働き方改革関連法による従来の制度との違いや対策、導入事例までを解説
今回の記事では「働き方改革関連法」という法改正案について解説していきます。
働き方改革関連法によって労働基準法や労働安全衛生法、労働者派遣法など様々な法律が改正されました。
では、実際にどのように改正されたのか、企業は今後どういった行動をしていかなければならないのかについて詳しく説明します。
働き方改革関連法とは
「働き方改革関連法」は2018年7月に公布され、2019年4月に試行されました。
正式名称は「働き方改革を促進するための関係法律の設備に関する法律」といいます。
他にも、長時間労働や雇用形態などの公正な待遇を確保する8本の主要な法律を一括改正するための法律の通称です。
⇒働き方改革について詳しく知りたい方はこちら
働き方改革を行う背景
日本は「少子高齢化問題による労働者人口の減少」「育児や介護と仕事の両立や働き方の多様化」に直面しています。
その状況下で政府は国民の就業機会や、意欲、能力を存分に発揮でき、働く国民一人ひとりが明るい将来を考えられる労働環境を整える事を目標にしました。
結果として【働き方改革関連法】が用意されたのです。
少子高齢化による労働力不足
日本の人口は、直近100年で2018年をピークに今日まで減少し続けています。
総務省の国勢調査によると、2065年までには人口はおよそ8800万人まで減少すると予想されています。
その結果、日本企業生産の低下や、GDP、労働者からの税徴収が落ち込んでしまっているのです。
長時間労働常態化による労働参加率低下
一昔前までは、長時間労働をする人は会社にとって良い人材と考えられていました。
しかし、この長時間労働で退職する人が増加し、労働参加率の低下の原因となったのです。
さらに長時間労働は健康問題にも関わります。最近の研究では「心筋梗塞」のリスクを高めるという実験結果もでています。
他にも、過労死や精神障害、自殺などが挙げられ、結果として、労働者を減らしてしまい、既存で残った従業員の負担が増えるといった負のスパイラルとなっています。
多様な働き方に対する対応の遅れ
近頃、コロナなどの騒動もあり、働き方はテレワークや時短労働、時間差出勤など多種多様になってきています。
その結果、決まって時間に決まった場所に出社し定時に帰宅するといった常識が失われつつあるのです。
従来の固定概念に囚われている企業は多様な働き方への対応が送れます。そうなると、優秀な人材を逃し、残った従業員の生産性や労働意欲を減少させてしまう恐れがでてくるのです。
従来の制度との違い
働き方改革関連法により改正された内容をご紹介していきます。
時間外労働の上限規則の導入
働き方改革関連法が施行されたことにより、以前は行政指導で済まされていた事が法律で罰せられるようになりました。
【内容】
・原則として、月の時間外労働は45時間以内、年360時間以内
・臨時的な特別な事情がなければ上限を超えてはならない。
【臨時的な特別な事情の場合】
・年720時間以内
・複数月の平均時間外労働が80時間以内(休日労働を含む)
・月100時間未満(休日労働を含む)
※以前までは「特別条項」というものを結べば、年6か月までは残業の上限を無しにすることができましたが、今は禁止されています。
この上限規制の施行開始日は大手企業と中小企業で異なっています。大企業は2019年4月1日、中小企業であれば2020年4月1日です。
年次有給休暇取得の義務化
こちらの法改正は、2019年4月に施行されました。
以前までは年次有給休暇の消化義務はありませんでした。
しかし、働き方改革関連法が施行されてからは法廷の年次有給休暇が10日以上付与される方を対象に、年に5日以上の年次有給休暇の取得が義務化されました。
使用者による時季指定
労働者は年次有給休暇が付与されてから1年以内に5日以上の有給をしゅとくしなければいけません。
さらに、使用者が有給を使いたい時期を決めることも定められています。
月60時間超の残業の割増賃金引き上げ
こちらの法改正の施行日は2023年の4月1日です。
この法案は中小企業が対象になります。
内容は中小企業の60時間を越えた残業割増賃金率引き上げです。
現在は大企業50%、中小企業25%となっていますが、施行後は大企業50%、中小企業50%になります。
同一賃金同一労働
この意味は、同じような仕事内容をこなしているのであれば、誰しもが同じ給料を貰えるべきだという考え方です。
正規雇用と非正規雇用、男性と女性などの格差を縮めることを目的にしています。
