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デニーズがHR Techに着手 – 店舗データ活用して人事評価を自動化

※本記事はマイナビニュースにて取り上げられたものを転載しております。
≪デニーズがHR Techに着手 – 店舗データ活用して人事評価を自動化≫

ファミリーレストランの「デニーズ」を運営するセブン&アイ・フードシステムズは、2021年7月からタレントマネジメントシステム「スキルナビ」を活用した人事評価をスタートした。

同社は従来、評価対象期間の課題や目標達成度合いについて、社員が紙の評価シートを用いて5段階で自己採点する「プロセス評価」を実施していた。だが、現在は売上実績や原価管理、料理提供までの時間、スタッフの労務マネジメント状況など、さまざまな店舗データを基に算出した評価点数を用いて、デニーズ各店舗に勤める社員(店長)の人事評価を行っている。

アナログな人事評価を続けていた頃の課題とともに、システム化を進めるにあたって検討したことや今後のデータ活用計画などをセブン&アイ・フードシステムズ 人事総務部の担当者に聞いた。

紙の評価シートの準備・回収に時間や手間がかかる

デニーズでは、店舗に店長含めた1~2名の社員が働いている。従来の人事評価では、半年に1度、社員が提出した紙の評価シートを基に複数店舗を管理する「ディストリクトマネジャー」が評価を行い、さらに上席の「ゾーンマネジャー」が最終評価・承認した上で、人事評価の内容が決定されていた。

あらかじめ設定していた目標の達成度などを加味して、社員は評価シートに自己評価を記入する。評価シートには20の評価項目があり、それぞれ5段階で点数を付けた(100点満点)うえで、「売上を上げるためにどのような行動をしたか?」「コスト適正化のためにどうしたか?」など、目標達成に向けた具体的な行動を記述式で回答していた。

だが、紙の評価シートを用いた人事評価では、さまざまな面でオペレーションが煩雑だったという。人事総務部は全国の店舗にいる社員の人数や役職に応じて、評価シートを送付し、回収しなければいけない。店舗によっては地理的条件などから期日までに送付できないケースもある。回収が遅れている場合も、誰が評価シートを持っているのか不明瞭であるため、社員本人・直属の上長・ディストリクトマネジャーにそれぞれ確認しなければならないなど、回収プロセスにも課題があった。

また、人事評価では評価シートの内容に加えて、ディストリクトマネジャーと社員との面談内容も加味されるが、ディストリクトマネジャーは面談のために担当店舗の社員全員とスケジュールを調整しなければならない。準備からゾーンマネジャーによる最終的な承認まで、人事評価には平均して3カ月ほどの期間を要していたという。

店長とディストリクトマネジャー両方の業務を経験してきた、セブン&アイ・フードシステムズ 人事総務部 人事企画の安藤正則氏は、「ディストリクトマネジャーは、多い時で30人ぐらいの社員を管理する。週1回程度、数時間しか店舗の様子を見に行けないため、限られた期間内で担当する社員全員とスケジュールを調整するのも、半年間のプロセスの評価自体も難しかった」と振り返った。

セブン&アイ・フードシステムズ 人事総務部 人事企画 安藤正則氏

中心化傾向が課題に、客観的な評価の導入目指す

人事評価のスキームとともに、人事総務部では評価内容そのものの改善も課題として挙がっていた。特に注目されたのが評価の中心化傾向だ。

多くの社員が5段階評価の「5」や「1」を付けず、標準(中心)にあたる「3」を付ける傾向が生じていた。評価で良い点数を取ると給与が上がる仕組みとなっているが、人事評価にメリハリをつけづらくなっていたという。

理由としては、半年前に目標にした内容を確認する手段が紙の評価シートのみであり、評価シートの管理も社員本人に任せており、管理をルール化していなかったことがある。

デニーズの店長を経て、人事データベースの管理やデータ更新、集計・分析などを担当しているセブン&アイ・フードシステムズ 人事総務部 人事企画の小山優樹氏は、「これまでは評価が主観的になりがちだったため、『今期、自分は本当に頑張ったのだから評価しよう』と思い切った評価を行えなくなっている点が課題として挙がった。そのため、客観的な指標や理由付けが可能な定量評価の導入とともに社内のデータ活用も検討され、2018年に人事評価を見直すプロジェクトが立ち上がった」と説明した。

セブン&アイ・フードシステムズ 人事総務部 人事企画 小山優樹氏

人事とPOS、2つのシステムからデータを連携したい

セブン&アイ・フードシステムズでは、さまざまなデータが蓄積されていたが、活用できていなかった。

例えば、社員の勤怠や人事情報の管理のために人事システムを利用しており、さまざまな情報が長期間に渡ってデータベースに蓄積されている。

一方、デニーズの各店舗には、レジやハンディ、店舗PCなどで構成されるPOSシステムが導入されている。POSシステムには商品ごとの売れた個数や日時、来店客の性別、在庫情報のほか、料理のオーダーが入ってから提供されるまでにかかった時間などが集計され、データセンターを経由して最終的には社内のデータベースに集約される。

