「HRテックが効果を発揮するための前提条件」 #3|HRテック(HR Tech)とタレントマネジメントの関係
この連載の第2回では、HRテック(HR Tech)の適用例として退職者リスクの分析を行ってみました。
この例からもわかるとおり、HRテック(HR Tech)が効果を発揮するためには、一般的な人事データだけではなく、タレントマネジメントのデータも分析対象データとして重要であること、つまり、過去データが時系列に整備された統合データベースが必要であることになります。
今回は、これらの点を、HRテック(HR Tech)が効果を発揮するための前提条件という観点で、より詳しく解説します。
統合化された人事データベース
退職者リスクの分析において使用したデータには、以下のようなものがありました。
表:退職要因
この中で、標準的な人事システムに保存されている(またはそこから計算可能な)データは1~5までで、6~8についてはタレントマネジメントシステムのようなより広範な機能を持つシステムがないと入手できないデータです。
この例では、退職者リスクに影響を与える可能性のある項目として8項目しか設定されていませんが、実際のHRテック(HR Tech)では、数十項目以上の可能性(仮説)を考えるのが当たり前ですので、標準的な人事情報システムではまったく対応できないことがわかります。
つまり、HRテック(HR Tech) が効果を発揮するためには、タレントマネジメントシステムのような広範囲の人材データを蓄積するための統合化された人事データベースの存在が不可欠であるということです。
時系列でのデータ検索、分析
HRテック(HR Tech)で行われるデータ分析には、時間に関するデータ項目が極めて重要にあるケースがあります。
例えば、研修効果の分析の場合、特定の研修の効果が表れる期間には、個人差があります。
また、効果が表れるまでの期間には研修内容の特徴が影響するかもしません。
したがって、研修効果を正しく測定するためには、受講者を一定の時間間隔で評価し、研修受講時期も含めた時系列でのデータ分析が必要になります。
図:研修受講前後の評価の変化
この図の例では、8名の受講者の評価を研修受講前と受講後3回の計4回の評価結果を時系列に分析することで初めて、個人差はあるものの時間を経るに従って研修の効果が表れてきているという判定できます。
標準的な人事システムでは、そもそも研修管理の機能が含まれていませんし、仮にあったとしても、受講後評価を時系列に保存し、後日検索・分析するような機能はありません。
人事系に限らず、一般的にいって業務系のシステムは過去のデータをあまり重要視しないため、HRテック(HR Tech) が効果を発揮するために必要な時系列でのデータ検索・分析には、タレントマネジメントシステムのような情報系システムの存在が必要不可欠であるといえます。
数値化された絶対評価
先ほどの研修効果測定では、効果測定の尺度として、受講者のスキルの5段階評価点を使用していました。
これだけではわかりづらいのですが、HRテック(HR Tech)が効果を発揮するための前提条件として、この5段階評価が絶対評価によるものであるという点があげられます。
標準的な人事システムでは、評価点数は相対評価で採点されます。
これは、人事評価の目的が、最終的には、一定原資の中での給与、賞与の分配、あるいは、限られた数のポストを対象にした昇格にあるためです。
しかし、このような相対評価で採点された評価点数は、HRテック(HR Tech)で行われるようなデータ分析には、あまり役に立ちません。
先ほどの研修効果の分析でいえば、仮にある受講者のスキルが研修の効果により向上していても、たまたま、その時にスキルの高い他の社員との比較で相対評価された場合は、スキルの向上(=研修の効果)がデータに反映されない可能性があるためです。
一方、タレントマネジメントシステムにおいては、採点は絶対評価で行われるのが基本ですので、同じ評価項目であっても、人事システムの評価点ではなく、タレントマネジメントシステムの評価点の利用が、HRテック(HR Tech)が効果を発揮するための前提条件となります。
今回は、HRテック(HR Tech)が効果を発揮するための前提条件として3つのポイントを解説しました。次回は、これらの前提条件を満たすために必要となるタレントマネジメントシステムの機能について解説します。
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第1回「HRテック(HR Tech)とは」
第2回「HRテック適用例~退職者リスクの分析」