には労働日数・時間によって支給可否を決める会社もありますが、ほとんどの会社では労働日数に限らず、通勤した分だけ支給されます。
また、皆勤手当についても、正社員と同じく支給する企業が多いです。一定期間内に欠勤・遅刻・早退などがなければ、手当をもらえます。企業側からすると手当を支給すれば、従業員のモチベーションを上げるメリットがあります。そもそも皆勤手当を支給する企業は珍しいため、手当を設定すれば、差別化につながるでしょう。
住宅手当、扶養手当
住宅手当とは社員の生活負担を軽くするための手当です。基本的には給与と一緒に支払われるケースが多いでしょう。他にも引っ越し手当や社宅制度を導入する企業も増えています。現在は売り手市場のため、求職者が自由に会社を選べる時代となりました。どの企業も差別化を図るため、求職者にメリットが大きい住宅手当を支給する企業も増加したのです。
その住宅手当における支給格差は合法とされています。「正社員に支給して嘱託社員は対象外とする」「正社員のみ住宅手当の支給対象」といった扱いが可能なのです。この待遇差は扶養手当も該当し、嘱託社員にかならずしも手当を支給しなくてもよいです。そのため、子供がいる方や毎月高額な家賃を支払っている方は、契約時にかならず確認しましょう。
嘱託社員の社会保険
嘱託社員の社会保険を解説します。
健康保険
会社員であれば、定年を迎えるまでは会社の健康保険に入ります。企業は一般的に協会けんぽや健康保険組合といった保険に加入しており、従業員は一定の条件を満たすといずれかの保険に加入する義務があります。ところが、定年退職すると健康保険に入れないケースが一般的。これは年齢というよりも、労働時間が下がるために健康保険に入れないのです。
健康保険の加入条件は週20時間以上、月収88,000円以上となります。例えば週3日、1日5時間労働であると週労働計15時間となり、条件を満たせません。嘱託社員はこのような短時間勤務が一般的なため、定年後は健康保険から脱退します。以降は個人事業主やフリーランスが加入する国民健康保険へ入るのが一般的です。また、健康保険に加入するのは74歳まで。75歳からは後期高齢者医療制度に加入します。
介護保険
体が不自由な方や障害を持った方が、安心して介護を受けられるためにつくられたのが介護保険です。会社員は40歳になると保険料が給料天引き、64歳まで健康保険とあわせて徴収されます。嘱託社員での再雇用の場合も、64歳までは自動徴収され、その後、65歳より年金から介護保険料が天引きされるのです(年金受給額18万円未満の場合は口座振替やコンビニ払いでの対応)。
では定年後に健康保険から外れた場合はどうでしょうか。「嘱託社員になって就業時間が大幅に減った」「週3日程度の短時間勤務に変わった」などの方は条件を満たせず、健康保険から脱退と同時に介護保険も徴収されません。
厚生年金保険
厚生年金保険とは一般的に「年金」と呼ばれ、年を重ねて働けなくなった際、給付金を受け取れます。会社員は給与から天引きされるため、なじみ深い方は多いかもしれません。厚生年金保険は70歳まで払い続けます(加入資格を満たした方のみ)。そして、65歳から年金が受給できます。
しかし嘱託社員となり、労働時間が大幅に減った方は対象から外れます。具体的には週20時間以上、月収88,000円以上であれば対象。その条件を満たさない場合は加入対象となりません。嘱託社員に限った話ではなく、アルバイトやパートにも条件が適用されます。逆に言うと正社員以外でも条件を満たせば、加入対象となるのです。
雇用保険、労災保険
雇用保険とは万が一失業した際、生活するための給付を受けられる保険です。いわゆる失業手当がこの保険に該当します。自己都合で退職した場合でも受け取れ、支給額は退職前の給与から算出するのが一般的です。30代の場合、長ければ6~8ヵ月給付されます。コロナ禍で手当を活用した方も多いでしょう。その雇用保険は64歳まで給与から天引きされ、同じく64歳までは受給対象となります。65歳以降退職する方は高年齢求職者給付金の対象です。高年齢求職者給付金は被保険者期間1年以上で50日分の一時金が給付されます。
一方、雇用保険は同じ会社に20年以上働くと、給付日数が200日を超える場合も。65歳前後で退職を考えている場合、65歳未満で退職するのが得策と言えるでしょう。また、労災保険については正社員と同じ扱いです。給与天引きされず、すべて会社負担となります。会社に勤めている以上かならず加入し、雇用形態に限らず、業務上の事故や通勤途中に負傷した場合は補償の対象です。
嘱託社員に関する疑問
嘱託社員に関する疑問を解説します。
嘱託社員は解雇されやすい?