本来なら、「所属店舗ごとの労働時間の推移」や、「パート・アルバイトスタッフの管理・活用実態」などの労務情報を過去にさかのぼって取得できるはずだが、人事総務部のスタッフだけで活用するのが難しかったという。

また、小山氏は、「POSシステムのデータを十分に活用できなくなっていたこともあり、新しいシステムの導入が決まった」と小山氏は明かした。

データにまつわる社内課題を踏まえ、人事評価刷新のプロジェクトでは、既存の2つのデータベースからデータを集約して管理・運用できる体制の構築と、スキル習得にリソースをかけずにデータを活用できることが要望として挙がった。

いくつかの候補から導入システムを検討したうえで、大量データの連携の対応経験があり、多種多様なデータを点数化して評価し、スキルに紐づける定量評価の仕組みを構築できることから、2021年7月にワン・オー・ワンが提供する「スキルナビ」が導入された。

セブン&アイ・フードシステムズの人事システム構成図(2022年3月時点)

現在では、複数のシステムからスキルナビに月ごとにデータが転送され、「安全・安心」、「就業管理」、「教育」、「営業行為」、「経費管理」の5カテゴリー、全44項目の評価点数を自動計算で算出し、立地や周辺環境といった店舗特性を加味して最終的な人事評価を実施している。

なお、評価の透明性を高めるために点数の集計方法は公開しており、希望する社員には、「なぜ、この項目でこの点数だったのか」という評価の理由も説明しているという。

「他のベンダーのシステムは、マニュアルを見ながら導入企業側がデータを自分で連携するタイプのものがほとんどだったが、スキルナビはこれまで扱ってきたデータをすべて自動連携できるうえ、当社が希望するデータ活用の仕組みを実現できるため導入を決めた」(小山氏)

導入に向けた打ち合わせなどは2019年から開始したが、途中で新型コロナウイルスの感染が拡大し、人々の消費動向や社会情勢、今後の生活様式などの見通しが不透明になったことから導入を延期。2020年1月から導入プロジェクトが再開された。

「店舗」の評価を時系列に追って課題抽出、改善に生かす

セブン&アイ・フードシステムズが構築したスキルナビのシステムでは、社員ごとの個人ページが設けられており、キャリアのミスマッチを避けるべく、希望や働き方に対する要望なども記載できるようにしている。

「経験を積んだ社員に、より活躍できる場を提供したいと考え、異動を命じたところ、『親の介護が始まりそうだから、自宅から距離が近い店舗で働きたい』などの希望が確認できた。人事としても、キャリア希望が前もってわかっていると、採用や異動の計画を立てやすいうえ、ミスマッチを防ぐことで社員の意欲を引き出せると考える」と安藤氏。

スキルナビで自動計算された評価点数の画面

加えて、今回のシステム構築では、ワン・オー・ワンから提案を受けて、個人の評価データのほか、「店舗」の評価データを蓄積し、閲覧できるGUI(Graphical User Interface)にした。

他方で、タッチパネルやタブレットの導入が広がる中で、店員が来店客に注文を取るスタイルを採用しているデニーズの特徴を生かそうと、セブン&アイ・フードシステムズでは、「従業員のホスピタリティ」のような数値化しにくい営業努力を客観的に捉える取り組みも進めている。

小山氏は、「日常的な顧客接点が重要と考えており、ある瞬間の結果だけでなく、毎日の営業で取り組まれている顧客対応の過程を新しい人事評価に組み込めないか、現在検討を進めている」と語った。

社員のキャリア形成や採用活動にもデータを活用

システムを導入し、これまで蓄積してきたデータを利用できる環境が整ったセブン&アイ・フードシステムズ。今後は、評価結果から見えてきた社員ごとの強み・弱みを本人や上長にフィードバックするといった、社員のキャリア形成にも役立てる予定だ。

また、新規店舗オープンや既存店の改善にあたり、タレントマネジメントも活かした人事異動をしていきたいという。この他、安藤氏はシステムに集約されたデータを採用活動にも生かす構想を練っている。

「採用した人材の評価推移を見て、入社後に成長した点と変わっていない点が客観的にわかれば、将来活躍できそうな人材像をより明確にできるのではないかと考える」(安藤氏)。

新しいシステムへのデータ蓄積が進み、人事スタッフによるデータの分析精度も上がれば、思い付いていなかったデータ活用法がまだ見つかるかもしれない。

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