「HRテック適用例~退職者リスクの分析」 #2|HRテック(HR Tech)とタレントマネジメントの関係
HRテック(HR Tech)の適用分野として、社員データの一元管理を前提とした、ビッグデータ解析による社員の動向予測があります。
具体的な事例として代表的なものが、社員の退職リスクの分析です。
過去の退職者のデータから退職に至る要因を分析し、待遇改善を図ることで人材の流出リスクを回避することができるようになります。
ただし、この分野は、労務管理分野とは異なり、ビッグデータ解析の技術が効果を発揮するためには、多種多様な人事関連データを正確に長期間にわたって蓄積し、一元的に管理することが必要となります。まさに、ここがHRテック(HR Tech)とタレントマネジメント(システム)の接点といえます。
今回は、このポイントを正しく理解していただくために、実際の退職者リスクの分析を簡単な例を用いて、統計解析知識のない方にとってもわかりやすく解説します。
退職者リスク分析の下準備
退職者リスクの分析の目的は、どういう項目が退職に影響を与えているかを知ることですが、退職という事象は、数値化してしまうと0か1という極めて大雑把な値になり、データ分析の対象としてはあまり望ましくありません。
そこで、退職するまでの勤続年数といったより幅の広い値を使用して、この値と他の人事およびタレントマネジメントデータが示す値との関係性の強さを分析します。
わかりやすくするために、過去の退職者データの勤続年数を5段階に分類して数値化します。
表:勤続年数による分類
次に勤続年数(逆に言うと退職リスク)に影響を与えている可能性がある項目を、リスト化します。この例では8項目リストアップしています。
表:退職要因
退職者リスク分析の実施
これら8項目のデータを勤続年数と同様に5段階に分類して数値化したものが以下の表になります。
表:退職者別の各項目の数値
さらに、この表のデータを使用して、勤続年数と他の8項目との間の相関関係の強さを計算した結果が、次の表になります。
表:勤続年数と項目ごとの相関係数
ここで相関関係の強さを表すために使用されている数値は、「相関係数」と呼ばれるもので、値の範囲は、「-1」から「1」の間に収まります。
最初に見るべきは値の絶対値で、絶対値が「1」に近いほど相関関係が強く、「0」に近いほど相関関係が弱いと判定されます。
一般的には、絶対値が「0.3」未満の場合は、ほとんど相関関係がないと判定されますので、今回の結果で、勤続年数との間で相関関係が認められるのは、「遅刻・早退・欠勤の平均回数」「平均スキルアップ回数」の2項目のみとなります。
次に見るのが、値の符号で「+」であれば正の相関関係(片方の値が大きくなるともう一方の値も大きくなる)が、「-」であれば負の相関関係(片方の値が大きくなるともう一方の値は小さくなる)が成り立つと判定されます。
今回の結果からは、
- 「遅刻・早退・欠勤の平均回数」が多い社員は、勤続年数が短く(退職リスクが高く)なる。
- 「平均スキルアップ回数」が多い社員は、勤続年数が長く(退職リスクが低く)なる。
という二つの傾向が発見できたことになります。
今回の例題は、極端に単純化してあり、実際の計算では、これよりはるかに複雑な計算と大量のデータを使用することになりますが、感覚はつかんでいただけたのではないかと思います。
ここでのポイントは、一般的な人事データだけではなく、タレントマネジメントのデータも分析対象データとして重要であること、過去データが時系列に整備された統合データベースがないと、このような分析はできないということにあります。
次回は、これらの点を、HRテックが効果を発揮するための前提条件という観点で、より詳しく解説します。
関連記事
第1回「HRテック(HR Tech)とは」
第3回「HRテックが効果を発揮するための前提条件」