嘱託社員の解雇について解説します。
有期雇用契約の雇い止め
雇い止めとは契約を更新せず、雇用の終了を意味します。嘱託社員は一般的に有期雇用契約であるため、企業側の都合で契約を更新しないケースは十分あります。とくに健康に不安のある方だと、いつ安定して働けなくなるか分かりません。大企業であれば温情やこれまでの貢献度で契約を更新するケースはあるでしょう。しかし、資金力に乏しい企業であると、会社に貢献できない人をいつまでも契約しておくわけにはいきません。
「健康で毎日出社できる若い人に切り替えよう」「戦力として計算できる人を採用しよう」となり、契約を打ち止めてしまうのです。とくに最近はシニア人材の積極的活用とは反対に、世代交代へ舵を切る企業も増加中。嘱託社員として働く場合、契約終了になるかもしれない覚悟を持って働く必要があります。
期間途中の契約取消は難しい
嘱託社員は有期雇用と言っても、企業側は途中で契約を解消できません。例えば1年契約を結んだ方に対し、半年で契約終了を言い渡すのはNGです。ルール上契約期間までは雇用を約束する義務があります。万が一期間途中で契約取り消しを行った場合、不当な解雇として位置づけられるのが一般的。解雇された側から訴えられると、多額の上乗せ退職金を求められるケースもあります。
しかし、やむを得ない場合、企業は契約期間中でも雇用終了できます。企業が倒産したり、労働者がうつ病を発症したり(業務とは無関係で)、企業がコントロールできない事象であると、やむをえない場合に該当します。そのため、よほどの理由がない限り途中解雇はなく、万が一企業から言い渡された場合はすみやかに専門家へ相談しましょう。
嘱託医とは?
嘱託医とは介護施設や医療機関などから依頼を受け、臨時で職務を全うする医師です。週の中で決められた日に指定現場へ行き、患者の診療を行います。最近は高齢化社会も後押しし、要介護者数が増加中。健康に不安を抱えている方が多いため、とくに介護施設を中心に嘱託医が処置を行っています。介護施設には「健康状態が悪く外出できない」「加齢で食欲がわかなくなってきた」などの悩みを抱えている高齢者は多いです。
そのような方の不安にこたえるため、嘱託医は介護施設へと出向きます。基本的には内科診療がメインであり、嘱託医の援助を受けながら健康づくりを進めていくのです。また、嘱託医は毎回同じ施設や機関へ行くわけではなく、常に違う環境で働く社員も。それだけ嘱託医は周囲から必要とされている職業と言えるでしょう。
嘱託医と専属産業医の違い
嘱託医と専属産業医の違いは大きくわけて3点です。まず1点目はその企業を専門としているかどうかです。規模数によってこれから解説する産業医を選任しなければいけません。従業員999人以下(50人以下は例外)の場合はどちらか、1,000人以上では専属産業医を選ぶ必要があります。専属産業医とは文字通り、その企業を専属で診療する医師です。企業規模が大きく、数多くの社員の健康状態を管理しなければいけないため、専属で担当する必要性があるのです。
2点目は訪問日数の違いです。嘱託医は月に数回、専属産業医は週3~5日程度企業へ訪問します。ほぼ毎日同じ企業を担当しているからこそ、専属という名がつけられています。そのため、専属産業医は企業と直接契約するケースが多いです。最後は報酬。嘱託医は訪問日数が少ないため、どうしても報酬は低くなりがちです。一方、専属産業医は勤務数が多いため高価です。このように両者には細かい違いがあるため、あらためて確認しておきましょう。
嘱託保育士と臨時保育士の違いとは?
嘱託保育士とは公立保育園で有期雇用として働く保育士です。一般的には1年単位で更新していくため、契約社員の雇用形態に近いかもしれません。主な業務内容は正社員の保育士をサポートする仕事です。書類作成や来客対応などです。責任の軽さや求人ハードルの低さなどのメリットから、近年は希望者が増えています。
一方、臨時保育士とは公立保育園で臨時的に働く保育士です。正社員の保育士が長期欠勤になった際、抜けた穴を埋めるべく、その期間だけ臨時保育士が雇用されます。今までやってきた業務をそのまま引き継ぐケースもあるため、正規社員の同等のスキルを求められるかもしれません。このように嘱託保育士と臨時保育士では、契約期間や業務内容が大きく異なります。
嘱託登記とは?
嘱託登記とは官公署が法務局に登記を申請する行為を指します。不動産の当事者が申請するのではなく、官庁や地方公共団体の機関が提出するのです。申請者が異なると思ってもらえばよいでしょう。不動産登記は複雑かつ高度な作業となります。とても素人が簡単にできる作業ではありません。そのため、特別な定めがない限り、官公署が大きく関わってきます。
文書送付嘱託とは?
文書送付委託とは民事訴訟手続きにおいて、証拠収集の方法として用いられる行為です。銀行の取引履歴や病院の診療記録などは、すでに残っていないケースもあるでしょう。証拠がなければ裁判で不利になるのは言うまでもなく、いかに真実を明らかにできる物証を集められるかがカギになります。そこで文書送付委託を活用すれば、必要な証拠が集められるかもしれません。文書送付委託の申し立てを利用すれば、裁判所を通じて履歴や記録を入手できます。裁判所からの依頼ということもあり、応じてくれるケースは十分あるのです。
嘱託社員の働き方を検討してみましょう
嘱託社員には大きく2つの意味があります。1つ目は定年後に同じ企業へ再雇用するパターンがあります。基本的にはこの流れが代表的であり、ベテラン社員が嘱託社員であるケースも多いです。2つ目は企業に所属せず、依頼があったら業務を請け負うスタイルです。具体的には嘱託医や嘱託保育士などです。
また、嘱託社員は正社員よりも大きな仕事をしませんが、その分責任が軽いメリットがあります。加えて業務時間が短いため、自分の時間を自由に使える利点もあります。「自分の健康状態に合わせて慎重に働きたい」「夢実現のために資格を勉強したい」などの希望を持つ方に適しています。そのようなメリットに魅力を感じる方は、嘱託社員の働き方をぜひ検討してみましょう。