労働時間把握の義務化
この法の施行日は2019年4月1日。
すべての人が労働時間の状況を第三者の視点にたって把握するよう義務化されました。
勤務間インターバル制の努力義務化
この制度は、前日の終業時間と、翌日の始業開始までの時間をしっかりと確保しなければならないという内容です。
働き方改革関連法により導入する運動が行われていますが、現段階では休息時間の指定はとくにありません。
しかし、本制度が参考にしているEU労働時間指令で24時間の内、最低でも連続11時間の休息は定められています。
フレックスタイム制の見直し
フレックスタイム制では、清算期間というものが設けられています。
清算期間とは、労働者が労働すべき時間を定める期間のことです。
これまで清算期間は「1か月以内」でしたが、働き方改革関連法により、「3か月以内」と延長になりました。
割増賃金に関しては清算期間が1か月以上3か月以内の場合は1か月ごとに1週間平均50時間を超えた場合に支給されることが義務付けられています。
高度プロフェッショナル制度の導入
この制度は、高度な専門知識を要する業務で職務の範囲が明確、かつ一定の年収要件を満たす労働者は労働基準法の定めに縛られない働き方が可能といった制度です。
しかし、自由といっても年間休日104日以上、4週4日以上の休日確保措置、健康管理時間の義務があります。
働き方改革関連法の施行で対応すべき業務
働き方改革関連法の施行によって対応べき業務を紹介します。
業務効率化
働き方改革関連法の施行により、従業員ひとりひとりの業務時間が短縮されるため、業務の効率化をはかるようにしましょう。
業務効率化のためにできる施策としては、ITツールの導入や従業員のスキルアップ、人材不足解消などがあります。
現在の業務の見直しをおこなって、自社に最適な方法で業務効率化を目指しましょう。
正確な労務管理
管理職の方や経営者の方は、従業員の労務時間や内容について正確に把握するようにしましょう。
従業員の労務時間や労務内容を把握していると、労務の偏りがあった場合ほかの従業員に割り振ったり、早く帰るように声かけをすることができます。
働き方改革関連法により労働時間の上限のきまりがあっても、仕事が残っていると早く帰りづらい従業員もいるかもしれません。
上司が声かけをすることによって、従業員を早く帰すことができ、仕事を割り振ることで業務の属人化を防ぐことができます。
成果主義の導入
成果主義を導入することで、長時間労働の是正が期待できます。
コストの削減にもつながり、従業員のモチベーション向上も望めるため、会社全体の士気も上がることでしょう。
成果主義の導入をする際には、何を成果とするかを明確にして従業員に共有するようにしましょう。
パワハラの防止
管理職の方や経営者が無意識のうちに圧力をかけてしまい、従業員に長時間労働をさせてしまっていることもあります。
長時間労働が目立つ企業は、従業員に対するパワハラはもちろん、従業員に対して圧力をかけてしまっていないか見直してみましょう。
働き方改革関連法に対する理解
働き方改革関連法に対する理解を、経営者だけではなく従業員全員がするようにしましょう。
働き方改革関連法には罰則が定められている規約があります。
社内全体で働き方改革関連法に対して理解をして、全員が意識をしながら働ける環境をつくるようにしましょう。
罰則
法の範囲外での労働を経営者が行わせた場合に経営者に罰則が科せられます
時間外労働の上限規則に違反した場合
働き方改革関連法により、違反すると6か月以下の懲役または、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
年次有給休暇の取得義務に違反した場合
働き方改革関連法により、経営者に対して、一人あたり30万円以下の罰金が課せられます
⇒働き方改革の罰則について詳しく知りたい方はこちら
法改正による対策
法改正に伴って、企業も多くの対策をしていかなければなりません。
その中でも特にしなければならないことをご紹介していきます。
勤務実績
働き方改革関連法により従業員の勤務管理を今まで以上に慎重にしていかなければなりません。
勤務管理をする上で押さえておきたい3つのポイントをご紹介します。
・インターバル制を意識し、従業員がしっかりと休息をとれているかの確認ができるようにすること。
・業務効率化による労働時間短縮。
・すべての従業員を対象にWeb打刻などの勤怠管理や、業務用PC等の利用履歴を瞬時に確認できるシステムを作ること。
就労申請
勤怠管理をする上で重要なポイント3選!
・年次有給休暇5日を従業員全員が取得できているかの確認ができるシステム。
・残業時間の事前申請により、過度の時間外労働を防ぐ。
・月末などの勤怠締め日に残業時間を集計し、管理できる仕組みづくり。
集計
働き方改革関連法により、高度プロフェッショナル制やフレックスタイム制が変わったので、従来のシステムの集計方法や給料の計算方法を変更する必要があります。
照会
働き方改革関連法により今までよりも一層、従業員の労働管理の見えるかを徹底した体制作りが必要となってきます。
残業や休日出金などに対し警告アラートや通知が従業員に行き届くシステムなどが大切です。
分析
年次有給休暇取得日数や、「高度プロフェッショナル制」、「フレックスタイム制」、「インターバル制」に基づく、個々の労働状況の管理システムを作ることが大事です。
このシステムを作成することで今後の働き方改革関連法にも対策できます。
活用できる助成金
労働環境の改善に前向きに取り組みしていくことで国から助成金が貰えます。
時間外労働等改善助成金
時間外労働等改善助成金とは、時間外労働の上限設定に取り組み具体的な改革の方向性を決め、実際に取り組んだ中小企業に対して助成金が支払われます。
企業は最大200万円受け取ることが可能です
実施期間は2020年2月までです。
業務改善助成金
最低賃金を引きあげるためにかかった設備投資などのコストを一部負担してくれる制度です。
助成金の金額は地域や実際に賃金を上げた人数などによって変わってきます。
キャリアアップ助成金
この助成金制度は非正規雇用から正社員登用するなどの待遇改善を行った企業に対する助成金です。
助成金の額は企業の規模や対象人数などによって変わってきます。
働き方改革企業事例
ここでは大企業が実際に行っている「働き方改革関連法」に基づいた例を挙げていきます。
大和ハウス工業/残業時間の減少と有給取得率の改善
大和ハウス工業の主な取り組み
・「ロックアウト制度」
21時以降は事務所が施錠され、過度な残業を防ぐ制度
・「ブラック事業所認定制度」
社内基準をオーバーするような時間外労働がある事業所に対し、指導やペナルティーを設け
る
・「ホームホリデー制度」
年次有給休暇の取得促進
これらの取り組みをすることで2016年の平均残業時間の10%削減、有給取得率は2.8倍まで改善することに成功しています。
ベネッセコーポレーション/働き方改革関連法に対し柔軟に対応
ベネッセコーポレーションの主な取り組みとして、事業部門ごとに労働を管理する体制を整えました。
・月平均残業時間の目標設定
・「ノー残業デー」の設定
・有給取得推奨日を設定
・在宅勤務制度の導入
ベネッセは「従業員の主体性」や「事業部門ごとの特性をいかした働き方」を尊重することで働き方改革関連法に対応しています。
まとめ
働き方改革関連法が施行された思惑としては「日本の少子高齢化」や「長時間労働による健康的損害や、業務の非効率化による労働力不足」「多様な働き方への遅れ」にあります。
今後も従業員に対する労働環境の改善は行われていきます。
なので、大企業、中小企業全ての企業が労働基準を見直していく必要があり、実際にアクションを起こしていくことが必要不可欠になっていきます。